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「帝くん、結果は残念だったけど、良く頑張ってくれたね!僕も嬉しいのさ!」
体育祭も終わり、代休であった一日休みを挟んでの、U組の教室……
ではなく、自室の玄関の扉を挟んで、外から声がする。
「…………」
教室に行く気はそもそもなかったので、精神を研ぎ澄まし、オールマイトを次こそ殺すべく瞑想していたのだが、その高い声に集中が途切れる。
瞑っていた両目を薄く開け、ドアの方を見たところで、またも声。
「オールマイトには、僕からも言っておいたのさ!でも、君はそんな事を気にする子じゃないこともわかっているよ!さぁ、教室に行くよ!」
もう何度目かの校長の声。
落ち込んでいるとでも思っているのか、はたまたあのレベルの試合であれば私の興味が失せたことに気づいているのか。
決して侮れない校長に仕方がないかと、私は扉を開けた。
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「よぉ、帝。久しぶりぃー担任様のお帰りだぞぉー」
そう言って手を挙げたのは、ダークスーツをだらしなく着込んだ、王華よりも濃い金色の髪をした丸眼鏡の男。
その軽薄さがその身から溢れ出ているようなニヤけた顔。
王華は無表情のまま、回れ右してすぐさま教室を出ようとした。
「待て待て!相変わらずだなー。ちょーつまんね。お帰りのチューくらいしても良い年だろ?顔はいーけど、中身クソなんだから、せめてそーいうサービスくらいしねーとモテねーぞ?ほらっ、こっち見ろお前」
軽口を叩きながらも、王華を左手で指差している男。
王華は、ピタリと動きが止まり、振り返ってその男を睨みつけている。
「貴様……さっさとこの能力を解除しろ。無駄に"容量"を使っていれば貴様も仕事に差し支えるんじゃないのか?」
「………すぅーーー」
眼鏡が反射し、その目は見えないが、担任だと言う男は大きく息を吸い込むと、両手で教壇をダンッと力強く叩いた。
「俺だってそーしてーよ馬鹿ヤロウ!!雄英から金もらって、上からの命令じゃなきゃ………そうじゃなかったらお前らなんかにかまってねーっつーの!!
お前みたいな高飛車で自信家で生意気なクソガキと!!」
ビシッと王華を右手で指刺すが、今来たばかりの至近距離に立っている王華の瑞々しい唇に指先が触れる。
その指を噛み千切らんと王華が口を開けると、音もなく指を引っ込めた。
「可愛い顔には棘がある〜。どころじゃねぇ、殺人衝動に駆られるサイコパス自称勇者小娘と!!」
「自称じゃないです。世界が、私を選んだのだから!選ばれし者の使命をそんな風に言われる覚えはありません!」
ビシリと突き出された指は真っ直ぐに想を捉えており、想は心外だと言わんばかりの顔で、プンスカと音が出そうなほど可愛らしく、抗議の声をあげる。
「お前はぁ!!お前はぁ………俺がゆーのも何だけど、テキトーでいいから真面目なフリでもしとけ。そんで、卒業したらそのギャンブル狂いも遺憾なく発揮して、俺にも遊ばせてくれ!俺の輝かしい未来は、お前にかかってるぞ!!」
「俺、せんせー大好きー!!」
当とは肩を組み、ルンタルンタと二人で踊っている。
しばらくして満足したのか、コホンと咳払いして当から離れると、どこからかハリセンを取り出し、もの凄い勢いで振り下ろした。
「こんのねぼすけさん!!俺が今おこりんぼ中でしょうがーー!!!白雪姫なのか!?ねぼすけじゃなくて自分は姫だとでも言いたいのか!?長期戦でラッキーキス待ちしてんじゃんねぇぞ!こんのムッツリがクラァ!!!」
スパァァァンと、小気味の良い音がして数秒が経過し、ゆっくりと座布団の上の小動物が身体を起こした。
「………んぁ?」
ツカツカと教壇に戻ると、ずれた眼鏡を直しながらもハァーっとため息を吐く。
「はい。俺の精神が安定するまで428秒かかりました。どーしてくれるんですか?」
「貴様の情緒が私は心配だよ」
突然のキャラチェンジ。相澤でも真似ているのか、完全に一人で暴れていただけなので、どーもこーもないのだが。
登場からフルスロットルで場を荒らし続ける担任に王華はツッコミ、もそもそと眼を擦っていた伸はようやく意識が覚醒して来たよう。
「…ん、あ、おはよう…?」
「うん、おはよう。
