敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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起源

──────

 

 

 

 

 

 糸宿 一(いとやど はじめ)は良くある貧しい家庭に育った。

 

 双子である弟と妹と、母との四人暮らし。

 父は二人が産まれて一年もしないうちに、借金にまみれて蒸発した。

 

 当時の俺はまだ七歳で、父親に会えない事を悲しいと思っていたが、今となっては、次に見かけたら殺すと決めている程に、恨んでいる。

 

 五つ下の弟は良く泣き、良く怒る、とにかく手のかかる弟であった。

 逆にもう一人の妹は、全く手は掛からないがとにかく何もしない。もう一人につきっきりで、いくら放ったらかしにしようとも何もアクションを起こさない。例え漏らしていようと、泣く事はなく、お腹が空いていようが怒りださない、静かすぎる子供であった。

 

 とはいえ、母は昼はパートに出て、夜は水商売に行き、帰るのは朝方。家にいる時はいつもクタクタで子供達にかまっている余裕はなかった。自ずと幼い弟妹たちの世話は全て自分がやる事となっていた。

 

 何食わぬ顔で飯を食い。

 些細な事で怒りだし、最終的には泣き出してしまう。

 何も言わないから、定期的に様子を伺う必要があり、全く気も抜けない。

 

 外を見れば、同年代の子供たちの楽しげな笑い声。

 羨ましいとは思いつつも、エプロンをした自分は、下手くそなりに、家事と育児に追われている。

 

 それでも、俺は、「いつもありがとう」と疲れ切った笑顔で言ってくれる母の助けになりたいと思っていた。

 

 だが、そんな生活が数年も続き、弟妹たちが六歳になった頃、そんな生活も、まだ悪くは無かったのだと思い知る事となった。

 

 

 母は過労で倒れ、弟妹の世話と、母の介護すらも必要となった。

 

 

 俺は、どうしたら良いんだ?

 

 わからないわからないわからない。

 

 それでも、腹は減るし、生きている以上生活はしなくてはいけない。

 遠くの安売りのスーパーまで数時間かけて向かう。

 金はほとんどない。食費にかける金はないんだ。廃棄品を譲ってくれるまで、店の前で土下座を続ける。

 

 擦り切れた膝を撫でながら、騒がしい公園の横を通り過ぎる。

 羨ましいが、仕方がないと思っていた楽しそうな声に、腑が煮え繰り返る。

 

 なんで俺だけ?

 なんの苦労もしていない奴らが、なぜ恵まれている?

 

 電気屋のショーウィンドウに所狭しと並べられたテレビに映る、ヒーローに助けられた自分と同年代であろう子供は、随分と綺麗な衣服に身を包み、母と父に抱きしめられている。

 

 この差はなんだ?

 俺は、なんなんだ?

 

 金持ちしか助けないのかよ。

 俺も、助けてくれよ……

 ヒーロー……

 

 

 

────

 

 

 

「兄ちゃん……」

 

「なんだよ?」

 

紗和(さわ)が……」

 

「…………またか」

 

 

 七歳になった妹はよく問題を起こすようになった。

 

 

「すみませんでした」

 

「なんだお前は?いいから親出せよ!?ウチの子は怪我してんだぞ!?」

 

「……私は悪くない、コイツが悪い」

 

 

 頭を押さえるクソガキと、ブクブクと太った豚が言葉を操る事が不快だった。

 

 

「母は病で、起き上がる事もままなりません。今は兄である俺が親みたいなもんです。すみませんでした」

 

「チッ!裏町の奴等はゴミとか草でも食ってんのか!?いいから慰謝料払えよ!!」

 

「謝れよ!僕を殴った事!」

 

 

 ムカツク。

 ムカツクが、我慢だ。

 今、住む場所まで失ってしまえば、俺たちは……

 

 妹の紗和は、物静かなまま大きくなりはしたが、その身に秘めた激情は計り知れず、こうしてクソ生意気な、裏町の事を馬鹿にするガキとは良く揉めていた。

 

 そうして今日も、頭を下げ続け、心にも無い謝罪の言葉を続け、諦めて消えるのを待とうとしたところで、いつもと違う事が起きた。

 

