敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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襲撃か撃退か

──────

 

 

 

 

 

「個性を伸ばす?」

 

「あぁ、お前ら四人は其々の見解で構わないから生徒を見てやれ。特に常闇はラグドールが異変感じとればマンダレイからテレパスが飛ぶ。そこは糸宿がつけば良いだろう」

 

「ふん。そのラグドールという者が私達も監視しているのだろう?」

 

 

 朝も早くから叩き起こされたU組四人だが、ブラドキングの説明に王華は普段と変わらず遠くを眺めながらも思った事を口に出す。

 当は伸にもたれかかりながら目を閉じており、伸は直立不動のままに目を閉じている。想だけが、昨日の補修の疲れはないのか、ワクワクと胸を高鳴らせていた。

 ブラドキングはそんな王華の言葉にも顔色を変えることもなく、華麗にスルーすると、続きを話し出した。

 

 

「俺は中指とは違う。お前たちも、歴とした雄英の生徒だと思っている。A組はもう始めており、B組は今加わったばかりだ。まずはB組を見てやってくれ」

 

 

 ブラドキングとイレイザーヘッドに言われるがまま、U組の四人は各々散っていった。

 

 とはいえ、まともに助言ができるものは二人しかいない。

 その二人のうちの一人、王華は葉隠や芦戸、茨からの質問攻めにあい、それとなく助言をしており、もう一人の当は耳郎や柳に精度や上限の上げ方を自身の個性も使いながら的確すぎるアドバイスを行っていく。

 

 説明や助言に向かない二人のうちの一人、伸は常闇のいる洞窟の前で胡座をかいて船を漕いでおり、もう一人の想は吐きそうなお茶子の背をさすっていた。

 

 

 

「王華ちゃん王華ちゃん!どうこれ!?

──集光閃光フラッシュ!!」

 

 

 恐らく指先であろう位置から光を放つ葉隠に王華は眉を顰める。

 

 

「その程度じゃあ目眩しにもならん。集められるのなら屈折させ、ピンポイントで放て。それと、可視光をもっと意識しろ。一瞬であれば、貴様以外のものを視界から消す事も可能になるだろう」

 

「可視光ってのが全然わからないんだけど……」

 

「集めた光の性質を感じろ。貴様と私は違うが、体内の気の扱いと似ているのであれば、丹田に込め、全身に行き届くよう、薄く張り巡らせろ。そうすれば徐々に性質の違いくらいわかるようになる」

 

 

 わかったのかわかっていないのかはわからないが、葉隠は拳をブンブンと振る。

 

 

「わかったーーー!やったんぞーー!!」

 

 

 そう言うと、早速光を集め、神経を研ぎ澄ませて行く。

 

 

──

 

 

「全然違う。どうしたいかだって。腹筋でも腹横筋か腹直筋かって意識してやらない?どこをどうしたいかをイメージしないと。ただ痛めつけてるだけじゃブサイクな筋肉ついちゃうみたいな。────んーとね、レイ子ちゃんはいーぃ感じ!精度重視ならそのままで、ちょっとずつ重く、速くしていけばいいんじゃない?一回神経擦り切れるまでやってみたらいいと思うよー」

 

「ねぇ、ウチの扱い雑じゃない?」

 

 

 柳に対してヘラヘラとしている当に、不機嫌そうな耳郎。ただ、その後のアドバイスも全てアタリ付きのため、文句を言うにも言えない。しかも、当が助言をする回数は耳郎がダントツで多く、その頻度は目敏いものがナニカに気付くほどになっていた。

 

 

「てかさ…ウチのところ来過ぎじゃない?そんなにできてない?」

 

「へ?そう?めっちゃ無理してるから来てるだけなんだけど……それ以上やるとハズレんなっちゃうから、今やるなら───」

 

 

 実際当に他意は無く、助言と言っても適当に選んだ人間が今のままだとハズレな場合に声をかけていただけなのだが、当との対戦以降、自分を追い込み続ける耳郎にオーバーワークというハズレが見えることが多くなっていただけであった。

 

 

「まっ。やり過ぎ注意ってこと。ただ、そういうのすげーわかるし良いとは思うけどね」

 

 

 上限を増やすために頭をフル回転させる特訓中、スロットを前に脳がショートして鼻血を噴き出した過去を思い出し苦笑する当であったが、耳郎は別の意味で受け取ったようであった。

