敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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建前と本音

──────

 

 

 

 

 あーめんどくさい。

 こんなんやったところで一体何になるのやら。

 せめて、俺をすこしでも脅かしてくれるなら良いけど。

 

 戦闘の場である市街地へと向かいながら思考を始める。

 

 ただ、勝った方がいいのか。

 適当に負けるより、それが当たりなら、やるべき事は決まった。

 

 

「やる意味なくね。俺が勝って終わり。アドバイスは、もっとガンバレだ」

 

 

 さて、これで後は勝手に踊ってくれんだろ。

 市街地のビルへと登り、開けた屋上へとたどり着き、初夏の暑さを冷ましてくれるように、頬に吹き付ける風が心地よい。

 だが、またすぐに暑くなる。

 前を向くと、明らかに敵にしか見えない、悍ましい顔をした奴がいた。

 

 

「ニヤケがコラァ……ブチ殺す……」

 

「ちょっ!!」

 

「爆豪!作戦決めただろ!」

 

「うるせーぞ耳!!黙って見てろ!!俺が、速攻でブチ殺してきてやる……!!」

 

「フォローに回れって事?僕は嫌だよっ」

 

「………」

 

 

 単独行動見え見えの奴。

 協調性の無い奴。

 ワタワタしてるだけの奴。

 女の子二人を潰せば、さっさと終わるか。

 まっ、これがブラフなら大したもんだけど、俺に嘘は通用しない。

 

 当は当選で答えを出し続けながら、首をゴキゴキと鳴らした。

 

 煽る事で見えてくる人間性。

 それは選択をよりしやすくさせてくれる。

 

 開始と同時に、一人狩るか。

 

 

「やんのね。じゃーさ、面倒いから纏めてかかって来いよ。その方が早く終わるから」

 

 

 流石にこれは五人全員の闘志に火をつけた。

 だが、それこそ当の望むところ。

 これだけ煽って、攻勢に出る気がない、一歩引いた奴こそが、アタリ。

 んー。あぁ、アイツね。

 

 

『はい、はじめーーー』

 

 

「死ねェェェエ!!」

 

「予想より速いけど、慌てるこたぁないわな」

 

 

 爆豪の強襲は既にアタリ付き。

 楽々と躱し、右脚の先を地面に埋め込んだ。

 

 

「ほっ!」

 

 

 そのまま力強く踏み込んだところで、突然その場で地面スレスレまで体勢を低くした。

 

 

「撃つ前に…!?」

 

 

 青山のネビルレーザーを躱した低い姿勢のまま、床を踏み抜いた穴からビルの下の階へと侵入する。

 

 

「クッ!まずい、速すぎて……口田!危ない!!」

 

「はい、一人目」

 

 

 耳郎の叫びも虚しく、三発で綺麗にパッド全てを破壊された口田は早々にリタイア。そんな口田を見ながら、当はハッとした顔をして、ニヤけた口を開いた。

 

 

「君、初動も反応も遅過ぎ。俺の個性知ってたんだから、もっとちゃんと危機感持って行動しようね」

 

 

 そう言った、笑顔の当を爆炎が包み込んだ。

 

 

「ハッ!!喰らえやァ!!」

 

「あかん!既に下に潜り込んどる!!」

 

「麗日!後ろ!!」

 

 

 爆豪の連続の爆破により、耳郎の集音の精度は薄れていたが、微かに麗日の背後に音を感じ取った。

 

 

「響香ちゃんいいねー!自分がやるべきことわかってる感じ、好きだわー」

 

「…!?なに、を!!」

 

「ただ、それじゃ物足りないよ。俺も、君も」

 

 

 いきなり好きと言われて思わず照れてしまうのは思春期の女子なので仕方ない。いや、仕方なくないか。

 自分の命を元手にスリルを楽しんでいた当には、訓練とは言え実戦形式でそんな感情を持ってる事自体がちゃんちゃらおかしい。

 

 麗日の背後に現れたものの、手をかける事は無く後ろへと飛び退く。

 そのわずか一拍後に、レーザーと爆炎が当がさっきまでいた位置を襲った。

 

 

「ほい二人目。えーっとね、君の攻撃直線の単発だけだし、避けやすい上に場所教えてるようなもん。曲げるのとか隠すのが無理なら、せめて近接格闘か、小技くらいの選択肢持った方がいーよ」

 

 

 またも一瞬でパッド全てを破壊された青山は、当の評価に下唇を噛み締めていた。

 

 