 

(にぃ)、ごめんね。でも大丈夫。こんな豚、今すぐ消しちゃえばいい。"伸"アレやろ」

 

「う、うん…」

 

 

 いつのまにか着いてきていた伸。

 コイツは普通の、ヒーローに憧れるような子供に成長したはずなのだが、小さい時とは打って変わって、俺の言う事を守る、物凄く聞き分けの良い子供に成長していた。紗和の言う事も聞くので、ただの言いなり君になってしまった感が否めないのが、心配の種だが。

 

 話が逸れたが、そんな双子の弟妹が手を繋ぎ、豚共を見ている。

 

 

「なんだと!?誰が豚だ!?このクソガキども、警察に────」

 

「オイッ!?二人とも何を!?」

 

 

 俺たち兄妹の個性は、誰も知らない。

 出生届を出してしまえば学校に通わなくてはいけない。

 少なくとも、俺はそんな事はできない。

 だから、個性検査も受けた事がないし、俺自身どんな個性なのかもわからない。

 別にそれは珍しいことでもなんでもなく、治安の悪いこの地区にはそんな奴らはウヨウヨといる。

 だが、一本表の通りに出てしまえば、俺たちなどまるで存在していないかのように、綺麗な街並みが広がっていた。この親子は、見るからにその綺麗な街の住人だった。

 それは俺たち裏町の住人からしたら憧れであり、同時に嫉妬と憎悪の対象だった。

 

 でも、俺だってこんな結果を望んでいたわけじゃない。

 

 

「「縮め」」

 

 

 伸が右腕を、紗和が左腕を突き出すと、不思議な事が起きた。

 

 

「オイ何ヲシテイルンダ!?コノ私ニ何ヲシタアァァァァァァアア‼︎⁉︎」

「パパ!!パパ!!僕、変ニ……ウワァァァァァァァァァア‼︎⁉︎」

 

 

 どんどんと、その身体の形を変えていく二人。

 何か言葉を発していたようだが、早すぎて何がなんだがわからない奇声を上げながら、爪は伸び、髪は伸びては抜けを繰り返し、最終的に、腐った肉はズルリと、まるで煮込み続けた鶏肉のように綺麗に骨から剥がれ落ちていた。

 後に残ったのは、人間を象っていた骨が悠然と立ち並び、膝から下には二人を彩っていた肉と毛が泥のように積まれている。

 

 俺は呆然と、前に立つ、大小二つの骸骨を眺めていると、辺りに漂う腐臭が鼻を突き、目の前の光景と相まって俺は涙を流しながら吐いていた。

 

 一通り、胃の内容物を出し終えた俺は、二人を脇に抱え、大急ぎで家へと帰った。

 

 

 口を濯ぎ、顔を洗って、二人を見る。

 伸はアワアワと、とんでもない事をした自覚はあるようだが、紗和の方はと言うと……

 

 

「もう、私のために兄が謝らなくていい。私は大丈夫だよ」

 

「大丈夫……?大丈夫じゃねぇだろッ!!!ココを追われたら俺たちは何処で暮らす!?俺たちは金もねぇ、頭も悪い、母さんは動くのも辛いんだぞ!!この先なんてどうなるかもわからねぇのに……何がどう、大丈夫だってんだよッ!?」

 

 

 うちにある唯一の机を破壊し、俺は五つも下の妹に怒声を浴びせる。

 だが、この変わった妹は顔色ひとつ変えなかった。

 

 

「大丈夫。全部あぁやって消しちゃえばいい。私と伸ならできる」

 

「紗和………伸、お前も同じ考えか?」

 

「え……僕?僕は……どうしたらいい?」

 

 

 この期に及んで自分がない。

 初めて人の死ぬ瞬間、それも奇怪な死に方を目撃して冷静でいられなかった俺は、伸にまで怒り散らしてしまった。

 

 

「お前は……ガキの頃は世話が焼けるし、今は何もかも言わなきゃやらねぇ!!お前は一体なんなんだ!!?やりたい事はねぇのかよ?考えようとは思わねぇのかよ!?お前がそんなだから紗和が調子に乗るんだ!!お前が────!」

 

 

