人の命は儚く散り、街にはシラミと呼称される貧しい人が普通に闊歩しているそんな治安最低な世界。
そんな世界でも朝というのどんな人でも平等に訪れる。
お昼ご飯の時間。
ベランダで自家栽培されている小ぶりなピーマン一個に缶詰めのコンビーフを詰めて焼いたご飯を食べる。
視界の隅では、一仕事終えた後なのかモエギがPCを見てふにゃっとした笑みを浮かべていた。
「はぁ^~尊いわぁ~。マジでマリアミは至高。やっぱ女の子は女の子で、男の子は男の子同士で恋愛すればいいんだよねぇ.....」
かなり行き着いた言葉を恍惚としながら口にするモエギ。
その傍らでボケッーと彼女のPCを眺める爪紅さん。
なるほど....以前見た時はBL見て涎を垂らしていたが百合も行けるのか。
まぁホモはレズって一番言われてるし、それがイケても不思議じゃないな。
ん?俺?
俺はもちろんノーマルカップリングが一番好きだよ?
だって、片方女で片方男じゃないと自己投影できないじゃん!
まぁでも、なんだ....ホモはまだしも百合が好きな人は否定されると結構攻撃的になるからなぁ。
生前の友達がそうだし。
だから自分の所感は絶対に口にしない。
ここで自分より上の立場の人間に悪印象を抱かれるのは得策じゃない。
ましてやここの防衛やライフラインを司っているモエギ相手になら猶更だ。
自分を偽るだけで良い思いをするなら、どんどん偽るぜ俺は。
俺がそう考えていると爪紅さんが口を開く。
「そうかなぁ?私には分からないなぁ。そもそも恋愛なんて今の社会でやろうものなら付け込まれる弱みになるでしょ。それに、人殴ってる方がきっと楽しいし、建設的だって!」
そう言うと、モエギは普段人に向けることがないような目で爪紅を睨む。
そして口を開いた。
「ミス・バイオレンスは黙ってて!!こういう文明的な気持ちの高鳴りが分からないなんてどうかしてる!ってかこれは世界観的にリアルに即してないの!確かに現実ではそうだけど、創作くらいは夢見させてくれたって良いじゃん。」
詰め寄るモエギ。
すると一瞬爪紅さんは面食らうが、苦笑して口を開く。
「分かった悪かったって。よく分からない物には口挟むべきじゃないね。これ以上雷が落ちない内に私は退散しますかね~。」
そう言って彼女はソファから腰を上げると、自分の部屋へと移る。
結構長く一緒に居る関係でもそういう話題はセンシティブなんだな。
まぁ譲れない一線なのだろう。
そう思って彼女を眺めていると、ふと思い付いた。
ここで分かります~僕もそう思いますわぁ^~っ的な感じで同意したら感じ良くないか?
オタクというのは元来一緒に話す相手を求める人種が多い。
そこに付け込めばこの場所での地位の向上に繋がるかも。
せめて誰かに優しく扱ってもらいたいからな!
そう思って、席を立ちあがった。
そして彼女の近くまで歩み寄る。
「モエギさん、俺はそういうの分かりますよ。なんていうか女の子同士が仲良くするのを見たら胸が熱くなりますよね。言葉に出来ない....尊いって感情が.....」
そう思いつつ、PCの画面に目を向ける。
するとそこには見るも無惨としか言えない光景が広がっていた。
あの...ほらっ、うんちってあるじゃん?
そのっ...可愛い言い方すると女の子二人がそれをはいどーぞ♪してる感じの....おえっ、気分悪くなってきた。
「本当!?嬉しいな!実は一緒に語る相手がいなくて寂しかったんだよぉ!じゃ、一緒に見よ....。」
「前言撤回だ。この異常者め....ここからいなくなれ!!」
彼女は目を輝かせながら俺の手を取り、隣に座る様に誘おうとする。
この女、もしかしてこんなのをずっと一緒に見て感想を言い合おうとしているのか?