「コレ、攻撃すらも当たり出して躱してるって事!?そんなん反則やん!!」

 

「ドケ丸顔!!オラァァァ!!」

 

「反則って言われてもなぁ。これでも弱点あるよ。実際多対一とかまさにだし」

 

 

 当選は1/13までなのだから、頭数が多い程選択肢が増えて単純に個性の強みが薄くなる。

 だが、戦闘経験が豊富な当にとって、いくら雄英といえ高校一年生との戦闘訓練など個性抜きでも十分だと思っていた。

 さっきまでは。

 

 爆豪の攻撃を左手で受けた瞬間、首を下へと曲げる。

 受けた左の掌から爆炎が放たれるも、当は既に躱していた。

 が、そこに膝が襲いかかる。

 

 

「おっ!?」

 

 

 確かに答えは下だった。

 だが、ここに来て爆豪が攻撃を当ててきた。

 奇しくも当たったのは、王華の攻略法と同じ。選択肢を限界まで与え、当たりを出した直後に高速で攻撃を叩き込むという方法だが、それができるものはかなり限定される。

 獣じみた爆豪の無作為な攻撃と、二人の攻撃が今、偶然にもそれを可能にしていた。

 

 

「んんん!!」

 

「コレなら!!」

 

 

 やらしいタイミングで仕掛けてくるなぁ。

 この爆発ヤローだけなら問題ないが、この二人、ほんとタイミングが良い。

 俺の個性の特性、気づいたかな。

 

 耳郎の爆音は捨てる。鼓膜が裂けないなら問題ない。

 麗日の礫。無重力であれば軌道は直線。問題ない。

 最後は、コイツか。

 

 

「死ねェ!!」

 

 

 うーむ。喰らえばまーまーだな。

 ちょっと舐めすぎてた。

 コイツ、学生にしちゃかなり強い。

 

 切り替えるか。

 久々に、戦闘用に……

 

 高速で、脳内へと流れる問いと答えの数々。

 それを実行するだけの力は、当にはあるが、アタリは引かない。

 

 敢えてハズレを引き、開いた爆豪の掌に自らの掌を重ねる。

 爆発の衝撃はもろに喰らうが、被害は右腕だけですんだ。

 

 

「くら──おっ?」

 

 

 カカト落としを右肩のパッドへと放つが、爆豪に当たる前に咄嗟に飛び退き、地面に手足を付けたまるで豹のような体勢の当。

 

 麗日の無重力で放った手錠は虚しく空を切って飛んでいった。

 

 

「いいねいいねーお茶子ちゃんも。それにばっちゃんも、響香ちゃんも」

 

 

 なんだ、全員尻上がりか?

 もっと来い。もっとギリギリまで攻めて来い。

 俺に『生』を感じさせてみろ。

 本当に、ちょっとだけ……愉しくなってきた…

 

────ッ!!

 

 三人を重厚な殺気が包み込み、当は四足歩行の獣の如く飛び出した。

 

 

 

──

 

 

「あら?あいつ、やる気出しちゃったな」

 

「……どちらもさっさと仕留めんのが悪い。あぁなった奴は面倒な事この上ない」

 

「んー。お互い遊びすぎだったからねー。私だったら開始と同時に全員で一気に殺し行くけどなぁ」

 

 

 令親と王華と、物騒な想のセリフにA組にはハテナが浮かぶ。

 まーいっか、と言った令親が解説を始めた。

 

 

「当選っつったろ。アタリばっか引いてても、良いアタリが出なきゃあいつは躱すしかない」

 

「でも、今は彼に攻撃は当たっていますわ?」

 

 

 八百万の質問に嬉々として答える令親は、八百万の発育のいい、更にコスチュームの所為でほとんど出ている谷間を堂々と凝視しながら語る。

 その様は、まるで胸に話しかけているようにしか見えなかった。

 

 

「そうなったら面倒なんだよ。ほら、意味も無くその辺破壊してるだろ?攻撃するわけでもないのに」

 

 

 令親のあからさまな視線に、腕を組んで胸を隠した八百万から視線を外し、モニターを指差して八百万の視線をモニターに向けさせると、また谷間を見つめる。

 

 

「それは……さっきからその視線はどうなんですの!?」

 

「いや、悪い。ん?…いやいや、君も悪い」

 

 

 何故か八百万が悪いと言い出し、男子生徒の方へと同意を求める令親。

 

 

「王華ちゃん。どーいう事なの?」

 

 

 全く話が進まないため、王華へと話を振る葉隠。

 