 ここまで、言った時、伸は外へと走って出て行った。

 

 

「兄、ごめんなさい。でも、私達、お母さんにも、兄にも凄く感謝してる。だから、助けになりたかっただけ」

 

 

 肩で息をする俺にいつでも冷静な妹の声が響いた。紗和の言葉で冷静になれた。

 コイツらはまだ子供なんだ。それ以前に、俺の妹と、弟なんだ。

 やった事はもうどうしようもない。今は、次を考えなきゃだな。

 

 

「悪い、紗和。言いすぎた。ただ、アレはやり過ぎだ。もう二度とするなよ。伸を探してくるから、母さんを頼む」

 

 

 コクリとうなづく妹の頭を撫でて、俺は伸を探しに家を出た。

 

 そしてこの時、俺は本当に自分の弟を理解していなかったのだと思い知ったんだ。

 

 

 

────

 

 

 

「伸?兄とは、会わなかった?」

 

 

 僕は……

 

 

「伸?」

 

 

 僕には、何もない。

 やりたい事も、なりたい者も、何も無い。

 ヒーローへの憧れは随分と前に無くなった。

 

 ヒーローは、毎晩泣いている兄ちゃんを助けてはくれない。

 助けてって、毎晩一人で泣いてるのに……

 

 お母さんが元気になれば、兄ちゃんを助けてくれる。

 お母さんを、僕が元気にするんだ……

 

 

「伸、お母さん、眠ったばかりだから……伸?聞いてる?」

 

「聞いてるよ……ヒーローはいない。僕が、家族の、家族だけのヒーローになる…」

 

 

 そうだ。やりたい事、見つかった。

 

 僕が家族にとってのヒーローになる。

 そうしたら、兄ちゃんも笑って褒めてくれるかな。

 

 

 

────

 

 

 

「どこ行った?……全然わかんねぇ……普段アイツらどこで何してるのかくらい聞いとけば良かった……」

 

 

 二時間程度探し回ったが、どこにもいない。

 それに、町中にヒーローや警察がウロウロしているのは、きっとあの死体を誰かが見つけ通報したからだろう。

 そうなれば、俺たちに行き着くのも時間の問題……一旦帰ろう。母さんと紗和だけでもどこかに隠さないと……

 

 

 ヒーローや警察を避け、漸く家の前に着いた。

 伸は帰っているだろうかと扉を開けようとしたところで、声がした。

 

 

「アレをやったのは、君かね?」

 

「──ッ!!?」

 

 

 なんだコイツ、どこから……

 

 

「アレはいぃ芸術(さくひん)だ………と思ったが、君じゃないか。でも、コソコソしてる理由、知りたいなぁ」

 

 

 最悪だ……

 コイツはたしか、敵名、ダリ。

 凄惨な殺害方法を芸術と称するイカれた敵。

 

 敵に襲われるのは、決まって金持ちだろうに。

 それにコイツが言ってるのはおそらく……

 

 

「兄!!」

 

「おや……これはこれは……随分と小さな……芸術家だ…」

 

「来るな紗和!!いいから逃げろ!!母さんも無理矢理でもいい、起こして、この街から離れるん────」

 

「セリフまでありきたり。君は芸術性に欠けるな」

 

 

 クソ!!なんだ、なんなんだ!?

 俺が、俺たちが何をしたって言うんだよ!!

 

 わけわかんねぇこと言いやがって!!

 

 

「────兄!!」

 

「アレ……?」

 

 

 腹が、ヤケにあったかい。

 妹のあんな焦った顔、今更ながら初めて見たな。

 言うこと聞かないところは変わってないけど。

 

 

「タイトルは、そうだな『超立方体的人体(串刺)』としよう」

 

 

 視線もおかしく、俺を掴んでいるはずのダリの全身を視界に収める事ができている。

 不思議に思い、自分の身体を見てみれば、俺の腹を、街灯が突き抜けていた。

 

 

 

────

 

 

 

 紗和が一に助けを求め、家のドアを開ける少し前の事。

 

 伸は母親の前に立ち、右腕を翳していた。

 

 

「伸、何するの?やめて。私と一緒じゃないと、上手く使えないでしょ?」

 