控え目に言って正気を疑うし、品性も疑う。
これ見て癒されていたとか頭湧いてんのか?流石この町の人間ですわ。
余りの拒否感に、素の状態で手を振り払って拒絶する。
そして暫くしてまずいことしたことに気づく。
あっ....やべっ。
取り入るどころか滅茶苦茶悪印象な事してるぞ。
で、でも...いくら人に媚びる為とはいえそういう趣味の振りをするなんて耐えられないし.....。
これ見て、普通に話せた爪紅さん本当凄い、マジリスペクトっす!
そう思いつつ、様子を窺うと彼女は頬を膨らませている。
どうやらお怒りのご様子だ。
「....寝る!」
「あっ...そのっ今のは.....。」
止めようとするも、彼女は見向きもせずにPCを持って席を離れる。
そしてこちらを振り向くと、一言呟く。
「...新人君が今度外から帰ってくる時、警備システム誤作動させるもん。」
「はっ!?ちょっ、待って待って!!話し合いましょう!!今考えるとウンチも悪くない気がしますねぇ!だってうんちっていうのは、まだ完全に消化されてるわけじゃないから、栄養があるんだって男優さんが言ってたもんね!だから話を...あっ.....。」
彼女の後を追い縋るも扉を勢いよく閉められる。
何回かノックするも返事がない。
....これ詰んだのでは?
一人残された俺は警備システムの誤作動とやらが命に関わるような物ではないことを祈るしかできない。
「....お前、なに絶望した顔でモエギの部屋の前で立ち尽くしているんだ?」
祈っていると、背後から声を掛けられる。
振り返ると、そこには僕の恩人にして天敵。
チビ貧乳こと衣染帆奈様だ。
呆れた表情で俺を見つめている。
「い、いやそのモエギさんを怒らせたみたいで....そのっ、衣染さんがなんとか出来ませんかね....?」
そう言うと、彼女は表情を変えずにサラリと返事する。
「それならオレでも無理だ。諦めろ。」
「そんなぁ....」
がっくりと肩を落とす。
そんな俺には取り合わずに彼女は言葉を続ける。
「そんなことよりも、仕事だ。ほら。」
紙を胸元に押し付けられる。
<配達人>から貰ったのだろうか。
見ると、そこには物品の引き渡しと書いてあった。
「....あのっ、これこそ<配達人>とやらに頼めばいいんじゃ...いや、配達人がどんな連中か詳しくは知らないけど名前的に.....」
俺はさっきのような失敗を避ける為にも彼女の様子を見ながら質問する。
すると、彼女はすぐに答えてくれた。
「確かにそうだ....。まぁ理由は一つだな。」
「なんすかその理由って?」
俺が尋ねると彼女は返答した。
「そのクライアントは差出人と受取先、そして私たちの3人でこの物品とやらを完結させたいということだろう。<配達人>は流通を担っているとはいえ別組織だからな。」
なるほど。
つまりはそういう物を確実に届ける為に俺たちに頼んだと。
....ん、待てよ?
「差出人と受取先、それらの間でなんとかしたいという思惑は分かる。よく分かります。でも、そこになんで俺達が入るんですか?」
そう言うと、彼女は一瞬首を傾げるもあ。と一言声を漏らすと口を開いた。
「あー、わりぃ。知ってるもんだと思ってたわ。その二つの組織とオレ達の組織は密接な関係でな。オレたちに任せた方が不安もないんだろう。」
「なんで知ってるもんだと思ったんすか.....。」
他二人に話している気分で話していたのだろうか?
