敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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アタリとハズレ

──────

 

 

 

 

 昼も正午間近。

 少し早めの昼食にと、OLやサラリーマンがせかせかと早歩きをしている中、ポケットに手を突っ込んだまま、プラプラとのんびり歩いている。

 昨日案内された部屋を出て、言われた場所へと向かっていた。

 今日は私服でいいとの事だったので、言われていた時間から3時間以上遅れて着いたそこは、昨日とは打って変わって小さなオフィスであった。

 あの巨体が入る気はしないがと、昨日の鰐淵の姿を思い出し、不審げに扉を開けて中に入る。

 

 

「あれ?俺だけ?」

 

「おぉ、お前は俺かなぁって思ってさ。どーだ?ガッコ楽しいか?」

 

 

 そこに居たのは、ソファーに深く座りすぎて、もはや寝転ぶに等しい姿勢でダラけきっていた令親だけ。

 

 いつもなら王華に睨みつけられ、想は何かあったのかと思ったと心配してきて、眠っている伸を眺めながらヘラヘラと入るのだが、U組は誰もいなかった。

 不審に思い、即座に思考と計算を同時に巡らす。

 

 まずは脳内で情報を整理、『お前は俺』、という発言からすると、考えられるパターンは……

 

1、他の三人は一緒

2、四人ともバラバラ

3、二人と一人と一人に分かれている

×

1、相手に鰐はいる

2、相手に鰐はいない

 

 これで六分の一。

 当たりが出たので次の情報。

 

1、王華だけ鰐

2、他二人は別のやつ

3、想だけ鰐

4、他二人は別のやつ

5、伸だけ鰐

6、他二人は別のやつ

7、王華だけ別のやつ

8、他二人は鰐

9、想だけ別のやつ

10、他二人は鰐

11、伸だけ別のやつ

12、他二人は鰐

 

 これも当たりが出た。

 俺と王華だけが、個別。残り二人は鰐といる。

 それはいい。

 だが、はっきり言って最も雄英側から警戒されているであろう王華にこそ令親がつくものだと思っていたのだが、確かに確率は出していなかったかと思考を切る。

 まずは今の状況整理の方がいい。

 そもそもの話、職場体験と言いつつ、そんなものに俺たちが協力的なわけがない。

 そんな当たり前のこと、令親は気付いているはずだが、なにがしたい?

 

 IQ200を軽く超える当の思考回路はとんでもない速度を誇る。

 個性を使い、その疑問に対しても高速で答えを出す。

 

 

 当の個性は【当選】。

 

 この個性はその名前の通り、当選することができ、1/13までなら確実に当たりを引く。

 これだけであれば戦闘面では役に立たないが、当の頭脳があってこそ、この個性は戦闘面でもその力を十二分に発揮する。

 

 先程の確率計算も、まず1/3×1/2で、当たりを絞ったのち、自身の限界である13を超えないように、同時に計算しながらの自問自答を繰り返す。

 当然のようにおこなっているが、常に当の脳の中には数字が浮かんでおり、分母での掛け算を行うか、一度当たりを出すべきか。

 己への問いかけの種類の判断、それと同時に身体操作。

 

 と言ったように、心と体を常に別々に動かし、日々を過ごしている。

 

 常人であれば一手一手に時間もかかり、脳がショートを起こすような行為も、彼は難なくこなしている。

 先程の自問自答も、時間に換算すれば1秒にも満たない。

 彼の脳内では一つ一つの質問が浮かぶわけではなく、同時に、まるでプリントを配られたかのように、既に記入されている物が当たりつきで思い浮かぶのだ。

 

 そしてまた、疑問の答えにもたどり着いた。

 だが、それを言うことはしない。

 それがハズレだと、わかっているから。

 

 

「なになに?ぜんっぜん楽しかないけど、なんか遊びに連れてってくれんの?」

 

 

 令親の問いかけに、わずかな間も開く事はなく、自然な会話のタイミングで言い返す。

 

 

「いんやちゃいます。ま、楽しかろうが無かろうが、今は職場体験中。たまには真面目に、いっちょやってみっかー」

 

 

 惚けた顔でそう言った俺に、惚けた顔で令親は答え、俺を部屋の外へ連れ出した。

 

 

 相変わらず、この人はやり辛い。

 

 

────

 

