敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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訓練か教授か

──────

 

 

 

 

 

 いよいよ最初の戦闘訓練。

 

 これまでの王華の力を見ているため、五人ともが気を引き締めている。

 そもそもヒーロー殺しの件で既に有名な王華に、例え無個性とて油断をする者はいなかった。

 

 

 

『じゃー、はじめーーー』

 

 

 令親のやる気のない号令とともに、いよいよU組対A組の戦闘訓練が始まった。

 

 

「おおぉぉぉぉ!!俺が止めなきゃ、勝ちはねぇ!!!」

 

 

 開始と同時に殴りかかってきた切島の拳を腕を組んだまま、拳が届く前にカウンターで腹に前蹴りを入れて、一撃で昏倒させる。

 

 

「………切島鋭次郎か。いくらなんでも単調すぎるぞ。不死身であれば構わんが、耐えられん時はどうする?貴様は爪も牙も持たん亀か?」

 

 

 自身の個性である【硬化】をものともしない、無個性であるはずの王華の蹴りに、一撃で硬化を解除されそうになる。油断はしていない、脳無の一撃にもなんとか耐えて見せた自慢の個性ではあったが、一撃もらっただけで何もできない。硬化に意識をさかない限り、間違いなくやられる。

 その後、左脚一本で次々と蹴りを入れる王華に一歩も動けず、本当にただ亀のように丸くなっていた。

 

 

「ま!じ!か!よっ……!?」

 

 

 既に背中以外のパットは破壊され、蹴られるたび、途切れ途切れに言葉を発している切島であったが、背後から迫る何かに気付き、王華は振り向く。

 

 

「うわっ!なんでわかるの!?」

 

 

 宙に浮かぶ手錠が王華の睨みで一瞬固まる。

 葉隠はパッドをつけてしまうと場所がわかってしまうので足に全てつけていた。それもうまく岩場に隠してわからないようにしていたのだが、王華には気づかれてしまった。

 せっかく、切島が開始時の良い位置にいた王華をその場に足止めするように突っ込んだのだが、不発に終わってしまった。

 

 葉隠に気を取られている内に、なんとか王華の足を掴む事に成功した切島であったが、それ以上何もできず、王華は上半身を動かすだけで葉隠の攻撃は全て避けている。

 

 

「えっ!?なにそれ!?はやすぎ!!反則!!」

 

「葉隠透。貴様の武器はなんだ?見えないという強み以外、何も無いのか?自身に対する理解の足りなさ。それが貴様の弱さだ」

 

 

 ぶんぶんと振り回される手錠を交わし、見えないはずの攻撃も全て躱すと、文句をぶつける葉隠に、透明で見えないにもかかわらず正確にデコピンをぶち当て、脳を揺らす。

 

 

「あれ……目がまわ…」

 

 

 脳味噌が頭蓋骨へとぶつかり、まともに思考ができなくなった葉隠は、その場に座り込み、立ち上がることができなかった。

 すると、王華は足を掴んでいる切島ごと、信じられない速度で走りだす。

 

 

「うっおぉぉぉぉぉおおお!!!マジかぁぁぁぁあ!!」

 

 

 そこら中に身体を打ち付けながらも離さない切島は立派だが、王華にとってはその状態であれ大した問題になっていない。

 そして、次なる標的は芦戸であった。

 

 

「こっの!!──あ!?」

 

「いってぇぇえ!!」

 

 

 切島を引き摺りながらも接近する王華に、堪らず指先から酸を放つ芦戸であったが、そこに居たのは切島だけ。

 信じられない速度から一瞬で止まった王華のせいで、慣性の法則に従い前へと躍り出た切島がその背に酸を浴び、最後のパッドも壊れていた。

 思わず手を離してしまい、盾にされてしまった切島の頭に、ゆっくりと王華の右手がかかる。

 芦戸から見れば、宙に浮く切島の顔に、べたりと、死神の手がかかったように見えていた。

 ようやく解放された王華が、そのまま切島の頭を地面に埋め込み、芦戸の目の前へと立った。

 

 

「貴様には前にも言ったが、スピードが足らん。溜めをつくるなりすれば緩急くらいは生まれただろうが、陽動もなしで己より速いものに当たるはずも無いだろう。スピードとは、必ずしも最速である必要は無いのだ。もう少し、思考を凝らせ」

