敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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天使か悪魔か

──────

 

 

 

 あの日、僕は知った。

 あるクラスの存在と、その生徒たち。

 そして、自分の弱さを。

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 雄英高校の生活にも慣れてきたある日。

 僕らはバスに乗り、ある場所へと向かっていた。

 

 ある場所とは、午後のヒーロー基礎学で人命救助訓練をするための施設。ウソの災害や事故ルーム、通称USJ。

 

 

「緑谷ちゃん、あなたの個性、オールマイトと似てる──」 

 

 

 蛙に近い容姿をした蛙吹 梅雨、半ば強制的に呼ばされている通称 梅雨ちゃんが僕に声をかける。

 

 

「そ、そんな事ないよっ!?」

 

 

 ずばり言い当てられたようで、声が少し上ずってしまったかもしれない。

 そう、僕の個性は 【ワン・フォー・オール】

 似ているんじゃない。同じなんだ。

 ナンバーワンヒーロー、オールマイトから"受け継いだ”それこそが、本来無個性である、僕の、今の個性。

 

 この力があれば、この力を使いこなす事さえできれば、僕でも多くの人を助けられるんだと、

 

 そう、思っていた。

 

 

 

────

 

 

「全員ひとかたまりになって動くな!」

  

「なんだアリャ?また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターン?」

 

「動くな!!あれは!!」

 

 

 相澤先生はゴーグルを装着しながら、僕らの方を見ることもなく、叫んだ。

 

 

「敵だ!!」

 

 

 USJ到着後、直後として現れた軍団に相澤先生 基、イレイザーヘッドは一人で立ち向かっていく。

 初めて経験する、途方もない悪意に足がすくんだその時、僕らの体は闇に覆われた。

 

 

「うわっ!なんだこれ!!!」

 

 

 黒いモヤみたいな敵がクラスのみんなを闇に引きずり込んでいく。

 その中で聞こえたのは、

 

 

『……散らして……嬲り……殺す』

 

 

 闇と悪意に覆われる無力な僕が最後に見た光景は、一人で敵へと立ち向かう、まさにヒーローの、イレイザーヘッドの背中だった。

 

 

 

──── 

 

 

 

 雄英高校はマンモス校と呼ぶだけでは足りないほどに、途轍もなく大きく広い。

 その広大な敷地の中、まるで隔離をされているかのような位置に立つ別棟のある教室の中、四人の男女が真面目に机に座っている、わけがなかった。

 

『………………』

「クックックッ……面白い……」

 

 

 たとえ闇夜のなかでも輝くであろう、腰まで届く柔らかな金髪。

 染みひとつとしてない、赤子のように柔く、白い肌。

 スラリとした肢体はまるで神の作った造形物のよう。

 冷やかにも見える、勝気で鋭い瞳は華やかな紅色をしている。

 美しいと言う表現すらも拒まれるほどの、完璧に整った顔立ちの少女だが、ただ一点、欠点といえばそのこじんまりとした胸だろう。

 

 そんな16歳にもまだなっていない少女が口元を歪めて笑いながら腰掛けているのは、自らの机──などではなく、教壇だった。

 

 

「気味の悪い笑い声……俺は、無駄な事はしたくねー……」

 

 

 教室の隅で座布団の上で横になっている男は少女へと横になったままに語りかける。

 さっきまで寝ていたたせいなのか、元々癖毛なのかわからないがボサボサの黒髪をしている。

 そして、元々悪いであろう目つきをさらに悪くして少女を睨みつけるも、少女は「黙れ小男」と鼻で笑う。

 それもそのはず。男の体は50cmにも満たないほどに、あまりにも小さかった。

 

 

「ん。無駄かは知んないけど、面倒に巻き込まれる確率は、100%だな。それが面倒だってのは、わかるけど、どんなんだろうな?(こころ)ちゃん」

 

 

 随分と整った顔をした茶髪の少年は机の上に投げ出した足を揺らしながら答えた。

 整ってはいるものの、どことなく嘘くさい笑顔を絶えず浮かべており、二枚目になりきれていない。

 詐欺師のような笑顔を浮かべて、だらしなく背もたれに身を投げ出すように寄りかかると、後ろに座る、肩のあたりで切りそろえられた桃色の髪をした女を逆さに眺めて問いかける。