そう内心呆れながらも、依頼書を見る。
差出人<斯界衆>、受取先<水鏡>。
うん、やっぱり知らない所だ。
「それで?その物品は?」
俺が聞くと、彼女は親指を玄関の方へ向ける。
「既にオレが受け取りに行って、玄関に置いている。だから行くぞ。」
そうぶっきらぼうに言ってくる彼女。
....嫌ですけど。
極力外には出たくない。
それに外に出るとモエギさんになんかされるかもしれないしなぁ。
よく考えてみればモエギさんはまだしもさっき爪紅さんが居た。
「えっと....爪紅さんが居たと思うんですけど。そちらに頼んだ方が良いと思うんですけどぉ....。」
俺は彼女の顔色を窺いながらそう尋ねる。
しかし、彼女は首を横に振る。
「アイツは昨日働いた。....それに、いつかお前を<水鏡>の方に挨拶に行かせようと思ってたんだ。あそこはウチにとって主要なクライアントの一つだからな。そう考えるとこの依頼はおあつらえ向きだろ?」
「...さいですか。」
ここまで言われるともうどうしようもない。
彼女は俺を連れて行く事を譲る気はないようだ。
挨拶って言ったってそこがどんな組織かは分からないけど、確実にこの町にあるという時点で碌な物じゃない気がする。
「じゃあ、いつまでもパジャマ姿で居ないでさっさと用意しろ。銃と....まぁ私が居るから大丈夫だろうけど、書きたいなら遺書でも書いていたら?」
「なんでそんなこと言うんですか....!?」
縁起でもない。
この町では冗談では済まないのだ。
この町では人はあっさりと死ぬ。
外では今も人が死んでいて、自分もそのお仲間にならないとも限らないのだ。
すると、彼女は俺の返答を聞くと面白そうにクックックッと笑い、口を開いた。
「怯えすぎだっつぅーの、ばぁか。」
そう言って手を挙げて待ってるからなと言い残して玄関の方へと向かう。
....窓から抜け出し...ても変わらんな事態は、うん。
それなら大人しく従った方が良いだろう。
あー、怠いなそれにしても。
でも遅いとあの調子でヘラヘラしながら殴られそうだ。
そう思いながらも、俺は自分の部屋へと入って身支度を急ぐのだった。
◇
外。
路地は相変わらず埃と共にどこか血の匂いが鼻を突く。
壁に寄り掛かる様に、しおしおになった死体が横たわっている。
俺はキョロキョロと周りを見ながら歩いている。
そして、彼女は俺の隣でジュラルミンケースを持って威風堂々闊歩している。
こんな街でそんな堂々と歩けるなんて凄いな、貧乳だけど。
それにしても.....。
「今日は偉く畏まっていますね。これといい.....。」
俺は自分の来ている服。
真っ黒なスーツを触る。
シャツ以外全て真っ黒。
そんなスーツだ。
そんな俺を見て、彼女は口を開いた。
「まぁ主要なクライアントへの挨拶も兼ねている。それ、態々お前用に買ったんだ。長く着れるようにしろよ。」
「具体的にはどうしろと?」
「死んでもいいけど出血するな、ゲロ出すな。」
「....アンタ、滅茶苦茶だよ。」
つまりは血や体液を出して死ぬなということだろう。
もしそんな状況になってどう死ぬかなんて選べるわけがない。
ましてや僕だぞ?
俺が心の声を口にしてしまうと、奴はニヤリと笑う。
「オイオイ、敬語外れてるぞ?オレは求めてないのにお前が勝手に媚びる為にやってる敬語がさぁ。」
「す、すんまへん....。」
....どうやら思惑は見抜かれていたらしい。
別に媚びられているんだから良いだろ別に!
なんでこんなことで威圧されなきゃいけないんですかね?