 コイツ……なんでもかんでも聞いてくるな……

 

 と、思うも、燈と似たタイプだったと思い話してやる事にした。

 

 

「大きなアタリを狙っているという事だ。アイツは『オカルト』『カクヘン』『トッカン』だのと呼んでいたが、躱し一辺倒じゃなくなった奴の戦闘スタイルは滅茶苦茶だ。やりづらい上に、強烈な一撃が、予期せぬところから突然舞い込んでくる」

 

 

 周りの視線を独占している王華に腹でも立てたのか、ズイッと令親は王華の前に立ち、少しだけ真面目な顔をしていた。

 

 

「凶悪な敵だと思えっつったろ。個性教えたのに、なんも考えてなかったな。いや、女子二人は考えてる節はあったか。当を相手にするなら、開始と同時に全員で力押しが正解。それにこの組での攻略のキモは口田の手数だったんだが、最初から受けになったのは論外だったな。青山は自由すぎるし、あのワンマンヤローな帝男版も悪い。つまり、男子全員が今回の赤点だな」

 

「オイちょっと待て……どう言う意味だ貴様……」

 

「あーでも確かに似てるかも!」

 

 

 金髪で赤い眼。そして自己中で偉そう。確かにと納得している面々を睨みで黙らせる。

 

 呑気にそんな話をしている間にも、戦闘は続いていた。

 

 

 

────

 

 

 

「クッ!!──コラァ!!」

 

「そーじゃない。さっきのやつやれよ」

 

 

 爆発の衝撃が到達する前に移動しながら右脚を振り抜き爆豪の脇腹のパッドへとぶち当てると反動のままに麗日を襲う。が、横から爆音を放たれ耳からは血が飛び出るが、構いもしない。

 

 

「マジ!?この距離の、ウチの音で止まりもしないの!?」

 

 

 ハズレだろうと、来ると"わかっている"痛みなら耐えられる。

 

 答えを出したその上で、次なるアタリのために一つ目の小さなアタリを捨てると言った行動に出る。

 小役はいらない。

 欲しいのは、強力な大当たり。

 だから、この場を掻き乱し、様々な可能性を生み出していく。

 

 

「響香ちゃん、本当に良いなぁ。ここぞで打ってくるねー。狙ってんなら大したもんだけど、逆に予想しやすい」

 

「クッ!」

 

 

 バトルヒーロー直伝の体術も通用してない。

 余所見しながら、話しながらなのに、私のフィールドに全然持ち込めない。

 この人、私よりも強くて、速い……

 なのに、なんで攻撃を仕掛けてこない?

 

 

「ドケっつってんだろ丸顔!!下がってろ!!」

 

「お優しいこって。お前の当たりはお茶子ちゃんを信じて、大爆破だったんだよなー」

 

 

 爆豪をいなして、またも床を砕き割る。

 

 

 

 そこで、光輝くアタリが見えた。

 ずっと頭に浮かべていた、"終わり"の選択肢。

 

 撒き散らしたコンクリート片。

 麗日の個性の発動している瓦礫。

 爆豪、麗日の位置関係。

 そこに対角線上に位置する耳郎。

 

 どうやら全ての条件が揃ったらしい。

 ずっと待ち望んでいた、コレしかないと言う、眩い大当たりの目。

 

 

 キタキタキタキタ!!!

 コレだよコレ!!

 なんだ、学生なんて面白くもなんともねーと思ったけど、中々楽しませてくれたわ!!

 この輝きは、久しぶりだなーー!!!

 

 

「メガってとこかな。でもこれで、終わり!!」

 

 

 その場で右足を、大きく振るう当。

 

 吹き飛ばした瓦礫は瓦礫同士がぶつかりあい、ビリヤードのように縦横無尽に飛び交っていく。

 爆豪のパッドを一つ破壊し、麗日のパッドも一つ破壊。

 耳郎のパッドも一箇所を破壊したところで、礫全てをぶち壊すほどの大爆発が起きる。

 

 

「礫なんざ──」

 

「大当たりの光の渦からは、誰も逃れられない。これで終わりの最強の目が出たからなぁ。めっちゃきもちー!!」

 

 

 最大限にニヤケている当の言う通り、もうこの渦からは逃れられない。

 それは、定められた運命のように。

 

 爆豪の起こした大爆発により、麗日自身は巻き込まれていなかったが、吹き飛ぶコンクリート片が"偶然"にも二つ目のパッドに命中し、残り一つに。

 麗日の個性により無重力状態の瓦礫は爆破から飛び退いた拍子に解除され、"たまたま"耳郎のパッドを襲い、残り二つに。

 緩くなった屋上の床は崩れ、折れた柱が飛び出してきた事によって、"運悪く"爆豪の最後のパッドが破壊された。

 

