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「うううーーーん!」
窓から差し込む日の光で目覚める。
寝転がったまま頭の上で手が虚空を彷徨っている。
普段であれば枕元にも"足元"にも時計を置いているので、時間を確認できるのだが、今回は、何ににも触れることはない。
寝相が悪いことに定評のある彼女は、どう寝ていたのかわからないが、寝ながらに180度回転しており、今は本来であれば足元である位置を弄っていた。
何度手を振り続けても一向に何かに触れることもないので、気怠げに体を起こし、驚いた。
「あれぇー?……どこ、ここ?」
見覚えの無い部屋で目が覚めた想は、目をごしごしと擦り、見慣れた自分の格好で、今の状況を理解した。
「まーた誰かが運んでくれたのかー。でも、ここは病院じゃ無いしなぁー」
テロテロの入院着のまま、狭い部屋の中を見回すと、デスクの上に、ホテルのメモ帳が一枚ちぎって投げてあるのが目に入る。
書き殴られた中指の字はものすごく読みづらい。
画面でキッチリしたフォントで表示される文字に慣れている想はなんとかそれを解読しようと寝ぼけ眼を凝らしてよく見てみる。
【 今日は12:00に昨日のところで。飯食いたかったら1階でルームキー出しといて 】
その置き手紙を読み終わった想は、ニンマリとしていた。
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時刻は朝の6時前。
「ふわーーーー!朝のお風呂が一番!!」
テロテロの入院着を脱ぎ捨てて、ホテルの広いとは言えないバスタブにつかる。
たまにブクブクと、お湯につけた口から息を吐き出し遊んだのちに、ようやくお風呂から出る。
乱暴に身体をバスタオルでゴシゴシと拭きながらも、想はまたもニンマリとしており、その視線はクローゼットへと向いていた。
「ふ ふ ふんふんふんふーん♪ ふふふふーんふーーんー♪」
上機嫌で街を歩く想。
その理由は二つ。
まずは勇者のコスチュームが嬉しいという事。
もう一つは、雄英高校の外を自由に出歩けるのは久々の事だったからだ。
鼻歌まじりに、まだ朝の喧騒前の街を歩いている。
知らない街。知らない道。知らない人。
そう言った事に人一倍興奮を覚える想はスキップでもせんという勢いでブンブンと腕を振り、キョロキョロと周りを見ながら街を歩いていた。
「あ……!!」
「ん?────!!」
通行人の間の抜けた声。だがどことなく、その声には悲壮感があるように思えた。
その女性の視線の先に目をやった瞬間、想は地を這っているのではないかと言うほどに低い姿勢で駆ける。
その速度は目にも止まらぬ程に速い。
瞬く間に目的の場所へと到着し、そこに居た小さな人影を片手でふわりと持ち上げ胸に抱き、迫るバスを跳躍してギリギリで回避する。
「あぶなかったねー大丈夫だった?」
「う……」
泣きそうな顔をしている男の子をゆっくりと下ろしたところで、想は決して多くはないが、周りにいた人々に囲まれた。
「え?なになに?」
咄嗟に大剣を生成するも、悪の波動は感じない。
周りを囲む人々はみんなニコニコとしていたり、興奮したような顔をしている。
「すごいなねーちゃん!また随分とわかいヒーローだなー!」
「本当に、ありがとうございました……!」
仕事に向かうのか、仕事帰りなのか。どちらとも取れる小汚い格好のおじさんはバシバシと背を叩く。
助けた男の子の母親なのだろう、髪の長い女性は深々と頭を下げてお礼を言ってくれた。
他にも数人の人からエライだのスゴイだのと言われ、最後に。
「あ…ありがとう、勇者のおねーちゃん」
そう言った、さっきまで泣きそうな顔をしていた男の子は照れたようにそう言った。
言われた想は、頬を赤く染め、口元はだらしなく緩み、誰がどう見ても嬉しそうな顔をしている。
「うんんー!いーのいーの!これも勇者の使命だからねっ!それじゃあ気をつけてねー」
そうして、わずか数人ではあるが、人だかりから抜け出し、散歩の続きを始める。
大きなショーウィンドウがあるお店の前を歩くが、今は開店前。薄暗い店内はぼやけて映るだけで、反射で映る自分の姿が良く見えた。
「ふふふふふ」
いやいやいや、私が勇者だってわかっちゃうんだなー。
私も、ようやく世間に認められたかな。
確かに、だいたいの勇者は15,6歳だし、私も、ついに!!
