──────
「ミルコのサイドキック……?」
「あぁ。俺もあの時は思い出せなかったが、お前と話している今、ハッキリと思い出した。五年前の、あの時のガキの片割れだ、俊典」
時は少し遡り、保須市の事件から少し後のこと。
現況が動き出した事を理解したのちに、グラントリノは事件を収束に導いた少女の話を切り出した。
「……それは、わかっています。彼女は今も殺意に囚われている……それをなんとか拭いたいのですが」
「いや、そうじゃない。俺は確かに見た。もう一人、女がいた。なんの個性か知らんが、あの日逃げ延びた餓鬼の方じゃない、水色の少女の姿だった」
「は……と言うと…いや、そんなはずは!!」
「俺が耄碌したとでも?」
電話越しとはいえ、鬼のように扱かれた思い出は今でもオールマイトに焼き付いている。
今回も脳無の撃退までしており、緑谷に可能性を見たと言う恩師を疑うはずもなかった。
「そんな事は…でもしかし…彼女は」
「とはいえ、あの嬢ちゃんの"中"にいるようだったがな。俺が見たのも一瞬。人ではない、焔のような姿だった。それに、ヒーロー殺しも殺してはいない。お前の言っていた通りの荒れようだったら間違いなく殺していただろうがな」
「……それは、何かしらの個性で、華々理少女が生きていたと…?」
「それはわからん。だが、俊典が一度信じた奴だろう?俺も見たのは随分と前だが、トゲは抜けているように感じた。試してみると良い」
「……しかし、私から彼女にオール・フォー・ワンや華々理少女の話をするとなると…」
間違いなく、彼女はいつものように襲いかかってくるだろう。
いつものように、溜まり切る殺意の吐口になれればまだ良いが、今回ばかりは死ぬまで戦いをやめない事が安易に予想される。
「教師が生徒の顔色伺ってどうする。ミルコも、軽くだがそんな話をしていた。"二人揃えば"本気の自分でも厄介だとな。と言う事は、わかるだろう。お前と奴に関わり、人生を狂わされた子等だ。そして、自らの手で奴を討とうとしている。緑谷出久もそうだが、どうなろうとしっかり受け止めてやれ。俊典」
「……はい。もしそうであれば、喜んで……良いのかはわかりませんが、彼女にとっては、少なくとも喜ばしい事だと思います。あの日までの、彼女に戻るのであれば、私は……」
「世代は既に移り変わっている。奴を討つのはもう、次世代に託されたんだ。お前がうまく、導いてやれ」
「はい………」
すでに切れている電話を握りしめたまま、オールマイトは立ち尽くしていた。
本当にそうなのだろうか。
自分が救えなかった者、助けられなかったものは多くいる。
その中でも、あの日のことはより強く、心に焼き付いている。
一人の少年と、二人の少女。
助けたはずの少年は消え、二人の少女は一人となり、殺意の波動に目覚めた。
溜まりに溜まった殺意に耐えきれない少女は、その圧倒的な力と残虐性で、敵を文字通り捻り潰していく姿はまだ記憶に新しい。
「内緒のお話ですかぃ?ナンバーワン」
「君は……」
「あーあー、まぁそんな警戒せんでいーですよー。帝みたいに、顔見たくらいで襲いやしませんから。
──そんな、拗らせまくりな、お嬢"たち"の話ですよねー?」
ニコリと笑う、中指令親がそこにいた。
そうして中指と、そして"二人"との話を終えたオールマイトは職員室へと戻っていった。
────
「演習試験、U組は各クラスとの対抗戦にしようと思うのさ」
校長の一言に教師陣はなぜ今更と言う顔をしているが、校長は話を続ける。
「中指くんからの提案でね。U組も、理由は不本意では有るが敵襲撃時のA組との出会いから何かが変わり始めている。それも、良い方向にね」
「そーなんすよー。亡女とかわかりやすいですしね。あとは……なーんか吹っ切れた感じの帝とか」
そう言って、その不思議な眼で私の眼を見る中指くん。
【天眼のエルネスト】といえば業界では有名だ。
