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「アーリィ……お前は……」
炎と悲鳴に包まれる、さっきまで街だったとは思えない光景の中心部に向けて、ミルコは呟いた。
「なんだ、遅かったじゃないか。コイツは随分と強敵であったぞ、ミルコ」
振り向いた鬼は笑顔を浮かべている。
そのボロボロの姿を、自分と重ねて見ていたミルコ。
あぁ。あの時の私は、こんな顔をしていたのかもしれない。
そう思い、昔を思い出していた。
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チームアップで挑むべき、凶悪な敵集団。
当時、駆け出しながらも揺るぎない自信を持って挑んだ私は、ボロボロになりながらも辛勝した。
達成感に包まれて、チームアップだの、部隊が揃うまで待てとうるさい、聞いたこともなかったエルネストとか言う民間企業のお抱えヒーローに、私はやってやったぞと嫌味の一つでも言ってやろうと、俯いた金髪丸眼鏡に近づいた。
「遅いぞ弱虫。私ひとりでも──ッ!!」
だが、待っていたのは、どんな敵の攻撃よりも芯に響く、その拳だった。
「オイコラクソビッチ、見るからに頭悪そうなツラだが、話を理解できる脳味噌は入ってるか?そもそも俺の話聞いてたか?それとも、その無駄にデケーその耳が飾りなんか?だったら、俺が引きちぎってやるよ!!」
訳がわからなかった。
困惑している私の両耳を片手でまとめて掴み、本当に引き抜くつもりかと思うような力で引っ張っている。この私が、振り払う事も出来ないほどの力で。
そして、メリメリと言う嫌な音が耳から直接聞こえ出し、根本から血が出るほど傷んだところで、動きが止まった。
「…は、なせ──ッ!!」
なんとか声を振り絞り、ゆっくりと瞼をあけると、眼鏡越しで緑色に妖しく輝く、まるで宝石のような瞳に覗き込まれており、その迫力に私は何も言えなかった。
「なんで俺らを待たなかった?テメェの気持ちで勝手してんじゃねぇよ。なんだ得意げな顔しやがってよ。勝ったのがそんなに気持ちいいか?だったらヒーローなんかやめて、一人でオナニーでもしてろや」
何をこんなに怒っているのか理解できなかった。
敵を倒したのは私なのに……
「あん?何言ってっかわかんねーってか?じゃあ、未来のためだ。クソ迷惑な英雄気取りのガキは、今ここで、俺が殺してやる」
余りの怒気と殺意に、私は思わず涙を流していた。なぜかと聞かれると、わからないと答えたと思う。
怒られた事などいくらでもあるし、鰐淵のおっさんも鬼のように怖かったが、このエルネストという奴は輪をかけて、閻魔のように恐ろしい。
今もそうだが、一歩間違えたら死ぬ場面は何度かあった。だが、そんなものが何でもないほどに、ただただ怖かったのだ。
凄みがあるとか、そんなのじゃない。
あの眼を見た瞬間、本当に殺されたと錯覚した程だった。
これは、今から大分後での話だが、本当に殺す気だったからと、私が泣いていた事をヘラヘラとネタにして言うエルネストを思い出す。
そういえば、この日からだったっけ。
令親の言葉で、と言うのは不本意だが、私が本当の意味でヒーローになれたのは。
「周りを見ろ。景色を見ろ。自分を見ろ。
人なんか簡単に死ぬ。
弱い人ほどそう思ってる」
周りは……ぐちゃぐちゃだ。無事な建物なんて無いほどに、壮絶な戦いだった。被害に構ってなどいられなかった。
景色は……ここはビル群だったはずだか、背の高い建物などなく、火の手も上がってはいるが、遠くで消火活動が繰り広げられていた。戦いに夢中で、敵を倒す事に必死で、見てもいなかった。
私は、言うまでもなくボロボロだ……
「だから、みんな頑張って今日を生きてんだ。
弱かろーがなんだろーが、必死こいて生きてんだよ。
今回は俺らを待つのがベストだっただろうが。
テメェのエゴに周りを巻き込むんじゃねぇよ。
テメェの勝手で死ぬときゃ一人で死ね。
もしもお前がヒーローを名乗るなら、その時テメェにしか出来ねぇ事を為して死ね。
それが今じゃねぇことくらい、わかんだろ?