「お母さんの時間をゆっくりにしてあげる。そうすれば、一日もすれば元気になってるよ」

 

 

 寝ていたら良くなると言った母と兄の言葉を信じて、初めて自らの意思で行動に出た。

 双子の妹と共に何度も試した、自分の個性。

 それは伸び縮みさせられる個性。

 

 僕は上手く扱えないけど、相手の個性をほぐして、弱体化させる個性を持つ紗和と二人なら上手く扱えた。

 

 でも、今ならできる気がする。

 僕の意思で、僕が考えてやるんだ。

 

 

「あら……」

 

「お母さん。大丈夫。僕がお母さんを元気にしてあげる」

 

「ん?…どうしたの?し──」

 

 

 これで僕は、我が家のヒーローに。

 

 個性を発動させ、母の時間を伸ばした。

 

 

「んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー………」

 

 

 おかしい、お母さんの時間を伸ばした筈なのに……

 壊れたテレビのように、永遠に僕の名前を呼んでいる。

 

 

「やめて。何したの?お母さん、私がわかる?……お母さん!」

 

「違うよ、僕はお母さんを……」

 

「んーーーーーーーーーーーーーー………」

 

「お母さん、私がわかる?お母さんってば!」

 

「きっと、足りないんだ、もっと…!」

 

「やめてって!!」

 

 

 再度個性を発動させたところで、母は口を開けたまま、何も喋らなくなった。

 今覚えば、声帯の震えさえもゆっくりすぎて、人間には聞こえない音域に達したのだろう、と思う。

 

 

「お母さん………兄なら………伸はここにいて。もう二度と…余計な事はしないで!!」

 

 

 僕は…何を間違えたんだろう?

 自分で考えて、行動してはいけなかったのだろうか?

 でも、大好きなお母さんと、兄ちゃんの助けになるならって…そう思っただけなんだ。

 

 

 

────

 

 

 

 紗和の泣き叫ぶような声が聞こえて、扉を開けるとそこはまるで別世界のよう。

 

 街灯に突き刺さる兄。兄には届かないものの、街灯に縋り叫び続ける双子の妹。

 

 そして、

 

 

「どうやら、君がそうだね。このお嬢さんとの合作といったところか」

 

 

 どこかで見た事のあるような敵と、その手下たち。

 

 

「君はいい芸術家になれる。このお嬢さんは、どうやらストッパーだね。君にはそんなもの必要無い。お嬢さんには消えてもら──」

 

「兄ちゃんにも、紗和にも、ちかづくなぁぁぁぁあ!!!」

 

 

 無意識の元、強制的に自分とダリの距離を伸ばし、彼方へと移動させるとすぐに、兄との距離を縮めた。

 もちろん、兄を助けようと。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!痛ぃぃぃぃぃいいい!!痛いよぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 

 初めて聞いた、兄の絶叫。

 無理矢理に縮められた距離により、腹に開いていた穴は横に裂け、綺麗なピンク色の内蔵は外へと溢れ出していた。

 

 

「兄!!?兄!!やだ!!やだよ!!!伸!余計な事はしないでって、あれ程!!!兄まで居なくなったら……私……」

 

 

 余りの痛みに泣き叫ぶ兄の声が、だんだんと静かになってきた。

 

 

「兄……助かるからね。頑張って……ね?」

 

「紗和、伸、俺はもうダメだ……母さん連れて……早く逃げろ。ヒーローは…来ない……アイツらは……金持ちしか…助けない」

 

 

 既に痛みを通り越し感覚の無くなった一は今、異常なまでに冷静だった。

 物心ついた時から、二人の親代わりとして過ごした日々が脳裏に甦る。ハッキリ言って、楽しかった思い出など数えるほどしか無い。でも、それでも、幸せではあったと。

 

 

「二人は、母さんと……ちゃんと生きろよ」

 

「兄ちゃん、僕が……僕がヒーローになる……兄ちゃんを助ける…!!」

 

「伸、私と、一緒に……」

 

 

 泣きながら、左手をそっと出した妹の手を握る。

 紗和と伸、二人は兄の流れる時間を、母と同じように無限とも思える程に伸ばす。兄の瞼をそっと閉じさせ、横を見ると最愛の、自分の半身でもある妹は居なかった。

 その、繋いだ左腕だけを残して。

 

