敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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混乱か混沌か

──────

 

 

 

 

 

「退け。反応せねば巻き込むぞ」

 

「ん!?」

 

「うわぁ!!」

 

 

 そこらの木を片手で引き抜くと、王華はその葉が生い茂る木を、横に大きく薙ぐ。巻き起こる風に、向かってきていた煙は晴れていくものの、唯一少し吸ってしまった骨抜が足元をふらつかせていた。

 

 

「あれ…なんだ……これ…?」

 

 

「チッ。まだ湧くか。鬱陶しい能力だ、────疾ッ!!!」

 

 

 イラついたように、木を放り投げると闘気を剥き出しにした王華の蹴りが放たれる。その衝撃波はいつものように研ぎ澄まされたものではなく、威力は低いが広範囲にわたるもの。木々が傾く程の突風は、その煙をも押し返した。

 

 

「王華……もしかして、コレって!?」

 

「状況把握から反応、分析に至るまで全てが遅い。貴様がB組の頭であれば、常に注意深くいろ。そして、判断は速く、正確に行え」

 

 

 小大とともに骨抜に肩を貸す拳藤が最悪を想像したところで、王華はそれを未然に防いだのだと理解した。

 

 

「う……わかったよ…」

 

 

 王華の酷評に少し項垂れるも、今はそんな場合じゃないと自分を納得させた。

 すると、ガサガサと近くの木々が揺れ動く。

 

 

「やはり、帝さんでしたか」

 

「どうなってんだコリャあ!?」

 

 

 王華の放った衝撃波の先にいた、茨と鉄哲が合流したのだが、その瞬間に、王華以外の全員がビクッと震えた。

 

 

【皆!!敵三名襲来!!他にも複数いる可能性アリ!動けるものは直ちに施設へ!!会敵しても決して交戦せず撤退を!!糸宿くん!!交戦はやめて広場に戻って!】

 

 

 全員の頭に響く声。

 マンダレイのテレパスにより、直接頭に響くその声に、王華は笑う。

 糸宿伸が自ら動くとは……それ相応の手練れか、もしくは余程因縁のある相手か。何れにせよ、瞬殺できていないと言う事は、強敵である事は確か。この付近は、煙の発生源に雑魚が一体。他には……

 

 

『人じゃないのがいくつかいる。あとは、遠くてわかんないね』

 あぁ。だが、妙な感じがするな。

 

 燈と二人で敵の戦力を分析していると、続々と近くの気配が集まってきていた。

 

 

「よし、早く施設に戻ろう!!」

 

「いや、俺は戦う!」

 

「鉄哲!?ここは逃げた方が……」

 

 

 戦うと言う鉄哲は、A組とB組の差を、誰よりも強く感じていた。似た個性である、切島には体育祭で敗れ、気づけば表彰台も1位2位をA組に独占された。敵襲撃というピンチをチャンスに変えた、A組は強い。次は、自分たちの番だと、鉄哲はそう思っていた。

 

 

「一年B組ヒーロー科!ここで立てねばいつ立てる!」

 

 

 拳を握り締めた鉄哲。

 そこで、王華の衝撃波を頼りにB組の面々が現れる。何人かの背には毒ガスをモロに吸って動けなくなっている者たちもいた。

 

 

「鉄哲…?」

 

「骨抜ですらこの状態、素直に逃げた方がいいよ……」

 

「私は王華がいるなら、ココで王華といる方が安全だと思う」

 

「ここはプロヒーローの指示に従って帰るべきだと……」

 

 

 推薦組であり、かなりの実力者である骨抜すらも足元が覚束ず、小森、回原、吹出も気を失っている。有毒ガスにより動けない仲間たちと、敵襲撃の事実、相手の数もわからない恐怖に怯えるものもいる。

 鉄哲に同調するもの。保守的なもの。倒れた友達に寄り添い心配するもの。

 その場は混乱の極みに達し、もはや誰が何を話しているかもわからない状況と化していた。

 

 流石の雄英生といえども、教師不在、初の敵襲撃。混乱するのは当然であった。あの茨すらも、少し不安そうに王華を見ている。

 

 そんな中、王華はと言うと、至って冷静であった。

 腰を大きく捻ると、施設の方に向け鋭い蹴りを放つ。

 

 

────!!!?