 

「なっ!!?」

「床が!!?」

「うわっ!!!」

 

「ハッハッハッハーーー!!!」

 

 

 四人共が突如崩れるビルの屋上とともに落ちていく中、当だけは大笑いしている。

 麗日は個性で自分を浮かし、脱出を測ったところで落ちてきた大きなコンクリート片にぶつかり、最後のパッドも破壊され脱落。

 最後の耳郎も、背中から落ちた拍子に背のパッドが壊されるも、なんとか起き上がった。

 

 

「……本当に、ヒーローになりたくないの?こんな強いのに……」

 

「俺は、向いてないんだよ。

 

──まぁ、響香ちゃんみたいにかわいー子から強いって言われんのは嬉しいけどね」

 

「はっ!?アンタ何言って──」

 

 

 一瞬、ほんの一瞬だが、惚けた顔が鳴りを潜めた当へと向かって歩き出した耳郎。

 

 

「上、気をつけた方が良いよ」

 

 

 すると、いつものニヤけた顔で、当が上を指さした瞬間、降ってきた瓦礫がちょうど最後の一つであった肩のパッドにアタリ、当の勝利で二回戦も終了した。

 

 

 

────

 

 

 

 クソッ!!一番になるんだ……俺は……!

 それを、あんな奴に……

 

 

「なーなー。怒んないで聞いて欲しいんだけどさー」

 

 

 最も会いたくない奴が、ヘラヘラしながら近づいてきやがる。

 今すぐ爆破してやりたい衝動に駆られるも、あの丸メガネがあそこにいる以上……

 

 

「最後、お前がお茶子ちゃんごと俺を爆破してりゃ勝ちの目は無かった。それくらい俺にハズレを見せるやつなんてそうはいないんだし、自慢していいよ」

 

「喧嘩売ってんのか……?」

 

 

 イライラする。

 いますぐコイツをブッ殺してやりたい……あの女を倒す前に、こんな奴に……

 

 

「俺はぶっちゃけ完成してっからさ、君らの方が伸び代あるよ。あと、爆破のリスク、もうちょい攻めても良いんじゃね?そしたら、俺が受けたこの右腕は吹き飛んでただろうし。意外と冷静なところは天然なブラフって感じでいいと思うから、後は基本的な動きも精度と速度上げて…あっ!喧嘩売ってるとかじゃなくて、コレも中指から言われてるからであって、別にお前のためにわざわざとかではなくてね。俺はツンデレとかじゃなくこれはマジなやつなんだけ───」

 

「ウルセェ…!!さっさと俺の前から消えろ…クソニヤケ!!」

 

「はーい!打倒王華ちゃん。ハードル高いけど頑張れや。

 

──俺も、"まだ"勝てねぇから」

 

 

 火傷を負った右手を上げて去っていくニヤケ。

 リスクを……攻める。

 アイツは右腕犠牲にして、ダメージ覚悟でも攻め込んでくる。

 耳の爆音も、丸顔の技も、一切無視して切り込んでくる。

 

 対して俺は、無傷に近い。

 今だってリスクを背負っていないわけじゃないが、爆破を"圧縮"する事ができれば、丸顔が粘ったタイミングで、俺が勝てた。

 

 負けてねぇ。

 俺はまだ、負けてねぇ。

 

 

「おい!クソ女の前にまずはテメェをブッ"倒す"!!覚悟しておけ、俺はまだまだ、これからだ!!」

 

 

 最後は、何故かニヤけてない顔で俺を見やがった。

 

 

「おー。リベンジ大歓迎。また楽しませてちょー」

 

 

 それも一瞬で、またもヘラヘラしながら去っていく。

 

 そうだ。俺はまだ、これからなんだ……!!

 

 アイツもクソ女を狙ってる。

 

 見てろよ。

 お前もあの女も、ブッ倒して、一番になるのは、俺だ……!!

