錆兎ちゃん(♀)と直感義勇さん   作:Moa

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神童の同期は安全に出世したかった

月明かりが森を微かに照らす。

 

二つの人影が夜に潜む怪物と対峙していた。一人は自信ありげな男、もう一人は無邪気さを纏う女。

 

男は刀を構えながら高らかに答える。

「俺は安全に出世したいんだ」

「無理だと思うよ」

頭が消えた。真菰、バッサリである。鬼が灰に溶ける。

 

雷の呼吸かと見紛う速度の一撃を終えて少女はふわりと微笑む。この手腕で鬼を屠れる者がただの無邪気などではありえないのだが、刀以外は普通の女の子そのものだった。

 

「出世すりゃ上から支給される金も多くなるからな。柱なら使い放題らしいぜ」

「『安全に』ではないよね。そこもう一体いるよ」

直接鬼を斬らずとも貢献する方法はあるのにどうしてこの人ここにいるんだろう。真菰は首を傾げた。

男はどこか噛み合わない呼吸で刀を振り下ろす。何度か斬り合ってようやくとどめに至った。

 

「死ぬほど鍛えないと死んじゃうよ」

「俺は生き残ってみせるぜ」

「なんでそんなに自信満々なの? こういう人から殺されちゃうんだよね」

可哀想だなあ。そんな気持ちで真菰は見ている。けれどすぐに優しい表情に変わって。

「もっともっと強くなってね」

慢心している男だけど、それでも仲間なので。

「お、おう! 俺は柱になるんだからな」

「強気だね。あの二人を超えるつもりってこと? 頑張って」

この男が二人を差し置いて柱になるのは全く想像できないけど、少しでも鬼の脅威が減ってほしいので。

 

「たくさん鬼を倒してね」

なので真菰は今日も微笑むのである。

 

***

 

別に家族を殺されたわけじゃない。命の奪い合いに来てなお『適当にやって帰ろう』と思える異端児。

 

名を西塔(さいとう)という。

 

西塔は鬼を斬る者としての試練を受けた頃を思い出す。『生き残れ』とだけ指示されたのだから隠れていればいいか。そう考えていたところに黒髪の男が肩を強く握ってきた。

 

「一人だけを犠牲にしてか?」

この場で最も死にそうにない人間の名を挙げて。

「慢心は実力差を覆す」

真理を突き付けて。

 

思えば、あれが悪夢の始まりだった。

西塔が存在感の薄い男(髪の毛だけはやたらと綺麗だった。男なのが勿体ない)に急がされる。肩を握り潰してきた男(名前は冨岡というらしい。無表情で鬼を殺し続ける動く置物のような男だ)が危ないそうだ。既に明るい髪の女(こちらも凄い勢いで鬼を殺し続けているらしい)が行っているから続けと。

「先に行っててくれ、俺は仲間を集めてくる」

と言われても西塔に何ができるのか。あの二人で勝てない鬼だとしたら西塔一人が加勢して意味があるのだろうか。

「早く! こっちだ!」

後ろから別の影が追いかけてくる事に気づく。振り返る。鬼ではない。西塔と同じ鬼狩り見習い達だ。ここで逃げでもしたら絶対にバレる。もう行くしかなかった。

 

向かった先には無数の手を生やした巨大な異形が待ち構えていた。

「……なんだよ、あれ」

笑顔が気持ち悪い。

足が震える。『俺でも殺れるぜ』なんてとても言えない。だからといって逃げ出したら何を言われるか分からない。すぐに後続も到着するだろう。

 

あの時、肩を握り潰す勢いで迫ってきた男が鬼と向かい合っていた。しかし彼が手にしているのは折れた刀。絶体絶命という言葉が相応しいその光景を見て。西塔は閃いた。

 

「俺の刀を使え!」

 

―俺は安全に出世したいんだ。鬼一匹倒してもらって下山するぜ。

 

西塔は村田と並んで『無欠の世代』における影の功労者でもあった。

神童の元へ誰より早く駆けつけ刀が折れたと分かれば自らの刀を差しだした。同じ状況になったとして誰もができる事ではない。

そして村田は義勇の危機に対して真っ先に錆兎を呼んだ判断が素晴らしい。実際あの鬼と単独で戦えるとしたら二人くらいのものだった。その後もできるだけ多くの仲間を集め、鬼との戦いを多対一に持ち込んだ。

 

自分一人で勝てない事は自分達が勝てない事を意味しないのだ。

 

***

 

『無欠の世代』の原動力、『水の神童』と呼ばれた期待の新人たちは水柱のお気に入りらしい。

「俺には関係ない事だが」

西塔に与えられた任務は柱が本命を狩るまでの雑魚散らし。まあ適当にやっておこう。

 

鬼になって間もないと思われる数匹を斬り落とす。問題ないだろう。

と思っていた。

「あの……おにいさん?」

「こんなガキの鬼なら俺でも」

「なにいってるの」

西塔は油断していた。幼い少女の見た目をした鬼に斬りかかろうとして異能で返された。

 

走馬灯すら見れずに死ぬかと思われたその時。

 

「怪我はないか!」

鮮やかな髪が眼前に現れた。水の神童ともてはやされた少女だった。

「無事だ」

「なら良し」

 

神童が庇ってくれたお陰で怪我はない。西塔が何もできなかった相手をあっさり討ち取る。終わってしまった。

 

気が付けば追い付いてきた少年、もう一人の神童がこちらを見ていた。

 

「錆兎」

名前を呼ぶ。『怪我してるじゃないか、心配だ』という意図を込めて。

「これくらい平気だ。呼吸で治る」

「俺から離れるな」

「選別初日に飛んでったお前に言われてもな」

「そ、それは」

 

そして黒髪の神童は西塔を睨む。

「……で、お前は何もせず守られていたのか」

今日はやけに辛辣だった。

「そういう事言ってやるなよ」

「錆兎の同期だから命拾いしただけじゃないか?」

別に誰彼構わずこう言うわけではない。あの選別を経て尚も西塔が『守ってくれて運が良かった』くらいにしか思っていなかったからだ。庇われていたのが別の同期ならこう辛辣な発言は出てこなかった。二人とも無事でよかった、と分かりにくい安堵を見せるに留まったことだろう。

 

「頼る事と依存する事は違う。確かに錆兎は人より多くを救える存在ではあるが負担をかけすぎれば簡単に壊れてしまう」

「義勇、落ち着け」

「嫌だ」

「どうしたんだ今日のお前おかしいぞ」

「おかしくない」

普段寡黙な静の神童が口数を増やした夜。言葉の刃は続き、肩を掴まれた日以上の恐怖が西塔の首に迫る。

 

それからだ。西塔が変わったのは。

 

修行なんてこれくらいでいいだろうと思うたびに幻聴が囁きかける。

―その程度で足りると思っているのか。

呼吸がなあ。なんかしっくりこないんだよなあ。

―なら代替案を探したらどうだ。

 

聞こえるのだ、俺の片割れを死なせたら許さないという声が。




【キャラ紹介】
西塔(さいとう):『サイコロステーキ先輩』の愛称、公式では『累に刻まれた剣士』として知られる原作では本名すら不明の一瞬で退場したかませの中のかませ。名前の捏造をはじめ結構な魔改造を施していく予定。今作では冨岡義勇の同期説を採用しています。
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