その戦闘力はもちろん、全てを見通しているのかと言う程に、彼は鼻が効く。
厳密にはヒーロー活動をしていないのにも関わらず、名のあるヒーローたちから顔の知れた彼は、所謂できる奴である。
とはいえ、【ダメ人間の象徴】【人格屈曲者】など、ダメな異名も数知れずなのが、彼のその独特な性格を物語っていた。
だが、まさか華々理少女の事まで知っているとは思わなかったが……
U組の演習試験をどうするか。
オールマイトの思考の間も議題は続くが、最終的にはそれぞれのヒーロー科生徒たちに自分たちに足りないものを教え、更に大きな怪我なく終わらせる、と言うのがU組にとっての試験となった。だが、もちろん反対意見も多く、U組がやらかさないかという事もある。
私としては、帝少女があの日以前に戻っているのであれば、優秀な雄英の生徒たちを無碍に扱うことなどせず、より高みへと導くと思っている。
「U組のためってか、これは他のクラスのためっすよ?敵の動きが活発化してるのはもうわかってんだから、実戦形式にこだわるのが理想。その上で、高い壁が近くにあるなら、否が応でも意識するし、その方が燃えるでしょ?だいじょーぶですって、U組は俺が止めれるし、他の奴らは相澤くんがいればいつでも中断させられんすから。ねっ!相澤くん!」
そう言って相澤くんにウィンク一つするこの伊達男は、底が知れない。
一体彼の眼には何が見えているのか。
そんな彼の発表した対抗戦の組み合わせを見ている私にもウィンクをする姿を見て、もしかしたら、ワン・フォー・オールのことすら知っているのではないかと、そんな気にさせられた。
────
「と、言うわけで!U組四人対A組二十人でバラバラに戦闘訓練しまーす。一対五だけど、気ぃ抜かないようにね!コイツら全員頭おかしーから。
で、オマエらは問題有りとみなしたら止める。ちみたちには夏休みなんかねーけど、林間合宿はあるから今のうちに仲良しこよしして、青春の一ページを刻んでこい。俺も海なら行きてーけど林に興味ねーから行かねーんで。上手くやんなかったら、ブラドと補修三昧ね」
笑顔でそう言い放つ令親に、待ったを掛けるのが二人。
「あぁ!?舐めてんのか!!?」
「えぇ!?めんどくさぁ!!?」
A組の爆豪と、U組の当。言い分はまるっきり違うが、不思議と声も息もあっていた。
「「同じ学年の相手と、なんでそんな事しなきゃいけねぇんだよ!!」」
ここまで息ぴったりの二人は、ようやくお互いに顔を見合わせた。
「ただの狂犬だと思えば。意外と話わかるじゃん。ばっちゃん」
「誰がばっちゃんだニヤケがコラァッ!!」
「爆豪がお婆ちゃん……」
当にブチギレる爆豪であったが、ボソリと呟いた上鳴の一言で、想像してしまったのか、A組には笑いが起きていた。
だが、それも次第に収まり、一同の視線はU組の中でも、最も後ろで遠くを見ている様な、額当てを腕に抱いた金色の少女に注がれている。
「そのコスチューム……戦乙女アーリィって帝ちゃんの事だったの?」
「あっ!そういえばあの動画の!!」
「有名人はやっぱオーラあんなぁ!!」
葉隠を皮切りに、A組の面々は王華に群がるように集まりワイワイと好き勝手いっているが、動画のことを全く知らない本人は頭にハテナが浮かぶ。
「……貴様らはなんの話をしている?」
「え?ヒーロー殺しの動画とか、ニュースとか、見てないの?携帯でも見れるよー!URL送ろっか?」
「テレビは部屋に用意されてはいないし、携帯なども持っていない」
「えー!!親とか友達に連絡とったりしないの?」
散々脅されたはずの葉隠は、まるでそんな事なかったかのように、人懐っこく王華へと語りかけており、王華はそんな葉隠に、今は共にいるはじめての友達を思い浮かべていた。
どこか、君に似ている気がするよ。
『そう?似てるかなー?』
そうだよ。燈もまた、ズカズカと私の前に現れただろう?