 

 

「わかったから!痛くなったらやめたら良いんでしょ!?ほら、早く他の子見てあげなよ。ウチの事はもういいから」

 

 

 必要以上に、少し強く拒絶の意思を示した耳郎に、当は一瞬キョトンとした顔をするも、すぐにクルリと振り向いた。

 

 

「へーい。今後は響香ちゃんには近づきませーん」

 

 

 当は耳郎の方を見ることなく、プラプラと自分の定位置であった丸太に腰掛け、ボーッとする事に没頭しはじめた。

 

 

 自分が必死になっているのに形にならないことを笑われたような気がした。

 たぶんだけど、アイツはそんなヤツじゃないのに。

 ちょっと強く言ったかも知んないけど、今後なんて、そんな言い方しなくても、いいじゃん……

 

 

 

──

 

 

 

 昨日の、世話を焼くのは今日までという言葉通り、今日は夕食も自分たちで作ることとなった。

 

 A組B組がそれぞれ協力して作業をしている中、U組は想が炭の塊を作り出し、当はスプーンを握りしめて椅子から立ち上がる気配は無い。

 伸も当と同じだが、違うのは何も持たずに寝ているところ。

 

 

「おっ!きたきた!ありがと王華ちゃ……」

 

 

 しばらくして王華だけが食事を完璧に作り上げてテーブルへと現れたが、どこをどう見ても、皿はひとつしか持っていない。

 

 

「ちょちょちょっ!普通さー俺らのも作るんじゃ無いの?」

 

「知らん。私が他人に奉仕などする筈がないだろう」

 

 

 目の前で一人、湯気の立ち登る出来たてのカレーを頬張っていた。

 それを呆然と見つめる当に、想はトントンと肩を叩くと、食事をひとつ、当の前に置いた。

 

 

「これ、良かったらだけど……食べる?」

 

 

 消炭がこびり付いただけの鍋を目の前に置かれた当は早々に"B"組の元へと移動した。

 

 

 

────

 

 

 

 

「おまたー」

 

「仕事……仕事……」

 

「やれやれ。随分と芸術性に欠ける連中だ。私の作品創りの邪魔はしないでくれ」

 

「下らない連中な事は確かだ。がひとつ言っておこう。豚は俺がやる。貴様らとて、手を出したら殺すぞ」

 

「はぁ?んだこの坊ちゃんは?テメェからやってやろうか?」

 

「黙ってろイカレ野郎共。決行は、明日の夜だ」

 

「私は、このお方の命令でしか動く事はない。肝に銘じておけ」

 

「はいはい、わーったよ。威勢だけのチンピラをいくら集めたところでリスクが増えるだけだ。やるなら経験豊富な少数精鋭」

 

 

 その日の夜、十三人の敵が遥か遠くの山から見下ろしている事に、雄英は気づいていない。

 

 

「まずは思い知らせろ…てめェらの平穏は俺たちの掌の上だということを」

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 だが、それと同時に、遥か遠くからニヤリと笑う一つの影に見つめられている事にも、敵たちはまだ気づいてはいなかった。

 

 

 

──────

 

 

 

 林間合宿3日目

 

 

「補修組。動き止まってるぞ」

 

 

 時刻は昼過ぎ。

 昼食を終えた後、昨日に続き個性を伸ばす訓練の中、イレイザーヘッドはポケットに手を突っ込んだままに口を開く。

 

 

「オッス…!!」

 

「昨日の補修が……」

 

「すいません、ちょっと眠くて……つか、想なんであんな元気なの……」

 

 

 補修組である、切島、瀬呂、芦戸、上鳴、佐藤の五人は、両手に3個づつと頭にひとつ、一度に七個ものバケツ持ってテケテケと走る想を見て思う。

 

 

「オイッ!入れすぎだ!!」

 

「あっごめんごめん。でも爆発さん太郎くんのとこすぐ無くなっちゃうからー。レベル上げ頑張ってるね!」

 

「ウルセーッ!誰が爆発さん太郎だコラァッ!?花畑女がッ!!」

 

「ありゃ?切島くんが昨日そー言ってたけど、違うの?」

 

「切島……殺す……」

 

「もー行くねー!また来るねー!」

 

