唐突ではあるが、俺は死んだ。
死んだ原因も、山の中での落雷であり唐突な死亡であったのだ。
天気が悪くなると書いてあったのに山に入ったのが遠因ではあるが、これって死んだ今考えるとダーウィン賞みたいだな。
事前に天気が悪くなると分かっていながら己の欲望を抑えられずに山の中に入って行ったことで死亡、しかも童貞と来ている。
母ちゃん、孫の顔見せられずにごめん。
心中で母親に謝りながらも、俺はその実少しわくわくしていた。
それはなぜか?
それは......。
「えーと、それでその鬼畜エロゲ―?の世界に転生したいってこと?」
「うす!すっげぇきつくてエロイ奴、たのんます!」
呆れ顔で俺を見る女性。
周りの風景はまるで天の川銀河が腹の中でグルグルしているかのようにカオスでありながら、少し神秘的にきらめいており、その女性は俺の目の前で座っていた。
俺は今から、異世界転生するらしい。
正直、まだ理解が追いついていない部分もあるが、転生させてもらえると言われれば嬉しくないわけがない。
そもそも第二の生があること自体嬉しいし、それに何より転生といえば特典無双でハーレムが付き物だ。
生前では女性との絡みはなく、いまいちパッとしない人生だからな。
次の世界で、本当の俺の人生が始まるんだ!!
鬼畜エロゲなら俺の性癖を満たしてくれるエロイ女が普通に居るだろうし、なんなら俺自身に魅力がなくても敵方に付けば手籠めに出来る技術とかあるかもしれない。
俺はすかさず神様に二の句を継ぐ。
「それじゃ、特典も俺が選ばせ....」
「あのねぇ、こちらも忙しいのに、全部意見聞いてやれるわけないでしょう?飛ばす世界の傾向自体は大事だから聞いてやるけど、それ以外は全部私たちが決定します。それはそこの規約にも書いてありますよね?たくっ....。」
な、なんだコイツ....すげぇキレ気味で返事されたんだけど.....
よく見れば彼女の目は死んでいた。
ヤバい職場に就職したことで荒んでいた頃の弟と似ている目。
はえ~神様にも過労ってのがあるんすねぇ!
まぁ別に関係ないけど。
そしてその後、一通り話をされた後に、俺の背後で扉が現れて開かれる。
どうやらそこを通れば異世界に跳ばされるらしい。
特典を把握できなかったのは痛いが、まぁもらえていると分かればそこまで不安に思うことはない。
強くてニューゲームと同じ、だからこそ全てなるようになるさ。
これから俺のエロエロな勝ち組人生が始まるんだ!
母ちゃん、父ちゃん、弟!これがお兄ちゃんの人生の記念すべき第一歩だよ!!
どうしよ、おっぱいバインバインな女の子ハーレム築いたら....。
おっぱい布団で眠りたいよなぁ!?
その子と考えるともう笑いが止まらないわ!!ガハハハ!!!
心中で高笑いを上げながら、胸に希望を抱いて扉の中へと入っていく。
その頃の俺は、異世界転生といえばチーレムだという典型的なイメージから安易な気持ちで扉の中へと入っていったのだ。
まさか、こんなことになるだなんて....その頃は考えてもしなかった。
◇
「なぁ、新入り君!肩凝ったんだけどぉ~!」
「うすっ!揉ませていただきます!!」
暗い事務所の中、俺は自分よりも背の高い女に顎で使われていた。
正直、肩くらい自分で揉めよと思わざる負えないが、この事務所では俺が一番立場が低いので媚びを売らざるをえないのだ。
本当、転生=チーレムとか言った奴何処のどいつだよ。
キレそう。
まぁでも、この人は割と俺に優しいし、このくらい我慢我慢だ。
主人公にあたる人物を見つけるまでの我慢だ....。
そう思いながら肩を揉んでいると、また一人少女が入ってくる。
ウェーブのかかったクリーム色の髪のチビ少女。
俺にとっての恩人であり、悪魔の擬人化とも言える存在だ。
彼女は感情を窺わせないような冷たい目で俺達を見て、口を開く。
「...<配達人>から書状が来た。今から仕事、行くぞ。」
此方にポイッと書状を投げつけてくる。
俺が肩を揉んでいる女性はそれを受け取ると、その書状に目を通す。
俺も目を通した。
なになに.....夜顔学園の前の道の掃除....か。
なんだ、この前の仕事よりも簡単そうじゃん!
