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「ひさしぶり!王華ちゃん、なんかスッゴイ取り上げられてたね!」
「……?なんの話だ?」
職場体験も終わり、雄英高校に帰ってきたU組の教室で、想が王華へと話しかける。その内容はもちろんヒーロー殺しを倒した戦乙女に関してだったのだが、あれからほとんどを病院で過ごしていた王華にはよくわかっていなかった。
「ありゃ?見てないんだ。でも、なんか前よりも柔らかくなった気がする。敵か味方か〜みたいなキャラが味方になった後みたいな!」
想の話はよくわからなかったが、柔らかくなったと言うのは、まぁそうなのかも知れないとは思う。
燈への復讐心のみで生きてきたこの5年間であったが、燈の個性により、肉体は無くとも再び出逢えた今、王華の荒れていた心は静けさを取り戻しつつある。
そんな燈は、王華に取り憑いている状態であり、所謂、霊体のような存在。燈の個性はよくわかっていないが、おそらく【霊化】とか、そんなのだろうと二人で話した。二人とも個性を嫌っているため、個性検査など受ける気は無いし、そんな事は燈自身も特に気にしていなかった。
ただ、元来明るい性格ではあっても、人を信用できなくなった燈は極度の人見知りであり、なぜか初対面で心を許していたミルコ以外の前で、表に出る事はなかったし、そもそも完全に実体化するのは長時間は無理らしい。
幽霊に体力があるのか、と聞かれてもなった事がないため王華にもわからなかったが、本人が言うならそうなのだろうと思っていた。
「でもいいなー。私も悪を滅ぼすような事したかったのに……伸くんとクロコさんの相手ばっかさせられててね。でもお茶子ちゃんと仲良くなって───」
鰐淵を相手に組手ばかりさせられていた想は、自分のケガを顧みない部分をだいぶ修正させられ、伸はその個性にかまけた動きを突かれ、二人揃って毎日ボロボロにされていたらしい。
とはいえ二人ともそんな事で今更どうにかなる性格はしていないので大した変化は見られなかったが。
そんな話をしている今は、授業中。
中指の字で、黒板に大きく自習と書かれており、想は王華へ質問攻めと、自分の話をしており、伸は変わらず寝ているし、当はいつものように遅れてきた後、黒板の文字を見て、伸と同じく眠りについている。
そんな自由な時間を過ごしていると、ガラリと教室の扉が開いた。
「オールマイト?」
「……」
『あ……』
そこにいたのは、マッスルフォームのオールマイトであった。
「わーたーしーがーーー、普通に来た。
──帝少女、少し話せるかな?」
「……良いだろう」
オールマイトの言葉に突っ込む事はせず、ごく自然に返す王華。ゆっくりと立ち上がり、オールマイトと二人教室を後にする。残された三人、想は頭にハテナを浮かべており、当は薄目を開けて二人の背を見ており、伸は変わらず寝ていた。
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「先日は凄い活躍だったようだね」
本校舎の方へ移動して、仮眠室へと入ると王華はドカリと椅子に腰掛け、足を組む。
肘置きをフルに使って顎に手を当てる様は、まさに王の振る舞いだった。
「なんだ?ミルコとの話か?そんな前置きはいらん。それ以上ないなら、私は帰るぞ」
「いや、すまない。
ただ、全くの無関係、というわけでもないんだ。今回の、君が倒したヒーロー殺し、ステイン。彼の振り撒いた思想に、悪意が群がり始めている。
それを仕掛けた者こそが、私とワン・フォー・オール、それに、君の因縁の相手」
久しぶりに聞く、奴の話に、あの日の光景が蘇る。
血液は循環を早め、その血流は身体の温度をどんどんと上げていく。組んでいた脚は解かれ、大地を踏み締め、鍛え抜かれた指は肘置きに深く減り込んでいた。
「あの日、私の腹に穴を開け、華々理少女を殺した男──
オール・フォー・ワン。
奴が、再び動き出した可能性が高い」
王華からは闘気が溢れ出し、一般人であれば卒倒してしまう程に、決して広いとは言えない部屋に充満していく。
その瞳は紅く輝き、金色の髪もわしゃわしゃと逆立ち始め、握り込んでいた肘置きは崩れ去り、拳が握り込まれていた。
殺意の波動に囚われる、オールマイトと対峙する際と同じではあるが違うところがひとつだけあった。
それは、身体から青白いオーラが溢れ出していたこと。
「……ようやく、再び会えるのか……次は私が仕留める……!!」
『王華、落ち着いて』
殺気を剥き出しにした王華の前に、青白いオーラが立ち上り、それは少女の姿へと変わる。その青白く揺らめく少女は王華の頬に手を当て、嗜めているようだった。
──ガダンッ!!