 

 

 

 

 十三分一 当は、ごくごく普通の少年だった。

 成績は上の中と言う点を除けば、他は全て平均的。

 

 兄弟はおらず、両親もこれまた平凡。特に代わり映えのない、ごく普通の暖かい家庭で育った。

 

 

 

 そんな当が変わったのは、9歳の時。

 両親に連れられ、休みの日にテーマパークへと向かうドライブ中の車内。

 既に当の個性は発現していたが、確実に当たりを引き当てることは出来ず、ただ、他の人よりも運がいい。と言われる、ごく普通から逸脱できないレベルのものであった。

 

 そんな個性が、その車内で確実なものへと変わる。

 

 車での事故。

 

 凄惨な事故では無い。

 スピード違反でも無い、車同士のただの接触事故。

 本来であれば、運転席と助手席に座る両親は、無傷で済んだ。

 余所見運転でこちらへと突っ込んできた普通車のカップルも、なんの怪我もなかったであろう。

 ただ、シートベルトしていなかった当が運が悪く、フロントガラスまで飛び出して、当たりどころの悪さから、不幸にも死亡する結果とはなっていたであろう、そんな事故。

 

 だが、事故の結果は全く別のものだった。

 

 車内での両親の焦ったような、慌てたような、「危ない」という言葉。

 そこで当の思考は始まった。

 個性の、覚醒。

 

 あぁ、自分は死ぬ。

 確実な"死"へとつながる選択肢の数々。

 

 横たわる?足元でうずくまる?今更ながらシートベルトをする?

 その後の答えは、どれもハズレ。

 何を考えても、どれを試しても、当たりは出ない。

 その先は暗いわけでも、明るいわけでも無い。

 ただただ、永遠の、無を予見させる。

 

 小学生であれば、一度は経験する事があるであろう、"死"というものへの思考の渦。

 

 初めて二度と動かない、モノと化した祖母を見た。

 悲しみよりも先に、こうはなりたくないと思った。

 動かなくなった祖母の体を見る。

 じゃあ、この前まで動いていた、自分へと笑いかける祖母はどうなったのか?

 わからない。

 天国で生きてる?地獄で苦しんでいる?

 そんなものはただの想像の世界でしかない。

 自分と同じく、このなんとも言えない恐ろしい感情の逃げ道に、過去の人間たちが創作したに過ぎない。

 ただ、そうは言っても、死んだらどうなるのかは、わからない。

 

 わからないから、堪らなく怖い。

 

 そうして今、思考はコンマ数秒で目まぐるし浮かんでは消えを繰り返す。

 脳がショートを起こそうとも"生"にしがみつく。

 怖いから。

 だから、考える。

 ありとあらゆる可能性を模索し、細胞が波打つ。

 1秒を数時間だと思えるほどに、脳が進化を果たした気がした。

 

 遂にその当たりが出たところで、当は、平凡では無くなっていた。

 

 

 

 ようやく出た。

 

 これしかない。

 

 無限にも思える時間の思考の末、遂に自分が生き残る、当たりが出た。

 

 幾千幾万とトライアンドエラーを繰り返した。

 

 その中で導き出された答え。

 

 自分が生き残るには、これしかないのだ。

 

 そうして当は、両親の命を犠牲に、ただ一人生き残った。

 

 

 

 

 

 何故そうなったのかは、駆けつけた警察にもわからない。

 後部座席にいた子供は何故か、運転席と助手席である父と母の背とシートの間に横に入り込んでいた。

 そのせいか、前のめりになった二人の後頭部をエアーバックが更に押し出し、二人は頸椎が折れて、絶命。

 その二人とシートをクッションに、子供は無事であった。

 

 だが、そこにいたのは何故か、ではない。

 両親の身体がうまくクッションになるように、当は母の頭を蹴り飛ばし、父の頭を前へと押し込んだのだ。

 

 そうして救出された当は、もう二度と動かない両親を、拳を握り締めプルプルと小刻みに震えながら、右手だけを口元に当て、その目に涙を浮かべて、ずっと見続けている。

 周りは、失ったものの大きさに震えているのだろうと、悲しみに暮れているのだろう思っていたが、実際は全く違った。

 