上機嫌はとどまることを知らず、まるで大きな鏡のように自身の全身を映し出す、ショーウィンドウのガラスの前でくるりと一回転し、ニヤけている。
と、それを見ているものが一人いた。
「あ!もしかして!!U組の」
「ふぇ?」
想は突然の声に僅かに驚き、少し恥ずかしそうな顔をしている。
「ごめん、見たらあかんやつやった?」
「うんん!へーき!確か、流星群の子?」
マントのマフラーになっているような部分を押し上げて赤くなっている頬を隠して、答える。
体育祭の時、爆発の人相手に瓦礫の雨を降らしていた女の子だと言う事はまだ記憶に新しく、すんなりと出てきた。
「いなくなってたからどーしたのかと思ったけど、見てくれてたんだ。恥ずかしながら負けてしまいましたが」
「そーそー。教室でね!あっ、私亡女想。えっとー、ごめんね。名前覚えてなくて」
タハーと頭に手を置く麗日と、同じように頭に手を置いて名前を知らないことを告白する想。
「全然!麗日お茶子です!亡女さんも、職場体験?」
「麗日さん!よしっ!覚えた!そーだよー!でも、今日も鰐退治だったらやだなー」
「鰐退治!?」
意外と食い付いてくる麗日との話に夢中になる。
梅雨の時と同じく、話したことのない人との会話は楽しいし、麗日にもまた、正義の心を感じる。
話しているうちに、ヒーロー名の話になっていた。
「ウラビティかぁー良いねー!私も本当はああああが良かったんだけどね──」
「ブフーッ!ああああて!」
「えー本当はそっちが良かったんだよ?ユーって、ミッドナイト先生が変えちゃったやつだし」
轟くんはなんか警戒してる猫みたいやったから気になってたけど、梅雨ちゃんが一度話してた通り、全然良い人やん!可愛いし……
亡女の態度にそんな事を思いながら、さっきの嬉しそうな顔を思い出す。
「思い入れがあるんやね。でも、コスチュームって良いよねー私はパツンパツンやったけど……やっぱり着るとテンション上がる!」
おもわず吹き出してしまったことに謝りつつ、話題を変えることにする。
「えー見せて見せて!!」
「今は着替えられんよ!」
「じゃあ明日!またこの時間に!約束!」
一方的な約束を押し付けられた麗日であったが、その想の迫力に断りきれず、苦笑いを浮かべてうなづいた。
「うんーちょっと恥ずかしいんやけど…今日はそろそろ行かなあかんから、また明日!」
「はーい!また明日〜!!」
ぶんぶんと手を振る想に、手を振り返してガンヘッドさんの事務所へと向かう。なんとなく、しばらく歩いた後に振り返ると、小さく見える想はいまだぶんぶんと大きく手を振っており、思わず笑みが溢れた。
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打って変わって、昨日と同じ、大きなビルの、大きな広間。
そこで、想はボロクズのように地に倒れ伏していた。
「じゃけぇ……いくら治る言うても死んだら終わりじゃ言うとるじゃろうが!!ちったぁ守りもせんかいダボが!!」
想と伸を交互に相手にしているクロコは、伸をボロ雑巾にした後、攻撃一辺倒の想に怒鳴り散らす。
常にガンガン行こうぜスタイルの想は、防御ということをしない。
戦闘の度に、決まって一番槍となり、最も多くの敵を屠る想ではあるが、最も重傷を負い動けなくなるのも決まって想であった。
そんな想に多少なりとも危機回避能力を身につけさせようとしているのだが、何を言っても想は変わらない。腕を犠牲に攻撃をしかけ、潰されながらでも剣を振るうことをやめない。瀕死であろうが、ガンガン行こうぜなのだ。
今の状況は、両腕は焼け焦げ、殴られた、と言うよりクロコの巨大な腕に潰された身体も、もう限界だと悲鳴をあげている。
死んだら終わり?
そんなわけない。
クリアするまで終わりはこない。
死んでもロードだ。
ロードさえすれば、大丈夫。
死んだところで、私はまた目覚めるんだ。
だって、勇者なのだから。
「死なない……私は死なない……オマエが死ネェェェェエエエ!!!」
血を吐き、動くことのない腕をダラリと垂らしたまま、その身体に電撃を纏いクロコへと突貫した。
………
「あれぇー?……どこ、ここ?」
起きてまず感じるのは固い床の感触で目が覚めた想は、目をごしごしと擦り首だけ起こして辺りを見まわす。見覚えの無い部屋ではあるが、着慣れた服の感触で、今の状況を理解した。
「あー…昨日の部屋か。あっ!」
慌てて時計を覗き込むと、時刻は朝の6時過ぎ。
ホッと胸を撫で下ろし、テロテロの入院着を脱ぎ散らかしながら、バスルームへと向かった。
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「あ!」
遠目にピンクと白を基調とした、ヒーローのコスチュームを着た人が見える。手にはヘルメットを持っており、剥き出しの、優しげな丸い顔で待ち人だと言う事はわかった。
「あーーー!かっこいーーー!」
「そんな見んといてー。パツンパツンやから…」
たしかにパツパツで、身体にピッタリとフィットしたコスチュームは、ボディラインがはっきりと見てとれる。モジモジと太腿を擦るように、両腕は胸を隠すようにして恥ずかしがる麗日であった。
「えーいいじゃんいいじゃん!麗日さんに似合ってるし!」
「丸っこいのがわかるからやなんやけど……亡女さんみたいにシュッとした顔が羨ましい」
「うんー?麗日さんは丸くて可愛いから良いんだよー。ほらっ!」
そう言って想は麗日の肩を抱き、その大きなショーウィンドウのガラスへと体を向ける。
「ねっ!可愛い!!」
そこに映っていたのは、少し赤い顔をした自分と、晴れやかな笑顔の想。少し気恥ずかしいが、心から言っているのはすぐにわかって、余計に照れる。
えへへと言って笑う想としばらく話していたが、そろそろ良い時間な事に気づいた。
まるで心を見透かされたのか、想はハッとした顔をして麗日の顔を覗き込んだ。
「ありゃ。もう時間かなー?」
「そうだね、あっ!明日は、スーツ着てけぇへんから!」
麗日も、次の想の言葉がわかったようで先に釘を刺しておくと、唇を尖らせながらも、どこか柔らかい顔した想は、昨日と同じ、別れの言葉を口にした。
「ちぇー。それじゃ、また明日ねお茶子ちゃん」
「うん。また明日。想ちゃん」
その後も職場体験中は毎日のように会い、いつも「また明日」と言って別れる二人だった。
文字数少なめですが、どのくらいがちょうど良いのか未だにわからない……