敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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敵か味方か

──────

 

 

 

 

 

「待ったよヒーロー。社会のごみめ」

 

 

 死柄木の憎悪に満ちた声。

 しかしそれよりもオールマイトは四人の姿を、特に王華を見ているようだった。

 

 

「帝少女…………いや、今はそれよりも、亡女少女を止めてくれ。糸宿少年、十三分一少年」

 

 

 帝 王華は動かない。

 むしろ楽しんでいるようにすら見える。

 微動だにすることなくオールマイトを見据えて口を開く。

 

 

「強者でありながら、守るという選択肢しかない。だから、いつも後手に回る。ヒーローなどと言う、"職業"に拘るから、弱くなる。亡女 想はバカではあるが、貴様より完成形だぞ?」

 

 

 王華に対し、苦渋の表情を浮かべるオールマイトだが……

 

 

「無視してんじゃねぇよクソヒーロー!!黒霧!!もう一体も出せ!!!」

 

 

 怒りが最高潮に達した死柄木の叫びに黒霧が答える。

 すぐさま生徒達の背後に開く黒いモヤである、ワープゲート。

 

 その黒い霧より這い出てくる、さっきからいる脳無よりは一回り小さい痩せ型の、脳味噌丸出しの怪物。

 

 その光景にA組の生徒たちが絶望感に包まれる中、四人の生徒だけは、何食わぬ顔をしていた。

 

 

 

────

 

 

 

 突如出現する新たな脳無に、しまったと言う顔をするオールマイトであったが、三人の生徒が新たな敵へと飛びかかる。

 

 

「クソがッ!!」

 

「凍れッ!!」

 

「俺だって!!」

 

 

 かっちゃんと轟くん、切島くんが、先程までの脳無よりもひとまわり小さな2体目の脳無へと飛びかかり猛攻を仕掛けるも、攻撃が通じている様子はない。

 凍らされても、爆破されても、硬化された拳で凍った部位を砕かれても、その身体を壊し、超速で再生していく脳無。

 再生しかけながらも超スピードで二人へ近づき、放たれた拳は地面を割る。

 そのまま上に振るわれるジャブは、一番動きの遅い切島くんに直撃した。

 

 

「ググググッ……!!全力で、硬化、してんだぞ……!そんな軽いので、これかよ…」

 

 

 腹を突き抜けはしなかったものの、膝をつき、ワンパンで切島くんはダウンしてしまったが、意識もあるし、どうやら大事には至っていない。

 その余りに馬鹿げたパワーに悪態をつきながらも、切島くんを抱えて距離を取ったかっちゃんと轟くんの二人と入れ替わるように、前へと躍り出る三人がいた。

 

 

「うぜー」

 

「オールマイトー。コイツやったら、俺を自由にさせてくれないかなー?そしたらやる気も出るんだけども」

 

「んーコレは、強敵っぽいねぇ……王華ちゃんが言う通り、生きてないなら殺していいよね!?ね!?当くん、流石にバラバラにしたら再生しないかな!?」

 

 

 当くんと呼ばれた男は、あの超速の攻撃を全て躱している。むしろ、拳が放たれる前から避けている。いったいなんの個性だ?まさか、予知?未来が見えていなければ、あんな芸当はできないだろう。

 

 そして、女の子は何処から取り出したのかわからないが、嬉々として白銀の大剣を振りかざし脳無の肉を次々と削いでいる。

 

 黒髪の男はありえない速度で、あの脳無よりも速く拳を叩き込んでいく。でも、何かがおかしい……スピードはとんでもなく速いけど……一体何が引っかかるんだ。

 

 

「いや!あの人たち、誰!?」

 

「あのおじさんみたいな人、誰かはわからへんけど、私らを助けてくれたんだと、思う」

 

「茶髪の男の方は、十三分一 当とか言ってたけど……」

 

 

 思考の海に溺れる前に、芦戸さんの声で我に帰った。

 よかった。今はそんな事してる場合じゃない。

 続々と集まってきたクラスメイトたち、その中の、麗日さん、耳郎さんが答えた。誰も見覚えのないようだった、もう一人の、桃色髪の女の子は、

 

 

「亡女……想……あの女は、イカれてる……」

 

 

 ちょうど僕らの元へと下がってきた轟くんが、吐き捨てるように言い放った。

 直後に、場違いなまでに悠然と、ゆったりと歩いてくる彼女。

 香水のような作られたものではない、彼女の放つ、天然の良い香りが鼻腔から入り脳を蕩けさせる。

 