「この前の仕事より楽そうで良いっすねぇ!散々面倒な仕事は嫌いだってアンタ言ってたもんな。」
俺は肩を揉んでいる相手に笑顔でそう言う。
すると、彼女は俺の顔を見て苦笑いを浮かべた。
「あっ、そうかお前....記憶喪失だから....」
俺は転生者であり、この世界の知識がない。
よってこの町で暮らしている以上、知っているはずの常識を知らないのだ。
なので俺を拾った彼女達は、俺のことを記憶喪失だと思っているらしい。
まぁ説明が面倒だし、彼女達が勝手に納得してくれているならそれはそれでいい。
それに、今の俺は確かに転生者だが転生者だと自信をもって言えるような状態ではないしね。
しかしそれにしても目の前のこの女の反応。
何かこの仕事にはあるのか?
俺が戸惑っていると、こちらに書状を投げ渡した彼女は口を開く。
「えぇ、まぁ楽かどうかはさておき単純な仕事ではある。よって今回は、オレと爪紅、そして新人の3人のフルメンバーで行くことになるから。」
へぇ3人ってそんなに人数がいるのか....ん?
えっ、俺も行くのか?
えっ、嫌なんだけど....出来れば俺はここでジッとしておきたいんだけど....。
「えーと、確かに簡単な仕事と言いました、言いましたよ茜様。でも、僕なんか連れて行っても仕事の能率が下がるだけだと思うんですけど....」
俺の言葉を聞くと目を細めるチビ貧乳。
すかさず彼女は口を開く。
「...オレのことをお前は名前で呼ぶな。それに能率がどうだとかは私が考える。お前には経験を積んで慣れてもらわねば仕事を任せられない。」
「えっ、い、嫌なんですけど....正直言うと怖くて外出たくないんですけど....。」
あっやべ...。
ついポロリと本音が出てしまった。
口が軽いのが俺の欠点だ。
生前も親に余計な一言が多いって言われてたからなぁ。
案の定、彼女は怒ったのかこちらを睨みつけて言葉を吐きかけてくる。
「働け働け。とにかく働け、なんの為に身元も分からんお前を拾ったと思ってんだ。ペット飼ってんじゃないんだよこっちは。それともなんだ?一人でシボリカスでも狩りに行くって言うのか?ああん?」
男口調で俺に詰め寄る彼女。
そして、俺の前で肩を俺に揉まれている爪紅さんは笑っていた。
「流石に新人にシボリカスを一人でやらせるのは酷でしょぉ~。どっか適当な組織の備蓄庫でも襲わせて食料持ってこさせよう!」
「いやだから、一人だったらどっちにしろ危ないのに変わりはないだろ!いい加減にしろっ!」
組織とか多対一に絶対になるだろ。
こちとらサシでもやりたくないんだぞ。
そりゃアンタらは戦えるからアレだけど、俺は平和な現代日本の出身なんです~そんな野蛮なこと出来ないんですぅ~。
えっ、ここも日本?あっそう....。
「文句は良いからさっさと準備しろ。」
そう言い残すと彼女は自分の部屋へと歩いていく。
すると爪紅さんが振り返って口を開く。
「まっ、そう言うわけだから精々気張りなよ。どんな仕事であれ、気を抜いたら死ぬんだから。それがここでの常識だからね。」
そう言うと、肩揉みあんがとと俺に言葉を残して彼女も自分の部屋に戻る。
俺に部屋はない。
新人だし、これからの働き次第で部屋を作るか決まるらしい。
最近はソファで寝るのにも慣れてきた物だ。
すると、彼らが戻った扉とは別の扉からもう一人、人が出てくる。
着古した寝間着にメタルフレームの眼鏡。
目に隈の出来た少女が部屋からのそのそと出てきた。
「あ、おはようございます。」
これでも立場は俺よりも上なので俺は頭を下げる。
それに、彼女のお陰でこうしてこの場所は安全になっていると言ってもいい。
「...昨日の深夜さ、警護システムがエラー吐きやがってさ。寝れなかったんだけど....。」