 

 

(あたる)くん……それに、王華(おうか)ちゃんにもわかるのね!!私の中の、正義の心も騒いでる……はやく…急いで殺…じゃなくて、倒さないと!この世界は守れないわっ!!行くわよっ!(しん)くん!!」

 

 

 唯一、まともに椅子に座っていた女が、その大きな胸を揺らして勢いよく立ち上がった。

 その勢いで吹き飛ばされた机は王華と呼ばれた金髪の横を通り抜けると黒板に深々と突き刺さる。

 机の反対方向に吹き飛んだ椅子は、桃髪の見つめる先にいる、座布団で眠る男、糸宿 伸(いとやど しん)の鼻先を掠めて壁に激突し、粉々になっていた。

 

 

「いいから、さっさと起きろ小男」

 

 

 大きく揺れた想の胸にイラついているのか、鼻を鳴らし、金色の髪をサラサラと靡かせた帝 王華(みかど おうか)はその紅い瞳で横になったままの伸を見据える。

 

 

「あの状態はエコなんだよ。寝る場所も選ばないし」

 

 

 ゆらりと立ち上がった伸は、身長は2mはあろうかと言う、異形系の個性ではない、通常の人であれば大柄な男。

 さっきまでの、某ゲームの電気ネズミくらいのサイズから数倍のサイズへといつのまにか変わっており、顎に無精髭を蓄えた顔を相変わらず面倒臭そうに歪めて、頭を掻きながら答えた。

 

 

「はやく!こうしている間にも、罪のない人たちが……」

 

「結果はもうわかってるけどさー。俺、行かなきゃダメ?」

 

 

 鼻息を荒くする想と呼ばれた桃髪と、椅子から立つこともしない、当と呼ばれた茶髪を鬱陶しそうに見つめる、伸。

 

 

「道の指示はくれよ。王華」

 

 

 王華を一瞥すると、視線の先の女は教壇から重力を感じさせないほど軽やかに飛び降り、ニヤリとその犬歯を剥き出しにした。

 

 

「無論だ」

 

 

 そうして、伸は面倒臭そうにゆっくりと手を掲げると、四人は教室から姿を消した。

 

 

 

────

 

 

 

「散らして殺す……か」

 

 

 【半冷半燃】の個性を持つ、顔に大きな火傷の傷跡がある少年、轟 焦凍は黒いモヤへと飛ばされた先、土砂ゾーンに現れた瞬間に群がるヴィラン全てを凍らせた。

 本当にガキかと、凍らされたヴィランたちは言うが、轟はこんな雑魚連中をあてがわれた事で、狙いであるオールマイトを殺せる根拠は何かを考えていた。

 

 

「このままじゃ、あんたらじわじわと身体が壊死してくわけなんだが、俺もヒーロー志望。そんなひでえ事はなるべく避けたい──」

 

 

 そう言って、この程度の連中がナンバーワンヒーローを倒すと言う、その根拠を聞き出そうとしていたのだが、鼻腔をくすぐるほのかにあまく良い匂いがした。

 それに気づいた時には、物凄いスピードで桃色の何かが横を通り過ぎた。

 

 

「甘い甘い甘い!!甘ったるすぎるよ!!こんな人たちがいるから、罪もない人々は心配で夜も眠れないっ!!君も正義の味方なら、ちゃーーーんと殺し……じゃなくて、二度と立て無いほど、完膚なきまでに痛めつけないとっ!!」

 

 

 その直後、野太い悲鳴が辺りに木霊する。

 轟の前では、氷漬けのヴィランたちが輝く大剣に次々と切り裂かれ、全員が悲鳴をあげていた。

 どう言った個性なのか、轟には判断がつかないが、なにかしらのエネルギーで作られたあの金色に輝く大剣。

 切られればダメージはあるし、少なからず血も出ているし、中には吐血する敵もいる。

 完全に振り抜いたとて、切断されてはいない。

 あの攻撃、一体何に作用しているんだ?