もし、それでもわかんねぇなら、俺が今、この手で殺してやる。
わかったかコラ?」
何て答えたかは、覚えてない。
殴られた頬の痛みと熱を、目から流れる液体が冷やしてくれたのが心地よかった事だけは覚えてる。
その日から、毎日死ぬ気で、頑張ると決めた。
ヒーロー、ミルコとして。
後で知った事だが、エルネストが被害想定域内の住民の避難や、邪魔な瓦礫の破壊。陥没した道路に瓦礫を詰めたりと、避難道路だけは死守していたそう。その上で、私が撃ち漏らした敵を既に被害が発生している場所で仕留めていたと。遅れて到着した部隊の連中はその避難誘導と、安全地帯の確保に努めていた。
私は、あんなに学校で習った事を、何一つ実践できていなかった。
あの日、エルネストに、令親に言われた事は私の芯で生きている。
次に会った時の落差と仕打ちに驚愕と憤慨したが……
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「………何してんだ?」
「敵を倒した。それだけの事だろうに、なんだその顔は?続きでもやりたいのか?」
『……か…もう…………から』
再度問いかけるミルコの顔は、怒っているのか悲しんでいるのか。表情からだけでは読み取れない。
さっきから、いつも聞こえる幻聴がやけにハッキリ聞こえてきている気がするが、こっちの声もうまく聞き取る事ができない上に、感情がわからない。
だから、イライラする。
「やらねぇ。やるとするなら、お前が周りを見て何も思わない時だけだ。そん時は、私が死んでも殺す。ヒーローとして」
殺すだと?
折角人が気持ちいい感触に浸っているというのに。
無粋な兎如きが何を言っている。
周りがどうした、崩れた街が、聞こえる悲鳴がなんだと言うのだ。
コイツが起こしたであろう被害に比べれば随分とマシだろう。
私の腕を壊し、頭に受けた一撃は恐らく頭蓋骨にヒビが入っているだろう。全開に気を込めたにも関わらず、ミルコの跳び膝すらも押し退けた額は割られ、腫れ上がっている。全身に受けた一発一発がオールマイト並に重く、強い。ハッキリ言って、一歩間違えれば、私が負けていた。勝てたのは、大した知能を有していなかったと言うところが大きい。
それ程の強敵だった。そんな凶悪な敵を、ヒーローとしてではないが、葬った私に対する態度ではないだろうと、消えたはずの苛立ちが増してくる。
ただ、ミルコはなぜそんな顔をしているんだ?
怒っているのではなく、悲しそうな、そんな顔を。
そんな表情は、今までで一度だけ、見た事がある。
私が人を初めて殺した時の、肉親を殺したあの時の、燈の顔……
「周りがどうしたと言うのだ…」
「わかってねぇか……なら、蹴り飛ばしてわからせるしかねェなぁ!!」
ミルコから放たれる蹴りを右腕で受ける。
もういい。
どいつもこいつも、この世界も必要ない。
私はずっと、一人でいい。
そもそもずっと、一人だったのだから。
「チィ!!」
だが、よりダメージを受けたのはミルコであった。
王華の研ぎ澄まされた、圧倒的な握力を誇る五指が、脛の肉を削いでいたのだ。
「貴様も私を殺すと言うのか。世界が私を、私たちを嫌うように!!」
先程の脳無を葬った時のように、王華はその指を大きく広げてミルコへと襲いかかる。
「はぁ!?何言ってんだオマエ!?」
『お……この人……う』
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!!」
殺意の衝動に駆られている王華の攻撃は、全てが部位破壊を狙った殺人技。
こめかみに突き刺さる足先は、深く刺さりきる前に無理矢理軌道を変え躱す。躊躇なく眼球へと迫る指は王華の軸足を刈り上げ躱したが、躱した方向に投げ出されていた左腕に、ダメージこそないが頬を打たれる。
止まる事を知らない王華。
その動かすだけで激痛が疾るであろう左腕すらも使い、五体すべてを使って、ミルコを破壊せんと挑むその姿は、悪鬼羅刹のようであった。
「痛かねぇし、もう動くな!このままじゃ死ぬぞアーリィ!!」
「どうせ貴様もそうなのだろう!?私を否定し、燈を否定する!!自己の欲に溺れる敵!他人が生きていようが、周りが死のうが興味もない連中!そんな者共を救うと、自己満足に酔った英雄気どり!!そんな奴らばかりのこの世を変えようとした燈を!私を!世界が否定したのだ!!」
ミルコの攻撃は確実に王華に入っている。
意識を奪う程の一撃も確かに入っている。
だが、王華は止まらない。
もはや無事な箇所など存在しない程に、常人であれば痛みに耐えきれず死んでしまう程の激痛に襲われながらも、王華は技を繰り出している。
「なんの話をしてんのか知らねぇが、私には、オマエが言うこと聞いてくれない周りにキレてる、"寂しがっている"だけのガキにしか見えねぇぞ!!もっと周りを見ろ!」
かつて自分をヒーローにしてくれた男の言葉も借りて、王華に言葉をかけるミルコ。
強い言葉とは裏腹に、どんどんと王華の動きは鈍くなっている。
「五月蝿いと言っている!!寂しいなどと…じゃあ全てに嫌われ、唯一の味方すらも失った私はどうすれば良いと言うのだ!!?」
「じゃあ私を見ろ!!私は、お前のこと好きだぞ!!」
「………ッ!」
『……おうか……違う……私たちにとっての敵は……』
ミルコの言葉で、押下の動きがピタリと止まり、一筋の涙が王華の頬を伝った。
今の声……ミルコじゃない。
脳に響く声が、さっきよりもハッキリと聞こえる。
でも、内側からじゃ無い。目の前から聞こえてくる。
なんだこれは……?