大きな音を立てて、ソファーが後ろに倒れてしまうほど勢いよく立ち上がっていたオールマイトは、その青白い少女を見つめ、手を震わせていた。
「まさか……本当に……君はあの時…!!」
そんなオールマイトの反応に、王華は苛立ちを露わにし、充満していた殺気を全てオールマイトへと向ける。
それもそのはず。王華の大切な、自身の半身以上とも言える燈が死んだ理由、直接的には確かにあの男だが、王華にとっては、オールマイトも理由に含まれる。
だが、オールマイトは王華の濃密な殺気もなんのその、ただただ燈を見つめている。
そんな王華の前に立つように燈は移動して、軽くお辞儀をした。
『久しぶりですね。平和の象徴さん』
そう言った燈の顔は、決して明るいものでは無かった。
燈は燈で、王華をここまで苦しめた理由の一端を担うオールマイトを受け入れる事は、できていなかった。
「すまない……あの日の事は…」
『私は、別にあなたを恨んではいませ「私は恨んでいる!」ん?』
燈の言葉を遮り、王華は立ち上がり声を荒げる。
「コイツが…平和の象徴などと言われたコイツが!あんな奴に情を向けなければ……貴様が私の言葉を信じさえすれば、燈が死ぬ事はなかった!!」
「帝少女……」
『王華、私が死んじゃった事はもうしょうがないけど、こうなってから王華の全部を見れるし、私はそこまで気にしてないから』
そう言って燈は王華の頭を優しく撫で、落ち着かせていく。
その光景を見て、オールマイトは目頭が熱くなるのを感じた。
今までであれば、問答無用で殺しにかかってきたであろう王華が、燈の言う事は聞くのだ。例えは悪いが、まるで猛獣使いのように。
一度暴れはじめると、その殺意は気絶させるまで止まる事はなかったのに、燈に宥められるとどんどんとその殺意は霧散していき、冷静な王華へと戻っていく。
この二人だから、ヒーローとしてでは無いが、この世界をより良い方向へと求める二人の夢を、私も見たくなった。
なのに、あの時……私は帝少女の言葉を信じる事ができなかった。
この力を、託そうとすら思っていたのに……
「私を責める権利は、君たち二人にはある。私を恨んで当然だとも思う。だが、今はどうか私の話を聞いてほしい」
「いや、もういい。流れはわかった」
『緑谷出久くんに、力を託してるとか、手伝えとか、そんな話ですよね?』
察しの良すぎる二人にやや戦慄を覚えるも、今は燈の登場を良い方向に捉えている。
燈がいなくなり、王華が殺意の波動に囚われた後は、ワン・フォー・オールの話をしたのは間違いだったのでは無いかと思った事もあるが、今は数少ない理解者の一人。いや二人
燈さえいれば、王華は必ず緑谷にとって、大きな力になってくれるだろうと、オールマイトはそう思っていた。
「あぁ。流石だな。私の話はそんなところだ。まさか、託した先にすら気づいているとはね。逆に私の方が、とんでもないものを見ているよ。今の状態は、華々理少女の個性なのかい?」
「燈の事は知らないし、調べる気もない。私は燈がいてくれるだけでいい」
「そうか……二人の夢は、今でも変わらないかい?この超常社会を終わらせるという夢は」
「当然だ。私と言う存在により、争いそのものを無くす」
『王華、ついこの間まで全部ぶっ壊す!って言ってたけど』
「……それは……それだ」
燈のツッコミに狼狽える王華。
ゴミだめの上で歓喜の声を上げるなんて言っていたことを思い出し、途端に恥ずかしくなってしまったのだ。
そんな王華をニコニコと眺めている燈。そんな二人を微笑ましく眺めているオールマイト。
そう言えば、初めて出会った時も、こうして王華は照れていたとオールマイトは思い出していた。
「貴様、なにがおかしい?」
「いや。君たちはやはり、二人いてこそだな。良いコンビだ!」
にこやかにサムズアップをするオールマイトを睨みつけながらも、王華は言葉を続け、燈を後ろへと下げながら、肘置きのなくなった椅子へと腰かけた。
「五月蝿い……そもそも私の殺すリストに貴様はまだ入っている事を忘れるな。
──話が逸れたな…次は私の番だ」
無理矢理後ろへと下げられた燈は手の平程度のサイズまで小さくなり、フヨフヨと王華の周りを飛び回っているが、王華は気にせず話を続ける。
その理由は、せっかく幽体とはいえ復活した燈が、自分以外の人間、しかもオールマイトと話しているのが嫌だという、ただの嫉妬であった。
「オール・フォー・ワンが貴様に殺られたなどとはそもそも思っていない。私が言いたいのは、奴を殺すのは英雄などでは無く、この私だという事『私達、ね』」
耳元で言う小さな燈を手のひらに乗せて、そうだなと笑いかけ、続きを話す。
「と、こちらが本題だ。緑谷出久……貴様は奴に何を期待している?鍛えているつもりなのであれば、成長が遅すぎる。アレでは奴への切札とやらを、リボンまで付けて差し出しているような物だぞ?」
「耳が痛いな……だが、彼も成長しているし、それは今日の授業でも垣間見えた」
「それは、気の纏わりの話か?こんな事も満足に出来んようじゃあ、そこそこの敵にすら歯が立たんぞ。実際、保須で見たアイツはヒーロー殺しが本気で殺る気であれば1秒ですら釣りがくるレベルだ。運がいいだけだと思え」