「そ、そうなんすか。大変でしたね。」
どうやら睡眠不足でイライラしているらしく、俺に睨みを利かせる。
大変なのはわかるけど、そんなこと俺に言われても俺のせいじゃないから困るんだよなぁ...。
俺が困っているのを察したのか、彼女はただ溜息を吐く。
「はぁ....。同人誌見よ。癒されよ....。」
そう独り善がりに言うと、冷蔵庫から還元水を取り出して口に運んだ。
そして自分の部屋へと戻っていく。
彼女はモエギ。
ここの事務所の自動防衛システムやエネルギー供給システムなどの技術面を一重に担っているエンジニア枠だ。
....どこの世界でもエンジニアは過労になる定めなのか....。
まぁ彼女が逐一自動防衛システムを管理していなければ今頃他の組織に侵入されているか、シボリカスにエネルギーを吸われて生活出来なくなっているらしい。
そんでもって話を聞くに重度のオタクであることが分かるので、親近感も勝手に俺は抱いていた。
....さて、早く用意しよう。
もしチビ少女が出てきた時に、用意できていなかったらよくてどやされる。
最悪殴られるからな。
そう思い、俺は壁に掛かった仕事着に着替えると手元に仕事道具を入れる。
◇
『ハックしたカメラの映像的にそちらの路地の奥では<ペンキ塗り>が巡回してる。右の路地を進んで迂回して。』
モエギさんの声がインカムから聞こえてくる。
例え部屋に籠っていようとこういう形で働かせるのか、気の毒だな。
俺達は、路地を走っている。
埃っぽく黒くなっている建物。
切れかけているネオンサインに、大きな落書きと血?によって黒くなった壁。
そこらには生きてるのか死んでるのか分からないような布被った人が俯いたまま身じろぎせず、町自体に油臭さと生臭さが混じった匂いが漂っていた。
正直、想像してたより数倍も酷い環境だ。
治安が悪いってレベルじゃねぇよ。
鬼畜エロゲの世界と頼んだが、まさか世界観もハードだとは....。
「分かった。こちらを行く。」
チビ貧乳はそう言うと、右の路地を行く。
彼女が避けたということはその<ペンキ塗り>とはどれだけヤバい連中なのだろうか。
すると、爪紅さんが笑う。
「まっ、服が汚れるだけだし態々避ける必要ないんじゃない?」
そう言う爪紅さんをチビ貧乳はジト目で見る。
「この仕事は時間厳守だ。やるなら一人で行け。」
「まっ、そう言うよねぇ~。行かない行かない。ちゃんと言う通り働かないと後が怖いもんなぁ....。」
ヘラヘラと笑いながら彼女は言葉を撤回する。
そんな様子を見ると、チビ貧乳は分かれば良いと言わんばかりに鼻を鳴らす。
俺からしてみれば、その<ペンキ塗り>とやらがどんな連中か気になって仕方ないが。今聞いても取り合ってもらえるかは分からない。
「.....」
「.....」
....それにしても空気が悪いなぁ。
街の空気も悪ければ、連れの空気も悪いよ。
なんで喋んないんだろ.....。
「なぁ,,,,」
「うるさい、後にしろ。」
内容も聞いてくれないのか。
そりゃそうだろうけど、相変わらず扱いがおざなりだなぁ....。
話題作りの一環で<ペンキ塗り>について聞こうと思ったが、彼女はそれを許さない。
横を見ると、爪紅さんはボッーとしていた。
大きなおっぱいが呆けてる....。
そう思っていると、急に先行していたチビ貧乳が足を止める。
つっかえるように彼女にぶつかると、彼女は振り返ってこちらを睨みつけた。
「す、すんまへん....。」
「....チッ。」
舌打ちされたわ。
こわ....。
流石にこれはないわ。
もっと大切に扱え!いい加減にしろっ!!
僕はこれでも転生者なんだぞ!
もっとちやほやして!お願い!!