 両親の死を悲しんでいたのではない。

 もう動く事のない、抜け殻と化した二人を見て、コレが自分じゃなくてよかったと思っていた。

 嬉しさのあまり、どうしてもにやけてしまう口元を手で覆い隠していた。

 

 当はただ、自分が生き残ったという事実に、歓喜の涙を流していたのだ。

 

 

 

 

 そうして、彼は狂っていった。

 

 

 より高度な問いを。

 よりスリリングな状況を。

 退屈こそが最大の敵。

 "生"の実感を求め、彼はどんどんと闇へ染まる。

 

 彼にとって、『死』というものは『生』をより強く感じるためにあるものだという結論に至った。

 

 

 その後は個性を磨き、当選率を上げる事を始めた。

 それにはギャンブルが最も適していた。

 たかだか数千円を元手にはじめ、十分過ぎる資金が貯まった頃に、成長の限界を感じた。

 1/13。こんなところで成長で止まってしまった。

 

 だが、彼自身の成長は、そこでは止まらない。

 じゃあ、次は………

 

 

 

 

 凶悪な敵集団に紛れての仕事はスリルがあった。

 虫の居所が悪い。

 それだけでも殺される選択肢が発生する。

 

 会話一つとっても、中学生とは思えない程に言葉を選び、態度を変える。

 犯罪に手を染めるごとに、戦闘にも慣れてきた。

 

 思考を変えろ。

 打つ、投げる、避ける。どっちに?

 

 じゃあ、方向を決めよう。

 上下左右前後。これで1/6。

 そして、打つか避けるか、これで1/12。

 まずはこれを考える。

 それはもはやオートで行われるほどに徹底した。

 

 はじめに大まかな行動を決め、その後、選択を細分化し当たりを導き出す。

 

 そうしていくうちに、当に勝てるものは、誰もいなくなっていた。

 

 

 そんな生活を初めて数年が経過した頃、オールマイトと出会った。

 

 もはや部下と化していた敵を薙ぎ倒すオールマイトと対峙した時、初めて、自らの思考を凌駕するものが現れた。

 

 あの時と同じく、無限に選択肢を生み出し、当たりを探し続ける。

 思考を変えてあらゆる方法で答えを模索する。

 だが、何もできない。

 当たりがでない、クソガチャと同じ。

 思考の波に乗り、無限にも思える程に彷徨い続けた。

 だが結果は、当たりを引けぬまま、気づいた時には施設のベッドの上だった。

 

 オールマイトは、神とも等しい自分の思考の渦よりも強く、速い。

 "死"を予見した、あの事故から初めての経験だった。

 

 退屈になっていたこのくだらない世界で、唯一の楽しみができた。

 

 だから彼は、オールマイトを求めた。

 

 

 こんなところで捕まっている場合じゃない。

 ようやく、楽しみができたんだ。

 

 もっと、選択肢を。

 もっと、刺激を。

 もっと、もっと、俺に『生』を実感させてくれよ!!!

 

 

 魂の叫びのままに、彼は言葉を選び抜き、当たりを引き続けることで、自分が敵の仲間ではない事を、証言のみで証明した。

 

 その後、しばらくして施設に現れた校長の、オールマイトを教師に迎えるという雄英高校入学への誘いに、選択肢を浮かべる事なく頷いた。

 

 自分でも驚いた。

 あれ程までに、日常的に全ての事柄を当たりしか引いてこなかったはずなのに。

 

 

 だから、結局この退屈で窮屈な今が、アタリだったのかハズレだったのかは、わからない。

 

 時間でも巻き戻さない限り、過去に当選する事はできないのだから。

 

 

 

────

 

 

 

 

 

「今日はパチンコでもするかー。お前ってさー。それには勝てんの?」

 

「まぁ、台選びから絞っていきゃ負けはしないわなー。なになに、金稼ぎに連れ出してんの?真面目にって何だったの?」

 

「え?ダメ?俺は今教師じゃ無いしー。俺的にはこれこそがパトロールの一環だしー。ヒーローのコスチュームとかないしー。ま、いいから行くぞ18歳にしては幼く見えちゃう系の後輩よ!!」

 

 

 16歳である当を18歳だと自分に言い聞かせるように公言し、パチンコ店に本当に当を引き連れて入っていく令親。

 結果、自分が打つ台は自分で選び、タバコに火をつけながらも真面目な顔して流れ出る銀色の玉を目で追い続けている。

 みるみると減っていくその玉に視線を落とし、呆然の余りタバコの灰も落ち、そして肩も落とす。

 それを横目に当は確実に当たりを引き当て、その出玉を増やしていたのだが、好調なところで無理矢理に中断させられてしまった。

 

 

「帰るぞ!この店はダメだ!!ろくなもんじゃねぇ!!ここは詐欺してますよー!!詐欺店だ詐欺て………え?マジスカ?僕すか?そんなこと言ってないっすよー!さっきなんか走って出ていく見るからに幸薄そうな奴が……え?見てたんすか?それならそうと言ってくださいよー!