 

 

 

────

 

 

 

「うへぇーこえかったーー」

 

「アンタさぁ!」

 

「うへぇーこっちでも怒られんの?」

 

 

 爆豪から逃げるように離れ、次は何も言っていなかった麗日と耳郎に苦言を呈す為にきたのだが、こっちでも耳郎に怒鳴られる。

 

 

「ま、まぁまぁ。それにしても強いなー。私らに足りんもんって、なんなん?」

 

「あー癒されるわー。お茶子ちゃん好きだわー」

 

「ウチは!?」

 

「へ?」

 

 

 初めて受け入れられた事で大袈裟に喜ぶ当であったが、耳郎は自爆していた。

 

 

 いやいやいや、何言ってるんだウチは……

 面と向かって可愛いとか言われたの初めてなだけで、別にそんなの、なんとも思ってないし!

 

 

「なんでもない!!」

 

 

 あぁーまた声デカくなってた気がするし……

 目の前のこの男のニヤケ顔がどんどんとだらしなさを増していくし……

 ほんと、そんなんじゃないし!!

 

 

「俺は何時でも耳郎 当になる準備できてるぞ?」

 

「まさかの婿養子!?」

 

「ブフーッ!!」

 

 

 思わず突っ込んでしまい、麗日は吹き出してるし……

 なによりも、その惚けた顔がまたムカつく!!

 

 

──ドックン!!!

 

 

「ぎゃあああ!!!」

 

 

 イヤホンジャックを直に刺され、心音を爆音で流し込む。

 たまらず悲鳴をあげる当であったが、転んでもタダでは起きない。

 

 

「わかってる。俺も、響香ちゃんと一緒……ドキドキしてる!」

 

「今のは確率で避けられへんの?」

 

 

 麗日の言葉で、一瞬の沈黙の後、何故ここにきたのかを思い出したのか、コホンと咳払いをして、ふざけたニヤケヅラを、ただのニヤケヅラに直した当は話し出す。

 

 

「いんや、避けれたよ。今のは、食らってもいいやって感じ」

 

「はー。つっよい個性……」

 

「むっ……」

 

 

 「避けれたよ」「食らってもいい」

 確かに本気では無かったが、そう言われると流石にプライドが傷つけられる。

 だが、彼はそんな耳郎の考えなど理解した上で話を続ける。

 

「強い個性に"した"んだよ。擦り減らして、精度上げて、上限増やして、頭ん中ぶん回して。

 

 あと、足りないもんね。まー全員に言えるけどさー、危機感ないよね。

 天井ぶっ壊した時も、自分に個性かけんのはいいけど周り見てなくて脱落したのがお茶子ちゃん。

 天井ぶっ壊れた後ってのに上に警戒向けてない響香ちゃん。

 自分は死なないとでも思ってんのか知んないけど、訓練って、そもそもそういう覚悟持ってやるもんじゃね?本気度で得るもんなんか全然変わる。ばっちゃんはやかましいけど、その辺一番わかってると思うぞ」

 

 

 二人は、顔はニヤけたままだが目が一切笑っていない当の空気に飲まれている。

 どんな経験をすれば。こんな目ができるのか。

 

 でも、コイツに助けられた形にはなったけど、ウチらだって、

 USJの時──

「USJの時は」

 

 え?ウチの考えてる事……

 

 

「あん時最初に潰した奴は当時の君らは余裕で殺せるくらい強かった。それに、二番目に俺が蹴り飛ばした奴の個性は電気系。上鳴の個性も効かないし、君らはうつてなしでお陀仏。って事もあり得たわけだ。

 命ってさ、思ってるよりずっと軽いんだよ?」

 

 

 アレ?コイツ……真面目な顔してる……?

 

 黙っていれば二枚目な当の顔を思わず凝視していたが、そんな耳郎の視線に気づき、ヘラっと口角をあげた。

 

 

「あん時は俺がいたから良かったよーなもんだぞーって事。でも二人ともいい線いってるし、頑張ってねー」

 

 

 ヒラヒラと無事な左手を振りながら去っていくアイツの背中がやたらと大きく見える。

 

 あの強さで同い年。

 しかも、全然本気を出しているように見えなかった。

 爆豪や轟、ヤオモモにも、嫉妬が無かったわけじゃない。

 ウチは、クラスのトップ集団に乗り遅れている……

 そこに甘んじてる自分が、何処かにいた。

 ウチはウチにやれる事をやるんだと。

 でも、そうじゃない。

 言い当てられた。

 物足りないと。

 だったら、もっともっと必死に、もがいてやる。

 

 そんなアンタは、ヒーローに向いてないと言うけど……

 じゃあ、あの顔はなんだったのか。

 ウチは、それが知りたい。

 だから、いつか負かして、その本音を聞き出してやる。

 

 

 今日この日から、耳郎の中で十三分一 当と言う存在が大きくなっていった。

 

 

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