っじゃねーーーよ!俺と同い年みたいなツラして、 おはよう? じゃねーーよ!!高校の臨時教師だってーから、ちょっとウキウキワクワクしてた俺の心を、俺の心を踏み躙りやがって!!テメェら全員────」
王華は暴れ狂う担任を押さえつけるべく、音もなく動き、背後から手刀を振り下ろそうとしたところで、肩越しにこちらを見る、その眼鏡の奥の、エメラルドグリーンの瞳と目が合った。
『動くな』
「グッ……!」
その左手の人差し指は王華を指差しており、その言葉に従って、王華はビタリと止まっていた。
「おーおープルプル出来るだけ大したもんだ。お前また強くなってんのな。先生は嬉しいぞ。褒めてやるから、お礼参りとか、やめてね?ダメ。絶対。だぞ?」
軽口を延々と叩いているが、王華の身体が震えるたびに指差している左人差し指の爪は、バキバキと音を立てて、ヒビが入っていた。
これこそがこの男の厄介な、いや、厄介すぎる個性。
【指図】
指の数だけ指図できる相手を登録でき、指差しによって指図ができる。
指によって言葉で縛る強さが違い、自身よりも力の強いものであれば抗われた際にはそれ相応のダメージが返ってくるぞ!
心操と違って、指図された相手には意識はあるので、王華は悪鬼のような表情を浮かべている。
「ま、今日は確認に来ただけだしー。次に来るのはいつになるかわかんねーけど、とりあえず契約更新っと。中指使うの久々だな〜。光栄に思ってね!」
王華に向けて、ニヤニヤと笑いながら、天に中指を突き立てるという、教師にあるまじき行為。
そのまま、その中指を王華の額に押し当てている。
「しょ〜かく〜」
と軽く言いながらも、王華の拘束は解除された。
苦々しい表情を浮かべつつも、王華は椅子へと腰掛ける。
今はまだ、この男にも勝てない。
しかも、今回でより強制力の強い指へと変えられてしまったのは悪手だったと舌打ちをする。
「はいっ!というわけで、あれだ……あれ、なんだっけ?」
「コードネームでしょ!まったく、変わんないわねーあんた」
「おー睡こそ、相変わらず良い女してんね」
ピシャリと、横開きの教室のドアを力強く開けて入って来たのは、18禁ヒーローでお馴染みのミッドナイトこと、
なぜか一人だけスタンディングオベーションしている当以外は、それぞれ興味が無さそうにぼーっとしている。
「A組とはすごい差ね。もしも貴方達が今後世に出るとしたら、これがそのまま名前になってもおかしくないのよ?」
「俺のは睡さんが、決めてくれませんか?睡さんに決めてもらえたのなら俺、一生背負って行きますよ」
立ち上がり、真面目な表情を作り、左胸に手を当てて言う当。
「いきなり名前で呼ぶのはやめなさい。あと、自分で考えるから良いんでしょ」
「18禁ヒーロー様だぞ!俺なら全然18禁的な展開があるが、君たちガキンチョは相手にせんのだよ!ねっ!睡!!」
ガキに興味はないと言わんばかりに一蹴され、当は唇を尖らせながらも、ドカリと椅子に座る。
ミッドナイトと肩を組み、そんな当に見せつけるようにして笑っている担任である男。
「あるわけないでしょ!!しかも生徒と同じ目線でどーすんよの!全く……ほんと変わんないわね。
「はっはっは。男は変わっちゃいかんのですよ。俺は変わらず、クソどもに中指おっ立てて生きてるんで」
「オイ。ついさっき私に中指立てていただろう。誰がクソだ。殺されたいのか?」
「あんた生徒に何してんのよ!?」
U組担任兼、雄英高校臨時教師、
それこそヒーロー名ではなく、下の名前で呼び合う二人の関係を、ニヤニヤとしながら想像する当。
知らぬ間にクソどもに仲間入りしていた王華はまたも怒り心頭であった。
「まーまー。そんな昔の話、忘れちまったよ。てか、俺のヒーロー名は睡につけてもらった気がすんだけど」
「あんたがいい加減決めないから、ってそうじゃなくて、今は生徒のよ!ほら、10分で締め切るわよ!そしたら発表!いいわね!!」
ちょっと照れたようなミッドナイトに、ニヤニヤの止まらない当は置いておいて、他の三人は三十路の男女のやりとりを見せられて、真顔になっていた。
──
「うぃー。もーいいか?めんどいから、今書いてるやつでいいよ。はい決定!お疲れ様でしたー。じゃあまた来月〜」
やるきのない令親の言葉に微妙な顔をする四人とミッドナイト。
なんでこんなの雇ったんだと思うも、この四人を抑え込める個性を持つため仕方がない。
いろんな生徒がいるんだから、いろんな教師がいてもいいだろ?