やっぱこんな世界クソくらえだ.....。
そうして二人で歩いていると、彼女は目の前の角を右に曲がろうとする。
そんな彼女に続こうとすると、彼女は俺を止める。
「待て!」
「は?どうしました?一体何.....が.......。」
彼女が足を止めた理由が気になり、首だけ出して角の向こうに目を向ける。
小汚い路地。
そこには裸の小太りのおっさんみたいな後ろ姿と、その前で目を見開いてただ震えている女性。
「あっ....ひっ....ひっ!だ、誰かたすけ....」
茫然とした様子で助けを呼ぼうとする。
すると、その言葉も聞かずにその小太りのおっさんは彼女に勢いよく覆いかぶさる。
「あっ、あぁあぁあああああああ!!!あぁああああああああああ!!!あがぼっぼっ、ヴァッ!オボォッ!!ガボボボボ!!!!」
裸の中年オヤジのような何かに伸し掛かられて足をばたつかせて藻掻きながらも衣を裂くように叫ぶ。
しかし途中でその叫びは怯えているかのようなくぐもった声になってしまう。
それと同時に、地面に何か茶色い物が広がっていく。
細かな粒のような何か。
何か見覚えがあると思えば、それは生前コンビニなどで見たチアシードのような植物の種であるということが分かる。
それが広がれば広がるほどにそれに比例するかのように彼女の身体がゆっくりとアイスが溶けるように消えていく。
それに付随してバタバタと藻掻いてた足の動きが段々と緩慢に、遂にはビクビクと小刻みに痙攣するだけになる。
そして最後にはバシャリと完全に中年の身体が地面に付く。
種は路地一杯に広がり、後に残るのは中年の身体に触れていなかった両足だけ。
人が死んだ。
しかも今まで銃で撃たれたり、ちぎられたりなど鮮血が飛び散るような死体は何回か見たことがある。
でもこんな.....こんなバカげた死に方見たことがない。
人の身体は血が巡り、肉で構成されている。
ぐちゃぐちゃに磨り潰したって種なんか出るはずもない。
それがこんな大量に.....。
多分あの中年は人じゃない、シボリカスなのだろう。
でも、こんな常識外れの人の死に方なんて、見たことがなかったんだ!
意味が分からない、なぜ種?
人が種に変換されて死んだ。
こんな言葉を聞けば、頭湧いてるのかと思われるかもしれないが、目の前で起きたれっきとした事実なのだ。
口元を抑えてただ見るしか出来なかった。
こんなこと起きて良いわけがない。
こんな実際には起こりえないことが出来るなら....それなら奴らは.....。
なんでもあり....じゃないか。
「ッ!こっちに来い!!!」
すると急に首元を引っ張られる。
尻もちを突くと、彼女は俺を見下ろして口を開く。
「おい、呆けるのは後にしろ。仕事が終わってからならいくらでも付き合ってやる。」
仕事が終わってから?
コイツ、あんなものを見てまだそんなこと言ってるのか?
コイツは、あんな存在に慣れてるから?
だから、取り乱さないのか?
でもそれって逆にこんなことがありふれている事の逆説でしかないじゃないか!!!
「なんだよそれ....人が、人が死んだんだぞ!!しかも種になって!!!ふざけるのも大概にしろ!!!アンタは慣れてるかもしれないけどなぁ!?こんなこと絶対におかしなことなんだよ!!!」
心の中で思っている事を相手にぶちまける。
すると彼女は呆れた表情で俺を見下ろし続ける。
「ふざけるのも大概にしろってのはこちらのセリフだ。...アレはもう捕食行動を終えている。ならこちらに興味を示すことはないか...?いや、でも......。」
ほら見ろ、こんな時にまで冷静に分析してらっしゃる。
なんだよそれ、俺がおかしいって言うのかよ!!
こんなのがゴロゴロ一杯居るって言うのか?
それなら....いつ死んでも本当におかしくない。
それ以上に、人として死ねることの方が奇跡じゃないか!
あの後を見ても、誰かが種袋をぶちまけたとしか思われない。
人が死んだとは思われないだろう。
そんなの、人として尊厳がないじゃないか!
「そうだ...尊厳がないんだ、人として死ねない。そんなの御免だ。俺はもう一度死ぬために、生前よりも酷い死に方をする為に転生したんじゃない....なら、まだ人として死ぬためにも、楽になる為にも自...んむっ!?」
ただただ恐怖と強迫観念のまま言葉をぶちまけていると口を塞がれる。
視界一杯に彼女の顔がある。
顔が近い、極限近い。
唇には柔らかい感触。
....これって。
えっ、なんで?
なんでコイツ急にこんなことやりだした????
????