オールマイトのいう成長が、緑谷がグラントリノの元で身につけたフルカウルの事を言っているのは、王華には直ぐにわかった。
ワン・フォー・オールとはレベルが違うが、王華自身、常に気を纏わせて戦闘を行なっている。それ故に、恐らくは入学前から得たであろう力を、約半年も経つと言うのに、そんな事も満足にできていない緑谷をどうしたいのか気になっていた。
「ぐっ……それでも、彼は彼なりに頑張っているよ。平和を誰よりも願っているしね。オール・フォー・ワンに太刀打ちできるのは、やはり継承者だけだと思う。
仕留め損なった私のセリフではないが……」
俯き、悔いるようにしているオールマイトの、膝を握り込む手に力が籠り、スーツには大きく皺が走る。
「今のままだと10年はかかるぞ?みすみす捨てる気か?死ぬ気でやらせろ。私が殺る際に、貴様の能力まで持たれるのは面倒だ」
継承者が緑谷である事はUSJで確信している。ただ、逃げ惑う性格でない以上、最低限抗える力ぐらいは無ければ、自分がオール・フォー・ワンを殺す際に手間取る事は簡単に予想できる。
だから、王華としても緑谷の力の底上げは願っている事であった。
『結局、今の世界は力が全て。頑張っていようがいまいが、弱ければ死ぬんですよ?私は王華にビシバシ、本当に死んじゃうくらい鍛えられたから、毎日強くなっていくの楽しかったですけど。
それが無理なら、隠すのはたぶんもう無理なので、逃げる様に性格矯正でもしたら良いのでは?』
さらりと、緑谷に強制的に負犬精神を植え付けようとしている燈であるが、そもそも荒れていた王華と仲良くなれるほどの人物。純粋無垢な子供の様に、裏表などなく、蛙吹と同じく思っている事が口から出るタイプであった。
「それは、君が厳しくしろと言ったからだろう。だが、燈の言う通り逃げ惑う力さえあれば良いのだ。奴への借りは、百倍にして返す。私が一方的に、嬲り、屠るのだ」
王華の言葉は聴いていないのか、燈の言葉にオールマイトは顔を上げて、その顔を近くで覗き込んでいる。その作画の違う瞳はなにかを思いついた瞳をしていた。
「私は、人に教える事が苦手だからね。その点、王と名乗る帝少女であれば、導く事には──む」
話しているオールマイトの前に、王華が腕を組み、威圧感を全開にして立ち塞がっていた。
「貴様……まだ殺すリストにいると言っただろう?燈に近づきすぎだ。今ここで殺されたいのか?」
色々と拗らせている王華は、真顔で言い放ち、オールマイトは苦笑を浮かべて謝罪した。
この時の燈の言葉と、オールマイトの思いつきにより、U組全員が面倒なことに巻き込まれる事になるのだが、この時の王華はそんな事思いもしていなかった。
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「自習おっかれ。って、全っ然やってねぇじゃねぇか!?こら!俺が怒られんだろ!!」
「必要ない」
「俺もー。簡単すぎ」
「……ぐぅ」
「私はやってますよーーー!」
王華と当は全て満点で、学年同率一位を常に取っているほどに頭の出来はいい。伸は起きさえすれば頭は悪くないが、基本寝ているのでその場合は赤点の嵐。
最後に、想は勢いよく手を上げてはいはいとアピールしており、そんな想をチラリと見て、そのプリントに目を通す。暫く無言でその"算数"のプリントを見たところ、ある一文で目が止まった。
A.タロウを殺す。もしくは二度と悪事を働こうと思わない程の痛みを与える。
──バァン!!!
「なんだこの答え!!なんでタロウくんを殺す必要があんだよ!?ただの割り算の問題だろうが!!」
「遅れてきたのに、なんでまずは謝罪をしないんですか?当くんですらしますよ?つまり、遅れて登場した上に、二人で食べようとしていたはずのケーキを、二人が無条件で差し出す程の人物であるタロウは悪の組織の親玉である可能性が高いと判断しました」
「え?なに?俺ディスられてんのか?」
当は心外だと言わんばかりの顔だが、実際遅刻魔であり、すんませ〜ん、が挨拶と化しているので周りからは冷たい目線を浴びていた。
そんな当を無視して、令親は言葉を続ける。
「いや、問題みろ!何個って聞かれてんの!それに答えのカッコの幅見りゃわかんだろ!数字を書くんだよ数字を!!枠外にツラツラと無駄にデカく書くんじゃねぇよ!」
想の脳味噌はこと戦闘以外に関しては中学生レベルにも入っていないので、彼女だけが全く違う授業を受けている。とはいえ中学校や小学校に行かせるわけにはいかない。それに、問題のある子供の集まる学校などに行かせたり、リモートなんて事になるとたちまち勇者の使命と言って虐殺を始めかねないとの理由で、雄英高校預かりとなっていた。
ひとしきり想に物事のなんたるかを話した後、次の授業の話をする。
「あぁー疲れた。次からは亡女の授業は二人でやってくれ。そういやぁ、なんか明日は他の組と合同訓練の授業するって」
言いたい事は言い終えたと、教室を出て行く令親を見送り、四人はそれぞれ部屋へと戻った。
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