 

「下っ!え……?」

 

「今だぁぁぁっ!!」

「戦乙女と闇の眷属…どちらが勝つか……」

 

 

 足を払うように、ゆっくりと下段蹴りを放ったところを十分に見せつけ、芦戸の視線を下に落とさせたと同時に首筋に手刀を放ち、ダウンさせた。

 最初からこのタイミングを狙っていたのだろう、手刀が当たる直前に、左からは緑谷、右からは黒い影と共に、若干厨二病を拗らせた常闇が迫っていた。

 軽く息を吐き、緑谷の超パワーを受け止めるのでは無く、伸び切った肘に右の人差し指を突き立て左のハイキックで顎をかちあげる。その左足をそのまま勢いよく振り下ろし、ダークシャドウをカカト落としで黙らせると、常闇に照準を合わせた。

 

 

「……格下相手には、確かに有効だが、格上である私には通用せんぞ常闇踏影。他者に何を見たかは知らんが、今の貴様は全てが半端だ」

 

 

 点穴を突かれ、顎を跳ね上げられた体勢の緑谷の足をそのまま右手で掴むと、中途半端な距離にいる常闇の本体を"緑谷で"殴りつけ一つ目のパッドを破壊。ダークシャドウは王華の強靭な脚力で踏みつけられており、戻せない。王華の言う通り、轟や塩崎への評価から、自身も強力な個性が故に自力を鍛え始めていた常闇ではあったが、付け焼き刃で相手になるようなものではなかった。

 

 

「くっ!スマッシュ!!!」

 

 

 鈍器扱いされ、常闇にぶつけられていた緑谷が上半身を無理矢理に捻り王華へ向けてデコピンの衝撃波を放とうとしているが、緑谷の足を掴んでいる手首をくるりと捻ると、わずかに回転した緑谷の放つ衝撃波は、常闇を襲う。

 

 

「なっ!?」

「グゥう!!!?」

 

 

 足を離してやると、ダークシャドウはしゅるりと本体である常闇の元へと戻り、蹲る主に心配そうに声をかけていた。

 

 

「これで、残るは貴様だけだぞ。緑谷出久」

 

 

 王華はそのまま緑谷の足を離して自由にしてやると腕を組んで、仁王立ちしていた。

 

 

「よ、ゆう?」

 

「そうだな、オールマイトじゃあるまいし、"今の"貴様などなんの問題にもならん」

 

「……ッ!!!」

 

 

 流石に腹も立ったのか、緑谷はフルカウル常時5%で王華に挑みかかるが、当たりもしない。

 だが、王華は突然動く事をやめ、仁王立ちのままに口を開く。

 

 

「攻撃に割く意識が丸見え。その上選択肢も少ない。見え見えの大砲に当たるはずもないだろう?」

 

 

 ようやく捉えたと思った緑谷の拳は王華の残像をすり抜ける。

 緑谷は咄嗟に胸のパッドを腕でガードするも。

 

 

「くっ──!!!」

 

「──守るのはパッドだけで良いのか?」

 

 

 背中から声が聞こえたと共に、あり得ないほどの衝撃が背に走り、気絶する前の緑谷が最後に見た光景は、左脚を綺麗に振り抜いた王華だった。

 

 

 

────

 

 

 

「はい、しゅーりょーーー。ものの5分だったなー。まぁ、君らの欠点は我らが帝大先生が全部言ってたので、各々考えな」

 

 

 落ち込む五人を前に淡々と言うと、次の面々が移動を開始している。

 

 

 何も出来なかった。

 五人がかりで、一発も入れられなかった。

 しかも、最後まで左手と右脚を使うことなく……

 

 緑谷の脳内では、先程の王華の動きがリプレイされており、その中では、最初から最後まで、右手と左脚のみで攻撃をする王華の姿しかなかった。

 

 完敗だ。

 本当に無個性なのだろうか?

 無個性の人間に、あんな動きができるのか?

 

 思考の渦に飲まれる前に、先程の中指の言葉を思い出す。

 

 欠点……?

 帝さんに言われたのは、攻撃の初動と……オールマイトじゃ、あるまいし?