 

「貴様らが心配するのは、こちらではないだろう?」

 

 

 クスリと笑う帝さんは、異常なまでに様になっており、こんな状況でも落ち着き払っている。

 僕らと同じ制服に身を包む、謎の四人組。

 いったい、この人達は……

 

 瞬間、ゾワリと背筋から始まり、全身を悪寒が駆け抜ける。

 

 

 

『平和の象徴なのだから!!』

 

 

 

 どうやらオールマイトも本気のようだ。

 これが、ナンバーワン。

 これが、オールマイトの本気。

 

 でも、僕が……僕だけが知っているオールマイトの秘密。

 

 それを知っているかのように話した、帝さん。

 自分の身を心配しろと言っていたのだと、少なくとも、クラスのみんなはそう思ったはずだ。でも、僕にはそうは聞こえなかった。

 帝さんの顔は、さっきまでと違って笑っていない。

 鋭い視線は更に鋭さを増し、まるで値踏みでもするかのようにオールマイトを見つめている。

 

 

「あっ」

 

 

 葉隠さんの間の抜けた声で我にかえると同時に、突然スピードの遅くなったボサボサ頭の横腹を脳無の拳が捉える。

 メキメキと言う何かが折れる音を無駄に響かせて、水難ゾーンに突っ込み、その巻き上がる大きな水飛沫がその強烈な勢いを物語っていた。

 

 

──ドォォォンッ!!

 

 

 彼の心配をする間もなく、交通事故の用な、高速で動く物と物がぶつかりあう音が響く。

 どうやらかなり良い一撃をもらったようで、吹き飛ばされた亡女さんが、まるでボールのように地面をバウンドしながら僕らの目の前で転がっている。

 その地面に叩きつけられた左腕は、折れているのか変な方向に曲がっているも、半ばから先が折れている大剣は、離すことなく握りしめている。

 どうやら急所は避けたようだが、拳が通り抜けたであろう右肩は不自然に、欠けた月のように無くなっていた。

 

 マズイ!助けないと!!

 

 僕らはこれでもヒーローの卵だ。放っておけない、と思っていたのだが……

 

 

「悪の癖に……やって、くれるじゃない……私は勇者!!こんなところで死にはしない!!アナタはバラバラのバラバラのバラバラのバラバラにして、細胞一つ残らず焼き殺しでやる!!まだ死゛んでないでじょう!?伸ぐん゛っ!!」

 

 

 光を灯していない、その黄金の眼を見開き、誰がどう見ても重傷の中、最後の方はどこから声を出しているのか、ドスの効いた声で誰かを呼ぶと、姿が消えた。

 その直後に、折れていたはずなのに、元通りに直っている剣を握りしめる右腕を背に回し、振りかぶる体勢で、脳無の眼前に突如として現れた。

 

 

「そっちじゃない。想ちゃん、当たりは下、そんで右上から斜めに。そん次は……ありゃ、上限超えたしわかんね────グェ!!」

 

 

 意味不明なことを喋っていた最中に、脳無の蹴りをまともにくらい、十三分一くんは出入口の柱に減り込んだ。

 言っている意味はわからなかったが、十三分一くんの言葉に従い、振りかぶった腕を下へと下げる亡女さんだったが、こんな時に、そんな無駄な動きをしたら……

 思った通り、脳無の超速の拳が無常にも亡女さんに振り落とされる。

 だが、なぜだかその腕が振り下ろされる事はなかった。

 

 

「どうやら、アレより性能は劣るようだな……まぁ、どの道こんな玩具は"私の望む世界"には必要ない」

 

 

 帝さんが振り上げられた脳無の腕に、目にも止まらぬ速度で剣指を突き立てていき、チラリと亡女さんを見る。

 帝さんの華麗な乱撃に脳無は一瞬動きが止まり、加速度を失った拳は力無く亡女さんへとふらふらと落ちていた。

 亡女さんはそんな脳無の腕を折れた左腕で受けながらも、容赦なく下から上へと振り上げた煌めく大剣で、股下から脳天までを切り裂いた。

 

 

「王華ぢゃん!!おっぞいよ゛!!」

 

「五月蝿い。この私がタイミングを合わせてやったのだ。バカ女」

 

 

 帝さんに文句を言いつつも、その勢いのままに、振り上げた大剣を半月を描くように振り下ろし、脳無の右肩から左脇腹を切り裂く、所謂逆袈裟を放ち脳無を四つの肉片に変えた。