というのが令親の言い分であった。
ミッドナイトはこの男は放っておいて、と前置きして想から発表をするように促す。
想はうーんと唸りながらも、教壇の前に立つ。
「私は私でやっていくので、ヒーロー名は必要ないと思いますけど……まぁ、必要なのであれば、これですね」
胸を張って、誇らしげにひっくり返した厚紙には、ろくに教育を受けていない、小学生のような想の字が四つ、枠いっぱいに大きく書かれていた。
それを見て、全員が微妙な顔を浮かべている。
そこに書いてあったヒーロー名は、
【ああああ】
「私が一番使っていた、名前です」
そう言って少しだけ照れたような顔をする想。
そんな至って真面目な想に対し、なんとも言えない、RTAでもやっているのかと言いたくなるような名前だと、他の面々は絶句している。
「え?これ?マジ?てかそもそもサイコパスじゃなかったっけ?カニバリズムとかのがいーんじゃね?」
「ミッドナイト。コイツは本当に教員免許を取得したのか?」
「帝さん、私も今同じこと思っていたわ。はぁ、亡女さん、ほかにはないかしら?大事な名前なら、それは取っておきましょう」
とんでもない事を平気で言い放つ令親は今度こそ放っておく。
ミッドナイトは想に言い終わった後に、ボソリと一生と呟いたのは仕方がない事だと思う。
想はうーんうーんと唸りながら、じゃあ、と書き直して出したのが、
【ユーシャ】
「二番目に使ってた名前です。ちなみに三番目はエニクスです」
またも、紙いっぱいに書かれた大きな想の文字を見つめている一同。
「亡女さんがいいならいいけど、それなら、『ユー』とかのほうがいいんじゃないかしら?ほら、勇者はひけらかすものじゃないんでしょ?」
半ば投げやりなミッドナイトの提案に想はじゃあ【ユー】でいいですと、ペコリとお辞儀をして席に戻っていった。
気をとりなおし、次は伸の番だが、机に置かれているのは、思った通り白紙の紙。【シン】でいいと言って最速で終了した。
A組の一喜一憂や、悩みながらも考えている様子を見てきたミッドナイトは少しだけ浮かない顔をして、次は王華に発表するように言う。
当はまだうんうん唸りながら紙と睨めっこをしていたためだ。
「私も特にない。ヒーローになる気もないしな」
教壇に行くこともせず、言い放つ王華に、黙っていた令親が声をかける。
「おーかだから、オークでいいじゃん。ほらお前、ゴリラみてぇに力強いし」
「……余程、死にたいと見える」
闘気が溢れ出す王華に、ミッドナイトが待ったをかけた。
既に王華は独特の足運びで、高速で動きまわり、その狭い教室の中に三人の王華が残像のように出現し、令親へと迫っているところであった。
「貴方達、毎度こうなの?はぁ。じゃあ、渾名は帝王でしたっけ?シーザーとかはどう?」
「渾名ではないし、それは響きが好かん」
考えない癖に、可愛くない生徒。
とミッドナイトは思うも、同時にここへ来る前の彼女と比べれば、非常に口数も増えたし、自分の考えを話すようになった方か。
体育祭での一件でも、まさかレクリエーションにまで出てくるとは思わなかったし、塩崎も、彼女に対して絶対の信頼をしているようにも見てとれた。
この子も、変わり始めているのかと、柔らかな笑みを浮かべる。
ミッドナイトは、もう少し一緒に考えてあげようと言う気持ちになっていた。
じゃあ、大トリである俺の出番かとブツブツ言いながら立ち上がる当。
「俺を一言で現す言葉、そしてモテ要素も考えると……これだぁ!!!」