『ズカズカはひどいなー。あ、ほらほら、返事してあげないと』
そうだな。
心の中で会話を交わし、思考を切り替える。
両親などいらない。というか、自らの手で殺した。
余計な事を思い出すも、今は共にいる家族を思い、無意識に頬が緩んでいた。
「私に親などいない。唯一の家族は、ここにいる」
そう言って、微笑みながらそっと胸に手を当てる王華にA組は目を奪われていた。
確かに、戦乙女と呼ばれるに相応しい、女神のような仕草と表情。
その透き通る声に、心すらも奪われそうになっていた。
が、そう言ったものに心トキメク事のない男がA組には2人いた。
「これを魅せられちゃあ、認めざるを得ないのか……ちっぱいも、有りだということを」
女子から一斉に非難の目を浴びる峰田であったが、その瞬間に、峰田の足は地から離れ、宙へと浮いていた。
頭の突起を避け、頭を直に、その強力な握力で掴まれており、その強さはどんどんと増していく。獰猛な紅い瞳が、峰田の鼻先わずか数センチのところまで差し迫っていた。
美しい慈愛の女神は、一瞬で厳格な戦乙女へと変貌を遂げている。
「……その足りない頭でよく考え、もう一度言ってみろ……誰が、なんだと?言葉と態度によっては、貴様の頭も私の瞳と同じ、鮮血の色に染まる事となるだろう」
ブルブルと震える峰田に同調する様に、荒れ狂う殺気の波に大多数が飲まれている中、当はそうそうに避難している。
王華に胸の話は禁句だと言うことを心得ているからだ。
「どうした?ほら……もう一度、言ってみろ」
「いや、何も、言ってません…」
なんとか頷く事に成功した峰田はポイッと放り投げられ、わずかに頬を染めていた。腐っても峰田。基本的に脳が下半身先行な彼は、至近距離から見下ろす事により、コスチュームの隙間から王華の可愛らしい胸を覗き込んでいたのだが、怒り心頭の王華は気づいていなかった。
「峰田、あの子相手には自重しないと、本当に殺されちまうぞ……」
「自重をする時、それはオイラはオイラじゃなくなる時さ」
上鳴の忠告も、峰田の生き様には敵わない。
しかし、まだ可能性を見ただけで、彼の中ではまだ貧乳への扉を開くには至っていなかった。
そしてもう一人が、
「オイ赤目ェ……テメェは俺がブッ殺す!!」
「……貴様には無理だ」
爆豪の宣戦布告に対し、王華は涼しい顔をしており、令親は顔を伏せて笑いを堪えているようだった。
小さく、「確かに無理だ」と言って笑っている。
「そんじゃ、茶番はさておきA組のみんなはどの変人が相手か気になるだろうから先に組み合わせ発表しまーす!」
爆豪をチラチラと見ながらプププと笑っている令親に、意見を申し立てるものがいた。
「失礼ですが!先程からの言動は如何なものでしょうか!?先程から自らのクラスの生徒に対してもですし、五対一などと、それは余りにも……」
「あん?なんだ、相澤くんから聞いてねーの?」
U組の面々を、頭おかしーだの、変人だのと表現する令親は、異議を唱えた飯田の目を見ている。
その令親の余りの変わりようと、蛇のような緑色の目。そして、なんとも言えないプレッシャーに飯田だけではなく全員が黙っている。
「そもそもこいつらU組がなんでこんな秘匿扱いなのかとか、考えた事はねーのか?」
「それは……」
不思議だと言う程度にしか考えていなかった飯田に回答の準備はなく、続きは言えなかった。
十分に待った後、令親は四人を背にA組に向けて語る。
「まぁ、簡単に言えば超のつく問題児集団。しかも、あくまで雄英"預かり"であって、厳密には"生徒"じゃねー。それでもこと戦闘に関しては、"君らよりも"超がつく程優秀で経験も豊富」
「「………」」
一同その歯に衣着せぬ物言いに驚くが、それよりも、全員が全員、舐めるなと、闘士に満ちていた。
そこに、さらに油を差すのが令親節。
「本気でやったって全員どうせ負けんだから、君らは殺す気で、凶悪な敵だと思って相手しな。本当に襲われても、躊躇しないようにさ」
A組からの、殺気にも似た感情を一身に受けるU組と令親だが、全員プレッシャーとすら思っていなかった。
────
「……真面目にやるかしら?」
「対抗戦をやると決まった以上、中指さんが適任ですよ。帝には、俺の個性は意味を為しませんし、あの人の場合、強制的に終了させることができますから」
「相澤くん、帝少女なら心配しなくても大丈夫!!」
遠巻きに見ている教師陣の中でもミッドナイトは少し楽しそうに、相澤は普段通りに、オールマイトは、どこか期待の籠もった目を向けている。