 

 

「あっ!!」

 

「うわっ!どしたの緑谷?」

 

 

 俯いてブツブツと独り言を呟くいつものスタイルだったのだが、急にそのモサモサ頭を振り上げたために隣の葉隠は驚いて思わず立ち上がっていた。

 

 

「あっ、ごめん。わかったんだ。僕の欠点…オールマイトは腕しか使ってなかったから……そうだ、僕はオールマイトじゃない」

 

 

 今の、僕。つまり、オールマイトの戦闘スタイルばかりに固執している僕と言いたかったのだろうか?視野が狭くなっていた。見え見えの大砲というのも、それで繋がる。僕にもまだ、やれる事はいっぱいある。

 

 

「そういえば、私またスピード言われたぁ…思考を凝らせって、言われてもさぁ…」

 

「俺なんか亀だぞ?」

 

「……見透かされた。俺はまずは絶対の武器を見つける」

 

「あーさっきの帝ちゃんのかぁ。私は、自分の理解って、言われてもなぁ……そうだ!聞いてみよ!」

 

 

 他の四人も言われた事を考えているようだったのだが、早々に考える事をやめた葉隠さんは帝さんに本当に聞きに行っている。

 

 あれ?もしかして、怒られてる?

 

 何を話しているかわからないが、帝さんが指をさして口をひっきりなしに動かしてるのはわかる。

 自分の理解、でもそれは誰にでも言える事。

 無個性だった僕も、諦めきれずにいろいろやってみたけど、帝さんは、僕なんかよりももっと、自分に厳しく上を目指したんだろうと思う。

 無個性で、あれだけの力を得るには、たとえ才能があっても一体どれほどの苦労をしてきたのか……

 

 そんな事を考えてるうちに、葉隠さんの手袋が僕たち四人に向けてVサインを作っていた。

 

 

「みんなのも聞いてきたよ!緑谷は言う通り、両腕警戒してれば良いだけの雑魚だって!」

 

 

 雑魚……かっちゃん程ではないけど、そこまでストレートに言われると、来るものがあるなぁ。

 みんなのも、その言葉通り、今は切島くんを指差していた。

 葉隠さんのこういう物怖じせず、いつでも言い出しっぺになれる明るさは彼女の魅力の一つだと思う。

 

 

「力が足りんなら硬化の仕方を変えてみようとは考えなかったのか?馬鹿の一つ覚えのように、考えが壁しかない。雑魚以前の問題だ貴様は」

 

「うっ……それが牙と爪ってことか…」

 

 

 調子に乗り始めた葉隠さんは帝さんのような口調で、声も若干真似ながら話している。

 だけど、切島くんは真面目に受け取っているようで、完全に調子に乗ってしまった葉隠さんは芦戸さんをビシリと指差した。

 

 

「芦戸三奈、考えなしでどうにかなるのは小学生までと知れ。もっと使い方を考えんのか?予測困難な攻撃、そこに貴様の体技がハマればいくらかマシにはなるだろう。そう!例えば絞れば勢いも増す!ホースも見たことないのか貴様はぁ!!」

 

「うぅぅん……って最後の本当に帝が言ってたの?」

 

 

 芦戸さんに嬉しそうな声で叫ぶ葉隠さんだが、芦戸さんの言う通り、最後は帝さんが言いそうにないセリフ。誇張したのか、捏造したのかはわからないが、そのまま上機嫌で常闇くんの前へと立った葉隠さん。

 

 

「もっと発想を柔軟にしろ。貴様の個性を単純なもう一人としか捉えていないのなら、浅はかだ。あと、たまに言う訳のわからん言葉はなんだー!?」

 

「………」

 

 

 常闇くんの視線は、透明な葉隠さんの更に先を見ているように見える。

 と言うか、僕も、芦戸さんも同じところを見ており、気付いていないのは葉隠さんだけだった。

 

 

「オイ……!調子に乗るな。私はそんな事は言ってないし、評価で言えば貴様が底辺だぞ」

 

「アイター!!て、底辺…!?嘘!?えー!じゃあちゃんと教えてよー!わかんないよどうして透明かなんてさー!これが私の個性だもん!」

 

 

 背後に迫っていた帝さんからデコピンを喰らい、手袋が、頭であろう位置を撫でている。

 そんな葉隠さんに、呆れたような、でもなぜか優しくみえる笑みを浮かべている帝さんに、思わず見惚れてしまった。

 

 