 轟の考察が終わる前に、最後の敵の悲鳴も静まっており、敵の集団は完全に沈黙していた。

 

 

「私が来なかったら、いったいどうなっていたことか……でも、これでもー安心だねっ!ほら、そこのあなたも、もう大丈夫よ!」

 

「ッ!!」

 

 

 透明人間である葉隠は、想の行う、動かないものを一方的にぶった斬る様子に怯えていたのだが、その張本人に、目は合わないまでも自身の方に顔を向けられただけで驚きすくみ上がっていた。

 

 

「私は亡女 想(なきめ こころ)。ホントは息の根止めるのが一番なんだけど……またアソコに閉じ込められちゃうから……っと!私もあなた達と同じ一年生よ。宜しくね!」

 

 

 無抵抗の、その場にいた全ての敵を嬲り、雄英高校の制服やその顔を返り血でところどころを赤く染めたまま微笑みかけてくる女に、轟と葉隠は今まで感じたことのない恐怖を感じた。

 

 

 

────

 

 

 

「コエーーー!!マジ!!今見えた!!三途見えたマジ!!」

 

 

 大柄のヴィラン、おそらく異形系のヴィランの、丸太ほどもある太く大きな腕から放たれる拳を間一髪で避けた上鳴 電気は叫びながらもクラスメイトの方へと走る。

 

 

「そう言うのあとにしよ」

 

「今はこの数をどう切り抜けるかですわ」

 

 

 冷静に言い放つ二人の女子生徒。

 ロックなコスチュームに身を包む耳郎 響香と、高校生とは思えない発育の行き届いた胸を誇り、それを見せつけるように大胆に胸元の開いたコスチュームを着ている秀才、八百万 百。

 

 三人は上手く立ちまわってはいたが、圧倒的な数のヴィランに囲まれ劣勢を強いられていた。

 

 

「くっ!よけらんない!!」

 

「ありゃー。女子のピンチに遭遇。これはほっとけないなー」

 

 

 耳郎に迫っていた敵の顔面に着地をしたのか、その顔を踏み砕き、必要なのかという程アクロバットに回転しながら蹴りを放ち、きりもみ状に回転して吹き飛んでいく敵。

 誰も気づかないうちに、茶髪の男が空から降ってきたようだ。

 思わず身構える三人に、嘘くさい笑みを浮かべながらも安心させるように言葉を続ける。

 

 

「ビビんなくていいって。俺は十三分一 当(じゅうさんぶいち あたる)。ほら、制服着てんじゃん。それに、同じ学年だよ。ま、これくらいならまっかせっなさーい!」

 

 

 二枚目とも言える、整った顔立ちの当は、軽口を叩きながらもヴィランに向かい、躍り出る。

 先ほど上鳴へと殴りかかったヴィランの"拳が放たれる前"から上半身を捻り、悠々と交わすとニヤリと口を歪める。

 

 

「右か左か、上か下。避けるか受けるか?ま、そんな少ない"選択肢"じゃ、俺には勝てないよ」

 

 

 見た目からして重量感のある、ゴツいブーツを履いた足で、回し蹴りを左の顳顬へと叩き込むと、悶絶するヴィランの顔をそのまま踏み抜く。

 そしてニヤニヤと笑顔を浮かべたまま、敵の群れへと潜り込み、全てを躱し、的確に急所に蹴りを叩き込みながらも固まる三人にヴィランを近寄らせない。

 

 

「オイコラ男子!!テメェは女の子侍らせてないで働けや!!もしくは代われ!!!」

 

 

 上鳴にのみ向けて吠えるその姿に、ただの女好きかと思う三人であったが、その身のこなしと、一撃で大の大人を昏倒させる強さに驚愕していた。

 それに……

 

 

「あの方、本当に雄英の生徒なのでしょうか……?」

 

 

 一度も見た事がなく、ヒーロー科のクラスは一年にはAとBの二クラスしかない。はずだ。

 しかし、八百万はそのどちらのクラスでも、この雄英高校の制服を着ている「十三分一 当」と名乗る男を見た事がなかった。

 