最近転生者としての実感がなくなってきたから!!
そう下らないことを思いながら彼女の視線の先を見ると、息を飲んだ。
小汚いズタ袋のようになった服。
生やしっぱなし髭のおじさんや伸ばしっぱなしの髪の女。
そんな身なりが異常に汚い連中が5人そこに居た。
手にはドリルのような物と鉄パイプなどの凶器。
「.....ゴミは?」
道は血で汚れちゃいるが、特に拾うべきゴミの類は見当たらない。
ただそこには生垣にドリルを押し当てている連中だけだ。
すると、爪紅さんは特に感情もない様子で答える。
「目の前にあるじゃん。アレの掃除だよ。」
「....アレって、もしかしてあの人達?えっ....人なんですがそれは....。」
俺がそう言うと、呆れた様子でチビ貧乳が俺に声を掛けた。
「ありゃシラミだ。組織に入ることも出来ずに、一日の飯を確保するので手一杯な屑ども。大方一発逆転を掛けて<学園>の施設に襲撃を掛けたって所か。存外下らねぇ仕事だったな。」
吐き捨てるようにそう言うチビ貧乳。
いや、でもその....そんな風に言われても付いてこれないんですけど。
依頼内容はゴミ掃除だった。
もしかしてこれってアレか?ゴミ掃除はゴミ掃除でも隠語的な奴か?
結構バイオレンスな奴なのか?
俺が戸惑っていると爪紅さんが俺の肩を叩いた。
「そんな顔すんなって。いずれ慣れる。この世界じゃ良くあることだしさ。」
「...一歩間違えていたらああなっていたんだ。ああならなくてよかったと思いながら殺せ。」
....いや、まぁ確かにそうなのだろう。
あの時、野犬に襲われかけて彼女に助けてもらわなかったら。
なんだかんだ扱いおざなりだし、仕事はおっかないけどそれでも食べるのには困っていない。
一歩間違えればああなっていたと思うと、自分の運の良さに泣きそうだった。
....そもそもなんで転生先でこんなことで感極まらないといけないんですかね?
僕だけ難易度調整間違ってませんか?
彼らは俺達に気づくと、忌々しいと言わんばかりに表情を歪める。
「嗅ぎつけられたか....<掃除屋>?...いや、あの感じじゃ<代理人>か。」
「ど、どうすんだよタク。...や、やっぱりこんなの止めといたほうがよかったんだよぉ!!」
汚らしく髭を生やした男に気弱そうな少年が声を掛ける。
するとタクと呼ばれた男は少年に怒鳴った。
「うるせぇ!!じゃあなんだ!!?あのままみんなで仲良く野垂れ死んでお陀仏ってか?ふざけてんじゃねぇぞてめぇ!!<学園>の施設に侵入の糸口を作るだけで群れに入れるんだ、これを逃すなんてありえねぇ!!」
自分の息子くらいにもなる少年を怒鳴り散らし殴る男。
その目は病的なほどに必死だった。
怖いよ.....。
なんか重い、現状が重いです....。
僕はもっと鬼畜エロゲはエロゲでも、学園モノとか普通に抜きゲみたいにさらっとした世界観が良かったんですけど.....