 

「いい個性だ!!これこそ芸術だ!!永遠の苦しみを与えると言うことか!死すらも与えず!!なんと傲慢で!なんと痛快な個性!!やはり君にはストッパーなど必要無い!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!?紗和ぁぁぁぁあ!!?」

 

 

 片腕の無い妹を掴んだダリには目もくれず、妹の距離を縮めると腕に抱き泣き叫ぶ。

 

 

「ごめん!ごめん紗和!!僕は考えちゃダメなんだ!!兄ちゃんにどんなに怒られても、僕は、僕は何もしちゃダメだったんだ!!ごめん!!ごめん!!」

 

 

 半狂乱で泣き叫ぶ、伸の頬に、そっと残された右手を当てると、紗和は消えいる声で呟いた。

 

 

「私…も…お母さんと……兄と…一緒に……アイツら、兄をあんな目に合わせたアイツらを…許さない……」

 

「紗和……僕に命令してくれ。僕が考えちゃ……ダメなんだ…僕は…」

 

 

 血塗れの自分を抱いたまま、泣き続ける僅か数分先に生まれた兄。

 双子だから、わかる。

 考えてること、思ってること。

 今の、自分自身へのどうしようもないほどの怒りも。

 

 

「伸…怒ってごめん。私たちも伸のこと大好きだよ…お願い、アイツら……みんな殺して。私も…二人と一緒にして…三人で……私たちのヒーロー…伸のこと、ずっと見てるから……」

 

「下町の家族愛劇場は終わりかな?さぁ、私と共に行こう。君の作品をもっと私に見せてくれ!!」

 

 

 もう動くことのない妹の瞼も、兄と同じくそっと閉じ、立ち上がった伸の瞳に、ダリは囚われた。

 その、闇を詰め込んだような、永遠の黒に。

 

 

「…………」

 

 

 無言のままに、両腕を翳した伸。

 その腕の方向にいたダリの部下は、上半身が伸のそばで蠢いており、下半身は後方の壁にぶつかり血飛沫をあげていた。

 

 

「ヒーローになんて、僕はなれない……ならない……」

 

 

 消えたと思えば、並び立つ敵の間におり、その両腕を、二人の敵の腹に当てる。

 そして、個性を発動。

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅうっ!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!」

 

 

 無理矢理に伸ばされた、伸の掌と敵との距離。

 重量の重い身体はそのままに、綺麗にくり抜かれた腹は赤い線を描いてそこらに転がっていた。

 

 

「僕のせいであぁなった兄ちゃんの痛み……お前らも味わえ」

 

「先生!!反撃の許可を!!」

 

「………あぁ、もちろんだ」

 

 

 助手の一人が焦ったようにダリに懇願すると、攻撃の許可を下すダリ。ニヤリと笑った敵が伸の方を向くも、既にその場には誰もいなかった。

 

 

「全部僕のせいだ。僕は何者にもなってはいけない。でも、兄ちゃんに言われたから、三人が見てるから……生きてなきゃ、いけない」

 

 

 ポンと、敵の頭に手を置くと、まるで空き缶を潰したかのように敵は折れ曲がり、赤い中身をぶち撒けていた。

 

 

「紗和に言われたんだ…全員、殺さなきゃ……」

 

 

 

────

 

 

 

 数分後、騒ぎを聞きつけたヒーローと、オールマイトが現場に到着した時には、狭く、古い家の前に転がる無数の死体や、体の一部が散乱しているだけで、随分と静かだった。

 明らかにこの惨劇に関係しているであろう、その小屋の血に塗れた扉を開ける。

 その異様な光景に、ヒーローも警察も、息を飲んだ。

 

 

「これは……」

 

 

 中にいたのは、口を開けたまま動かない女性と、真っ赤に染まったタオルが腹に巻かれている少年と、千切れているであろう左腕がテープで無理やり繋げてある状態の少女の姿。

 そして、その三人の中心で、体育座りでこちらを睨みつけている血塗れの少年が、そこにいた。

 

 

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