 

 

 夜で視界を遮られていた森に、突如として現れた道。

 王華の足の一振りで、一直線に木々は切り倒され、夜道でも見通しのいい道が一瞬で出来上がった。

 

 

「黙れ。五月蝿いぞ貴様ら」

 

 

 混乱の極みの中、突如として与えられた退路。

 そして、王華の静かに、だが凛として響き渡るその声に、全員が沈黙させられてしまった。

 

 その中でも流石はB組の姉御である拳藤が、いち早く王華へと詰め寄った。 

 

 

「王華、ここは交戦は避けるべきだ。敵の数もわからないままで…」

 

「それがどうした?では施設は安全と言えるのか?それに、そもそも何をそんなに焦る必要がある?

 

──今ここに、私がいるのだぞ?」

 

 

 混乱は収まったものの、ザワザワと風に靡く葉の音がする中、王華の声は不思議と響いた。そしてその声には、揺るぎない、自分を信じてやまない、絶対の自信を感じさせる力があった。

 

 かつての茨と同じく、物申したはずの拳藤も含め、全員が今、帝王華に魅せられている。

 

 

「わかったか?

………ならば良い。

さて、こうして逃げ道はできたわけだが────」

 

 

 先程自らが切り開いた道を眺め、再度全員の方へと向き直る。

 そのゆったりとした様は、今の非常事態に相応しくない。だが、この場にいる全員は、誰一人言葉を発することなく、王華の言葉や仕草に魅入られている。

 

 

「貴様らは、敵へと背を向け、逃げるだけの腰抜けか?いまこの場にいない者の言葉に従い、何もせず衰えていく腑抜けか?貴様らに、敵を穿つ覚悟は、力はないのか?」

 

 

 大きな混乱と、先の見えない恐怖の中、帝王華と言う絶対の個が、恐怖によりぐちゃぐちゃとなった心の隙間を埋めていく。不安の中、人々が求めるのは安心。そして、王華には人々を安心させるだけの、絶対の強さがあった。

 まるで演説でもしているかのように、王華はB組に向け語りかける。

 

 

「研ぎ澄まし、錬磨したその力はいつ使うのだ?

 それは今この時では無いのか?

 

 この私から見ても、今ここにいる貴様等は決して弱く無い」

 

 

 王華の纏う帝王としての空気がB組を圧倒し、魅了する。

 他人の意見や思いが例え正論であろうとも、強引に自分の理念を押し付け従わせる、王としての気質。

 この場にいない、雄英の教師ではなく、己の言葉に従わせるだけの力と魅力が、この少女にはある。

 

 静かに、だが不思議と通るその声。

 圧倒的な実力者である、帝王華に認められたのだと言う事実が、B組の耳へと染み渡り、自信として広がっていた。

 

 

「かかる火の粉は打ち払えばいい。いったい誰を相手にしているのか、わからせてやればいい。

 貴様等にはそれが出来る」

 

 

 その言葉が終わった時、B組の生徒達は震えていた。

 

 そうだ、何が敵だ。A組は退けた。自分達にもできない事はない。

 こちらには雄英生という自負がある。学び、鍛えた肉体と個性がある。

 そして、ここには王がいる。

 

 ならば、今こそ立ちあがらねばならない!