「群れにさえ入れば少なくとも生活を見てもらえる。靴紐湯がいて食べるなんてこともしなくて良いんだよ。それに、見るに相手の方が私達より数が少ない。結局引けないなら玉砕覚悟で突っ込んじまいな!男だろ!?」
髪の伸びた女は、少年にそう声を掛ける。
すると、少年は立ち上がると頷いた。
「う、うん....分かったよ姉御。み、みんなの生活の為だもん....。」
そう言うと、彼らはこちらに武器を構える。
その様子を見て、爪紅さんは余裕の表情で笑う。
「なんか舐められてるじゃん。それに....歯ごたえもない。やっぱこんなことならシボリカス狩りに行った方が良かったって。」
「あの程度の相手で済む仕事ならオレは大歓迎だけどな。....おい、新人。渡した武器出せ。」
チビ貧乳は爪紅さんの言葉に答えると、黒い手袋を取ると機械仕掛けの手甲を付ける。
そして俺を見て、そう言う。
「お、おう....。」
俺は言われた通りポケットに入れていた武器を取り出した。
それは渡された銃。
それを見ると、彼女は俺の目を真っ直ぐ見て言った。
「撃ち方は前に教えてやった。....前みたいに躊躇するな。躊躇すれば....今度はお前がああなる番だ。」
至極真面目なトーンでそう言われる。
なんかナチュラルに脅された。
しかし、冗談とは思えない。
この女には殺すと言った相手を殺すであろう凄みがある。
俺は一生懸命首を縦に振る。
すると、鼻を鳴らして彼女は前を見た。
「....行くぞおめぇらぁ!!」
男がそう言うと、彼らはこちらに一気に走って来る。
どうやら物量で押し切ろうとしているらしい。
すると、チビ貧乳は両手を前に突き出す。
そして、口を開いた。
「....切開。」
そう言うと、手甲の指部分から何か銀色の物が高速で射出される。
急にそのような物を撃たれて反射的にパイプを構えるも、相手は防ぎきることが出来ない。
飛んできた物は彼らの中で二人の腹や肩に深々と刺さる。
それは....メスだった。
血で赤茶けたメス。
「チッ、痛ぇ....」
「こんな物、傷の内には入らねぇ!!たちあが....あえっ?」
メスの刺さった人は立ち上がろうとするも足を突く。
見ればメスの刺さった箇所からは何故か粟立っており、相手の顔色はみるみる悪くなっている。
何か盛ってあるのか?
正直、チビ貧乳に聞いても彼女は手の内を明かしてはくれないだろうが、それでも毒的な何かなのは確かだ。
「頭がガンガンして..ひっ、い、嫌だ.....首が...かいぃぃぃ!!!」
「兄弟!兄弟ぃ!!しっかりしろ!!首なら俺が掻いてや....これ、俺の首だぁぁぁ!!アッハハハハ!!!」
顔色を青くしていた人たちは目を見開く、壊れたように笑いだし、首から血が噴き出るほどに書き毟り始める。
凄くえげつない物を盛ったのだという事がそれで分かった。
こえぇよ....あんな人間、俺見たことねぇって。
「う、うわぁぁぁああああ!!!」
子どもはナイフを持ってこちら目掛けて突っ込んでくる。
あの中では一番足が速いのかすぐに爪紅さんの間合いに入る。
彼はナイフを突き出す。
あと一歩踏み出せば腹に突き刺さる。
しかし、それを爪紅さんは片手で止めた。
「そ、そんな.....っ!!」
一瞬唖然とするが、彼は右手を振りかぶる。
殴ろうとしたのだろう。
しかし、爪紅さんは笑顔で彼に言葉を告げた。
「悪いねガキンチョ。恨むなら生まれを恨みな。」
そう言って膝蹴りを少年の腹に入れた。
目に留まらぬ速さ。
正直、残像が見える程の速さだった。
ボゴンとおよそ人を叩いた時には聞こえるはずのない音。
膝を捻じ込まれたまま、動かなくなってしまった少年。
その膝を引き抜くように足を降ろすと、少年はただ力なく倒れ込む。
目にはもはや生気がなく、ダラダラと喀血している。
そんな彼を見下ろすと、彼女は足を高く上げる。
そしてそのまま振り下ろした。
「確認っ...と。」
辺りに撒き散る鮮血。
小さな命、それを奪うことを躊躇すらしない。
まるで流れ作業のように。
....こんなこと珍しくないという事だろう。
いや、そもそも人間の身体は膝蹴り一つで壊れたりしないだろうけど。
筋力ヤバスギでしょ....。
いや、眺めている暇はない!
銃を撃たないと!!
両手で持つと、相手を見て銃口を合わせる。
姉御と言われていた女。
それに向かって、引き金を引く。
そう思っても手が震える。
あ、当たり前だ....僕は平和な日本社会生まれだぞ。
人殺しなんか出来るわけない....本来は出来るわけないんだ....!
で、でも.....。
ちらりとチビ貧乳がこちらを見た。
分かってる。
こんなことはただの甘さでしかなくて、この世界で生きていくにはそんな思想は邪魔でしかない。
引き金を引くだけ....しょうがない!しょうがなかったんだ!