 

 

「うぉぉぉぉお!!!あの子たち半端ねぇぇぇえ!!」

 

 

 クラスメイトの一部が、彼女の勝利に歓声をあげる中、轟くんだけは、睨むように亡女さんを見ていた。

 その様子が気になるも、おそらく勝利に喜んでいるであろう彼女に視線を戻したが、そんな様子は全くなく、憤怒の表情の彼女の勢いは止まってはいなかった。

 

 

「悲鳴が聞けないのが、残念でならんな」

 

「バラバラのバラバラのバラバラにぃぃぃぃい!!」

 

 

 再生を始める四つの肉袋の再生部に王華さんは素早く手刀を突き入れ、引き裂く。

 帝さんの攻撃で再生を止めた肉片を、亡女さんは明らかに過剰に、幾度となく切り刻み、文字通り細切れになった脳無に、折れている、ハズの左腕を突き出し、血塗れの掌を翳した。

 

 

「裁きの雷よ!!!消し炭になぁぁぁれぇぇぇぇえ!!」

 

 

 最後に、ゼロ距離で電撃を放ち続けた。

 ブスブスという音と、腐った肉の焼けるような異臭が辺りに漂っていた。

 

 くるりとこちらへと振り返ると、さっきまでと同一人物とは思えない、太陽のような明るい笑顔を浮かべた少女が声を上げた。

 

 

「私たちの勝利よ!!また、悪がひとつ滅びたわね。あぁ、貴方達も無事でよかったわ!」

 

 

 その血塗れの笑顔に、きっと全員が恐怖にも似た感情を抱いていた。

 

 

 

────

 

 

 

 謎の四人組は重傷者三名を出しながらも脳無を倒す少し前。

 

 もう一方の脳無を相手取るのは、平和の象徴オールマイト。

 その強さは、正にナンバーワンヒーロー。には、見えなかった。

 

 

「っ〜〜!!そう言う感じか…!」

 

 

 バックドロップ一つで馬鹿げた爆発を巻き起こすも、脳無の上半身は黒いゲートに埋まり、オールマイトの背の下から出てきた脳無の上半分、その爪がオールマイトの胸に埋まる。

 

 殆どの者が、謎の生徒三人組と、2体目の脳無との戦闘に目をやる中、ただ一人、オールマイトを見ており、行動に移したものがいた。

 

 

「ほら、弱い。こんな手に、むざむざひっかかる」

 

「弱ってるのは本当だったみたいだなぁ」

 

 

 蔑む王華と、手首に隠れて見えないが、愉悦の表情を浮かべているであろう死柄木。

 その死柄木の顔に腹を立てたのか、王華の華やかな足先がブレる。

 そしてすぐさま、指を真っ直ぐに伸ばした腕をその場で突き出した。

 死柄木は気づいていないようだったが、王華は足先で瓦礫を宙に放り上げており、それを指で弾き飛ばしていたのだ。

 

 梅雨を殺そうとする死柄木を吹き飛ばした時と同様。

 あの時は水だったが、今回は瓦礫。

 たかが瓦礫とはいえ、全てが高速で、しかもオールマイトに食い込んでいる指の根元に正確に打ち当てたのだ。

 

 拘束が緩んだところで、脱出に成功したオールマイト。

 

 

「すまない……帝少女」

 

「あの時、私が殺したかった男は、貴様のような弱者ではなかったはずだ」

 

 

 オールマイトに小さく耳打ちをすると、くるりと振り向き2体目の脳無に向かうかと思ったが、立ち止まり、肩越しに振り返り、黙っていれば猫のように鋭くも愛らしい眼を細め、その鋭い視線で死柄木を射抜く。

 

 

 

 

「そこのお前。無駄なことはするな。私に敵わない事も理解できない程の馬鹿なのか?」

 

 

 

 『崩壊』の個性を持つ死柄木は、黒霧のワープで跳び、その五指を傲慢な振る舞いの王華へ奮おうとしたのだが、年端もいかぬ学生にそれを見透かされ、更には気圧された事に、遅れて怒りが込み上げている。

 

 

「おい…なんだよそれ……なにが平和の象徴!!ヒーロー養成学校の生徒が行う暴力は許されるのか?あきらかに、そいつの思想はコッチよりだろう!?」

 

 

 まるで癇癪持ちの子供のように喚き散らす死柄木に、興味はないと言ったように、王華は背を向けて二体目の脳無のもとへと歩いている。

 その悠々とした歩き方にも苛立つ死柄木であったが、オールマイトがその前に立ち塞がる。

 その目に宿る正義の炎は、全盛期のものだった。

 