 

────

 

 

「先生ーーーーーッ!!」

 

 

 悲痛な声で叫ぶ、雄英高校の一年A組の面々。

 呼ばれた先生とは、プロヒーロー『13号』。雄英高校の教師であり、普段は災害救助で活躍するヒーロー。そのため──

 

 

「やはり、戦闘経験は一般ヒーローに比べ半歩劣る」

 

 

 生徒たちを散り散りにワープさせた、黒いモヤのヴィランは言葉を続けた。

 

 

「自分で自分をチリにしてしまった」

 

 

 13号の個性、あらゆるものを吸い込みチリへと変える【ブラックホール】をワープで繋ぎ、13号は自らの個性でその背中の大半を失ってしまった。

 

 目の前で崩れ落ちるプロヒーローを目の当たりにして、絶望を浮かべる生徒たちだったが、その中で、佐藤が叫んだ。

 

 

「飯田ァ!!走れって!!」

 

「くっ!!」

 

 

 【エンジン】の個性を持つ、クラス一の俊足であり、委員長である飯田 天哉は一目散に走り抜けようとするも、その自慢の速度もワープには及ばない。目の前に開かれる黒いモヤのゲートに、絶望の表情を浮かべる。が、

 

 

「それ便利だな。動かなくて良いのか」

 

 

 どこからか聞こえる声。

 飯田は完全に混乱していた。

 目の前に開けていたゲート。

 一直線に向かっていたはずの、USJの出口は何故だか視線の横にある。

 ボサボサとした黒髪で無精髭の生えた男が、いつのまにか隣に立っていた。見た目は完全に高校生には見えないが、確かに雄英高校の制服を着ている、謎の男。

 

 

「お前と俺との距離を"縮めた"だけだ。やりたい事あんなら、早くやれよ」

 

 

 そう言うと、男は飯田の前からも一瞬で掻き消えた。

 

 

「めんどいから、早く死ねよ?」

 

 

 一瞬で先程の黒いモヤのヴィランへと肉薄している男は無表情のままに呟き、対して黒いモヤのヴィランは苛立たしげに声を荒げた。

 

 

「く、なんだお前は、生徒なのか教師なのかは知らんが……消えろ!!」

 

「あかん!そこの人!!そいつにもきっと実態が──」

 

 

 叫ぶ麗日に一瞥くれると、ゲートが開き切る前に、"ゆっくり"と背後へと回り込む伸は、そのモヤの衣服か何かに拳を放つ。

 

 

「なんだ…速すぎる……グワァ!!」

 

 

 地面へと倒れ込み、モヤモヤとしていた身体にも、実体はあるようだった。

 重力を無視したように、"ゆっくり"と地面へと降り立つ男は、なんてことないような顔でそのヴィランを見下ろしながら、言葉をかける。

 

 

「教師じゃねー。俺はまだ16歳だ」

 

 

 どうやらちょうど飯田がUSJからの脱出に成功したようで、これでは応援を呼ばれると、イライラしながらも黒霧はその姿を消した。

 

 

 

────

 

 

 

 僕は勘違いをしていた。

 

 初めてのヴィランとの戦い。

 自分たちの、自分の力は既にヴィランに通用するのだと。

 

 【蛙】の個性を持つ蛙吹さん、【モギモギ】の個性を持つ峰田くん。水難ゾーンという罠に嵌めやすい場所と、二人の個性と自分の個性を合わせ、初陣に勝利してしまったのが、この勘違いの始まりだろう。

 

 

『隙をつけば、少しでも先生の負担を減らせるかもしれない……』

 

 

 あぁ、今思えばなんと浅はかだったのか。

 ヴィラン。

 プロの世界。

 僕らはまだ、なにも見えちゃいなかったんだ。

 

 

 目の前の光景は、凶暴な、脳味噌丸出しの大柄なヴィランに馬乗りの体勢でその体を押さえつけられている、ボロボロのイレイザーヘッドの姿があった。

 

 

「かっこいいねぇーヒーロー。まだ心は折れてないってか?」

 

 