ミッドナイトはU組の変化もそうだが、学生時代から何をしでかすかわからない令親の様子が気になっていた。
雄英の臨時教師、それも問題児ばかりのクラス担任の話を受けるなど思っても見なかった。
アイツ、本当に何考えてんのかしら……
昔から、全く変わらない。
どうでもいいような事で大激怒し、くだらない事に、平気で命をかける。
そして、大事なことは誰にも言わない。
まぁ、そんなアイツだから、興味を惹かれたんだけど。
「この間から、やけに帝の肩を持ちますが、何か根拠が?」
「いや、それは……表情が柔らかくなったと思ってね!!」
王華から一方的に敵視されている事が周知の事実で有るオールマイトの下手なごまかしに、全員が全員何かあったなと思っていた。
────
「まぁ、余計な話はおいといてルールは簡単。U組A組共通で、体についてる三つのパッドに攻撃加えるか戦闘不能に追い込んだら、とA組限定で手錠をかけたらそれで終わり。ただし、A組が持てる手錠は1個だけな。あと、他のせんせー方も見られてっから危険な奴は無しで。こいつらの個性も教えといてやるから、連携なり作戦なり立てときな」
個性が発覚していながらに、逮捕できていない凶悪な敵は多く存在する。これはその一環も兼ねているのだが、今のA組は舐められているとしか思っていなかった。
「はやくしろ……優秀だかなんだかしらねェが…俺が一人でブッ殺す」
「つーか個性教えんでほしいなぁ。俺は今後一パンピーとしてやってきたいんですけどー」
爆豪は今すぐにでも殴りかかりそうな程凶悪な顔をしており、当は頭の後ろで腕を組み、怠そうに言った。
そしてようやく、電光板に表示された、組み合わせ。
────────────
第一戦
U組 帝 王華
【無個性】
A組 芦戸・切島・常闇・葉隠・緑谷
第二戦
U組 十三分一 当
【当選】確率で当たりを引く
A組 青山・麗日・口田・耳郎・爆豪
第三戦
U組 亡女 想
【RRPG】大剣生成+電撃
A組 飯田・上鳴・障子・峰田・八百万
第四戦
U組 糸宿 伸
【伸縮】空間、時間、自身の伸び縮みが可能
A組 蛙吹・尾白・砂藤・瀬呂・轟
────────────
「………は?」
爆豪の小さな呟きが、静寂に包まれていた場に広がっていく。
全員が、同じ感想だった。
他の三人の個性も聞いたことがなく、どれも強力な個性。
だがそれよりも、一番上の、一番目に付く人物の個性。
そんなわけがない。
このイカれた教師のデマだろうと、そう思っていた。
「帝さんが……無個性?」
「え?これって、冗談でしょ?増強系じゃないの!?」
緑谷と芦田は思わず自身の対戦相手を凝視するも、当の本人は至って普通だった。
「だからどうした?私の存在こそが個性だ」
腕を組んだまま、当然のように言い切る王華に、それ以上、緑谷も芦戸も何も言わなかった。
「オイ……お前が無個性だと……どう言う事だ!!?」
「さっきも言っただろう。個性などというギフトなどいらん。私を強者たらしめるのは、全て私が掴み取ってきたものだ」
「……認めねェ……認めねェ!!オマエは、俺がブッ殺す!!!」
王華へと両腕を突き出した体勢の爆豪から放たれた爆破は、なぜか全て空へと向かっていた。
「次やったらお前も補修地獄行きな。お前の相手はあそこのやる気ない茶髪。さっきからやたらと帝にご執心なのはわかるけど、今回はお前の相手は帝じゃねーよ。帝も言ってたろ、お前じゃ無理だ。やらないんだから」
さっきまで、電光板の横に立っていたはずの令親が、いつの間にか爆豪の前に立ち両腕を掴み上へと向けていた。
誰も見ることすら敵わなかった、令親のオールマイト並みの速さに、A組は戦慄している。
「チッ……クソが……」
流石に教師に噛み付くことはしないが、爆豪の脳内では、緑谷と王華が被って見え、それが余計に心を波立たせていた。
初めて同年代の奴に、コイツには"絶対に敵わない"と思った。
認めたくはないが、コイツがここでの一番だと。
だから、絶対に追いつき、追い越すと決めていた。
何がなんでも、雄英で一番になり、コイツを超え、ゆくゆくはオールマイトをも超えると。
そう、思っていた。
だが、その倒すべき相手が、無個性。
それが幼き日の、個性を譲り受ける前の緑谷と重なり、驚愕と苛立ちとが、同時に押し寄せて、爆豪の感情をぐちゃぐちゃに掻き混ぜていた。
感想やご意見を頂けると自分の中でも再発見できるのでありがたいです!
うまく表現できているかは、別としてですが……
ここまでお読みいただきありがとうございました!!