錆兎ちゃん(♀)と直感義勇さん   作:Moa

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白銀の風

錆兎は義勇と行動していた。いつも通りの任務だ。同期の中で飛びぬけた実力、以前からの親友である故の連携、様々な面を考慮した結果二人で行動する事が多かった。

 

深い森の中。微かな物音も聞き逃さぬようにと感覚を研ぎ澄ませる。鬼の気配が濃くなる方向へひた走る。

先行していた隊士の姿が見える。足に怪我を負いながらも鬼の接近に対して即座に対応。右手を斬り落とす。再生される。それはある意味何の変哲もない鬼狩りの日常だ。隊士はどこから撃たれても対応できるよう構えた。一瞬の沈黙。鬼が背を向けた。

鬼は隊士の足を蹴とばしてそのまま奥に駆けだした。

「え、どういうこと!?」

追いかけようとするが足の怪我が酷く思う様に動けない。

 

「大丈夫か!」

追い付いた錆兎の存在に隊士は安堵の表情を浮かべる。

「貴方は……錆兎さん、ですよね。良かった」

特徴的な髪色を知らぬ隊士はいないだろう。入隊して日は浅いが卓越した実力で入隊前から話題になっていた。

「無事なら良い」

もう片方も知っている。というよりこの二人はこれで一つなのだ。寄り添い支える片割れ。近い距離感を当たり前に受け入れている。親友というのは皆こういうものなのだろうか。

 

「義勇、今の見たよな」

「追うぞ」

鬼が逃げたのか、別の何かを追っているのか。どちらにせよここで逃がす訳にはいかない。

怪我を追った隊士には無理をするなと告げ先に向かう。鬼の気配が濃くなる。二人は急いで駆けつけた。

 

***

 

森の最深部に見えたのは白銀髪の男。緑色の刀を握る隊士が大量の鬼に囲まれる姿を目にした。

 

錆兎は叫ぶ。

「死ぬなよ!」

あと少しだけ耐えてくれ。全速力で駆ける。

「来るんじゃねえ馬鹿!」

白銀の彼は拒絶した。それどころか隣の親友にも腕を掴まれた。

「錆兎、止まれ。罠だ」

「だからって見捨てられる訳ないだろ!」

振り払おうとするが思う通りに動けない。

「違う。よく見ろ」

よく見ろとは。義勇の言葉に目を凝らす。白銀が森の中を自分の庭のように飛び回っている。空中で二段飛び。白銀に振り下ろされる鬼の腕が空中で切断された。まだ刀を振っていないにも関わらずだ。不可思議な動きが繰り返される。

 

木々の間に鉄線が敷かれていた。太さも様々なそれが錆兎の認識に入る。

「そういうこった。よく切れるからな」

別の攻撃も白銀は回避。左手で鉄線を掴み空中で大回転。曲芸じみた動きは掴みどころのない風のよう。

鉄線を避けて錆兎と義勇が白銀の元へたどり着く。それぞれが鬼を一太刀で塵と変える。白銀はひょいと飛び降りた。

そこに義勇が言葉を投げかける。

「頭は大丈夫か」

「ァ?」

「怪我してるんだろ、鬼を引き寄せてるぞ。って言ってる」

ここで解説を入れられる錆兎がいて良かった。

「……そういうことかよ。んなモン最初から織り込み済みだわ」

 

不用意に近づいた鬼が鉄線に近づく。

「来ねえのか?」

ニヤリと笑った白銀に誘われ走り出す。鉄線に吸い込まれるようにバラバラになった。首も切断されたせいで鬼が溶けるように消滅した。

「ほらよ」

白銀の挑発にふらふら引っ掛かっては刀を振るまでもなく刻まれる。この鬼たち妙な動きをしているな。

「どれだけ恨みを買ったんだ」

「知るか。いちいち数えてねえ」

「それもそうか」

義勇の言葉に白銀が返しつつ刀を振る。また一体敵が消えた。

 

錆兎は鬼達の露骨な動きに気づく。こいつら白銀ばかり狙っている。挑発されているとはいえ不自然なほど偏るのか。という事はおそらく。

「義勇、そいつを守ってやってくれ」

「分かった。白髪はそこで突っ立ってろ」

「おいテメェどういう意味だ」

「ここまでよく耐えたな。稀血なんだろお前、存在するだけで鬼を引き付けてる。今は警戒しつつ身体を休めておけ。幸い数が多いだけで一体一体は大したことない」

「そう言った」

「いやそうは言ってねえだろ」

白銀のツッコミが入る。

「いつも助かっている。錆兎は言いたいこと全部言ってくれるから」

「義勇お前な」

もはや以心伝心という次元の問題じゃないと白銀は思った。

 