 

 

「俺はやるぞ……!!止めるな拳藤!!」

 

「止めないよ」

 

 

 すぐにでも走り出さんと言う勢いの鉄哲は拳藤に断りを入れたつもりだったが、拳藤の答えは予想とは正反対のものであった。

 既に、拳藤自身も迎え撃つ気になっている。

 己の力は通じるのだと。この絶対的な存在である王華が言うのだから、間違いないと。

 七対一というだけで、既にありすぎるハンデの上、あの日王華は片手片足を使わなかった。それでも、自分たちは10分ともたなかった。王華のその圧倒的な強さに、圧倒的なカリスマに、拳藤もまた憧れ、心酔していた。

 それ故に、頭の中に構築された陣形を、B組へと伝えた。

 

 

「円場はここで動けないものの護衛。空気凝固で毒ガスを止めて。あとは凡土、レイ子、唯も護衛役に。可能ならゆっくりと施設に向けて撤退を。施設には先生がいるから。

 茨と鉄哲、そしてポニーと私は、敵を迎え撃つ。

 宍田と切奈と黒色は中間に陣取って、この黒煙の中で難しいとは思うけど、宍田の鼻と切奈の眼、黒色の個性でここにいないみんなを探して合流。

 

 わかった?」

 

 

 拳藤の言葉に、全員がうなづき、それぞれのチームに固まっていく。

 そこにもう、恐怖はない。

 今B組にあるのは覚悟と希望。そして、絶対の自信。

 

 士気が最高潮に達したB組に、満を辞して、彼らの王は言葉を発した。

 

 

「良いだろう。貴様らの力、存分に発揮するといい」

 

「「おぉーーー!!!やるぞッ!!一年B組ッ!!」」

 

 

 もともと英雄願望の強い者たち。

 逃げの一手で終わるはずもなく、誰かがその背を押すだけで、今と似たような状況にはなっていただろう。だが、王華の作り出した空気は全員を飲み込み、やる気と自信を、より昇華させていた。

 今この場の空気、この士気、この感情を作り出し、支配している王華の姿は、紛れもなく"帝王"と呼ぶに相応しかった。

 

「帝さん、この場は私たちにお任せを」

 

 

 まるで騎士のように跪き、頭を垂れる茨の肩に、王華は手を置いた。 

 

 

「貴様では"まだ"足りぬ敵は私が払ってやる。ここは任せたぞ、"茨"」

 

 

 茨は頬を染め、下げた頭を更に低くして震えている。

 任せられた。

 認められた。

 我が王に、名を呼んで頂けた。

 

 普段フルネームか、貴様かお前としか呼ぶことのない王華からの、特別。

 茨は歓喜に打ち震え、この後に、その力を十二分に発揮する事となる。

 

 

『ふふふ。流石は私の相棒』

 私は王だぞ?こいつらも、精精足掻き、強くなれば良い。

 

『そうだね……それじゃ、私達も行こうか?』

 そうだな、まずは、この妙な気配を探るとしよう。

 

 

 

 B組の面々は各々行動に移り、王華は高い木の天辺に立ち、腕を組んでいた。

 燈の感性に反応しているのは、人であって人でないような、奇妙な存在。

 王華の直感に反応しているのは、妙な胸騒ぎであった。

 

 

────ッ!?

 

 

 そして、王華の身体から溢れんばかりの闘気と、青白いオーラが噴き出す。

 

 

『王華……コレって……!!』

「まさかここに現れるとはな……待っていろ……」

 

 

 大きな木は尋常ではない脚力により消し飛び、弾丸のように、王華は青白い輝きを放ちながら、闇夜に飛び出した。

 

 

「『オール・フォー・ワン…!!』」

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 マンダレイのテレパスが、施設にいる補修組にも聞こえ、敵襲撃の状況を理解した。

 

 

「ブラド、ここ頼んだ。俺は生徒の保護に出る」

 

「なんで敵が……バレないんじゃなかった!!?」

 

 

 物間の声を無視し、イレイザーヘッドは外へと飛び出していた。

 

 敵の襲撃、更に糸宿が交戦だと?どう言う事だ……状況は……

 

 

「……マズいな」

 

 

 立ち登る黒煙、燃える山の木々を見た時、真横から声が響く。

 

 

「心配が先に立ったか、イレイザーヘッド」

 

 

 つぎはぎだらけの黒髪の男がその左手を翳しており、そこには、膨大な熱量が込められている。

 

 

「────ブラ「滅びろッ!!」ド!?」

 

