「ところで例の愚図、テメェから誘ったらしいなァ?」
なんか師範が滅茶苦茶怒ってるんだけど。
「例のって誰すか」
鬼殺隊に入りたいという奴は来るもの拒まずで対応しているが自分からとなると限られてくる。
「とぼけても無駄だ」
いやマジで知らないんですけど。
「よりにもよって鬼喰いを推奨しやがった」
理解した。アイツか。
「すいません、師範は嫌がると思って秘密にしてました」
鬼の力を借りるなんてこと鬼に家族を皆殺しにされた師範には許せないのだろう。それでもだ。
「呼吸が使えない所を差し引いても期待できる。俺なんかより遥かに大事な駒だ」
「……」
「なんて弟の才能も見抜けなかった間抜けに言われても困りますよね」
殺気。めっちゃ『この野郎』って顔してる。でも思いの外大人しい。ボコられるくらいの覚悟はしてきたんだけど。
絶対もっと怒られるんだけど試してみたいことがある。師範とアイツの体質で相乗効果が起きるかもしれないんだよな。良い方か悪い方かは読めないけど土壇場で問題になるより事前に試してみたい。
それでいざという時は俺がアイツを斬る。
「でも一度共闘してみるってのも」
「無理だな」
ですよね。
「目の前で母親を殺してんだわ」
因縁があるのは知らなかった。まあ事情知らない奴から見たら人殺しだわな。
「じゃあいつも通り真菰さんに任せときます。一度一か所に集めてまとめて訓練するのは確かに効率的ですよね」
他の育手が直接拾った場合はそこで稽古する場合もあるけど。
「発想自体は先代のモンだがな」
「ああ、確か米寿の相棒だった人」
先代水柱、瀬尾葉子。話はたまに聞く。柱だったからには普通に強かったんだろうけど一番の手柄は入隊試験の改革だと思う。鬼のいる山に放り込んで放置して死ななかったら合格って雑すぎるだろ。人材不足の原因どう見てもそれじゃねえか上って馬鹿?と正直思ってるけど師範は尊敬してるんだよな。采配が神がかってるんだってさ。何でだろ。会ったら考え変わるのかな。
それで色々あって師範は最終的に助けてくれたことは感謝するって言ってくれた。
後日、真菰さんからアイツの名前聞いて全てを理解した。
不死川玄弥。
滅茶苦茶な表情そういうことかよ。
***
アイツと再会した時最初に言われたのがこれ。
「兄貴に会わせてくれ」
「弟なんていないって言ってたけどあの人」
これは事実。他の奴にはそう言ってる。
「俺のせいだ。酷い事言っちゃったから」
「何? 『この人殺し』とか?」
「なんでわかるんだよ!?」
「付き合い長いし」
「ぐっ……」
なんでこいつちょっと不機嫌なんだ。
「謝りたいんだ」
「多分意味ないぞそれ」
あれ、そもそも怒ってすらいないし。俺だったら『守ってやってるんだ』なんてうっかり言いかねないのに師範はそんな主張一切しない。どれだけ心を鍛えてんだか。
「それで許されるかどうか知らないけど。謝った後はどうするんだ?」
「兄貴を守れるくらい強くなりたい」
「柱を?」
玄弥は頷く。実際、出来る可能性は充分にある。一番の問題は玄弥自身が無事で済むか分からない所。自分が教えてしまった以上撤回もできない。最初に名前聞いとけば良かった。
どう答えるべきなんだ。俺の中の師範に尋ねた。『誰が教えるか愚図』これは弟を巻き込んだこと怒ってるな。それはマジですいませんでした。
「まあ、いいんじゃねえの。やってみれば」
ここまで来たら覚悟決めるしかない。俺の精神安定の為にも死なないでくれ。
***
それで一度会わせてみたけど。まあ師範のことだ。
「俺に弟はいない」
認めないよな。俺以外から見ても嘘ついてるの師範の方だってバレバレなんだけど。よくよく見ると目元とかそっくりだ。どうして俺は気づかなかったんだろう。
「鬼殺隊なんて辞めちまえ」
なんて不器用な人だ。裏の意味が俺には手に取るようにわかる。『危ないことしないでほしい』だろ。師範のそういう所に気づいた奴からは人気高いんだよな。見る目がある。
だから、さ。言わずにはいられなかった。
「師範それ俺の二の舞!」
弟っていう存在がどれだけ頑固か俺は知ってしまったから。
「口を出すな」
「素直に言えばいいだろ。弟が大切だから危ない事しないでほしいって」
俺の弟はどれだけ傷つけても苦しめても諦めてくれなかった。多分、死ぬまで。
「だから俺に弟は」
「おかしいな。『弟を守りたい気持ちは同じ』って本人の口から聞いたんだけど」
「黙れ」
「兄ちゃん……!」
「弟だと知らずに鬼喰いを勧めた事は謝ります」
「知らなかった? 不死川の時点で気づけ!」
「名前聞き忘れたんだよ! っていうか『不死川の時点で気づけ』って弟だと認めましたね?」
「……!」
「兄ちゃんだけに戦わせるなんてできねえよ!」
「引っ込んでろ!」
「嫌だ!」
「だそうですよ師範」
すったもんだあったけど最終的に真菰さんのところに預けるのは認めてくれた。信頼されてんだな、試験官先生。
・鬼の被害を受ける『前』に鬼殺隊に誘われた有一郎に『弟を巻き込むな』とは流石に言いづらかったらしいよ。