 

「彼女には……彼女たちには未来がある」

 

「俺には無いって言うのかよ?えぇ?ヒーローとヴィランにカテゴライズされ、同じ暴力でも善し悪しが決まるこの世の中!何が平和の象徴!!所詮抑圧のための暴力装置だ、おまえは!暴力は暴力しか生まないのだと、おまえを殺すことで世に知らしめるのさ!!」

 

「めちゃくちゃだな。そう言った、強い思想を持つ者の目は静かに燃ゆるもの……」

 

 

 あの、紅い瞳のように。

 だから、こいつは違う。

 

 

「自分が楽しみたいだけだろう、嘘吐きめ」

 

 ニタリと笑う死柄木に、オールマイトは思う。

 あの四人とは違う。

 彼らのここにきた経緯を。その犯した過ちを。

 だが、彼らは決して悪では、敵ではない。

 

 

 脳裏に甦るのは、あの日の"三人"の子供たち。

 

 

 あの目は、あの言葉は……

 まだ、戻ってこれるはずだ。

 他の子もそうだと、私は信じている。

 

 あの約束を果たすためにも、こんなところで負けられはしない。

 力は確かに衰えているが、やらねばなるまい!!

 

 

 

『何故なら私は』

 

 

 

 

 その間にも脳無、黒霧のコンビがまたもオールマイトに、そして生徒たちに死柄木が向かおうとしている。

 

 

 

 

 

『平和の象徴なのだから!!』

 

 

 

 オールマイトの放つ、ナンバーワンヒーローの本気の気迫を前に、動けずにいる三体の敵。

 

 脳無に肉薄すると、音すらも置き去りにした拳を放つ。

 一発一発が、全て全力。

 肉が裂け、血を吐きながらも止まることはない。

 

 その威力と速度は、『ショック吸収』という個性を無いものとしてしまった。

 

 300発もの拳を叩き込み、最後に、最も強く、最も近くへ踏み込んだ。

 

 

 

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!」

 

 

 既に2体目の脳無は倒れており、全員がオールマイトの戦いを見ている。

 

 その戦いに震える者、何かを感じる者。

 そして………

 

 

「敵よ、こんな言葉を知っているか!?」

 

 

 もはや、パンチなどと言う言葉では表せない威力の拳をデタラメな速度で脳無の腹へと当てる。

 

 

 

「Plus Ultra!!」

 

 

 

 その言葉と力は、成熟しきっていない少年少女たちの心を大きく揺さぶった。

 

 

 

──────

 

 

 

 オールマイトの戦いに、漫画かと言うツッコミを入れる切島くん。

 かっちゃんと轟くんは、その力に冷や汗を垂らしている。

 

 脳無を倒し、死柄木へと啖呵をきるが、恐らく、それが虚勢だと気づいていたのは、彼から個性を受け継いだ、僕だけだろう。

 

 それに臆すことなく、戦いを続けようとする死柄木たち。

 迫りくる黒霧。

 オールマイトの秘密は、僕しか知らない。

 なら、僕のやるべきことは……

 

 

「オールマイトから────離れろ」

 

 

 ワン・フォー・オールの力に耐えきれず、足が折れたか。

 でも、今はそれよりも…!

 

 瞬時に眼前に開く黒いモヤ。

 

 どうやら狙いを僕に変えてくれたらしい。

 これなら届く!

 狙うのは、隠している実態の部分。

 そこを殴れば、とばせる!!

 

 

 ゲートから出てくる死柄木の腕が見える。

 構うか!!

 もう、止まれない!!

 

 それなら、このままやるまでだ!!

 

 

「!!!!」

 

 

 極限の集中の中、見据える先の腕に、銃弾が減り込んでいくのがスローモーションで見えた。

 どうやら、飯田くんの呼んだ教師陣、プロヒーロー達が駆けつけたようで、ようやく、USJでの戦いは終わった。

 

 

 アイツの最後の言葉。

 

 

「今度は殺すぞ」

 

 

 それはつまり、次もあると言うこと。

 

 何もできなかった僕に、「また助けられた」というオールマイトだったけど……

 

 僕たちには、まだ早すぎる経験だった。

 

 

 それに、この襲撃と、四人の存在が後に起こるいくつかの大事件の始まりだったんだけど、この時の僕らには知る由もなかったんだ。

 

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