「ところであれは何だ」

義勇が木を指差した。あの後ろに誰かいる。

「味方だ。けど行かなくていい、俺が狙われてるうちは安全だろ」

「分かった」

実際鬼どもは皆こちらに来るからな。ならここに集中すればいい。

「俺が守る。……お前は鬼のいない世界を見るべき人間だ」

防衛戦なら冨岡義勇の得意分野である。

 

***

 

「おいおい神童来てるのかよ」

西塔は木の影で呟いた。あの二人が来たってことは柱もどこかにいるのだろうか。だとしたら相当タチの悪い鬼と引き合わされたことになる。柱様とご一緒、つまり相応の難易度ってわけだ。

しかも指さしてきやがった。一番苦手な奴に。

「頼むぞ、出来れば顔合わせたくないんだ」

 

鉄線が首に触れた鬼はそれでも白銀に魅了されたかのように走り消滅した。そう、『消滅した』。木々を張り巡らせる鉄線が鬼を滅する異常事態。引き起こしたのは西塔の日輪刀だった。本来呼吸で肉体を強化して刀を振るのが王道。しかし刀というのは手段であって目的ではない。

 

日輪刀で鬼を殺すのではない、鬼を殺せるものを日輪刀と呼ぶのだ。西塔の持論である。

 

暗闇に潜む糸。気づかずに突進してきた鬼自身の力を利用し秘密裏に刈り取る。格上の鬼には効果が薄い戦術だが何も考えず突っ込んでくるだけの雑魚には効果的な『刀』だ。欲を言えば誘い込む為に稀血の隊士でもいれば完璧。そんな事を口にすれば義勇辺りに『他人を囮にするのか』と怒られそうだから黙っておくが。

西塔は白銀の男から予め指示を受けていた。『そこに隠れて近づいてきた鬼だけ斬れ』実際二人の戦闘能力には大きな差があったから丁度良い配分と言えた。

白銀は西塔の罠をわが身のように使いこなし鬼を引き寄せる。即興であれほどやれるのか。

「そのうち神童並みになりそうだな」

今でも十分強いが。

西塔の横を鬼が通り抜けようとする。軌道に刀を置くように斬り落とす。呼吸に優れていない西塔の力でもするりと上手く行った。意外にも西塔には暗殺の才があった。

 

小細工上等。生き残らなければ意味がない。復讐に全てを捧げた奴なら相打ちで満足するのかもしれないが西塔の目的はそこにない。

他の奴に死なれるわけにもいかない。強い仲間が生きていれば西塔が生き残る確率も上がるのだから。

 

***

 

白銀の男、本名:不死川実弥は無欠の神童が嫌いだった。ろくに会話もしたことがなかったが。

「あ、『無欠の神童』と同い年なんだ」

原因はこれだ。年齢以外共通項もないのに比較される。最終選別で誰も死なせなかった天才。文句なしに未来の柱候補。何もできず二人に救われて剣士を辞めた者も多いらしい。神童神童うるせえ。比べずにいてくれたのは兄弟子と花の呼吸使いくらいだ。

 

神童と任務で会った時の第一声も最悪だった。

「頭は大丈夫か」

すぐに怪我を心配しての発言だと訂正が入ったが『そこで突っ立ってろ』を『後は任せろ、お前は俺が守る』のつもりで言う奴は初めて見た。いちいちムカつく言い方をする奴だな冨岡義勇。

それでも実力は確かだ。その守りを抜ける鬼はおらず、充分身体を休められた。そのお陰でこれ以上大きな怪我もしなかった。西塔も隠れるのが上手くて無事だったし。

正直この二人が来なければ重傷になってもおかしくなかったわけで。

「……助かった」

「無事ならそれでいい」

 

それにしても『お前は鬼のいない世界を見るべき人間だ』とは強気に出たな。生きている間に叶うと信じているのか。

「鬼のいない世界なあ」

「お前と見れる、俺はそう信じてる」

そういう言葉は俺じゃなく隣の女に言ってやれ。こいつ無駄に顔が良いな。

だが『鬼のいない世界』が自分の命で叶えられるなら安すぎる代償だとも思う。もう二度と失いたくない。実弥はこの場にいない姿を思い浮かべた。

不死川実弥には自分の命より大事なものがあった。今はもうただ一人になってしまった弟。だから安全な場所に置いていった。憎まれただろうか、それとも忘れられただろうか。それでいい。

 

白銀の風は願う。

―ただ一人を奪わないでくれ。俺の事はどうなってもいいし他には何も望まないから。

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