そもそも相手からこちらに攻撃を仕掛けようとしているんだから、正当防衛!正当防衛だから撃ってもいい!!
クソッ!こんな時に特典を把握できてたら精神的に余裕があったのになぁ!
自分をなんとか正当化してやっと引き金が引けた。
空気を裂くような発砲音が一つ、ジンジンと銃の反動を感じる。
迫る弾丸。
しかし、姉御と呼ばれた女は銃弾をパイプで弾いた。
....弾いた!?
えっ!?銃弾弾いた今?
そんなのアニメでしか見たことないんだけど!?
八極拳でもやってんのかアイツ!!
「このくらい出来ないと生きていけないのさ!!」
「俺たちの為に死ね!死ねぇよォ!!!」
男と女はまるで挟むこむように動いてそう叫ぶ。
それを聞いてチビ貧乳は呆れた表情をする。
「所詮シラミ、思慮が浅い。簡単に調子に乗ってくれる!!」
そう言うと、彼女は一歩踏み出す。
そして地を蹴ったと思えば、既に男の背後に居た。
「なっ....おヴぉぇ.....、は?」
いつの間に後ろに立っていた少女に驚く男。
その次の瞬間には、倒れ込む。
彼女はゆっくりと腕を上げる。
機械仕掛けの手甲は血に濡れて艶やかに光っている。
そして何かを掴んでいた。
紐のようなブリブリとしている物。
赤黒くてらてらと輝いており、血やそれ以外の体液やらがドバドバと出ていて....
これってまさか、ぞう.....。
「うっ!...うぉえ.....おぇえええ!!!」
その正体がわかると、抑えきれずに吐いてしまった。
しっかりと人の臓器を奴が抉りだしたのを見たのは初めてだったから。
そんな俺を見て、彼女は溜息を吐く。
対して爪紅さんはパイプを目の前で振り上げる女を見て、鼻で笑った。
「...お前さ、私と少しでも殴り合えるとでも思ったの?」
振り下ろされるパイプを掴むとねじ切る。
「ッ....!」
距離を開けようとする女。
しかしねじ切ったパイプを前に勢いよく突き出す。
ねじ切れたことで先端が尖っていたのか女の腸に突き刺さる。
後ろに後ずさる女。
そんな彼女の腕を掴むと、彼女は拳を握った。
「ほい、心臓マッサージ。」
そう言って握った拳で彼女の胸元を殴る。
すると、ビクンと大きく身じろぎをしたと思えば女は力なく倒れる。
...もしかして心臓の鼓動ぶん殴って止めたのかな?
......いや、まさかな。
気絶してるんだ、うん。
目とかギョロってなっててまったく動かないけど、きっと気絶してるんだ!うん!!
それよりも、今留意すべきは。
チビ貧乳の方を見る。
すると彼女は臓器を持ったまま、こちらに近づいてくる。
あのグロいからそれ置いてもらっても良いですかね?
そう言いたいけど言えない。
そりゃそうだ。
俺何の役にも立ってないもん。
居ただけだもん。
こいつら二人だけで決着したからね。
何言われるのか怖いのだ....。
やだ怖い....やめてください、アイアンマン...!!