本気で戸惑っていると、彼女は顔を離す。
「....は?なに?えっ、なに...この....なに?」
茫然とそう呟く俺。
すると、彼女は詰まらなそうに鼻を鳴らして口を開く。
「ふんっ....何惚けてるんだよ。ただうるせぇから黙らせただけだ。深い意味なんかねぇ。」
「...イタリア男かお前。」
黙らせるためにキスするとかお前...口調も相まって男前に見えるわ。
彼女を見上げるだけの俺。
すると彼女はそんな俺を見て、口を開いた。
「大丈夫だとは思うが、念には念を入れて迂回する。.....いいか?お前は何も考えるな。ただオレに従え。そうすれば...怖くても、人のせいに出来るだろ。」
そう言ってくる彼女。
...確かに、その方が楽だし、きつくないや。
今は、考えたくない。
「...うっす。おかのした。」
そう言うと、彼女の差し出した手を取る。
そして立ち上がるとそのまま歩き出した。
彼女はしっかりと俺の手を繋いで離さない。
....心配してくれているのかな。
だといいな....。
◇
歩くこと暫く。
煉瓦造りの建物の横に岩畳と石造りの鳥居が聳える。
奥には朱色の本殿などがあり、神社と言った感じだ。
どうにも厳密には天満宮らしいが。
「...手汗がキモイ。...くっっさ。」
彼女は繋いでいた手を振り払うと、手を嗅いで顔を顰める。
まるでフレーメン反応を起こした猫のよう。
いや...アンタから繋いできたんですがそれは.....。
まぁ、歩いている間に天満宮についての話とかしきりにしていたし、彼女は彼女なりに俺のことを気遣ってくれたのかな?
多分あの状態でクライアントに会わせるわけにはいかないと思ってやったのだろうけど。
まぁそのおかげで今は落ち着いている。
「しょうがないじゃないっすか。怖かったっすもん。」
「次またあんなだらしない様見せたら今度はぶん殴って目を覚まさせるからな。....たくっ、歩いている時も引っ付きやがって。オレはテメェの母親じゃねぇつーの。」
そう文句を言いながらも彼女は鳥居をくぐる。
その後を俺はただついて行く。
周りには石造りの灯篭や柔和な顔をした牛の石像など典型的な神社と言った感じだ。
ここが<水鏡>か。
こういう所は普通なのか。
それとも明確な管理者の居る土地だから管理が行き届いているのか。
岩畳の上を歩き、真っ直ぐ行こうとする。
すると彼女はそんな俺の腕を引き留めた。
「オレたちが用があるのはそっちじゃなくて、アッチだ。」
そう言われて指さされるのは隣に隣接されている和風屋敷。
母屋...という奴かな?
「おっす。」
俺は彼女の言葉に従い、その後を付いていく。
「ふふ、もう少し待つものかと思ったけれど相変わらず優秀なのですね?衣染さん。」
「これが斯界衆からの物品だ。中身はもちろん見ていない。」
母屋に入ると、待合室らしき場所に通されて一時間後。
艶やかな黒髪を長く下ろした和風美人。
ここを仕切っているらしい女性が俺達の前に現れ、目の前に座っている。
名前は今泉神子...というらしい。
彼女は俺達に笑顔を向けるとひんぬーが差しだしたジュラルミンケースを受け取る。
そして脇に置いた。
その様子を見て、隣のひんぬーは怪訝な顔をする。
「....中身の確認はしなくても良いのかよ。」
その言葉を聞くと、彼女は微笑む。
「えぇ。する必要はありません。貴方がきちんと持ってきてくれることは知っていたことですから。」
知っていた.....か。
今までの関係上、そこまで断言されるほど信頼されているということかな?
しかし、現状はこの組織がどんな場所なのか分からないというのが本音だ。
まさかこんな世界でマジで神社運営をしているのだろうか?
氏子とかちゃんと居る?
そう思うのと裏腹に、俺の視線は巫女装束越しでも存在を主張して余りある大きなお胸に向いてしまっていた。
はえ~、すごい大きい。
もうなんか凄いプルプルするでしょそれ、毎秒肩凝りそう。
そんな下品なおっぱいで神職は無理でしょwwww
そう思っていると、突然足を力一杯踏まれる。
凄く痛い、これもしかしたら小指折れてね?