「もー来んな!!」

 

 

 爆豪が手を突っ込んでいるドラム缶にバケツ四つ分の水を入れつつ、次は轟の方へと駆けて行く。

 

 

「どーなってんだ、アイツの体力……」

 

「補修終わってからも、部屋で帝に絡んで騒いでたよ……」

 

 

 個性訓練をして無いとはいえ、想はウキウキとひたすらに楽しそうにしている。それは昨日の補修中すらもであった。

 

 

 

────

 

 

 

「アハハハハハッ!!君そんな事もわからないのかいっ!?超がつくほどに優秀なU組とは思えないね!!」

 

「うん、全然わかんないの。だから教えてよー」

 

 

 物間の嫌味にも嫌な顔ひとつせず、むしろニコニコとしながら隣に座ると、ここを教えて欲しいと算数のドリルを広げる。

 

 

「……ここは、これを代入するんだ。そうすれば……って、こんな事してたら僕が進まないじゃないか!!」

 

「ふむふむ。そうすれば、ここがこうなるのかー。じゃあコレは?」

 

「僕の話聞いてたかいっ!?」

 

「えへへー教え方うまいねー。当くんみたい」

 

 

 そんな調子で物間やA組とブラドキングと全員に絡み続け、周りは散々振り回されたところで。

 

 

「すんませ〜ん。ちょっと道に迷って、隣町までいっちゃってて〜」

 

 

 深夜も0時を過ぎた頃、2時間以上遅刻でイレイザーヘッドに襟を掴まれた姿で現れた亡女補修担当の当に、全員が殺気の籠った目を向けていた。

 

 

────

 

 

 

「亡女はアレだが、常に自分の掲げた目標のために動いている。皆もダラダラやるな」

 

 

 イレイザーヘッドは一度補修組含め全員に喝を入れる。

 

 

「何をするにも、原点を常に意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗かいて、何の為にこうしてグチグチ言われるか。常に頭に置いておけ」

 

 

 あの四人…いや、亡女以外の三人の原点は、理由があるとはいえ、随分と歪んでしまっているが……

 

 

 

──────

 

 

 

 

「さて、腹も膨れた。皿も洗った。お次は……」

 

「「肝を試す時間だーーー!!」」

 

 

 ピクシーボブから聞いていた、今晩のクラス対抗肝試し。

 

 聞いた時からテンションの上がっていた芦戸と想は二人で拳を天に突き上げ、踊り出さんばかりの勢いではしゃいでいる。

 

 

「その前に、大変心苦しいが……」

 

 

 イレイザーヘッドは芦戸と想、その他数名に、頭を掻きながら指を指す。

 

 

「補修連中は、これから俺と補修授業だ」

 

「うそだろ!!?」

「そんなぁ!!?」

 

 

 芦戸の黒い瞳と、想の金色の瞳が飛び出るかというほどに見開かれるも、イレイザーヘッドの捕縛布に簀巻きにされる。

 

 

「三奈ちゃん!!肝試しは!?ねぇ!?私の肝、試せないの!?」

 

「堪忍してくれえ!!」

「試させてくれえ!!」

 

「すまん。日中の訓練が疎かになっていたので、こっちを削る」

 

 

 ズルズルと引きずられて行く補修組の目には、微かに涙が浮かんでいた。

 

 

 

 

 クラス対抗の肝試しのルールは簡単。

 B組と王華が先行で脅かす側。

 A組と伸が二人一組が3分おきに出発し、約15分のルートを一周すると言うもの。

 ただし、ルートの折り返し地点にある、名前の書かれたお札を取ってくることが条件であった。

 

 脅かす側は個性使用は自由ではあるが、直接の接触は禁止。

 

 

「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!!」

 

「やめて下さい、汚い……」

 

 

 わっとポーズを決めて言うプッシーキャッツの四人に嫌そうな顔を向ける耳郎であったが、当の姿がない事に気づき、キョロキョロとしている。

 

 

 あれ、アイツなんでいないんだろう?

 亡女の補修担当も今日はないって、先生も言ってたのに。

 また、どっかでサボってるのかな?