ツカツカと口上を述べながら教壇に立ち、クルリと振り返って自身のコードネームを見せる。
【イケメンヒーロー 大富豪】
「無しね。そー言うんじゃないのよ。爆豪くんと同レベル」
アホを見る目を令親は向けており、想は王華にああいう名前もアリなのかと聞いているが、王華はアイツがいいならいいだろうと、興味の無い様子。
「くぅ〜………じゃあ、コレか!!」
【金持ちヒーロー イケメン】
「そーゆーんじゃないのよ」
何度撃沈しても似たようなものを出し続け、その後も当分の間、当の一人発表が続いていた。
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無駄に長くなっちゃったけど、これで全員決まりね。
職場体験だけど、帝さんと糸宿くんには、三回戦まで残っていないにも関わらずいくつか指名が来てたけど、今回は残念ながらお断りして、こちらで指定させてもらうわ。
令親のとこで職場体験よ。
あ、もうアンタんとこに許可は取ってるから、よろしくね。
爽やかに令親に言い切り、ツカツカとミッドナイトがそのヒールの音を甲高く廊下に響かせて戻って行き、その音も止んでしばらくしたころ。
ずっと俯いていた令親がまたも机を力強く叩く。
「マッジかよ……まだコイツらといなきゃいけねーのかよ……
無理ーーーーーー!!!」
今度は、勢いよく顔を上げた令親の魂の叫びが建物内に響き渡っていた。
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「はぁーーー。なんでこんな事に……もーいーんじゃね?帰れよお前ら」
「はぇーーー。でっかいビル。先生凄いとこで働いてたんですねー」
コードネームを決めた翌日、この子たちが逃げ出さないように、私が引率の元、U組は令親の勤務先である、そこそこな数のヒーローと、ヒーローではない一般人が多く所属する大型事務所『SCCAT』通称スキャットへとやってきた。
Special(特別)
Calamity(災害)
Correspondence(対応)
Team(チーム)
の略称である、SCCAT。
完全なヒーロー事務所というわけではないので、登録としては民間企業でありながら、ありとあらゆる災害に対し、国からの命令や独自の情報網で対策、対応にあたる、警察とも繋がりのある組織。
行政機関よりも、迅速に行動に移せるのが強みであり、活躍もヒーロー名ではなく、SCCATとしての手柄として取り上げるよう徹底しているので、名前や顔の売れていない彼らは裏にも溶け込みやすく、仕事は多く舞いこんできている。
その中でも、やり手であり、世間的には無名でも、ヒーロー達の中では顔の広い令親は正直忙しい。でも、職場体験なんて、U組の生徒たちでは他のヒーロー事務所にはお願いできないし、あなたに頼るしかない。
体育祭で見て、話をしてみて、この子たちも変わり始めている事もわかった。だから、体育祭の時と違って、今回は職場体験をさせるという事に、私も反対はしなかった。
「でっけーっつっても、ほとんどハリボテみてーなもんだけどな」
亡女さんの漏らした感想に答えながらも、ポケットに手を突っ込んだままにビルへと入っていく令親。
いえ、外に出たら、ヒーロー名で呼ばないとね。
「じゃあ、この子達のこと、頼んだわよ。エルネスト」
「へーーい」
私の言葉に対し、彼は振り向くことなく手を上げて答えた。
本当はいつだって真剣に、真面目に物事を考えて、動いているあなただから。
この子たちのこと、上手く導いてあげてね。