そう思わせるほどの痛さ。
勿論攻撃の主は隣に座っているひんぬーだ。
その目は冷たく、やめろと如実に語っていた。
なんだひんぬー特有のデカさへの嫉妬かぁ?
ひんぬーはこれだからダメなんだ。
俺のデータでは胸の大きさと器のデカさは比例する!
....ま、女性はそういう目線に敏感だと聞いたことあるし、クライアントに向けるなということだろう。
「それで、そこの初々しい子は?」
すると今泉さんは俺に視線を向ける。
その問いを聞いて、隣のひんぬーが答える。
「コイツはちょっと前からウチで拾った新人。こんなでも一応記憶喪失でな。これからコイツもウチの業務を担当する上でここに来るかもしれない。よろしく頼む。」
「よ、よろしくお願いします。」
頭を下げるひんぬーに従って俺もおずおずと頭を下げる。
すると彼女は頬に手を宛がいつつ、微笑する。
「あらあら、よろしくね新人君。」
優しい声に上品な所作。
その様を見ると、どうしてもいい人に見えてしまうな。
まぁ本当はどうかは分からないが。
バブみを感じる。
まぁ年上っぽいし、包容力があるのは当たり前か。
「報酬はちゃんと振り込むので確認してくださいね?ということで今後ともよろしくお願いします。」
「あぁ。こちらこそ頼む。」
二人は頭を下げると、不意に今泉さんが声を発した。
「そうだ、大丈夫だろうと思うけど、衣染さんも気を付けてくださいね?最近は百舌とかいう不埒な輩が出ると言いますから。」
「百舌?」
俺は疑問符を浮かべる。
すると、隣のひんぬーも口を開いた。
「言われなくても知ってる。最近<仕置き人>を名乗って色んな組織の首領や有力者を襲い、翌日にはその建物の一番高い位置にある尖った物に突き刺して見せしめにし、犯行声明として正義を為したとか抜かしている奴だろ。奴が来るほど、オレたちは偉くねぇよ。」
はえ~仕置き人ってあれか。
江戸時代のドラマとかで糸とか吹き矢とか使ったりする系の奴か。
それにしても正義を為すか。
そのような言葉は実はこの世界に来て初めて聞いた言葉だ。
だからこそ、凄く気になる。
具体的に言えば、もしかすればその仕置き人とやらをやっている人間がこの世界における主人公に位置する人物なのではないだろうか?
主人公とは作品にも依るが得てして耳障りの良い思想を言いがちだ。
会えるものなら会ってみたい物だが。
「言ってみただけですよ。それに、アレが好き勝手秩序乱すのも時間の問題みたいですしね。どうやらその子、<花売り>のシノギに手を出したみたいですよ。それで結構重要な人物を殺したせいで虱潰しに探しているとか。」
「....その百舌とやらが男だったらリンチの末に死亡、女だったら商品からの廃人と言った所か。随分とヤバい所に手を出して何がしたかったのかね、そいつぁ。」
呆れた様子でそう言葉を口にするひんぬー。
商品からの廃人....これは女ならエロ展開来たか?
いや、でもなんかどっちにしても殺伐としてんなぁって思うわけ。
もっと抜きゲ―みたいに軽いノリでエロい事してもろて....ノルマこなすくらいのお手軽さでお願いしたいのですがそれは.....。
「じゃ、そろそろお暇させてもらおう。おら、帰るぞ。」
「あっ、おっ...。おっす!」
横の彼女が立ち上がるので、俺も同じように立ち上がる。
すると今泉さんが手を小さく振った。
「ふふっ、久しぶりに衣染さんと顔を合わせて話が出来て楽しかったです。さようなら。....そうだ、新人君。」
「えっ、あ...はい。」
部屋を出ようとしたところで呼び止められたので、振り返る。
すると彼女は妖艶に笑って手招きをしながら口を開く。
「最近働き出したなら、戦力面でも不安があるでしょう?私、結構顔が効くので紹介してあげても良いですよ.....。」
「...真に受けんなよ。アイツ、初対面の人間が居る時は外面が良いけど、裏ではとんでもないことやってる腐れ巫女だからな。おい、ウチの新人食い物にしようとするんじゃねぇよ。」
「えっ、そうだったんすか?」
てっきり親切心かと...そうじゃなくてもとんでもないおさせがやってきたと内心ガッツポーズ決めてたが、まさか隣のひんぬーの言う通り俺を利用しようとして?