 

 

「響香ちゃーーん。探し人?」

 

「わっ!違う!そんなんじゃないって……」

 

 

 葉隠の接近に気づかず驚いてしまったが、こんなの本当に、ウチらしくない。

 今後とか言う、アイツが悪い。

 これが終わったら、肝試しが終わったら、また話してみよう。

 実際、アイツ教えるの上手いし。それだけだし。

 

 また、明日、教えてもらえばいいんだ。

 

 

 

────

 

 

 

 

 肝試しも始まり、十数分が経過した頃、B組と共にいる王華は組んでいた腕をゆっくりと解いた。

 

 

『王華……』

 あぁ、わかっている。

 

 燈の呟きに心の中で答え、微かに香る匂いと、なんとも言えないこの感覚。

 間違いなく、敵がいる。

 

 

「クククク………面白い。仕掛けてくるなら、返り討ちにするまでだ」

 

「ん?」

 

「王華、どうかした?」

 

 

 突如、一人で語り出した王華に不思議そうな顔をする小大と拳藤であったが、

 

 

────ッ!!?

 

 

 王華から噴き出す闘気に驚く。

 

 

「王華!?なにが……」

 

 

 拳藤の呟きに応える事はなく、ただ一点を王華は見据えていた。

 

 

 

────

 

 

 

「にゃんで君はあちきといるのー?」

 

「えー知子さんは俺といるの嫌っすかー?一人じゃ寂しいかなと思ったんですけどー」

 

 

 ニヤニヤと微笑む当に、ラグドールはその大きな丸い瞳を向ける。

 逆にニヤニヤと当を見ながら。

 

 

「気になるクラスメイトがいる癖にー」

 

「それ、『サーチ』っすか?」

 

 

 この質問に意味はない。

 既に答えは出ているから。

 

 

「違うよー。見てればわかるよ。君は──」

 

 

 ラグドールの言葉を遮り、当は私服のポケットに手を突っ込んだまま、後ろへと振り返った。

 

 

「まぁ、俺が敵でも、欲しいのはラグドールだしな。どうやら、大アタリ?」

 

 

 

『それはどうだろう?大ハズレかも、しれないよ?』

 

 

 当の呟きに答える蠢く影を眺めながら、当はこの場での答えを模索し始めた。

 

 

 

────

 

 

 

 

 同時刻、出発地点。

 

 

「何このこげ臭いの………」

 

「黒煙……」

 

 

 立ち上る黒煙を不審がるピクシーボブとマンダレイと、虎。

 

 そして。

 

 

「うぉ!!?どうした糸宿!!?」

 

 

 伸がその体を6mまで、縦にも横にも伸ばし、その車ほどもありそうな掌を前へと突き出した。

 地面は突如巨大なクレーターとなり、そこから飛び出す三つの影。

 

 

「ふふふふふ。私に気づいたかい?小さな芸術家が、随分と大きくなったものだ」

 

 

 染めているのかと言うほどに黒く艶のある黒髪と、口元に蓄えた髭が特徴的な燕尾服を着た男性が伸を見据えている。

 それと同時に、ピクシーボブが夜だと言うのにサングラスをかけた男に巨大な鈍器のようなもので頭を殴られ、その顔を地面に押し付けられており、爬虫類のような姿の男が倒れた身体を踏みつけていた。

 

 

「なんで……なんで敵がいるんだよォ!!!」

 

「ピクシーボブ!!」

 

「糸宿くん!!?」

 

 

 峰田は叫び、緑谷は心配し、尾白は驚愕している。

 伸はその大きすぎる身体をいつもの2mまで戻すと、初めて感情を外に出し、その口元を醜く歪ませた。

 

 

「お母さん……兄ちゃん……紗和……僕がコイツを殺すから!!」

 

「なぁに、この子?」

 

「子供とはいえヒーローの──」

 

「消えろ。お前らなんぞに用はない」

 

 

 両手を翳し、大男と爬虫類男を自らに近づけ、頭を掴むと地面に減り込ませた。

 

 

「僕が殺さなきゃいけないのは、お前だよ!!」

 

 

 燕尾服姿の男の目の前に一瞬で移動すると、拳を腹へと叩き込むと同時に距離を伸ばし吹き飛ばす。

 

 

「紗和に言われた通り!もう一度殺すから…見てて。ちゃんと、僕を見ててね!!」

 

 

 子供のように叫ぶ伸は、夜の森へとその姿を消した。

 

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