 顔や体に"手"をくっつけているような、白髪のヴィランがゆっくりとこちらに近づいてくる。

 その姿に、その悪意に、僕らは三人とも動けないでいた。

 

 

「脳無。そいつの顔押さえつけてろ。ボロボロに崩れ去る、愛する生徒の姿を、後で見せてやるよ」

 

 

 蛙吹さんに向けてゆっくりと伸びる腕。

 それを間近で見ながらも動けないでいる僕ら。

 その五本の指が顔にかかる間際、なぜか白髪のヴィランは大きく吹っ飛んだ。

 

 

 

 

「────フフフ、ウフフフフフ。敵連合?対平和の象徴?」

 

 

 

 

 僕らの更に後方から声がする。

 それは甘く、力強く、やたらと脳に響く女の声。

 その声の持ち主を見た時、全員が息を飲んだ。

 

 まるで月の光のように輝く金色の髪に、鮮血のような紅の瞳。

 完璧なバランスで整った華やかな顔立ちに、スラリと均整の取れた肢体。

 僕が今まで生きてきた中で見る、最も美しい生物は、間違いなく、今、目の前にいるこの少女だ。

 

 そしてその少女は、まるで水の上を歩いているように、波打ち際を歩いている。その様はさながら女神と見紛う程に美しい。

 

 そう思ったのは、僕だけじゃないはずだ。

 

 なぜなら、あの峰田くんですら、飛び付こうとせず見惚れてたのだから。

 

 

 

────

 

 

 

「弱者にしては、面白いが、愚かな夢を語るものだな」

 

 

 生まれながらの王であり、自らが絶対の強者だと疑わない、帝 王華は死柄木 弔に向けて語りかける。

 だが、死柄木からの返答は、返答とは呼べぬものだった。

 

 

「脳無!!」

 

 

 襲いかかる巨体を物ともせず、たった半歩の動きで躱すと、人差し指と中指を立てた剣指を無常にもその脳無の目へと突き立てる。

 

 

「奪うという行為は、強者にのみ許された特権。貴様ら如きが調子に乗るな」

 

 

 躊躇のないその攻撃に、雄英高校の生徒であろう三人、また教師でありプロヒーローであるイレイザーヘッドすらも驚愕の顔を浮かべていた。

 そのまま指を引き抜くと、痛みを感じていないのか、尚も殴りかかってくる脳無の拳を首を捻るだけで避け、その拳の流れを利用して加速させるように肩を押し出し、脳無を前につんのめさせると、蹴りを入れ弾き飛ばす。

 そのまま脳無へと向かうわけでも、構えるでもなく、妖艶な笑みを浮かべながら、顎に手を当てて脳無を見つめ呟く。

 

 

「面白い玩具だな。痛みは感じない、それに再生か……人形…?いや、いくらかの屍とはいえ、動くのであれば人という枠ではあるのか」

 

「ッ!?──脳無!!コイツを、殺せ!!」

 

 

 そう呟いた王華に、目を見開き叫ぶ死柄木。

 先程よりも速いスピードで迫る脳無に向けて、肩をすくめながらも中指と人差し指を立て、剣指に気を込める王華。

 二人が交錯する寸前。細められた鮮血のような紅の目は、迫りくる脳無では無く、別の方向を向いていた。

 

 脳無に投げつけられたのだろうが、焦り故の暴投か、王華へも向かってくる紫色の球と、腰へと絡みつくピンクの舌。

 そして、脳無へと飛びかかる緑色。

 一番に厄介だと判断した紫色の球は、当たる前にまたもナニカで弾き飛ばし、腰へと巻きつく舌に嫌悪感を抱きつつも、その双眸は緑色を追い続けていた。

 

 

「SMASSH!!」

 

 

 身体から、拳から迸るスパーク。

 一度見聞きした事を忘れる事の無い王華は、一瞬でそれがある映像と重なった。

 幾度となく見た、平和の象徴と呼ばれる男と。

 

 

「フフフフフ……ハーーーハッハッハッハッハ!!!」

 

 