 

────あ、スミマセン。本当はむしゃくしゃしてて……え?あ、はい。連れの玉も返しますよ!当然じゃないっすかーやだなぁー」

 

 

 吠える令親のせいで黒服に囲まれてしまい、当の出玉も全て回収された上で、ガッツリ怒られた。

 数十分も経ち、ようやく解放されて裏口から外へと放り出された二人。

 

 

「んっだよ!この店は!!ペペペペッ!!全員俺の唾液を踏んで帰るがいい!!」

 

 

 ペコペコしながら店を追い出されたが、扉が閉まった瞬間に態度を変えて、チンピラのようにポケットに手を突っ込みガニ股で唾を吐く担任。

 これが、中指を立てて生きていくと言うやつだと思うと……心底がっかりである。

 

 

「いや、あんなん余裕でしょ?やっちゃえばいいじゃん」

 

 

 チラリと横目を当に向けると、スーツの内ポケットから徐にタバコを取り出して火を付け、吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出した。

 

 

「んな事したら、この店二度と来れねーじゃん」

 

「別に、店なんかいくらでもあるだろ?」

 

 

 戦闘であっても、通常であっても。捻くれており、本心を表に出さない令親の思考は読みづらい。

 怪しいところがない時は、無駄に疲れてしまうので考える事自体を放棄しているため、普通に聞いてみた。

 

 

「……俺のせいでここに来なくなるやつもいるかもしれねー。俺が好き勝手するたびに、街ですれ違うだけのやつ、喫煙所で会うだけのやつ、顔も知らねーそんな奴らが逆に不自由になるかもしれねーだろ」

 

 

 何を言っているのか、何を伝えたいのかもよくわからないが、ツッコまないが、どうやら当たりらしい。

 

 

「俺はザ・ヒーローみたいに、あそこ迄張り切るつもりはねぇけどさ、人間好き勝手生きるにも、最低限のルールってもんがあるって事はわかるんだよなー」

 

 

 路地裏でタバコを吸うのはどうなのだと思うが、従業員用なのか、室外機の上に置いてある灰皿に灰を落とすと、いつものような指ではなく、そのタバコで当の顔を指した。

 

 

「俺も気をつけてる。

 お前も、その線だけは越えんなよ」

 

 

 令親はそう言ってタバコを灰皿に押しつけてその場を後にする。

 

 【個性】を使ったわけではない。

 指図はしないから、自分で選べ。

 当は、そう言われたような気がしていた。

 

 

「いや、全然かっこよく無いし、言ってる意味もやってる事も、わけわかんねーんだけど」

 

「なんでヤローにカッコつけなきゃいけねーんだよ。まっ、俺がやってんのは全部ギリギリオッケーなルールだから見て学べ。ギリギリでいつも生きてこーぜ」

 

 

 当を無視して先へと進む令親であった。

 

 

 

 その後も、この職場体験中は似たような毎日を二人で過ごしたが、令親の態度は普段そのものであった。

 王華が巻き込まれた事件やそのニュースの話を聞いても、別段変わらない毎日。

 

 そして、職場体験最終日。

 

 別れの際の言葉は、今の俺の耳にも残っている。

 

 

「忘れんなよ?俺のありがたーい教えを」

 

 

 

 

 ボロボロの廃屋のようなところでコーヒーを片手にあの日の事を思い出した。

 

 そう言ってニヤついたあの顔は、鮮明に覚えてる。

 パチンコ屋で一人でキレてただけの奴に、よくわからない話を聞かされただけなので、逆に笑えるが。

 

 

 まぁ、今でも忘れてはねーよ?

 

 




そろそろA組とちゃんと関わりたい……!
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