「にゃ、なんですか?」
内心ビクビクしながらも声を出す。
ちょっと噛んでしまった。
すると、彼女は俺をジッと見つめると、溜息をまた吐いた。
「....まぁ、引き金引けただけ成長したか。そのゲロ、自分で片づけろよ。あと、死体もこの後処理する者と持ち帰るもので分けるからお前持って帰る奴全部持ちな。」
「....うす、了解した。衣染さん。」
俺は年下に敬語使って頷く。
結構きついペナルティだが、まぁまだマシだ。
これで『お前、船降りろ』みたいなこと言われたら絶望しかない。
次は俺がああなる番...っていうかあそこまで生き残れるかも微妙だな。
そう言うと、俺は適当に死体から衣類剥ぎ取ってゲロを拭い。
彼女達も死体を持ち上げ始めた。
こうして今日の仕事は終わったのだった。
◇
帰り道。
一人子供の死体を持ち歩きながら、前で歩いている衣染に声を掛ける。
「....なんか機嫌悪くないすか?仕事終わったのに。」
これでお前のせいだよとか言われたら俺どんな顔すればいいか分かんねぇな。
そう心配するも、杞憂だったらしく彼女はそのまま言葉を口にする。
「...今回の仕事、どう見ても<掃除屋>に頼む類の物だと思っただけだ。だから下らねぇって言ったのさ。それに、アイツらも背後に何かあるみたいだし。」
そう言う衣染に対して爪紅さんは笑って口を挟む。
「まぁ、私達は五緋だし、こんな時もあるでしょ。多分夜顔学園側に掃除屋に頼めない事情があったんでしょ?対立構造があるとか。」
「....五緋である限り、こんなこと毎回続けないといけないんですか?」
俺がそう言うと、爪紅さんは答える。
「まぁ五緋より上はもっとデカい仕事来るだろうしね。でもまぁ六緑以下と比べれば人間らしく生きれてるわけだから贅沢言えないっしょ。」
そう言って彼女は笑った。
俺達は<代理人>と呼ばれる組織...といってもほぼ個人事業主のような物だがそこに該当する。
金さえ払えばどのようなことでも代わりにやってくれる。
それこそ人殺しだって。
そういう集団が代理人だ。
代理人は上から一黒・二黒・黒三・黒四・五緋・六緑・緑七・縹八に分けられる。
そして俺たち五緋は黒の連中より優雅ではないが、緑以下よりも惨めじゃないと言われている。
つまりは代理人の中でも中間層なのだ。
正直、俺も最近聞いたからわかってはいないのだが、どうにもこの階位は強さというよりはどのくらいの金をこの都市を率いている連中が払えるかということが指標らしい。
まぁつまりはどれだけ使えるかということなんだろう。
俺はそう理解している。
帰り道。
元来た道を通ると、そこにはさっき道端で蹲っていた人はカラカラの死体として横たわっており、壁や地面が赤茶けていた。
まるでそのような色のペンキを塗りたくったように。
人が生きて行けず、さっきまで生きていた人間が気づけば死んでいる。
これがこの町、テンシン。
フクノマエの中でナカスィの次くらいに治安が悪い都市。
それが俺が暮らすこの町だ。
科学の発達によって異なる空間から新たに見つかったエネルギー資源、IMG。
夢のエネルギーと言われたIMG。
しかし使えば使う程にシボリカスと呼ばれる存在がこの世界に実体化していることが発覚。
色々ごたごたがあって、組織間の権益も入り混じった。
その結果がこの救いようもない程に腐り切り、行政も機能していない町だと。
....明らかに転生する世界間違ったよ。
それに特典も分からないし、戦闘中に覚醒することも今までない。
これ、本当に特典あるのかな?って思う程だ。
それに、最近の生活では生き残る為とはいえ、貧乳チビに顎で使われる日々。
俺は巨乳が好きなのに....貧乳に顎で使われるなんて.....。
同じ顎で使われるなら巨乳が良いやい!
貧乳は希少価値でもステータスでもない!そんな言葉で逃げるから貧乳なんだ!!
それにエロゲの世界のはずなのに当たり前のように殺し合うしね。
どうやら神と俺との間で認識の差でもあったのか。
俺はエロゲ=エロでストーリー押し出したり、グロ押し出したりするゲームはエロゲとは認めてないから。
そう考えるとあの神様、エアプだわwww
文句は沢山ある。
でも敢えて一つに選ぶとすれば、それはただ一つ。
エロゲの世界ならゴリゴリの戦闘するな。
インフレしててついてこれないだろいい加減にしろってな。
「おい、テメェ....今なんか失礼なこと思ってたろ?」
「い、いやそんなこと!恩人相手にそんなこと考える奴なんか存在しませんよ!ねぇ爪紅さん!!」
「おっ、そうだな。」
頭の中でごちゃごちゃ思ってると、衣染にギロリと睨まれる。
なんだコイツエスパーかよ。
俺は慌てて誤魔化しながらも、家へと帰路に就くのだった。
代理人:階位は八色の姓がモチーフです。