「はぁ。理解できる頭があるか?通常人間は光を通してモノを見ている。簡単に言うと、透明とは可視できる光の一部がその物に吸収されずに残り、物の中を直進して透過するために、透き通って見える」

 

「うんうん!」

 

 

 不安になるほど素早く返事をする葉隠さんに、またも呆れたような顔をしている帝さんだが、機嫌がいいのか、今日は随分と優しい。僕も、もっと聞いてみよう。

 

 

「つまり、貴様は透明と言う現象を無意識で起こしている。それは、可視光を操っているに等しい行為だ。ここまで言えばわかるか?後は常に意識をしろ。そうすれば、自ずと操ることもできるだろう」

 

「光を、意識……うーん…」

 

「これ以上は言わん。私は貴様では無いのだから、あとは貴様がやれ」

 

 

 そう言って、踵を返す帝さんを、僕は呼び止めた。

 

 

「みっ、帝さん!僕も、僕にも────」

 

 なのだが、後ろからの二人の大きな声にかき消されてしまった。

 

「あ!俺にもなんかコツとか教えてくれないか!?」

「アタシも!!なんかヒントちょうだい!!」

 

 

 肩を竦めた帝さんは、口は悪いが二人にも意識すべき点や私なら、と言って話をしていた。

 

 

「なんか具体的に教えてよー!」

 

 

 子供のような芦戸さんにも丁寧に対応していることから、どうやら本当に機嫌がいいらしい。

 

 

「緩急や陽動という意味合いでは、単純なものはコレだな」

 

「うわ──…あ!?」

 

 

 帝さんは掌底を芦戸さんの眼前に突き出し、思わず躱した芦戸さんの顔の位置には、既に爪先が用意されていた。

 

 

「掌底はそもそも当てる気はなかった。視界を奪い、逃れる方向をある程度限定させる。そこに、狙い澄ました牙を用意して置くだけでも違うだろう?貴様に足りんのはそう言うところだ」

 

「はー。スッゲー。でも避けなかったらどうすんの?」

 

「躱さんのなら、そのまま眼球にでも指を放り込めば良い。顔こそ人体の急所だ」

 

「最後のはわかんないけど……ありがと!考えてみる!」

 

 

 具体的な、と言うか実際に目の前でやられるのは、説明なんかとは全然違うな。あの掌底の撃ち方も、左から右に薙ぐようにしてるから…………

 

 

 僕がメモを取ることに夢中になっている頃。

 

 常闇くんは「俺の課題は多く有るが、今やるべき事は把握した」とお礼のようなことを言っていたらしく、帝さんは最後に、僕に声をかけてくれた。

 

 

「貴様が"奪われるの"は私も面白くない。精々、死ぬ気で精進しろ」

 

 

 一体どこまで知っているのか……

 全く底の見えない同い年の女の子に、いつか勝てるように、僕はこの力を使いこなす……

 

 

 

 

「ねーねー!あの分身はどうやってやってるの!?」

 

「……分身ではなく残像だ。あれも視覚の構造を利用した特殊な歩法の一つだが、教えたところで今の貴様にはできんし、そもそも透明の貴様には必要のない技術だろう?」

 

 

 去っていく帝さんを追いかけて、質問を続けている葉隠さんに、帝さんは鬱陶しそうな顔をしつつも会話を続けていた。

 

 

 

────

 

 

 

『みんな優秀だったね』

 そうだな。

 

『私以外とあんなに話すなんて、今まであった?』

 燈、妬いているのか?

 

『まさかー!でも、今の人達は、私たちの望む世界にいても良い人たちだと思うよ』

 まだ子供だ。優秀に育てば、それで良い。無能であれば、最終的には消すだけだ。

 

『うん。でも、そろそろ私の力も使って欲しいんだけどなー』

 あぁ。時が来れば、また共に戦おう。この世に蔓延る愚劣な者共を葬るその時に。

 

 

 腕から青白いオーラを立ち昇らせ、王華と燈もまた、自らの牙と爪を、より鋭いものへと研ぎ続けていた。

 




ヒロアカはどのキャラも好きなので、スポットを当てたいのが多すぎるのが困りどころ……
ただでさえオリキャラが多いので、無茶苦茶にならないように気をつけているつもりですが……読みづらかったら申し訳ないです。こいつまだまだだなと温かい目で見てやってください…!


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