 その流れる金色の髪を乱雑に掻き上げ、高笑いを上げる。

 王華の纏う空気は一変し、肌を刺すようなその空気に、その場にいた全員の動きが一瞬止まった。

 

 

「悪いな蛙吹梅雨。緑谷出久に興味が湧いた」

 

 

 名前を呼ばれた梅雨は、自身を救った絶世の美女とも言える、女性が自分を知っている事に驚くも、彼女を逃す為に巻きつけた舌に、高速で指を数度衝き立てられた。

 

 

「ゲロッ!?じ、じだがじびれる…?」

 

 

 長い舌の呂律が回っていない。舌の点穴を衝き、痺れさせた王華はぬるりと舌から抜け出した。

 それと同時に、自身の、初めて成功した渾身の一撃が決まったのにも関わらず、まるで効いた様子のない脳無に唖然とした表情の緑谷と、その顔を見て笑う死柄木の姿。

 

 

「スマッシュって、オールマイトのフォロワーか?それよりも……」

 

 

 死柄木と、王華のみがこの場に現れた黒霧に気付いていた。

 

 

「まぁいいや、失敗したようだし…オマエは後だ。今日は君を殺して帰るとしよう」

 

 

 そして、死柄木すらも気づいていない存在に、王華は気づいていた。

 緑谷の顔に脳無の拳が当たる直前、トンッ。と、軽く緑谷の肩を押した。

 それだけで、脳無の拳は空を切る。

 

 

「時間切れだ」

 

 

 そう言うと、少しつまらなそうに腕を組む王華。

 言い終わると同時に、続々と人が集まってきた。

 

 

「……もう、帰っていいか?」

 

 

 いつの間にか、イレイザーヘッドの側に立つ黒髪で無精髭を生やした大柄な男。

 

 

「ねーねー、アンタ助けたら、俺卒業させてくんない?いや、はよ起きてよ?」

 

 

 倒れ伏す相澤の止血や、折れた腕や足の骨を固定していく嘘くさい笑顔が特徴の茶髪の男。

 

 

「王華ちゃん……何遊んでるの?ちゃんとトドメは刺してておかないと。悪の芽は根っこから絶たないと……弱いのほど、湧いてきやすいんだよ?」

 

 

 取り巻きのように、脳無の戦いを観戦していたヴィラン達の意識を刈りとりながら、まったく〜などと場違いなセリフを吐く桃色髪の女。

 

 見覚えのない、自分たちと同い年のような四人の男女に唖然とするA組の生徒たち。

 

 

 そして……

 

 

──バァァァァァン!!!

 

 

 響き渡る轟音。吹き飛ぶ巨大な扉。

 その扉より入ってきた乱入者は、圧倒的な存在感を放っていた。

 

 

 

 

『もう大丈夫』

 

 

 

 

『私 が 来 た!!』

 

 

 

 

 たったそれだけで、安堵の表情や嬉々とした表情を浮かべるA組の生徒たち、と想。

 想を除く三人の生徒は、オールマイトの顔を無表情で見ていた。

 

 

「まさか、君たちもいようとは……飯田少年から事のあらましを聞いた時はまさかと思ったが……」

 

 

 そのオールマイトの発言にも、伸は無表情のまま。

 当は介抱した相澤を寝かしたまま、オールマイトを無視して何処かへと移動を開始する。

 想はオールマイトへ一礼したのちに、またも残党を狩りにいく。

 最後に、腕を組んだままの王華が、代表したように答えた。

 

 

「平和の象徴とやらが"あの時と同じく"間に合わないと判断したまで。それに、こういった行為が、ヒーローと言うのでしょう?

 

 何かおかしな所が?」

 

 

 

 その余りに美しい所作と声、そして圧倒的なまでの存在感で、男女問わずその場にいる全員の注目を一身に浴びる。

 

 妖艶な微笑みを浮かべる王華は、天使にも、悪魔にも見えた。

 




うっかりヒロアカを読み直してしまい衝動書き。
四人のオリ主が出ますのでゴチャゴチャする気しかしてないです。
私は色んなところで同時に戦闘が起きてる、というのがすごく好きなんですが、それが凄く難しい……
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