 

 宙へと飛び、攻撃を躱そうとしたイレイザーヘッドと入れ替わるように、桃色の何かが高速で落下していく。

 猛烈なまでの火力を持った炎が放たれる中、窓から飛び降りてきた想がその男の左腕を斬り飛ばした。

 左手に輝く大剣は地面にまで深く突き刺さり、斬り飛ばした腕からは血の一滴も零れていない。

 

 

「んん?人じゃない?──なら…」

 

「チッ、コイツもリストにあったな……プロヒーローもお前も、邪魔はよして────」

「殺して良いね」

 

 

 右腕を翳そうとするその男が話している間にも、振り下ろした剣とは逆の右手に剣を生成し、唐竹割りを放った想。

 斬り終えた後、人では無い男を見ることもなく背を向けると、既に戦いは終わったと言うような態度で、両手に持つ鈍く銀色に輝く剣を消した。

 

 

「悪と語りあう道理はないわ」

 

 

 頭から股まで、縦に真っ二つに裂けた男は、その身体を黒い液体のように変化させるとその場に飛び散り、二度と動く事はなかった。

 

 

 コイツ……

 炎が個性じゃないのか……?

 それに、リストだと?口ぶりからすると、狙いは…

 

 

「ハッ!?────待て!!亡女!!」

 

 

 溶けたような男の姿に、一体なんの個性なのか、そして敵の目的を考えるイレイザーヘッドであったが、そんな中、想は既に森へと走り出していた。

 

 

 悪悪悪悪悪悪悪悪!!

 そこかしこから悪意を感じる!!

 滅ぼさないと!滅ぼしてしまわないと!!

 

 でも、その前に──────

 

 

「梅雨ちゃん!!私が、必ず守るから!!!」

 

 

 いつかの約束のため、想は疾る。

 悪を滅ぼす事よりも別のことを優先するのは初めてだ。

 

 殺人衝動に駆られる中で、想の頭の中には初めて会ったときの梅雨の顔が思い浮かんでいた。

 

 想は疾る。

 居場所はわからなくとも、楽しみにしていた、肝試しのために集まった広場へと。

 

 

 

──

 

 

 

 

「あの顔で生徒?どー見てもおじん!」

 

「ヤツもリストにあった顔……だが、あのダリが相手であれば問題はないだろ」

 

 

 虎のキャットコンバットを避け、受け、決定打をもらわない、敵、マグネは文句を溢す。

 マンダレイの爪を、あらゆる刃物を無理やりに繋げたような大剣で受けるスピナーは伸の顔を、事前にあったリストから思い出していた。

 

 

「おかしい……ラグドールから返事が来ない!いつもならすぐに連絡よこすのに!!」

 

 

 中継地点にいるラグドールに生徒の引率を任せようと、何度か無線を飛ばすも、"ラグドール"から、応答はなかった。

 

 

『あーあー、もしもーし聞こえますかぁ〜』

 

「誰!?あなた、ラグドールは────」

 

 

 無線から響く声は、この場に似つかわしくないほどに明るい。

 虎もマグネを相手取りながらも、無線に気を取られ良い一撃をもらい吹き飛んでしまった。

 

 

『知子さんなら目の前で死んでるよ。そんなことよりさ…こほんっ。俺、十三分一当は敵連合に入ります。探さないでください。って、雄英に言っといて』

 

 

 死んで…る?……ラグドールが……?

 そんなこと…ですって…?

 

 何を言っているのだこの男は。

 問題児だかなんだか知らないが、コイツだけは……!!

 

 

「あぁ!!?」

 

「脆すぎるぞヒーロー!!」

 

 

 突然の無線と、仲間の死。

 マンダレイの動きが悲しみと怒りでピタリと止まった瞬間に、スピナーに横腹を切りつけられる。

 

 傷口を押さえながらも、頭の中に浮かぶのは、ラグドールの凄惨な姿。嘘だと、嘘であってくれと、マンダレイは心の中で叫び続けていた。

 

 

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