疑いの気持ちを持った瞬間、目の前の彼女が笑う。
「怒られちゃったか...。まっ、冗談ですよ冗談。新人君も鼻の下伸ばしてたらこんな風に騙されちゃいますからね?」
悪びれることなくそう告げる彼女。
どうやら隣の彼女の言葉が合っていたということだ。
人は見かけによらないね。
裏で何をしていたのかは聞かない。
精神的に今日は疲れたし、目の前の相手のやっている悪行なんて聞かされてもどんな顔すれば良いのか分からん。
分からん過ぎて内なる自分が笑えば良いと思うよとか言い出して結局愛想笑いするのが関の山だろう。
「べ、勉強になります。」
俺は目の前の今泉さんに頭を下げる。
彼女はクライアント。
それこそ事務所の人以上に嫌われるわけにはいかない。
関係が密接な人であるなら、嫌われた分だけダメージがデカい。
しかもそれが身内ではなく、お客さんとなれば最悪だ。
だからこそ、俺は媚びるのだ。
そうして彼女に見送られて鳥居を抜けていく俺達。
隣のひんぬーは一息吐いて、ポケットに手を入れる。
....正直、あの人の目の前であったから聞かなかったが、ここがどのような組織か気になるな。
好奇心から隣のひんぬーに対して口を開く。
「あのっ、あの人って裏では何してたんですか?」
俺が聞くと、彼女は面倒そうに後頭部を掻きながらも俺の問いに返答する。
「あー、まぁ色んな事してるな。人体収集に治安維持とか....まぁでも私達が一番関わるのは武装面だな。」
濁すように告げる彼女。
アレかな?
死の商人的なサムシングかな?
まぁでも濁すということはあまり言いたくないということだ。
それなら聞く必要もないか。
下手に深堀してヤバい事聞くのは嫌だし....。
この世界では何がヤバい事に繋がっているか分からない。
さっきだってあんな意味分からない殺し方する生き物が普通にそこら辺を闊歩しているのだ。
生きた心地がしない。
そう思いながら歩いていると、さっきとは逆方向の道へと進んでいることに気づく。
「あれ?帰るんじゃないんすか?」
そう聞くと、彼女は答える。
「ちょっと帰る前に新天路のアーケードに行く。今日は豪勢にしないといけないからな、酒とか飯を色々買わないと。」
豪勢にする...か。
珍しいな....。
こんな世界で、普段から節制しているのに....。
それに豪勢に飯とか酒とかを買える場所があるのか....。
「今日は豪勢にしないとって、何かあるんですか?」
俺がそう聞くと、彼女は今まで気づいてなかったのかあっと声を出して答える。
「そう言えば、お前知らないんだったな。今日はモエギの誕生日なんだってよ。だからお前も買い出し手伝え。」
「わ、わかりました!」
そう言われて先に歩き始める彼女の後を付いていく。
誕生日パーティでも行うつもりなのだろうか?
ただ、その理由を聞いて少し俺は安心した。
この世界に来て殺伐とした出来事や理解できない出来事ばかりで元居た世界との乖離具合を痛感させられていた。
だからこそ、元の世界でも普通にあるような誕生日を祝うという行為にほんわかしてしまったのだ。
...でも、誕生日迎えた人ってモエギさんでしょ?
...朝、ちょっとやらかしちゃったし気まずいなぁ......。
急いで彼女の横に並ぶと、安心感と共に朝の出来事を思い出して不安を覚える。
帰って謝るか...?
そういえば、警備システム誤作動させるとか言ってたような....。
祝う以前に俺、ちゃんと事務所に入れるのかな....?
種漬けおじさん:見た目が裸の中年のように見え、人に覆いかぶさって殺害した後に、種に浸かっている姿からそう呼ばれているシボリカス。