なんなのだこの液体は。
目から溢れ出てくるこの水色のものは。
それに、この声の持主は…その顔は……
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあ!!!!!」
咆哮を、奇声のような悲鳴を上げて蹲る。
縦横無尽に放たれる王華の気の暴走は地面を破壊し、瓦礫を粉砕し、ミルコすらも吹き飛ばさんと襲いかかる。
「ここで暴走かよ!!マジで殺るしかないのか……
──なんだッ!!?」
こうなってしまえば、王華であった者を殺すしかないのかと、奥歯を噛み締めるミルコの前に、青白いオーラが立ち昇っていた。
それは、人の姿のようで、王華を殺さんとするミルコに首を振っているように見えた。
「違う違う違う違う違う違う違う!!
燈はもういない!!消えろ!!私の弱い心が生み出す幻よ!!!
私は強い!私は王だ!!!幻よ!貴様の言うそれは二人の理想!二人いてこその輝かしい夢だ!!孤独な王は世界を壊すだけでいいのだ!!すべてを滅ぼし、ゴミだめの中心で一人歓喜の声を上げよう!!そうして初めて、私も燈の元へといける!!
だから、私のやるべき事は、この世界への復讐だ!!!私から燈を奪ったこの世界を、一度ゼロにするのだ!!」
『もー、違うでしょ?王華は一人じゃないよ。ずっと一緒にいるってば』
ハッキリと聞こえたその声と、ハッキリと見えるその姿に、あの日からおさまることの無かった苛立ちと、ずっと頭に霞みがかっていた、黒い何かが晴れた。
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アーリィの暴走。
昔の事は知らないが、相当なものを抱えて生きているのはすぐにわかった。でなければ、あの年齢であれ程の力を有するはずもないし、恨みや憎しみといった感情に支配されるはずも無い。
正直、相当な強さなのは確かだが、本気でやるならまだ勝てる。だが、暴走状態となると、加減して相手できる程の差はない。本気の一撃で、頭を蹴り飛ばすしか無いと思った時だった。
アーリィの個性は知らないが、衝撃を繰り出す程のあの並外れたパワー。恐らくはオールマイトと似たような、身体強化の個性だろうと思っていた。
だが、今目の前の光景はなんだ?
空のような、薄い水色のベールが、狂ったように叫び続けるアーリィに纏わりついている。
それは次第に形を変えていき、やがて、少女の姿へと変わった。
その瞬間、嵐のように荒れ狂う、アーリィが発していた衝撃波はピタリと止んだ。
「……あ、かり……」
血に塗れた紅い鬼の涙が、その頬を徐々に人の色へと戻していく。
誰かの名を呟き、今は膝をついたまま、溢れる程に涙を流している。
辺りに充満していた黄金の風は鳴りを潜め、今は静寂に包まれていた。
既に、アーリィの暴走は治ったようだった。
『もー。ようやくだね。ずーっと側にいたのに、王華全然気づいてくれないんだもん』
幻聴じゃない。
あの全身が水色の、まるで焔のように揺らめく少女が、言葉を発したのだ。
いったいあれはなんだ?
あれがアーリィの個性の正体なのかと勘繰っていると、水色の少女は私にも語りかける。
『ミルコさん。ありがとう。あ、王華が泣いてたのは他の人には内緒ですよ?私しか見た事なかったのに、他の人に知られたって思うとまた暴れちゃうから』
まだ中学生くらいであろうか?
水の精霊のようなその神秘的な姿とは打って変わって、幼さを残す可愛らしい声が脳内に深く浸透する。
その声と姿は、不思議と私の心すらも落ち着かせてくれた。
「お前は、アーリィのなんだ?」
『私は王華の、家族で相棒です!』
ニコリと微笑むその姿に、なぜか安心させられた。この不思議な少女がいれば、きっとアーリィは大丈夫だと。
王華<ミルコ=絶対殺すウーマン王華
って感じです。
トラウマである中指に言われているので試していたと言うのもあり、だんだんと本気になってきたところで邪魔が入った感じです。
ハイエンド5体と数分であれやりあえるミルコ姉さんの強さは偉大。