敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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勇者か蛙か

──────

 

 

 

 

 

「生徒の重症者は、両足重症の彼と、そこの三人を除けば、ほぼ全員無事か」

 

 

 敵の撃退に成功した後、出入り口前に集められた生徒たちの安否を確認した刑事はそう呟く。

 足の骨が折れている緑谷、脳無の拳をモロに受けていた、血塗れながら自分の足で歩いている三人。

 

 

「ところで、君たちは……」

 

「私は一晩寝たら治るので!それじゃ!」

 

「……………」

 

「リカバリーガールならノーサンキュー!俺は病院のナースの手当てを一年くらいで希望でーす!!」

 

 

 刑事の言葉を遮り、勝手に何処かへ行こうとする想。

 急に身長50cm程度まで縮み、わずかな草むらに横になる伸。

 痛々しい見た目ながらも元気いっぱいに入院を希望している当。

 重傷者ながらに自由奔放な三人ではあるが、その身体から流れる赤い液体が見ていて痛々しい。

 ヒーローを志す、所謂良い奴らなクラスメイトは不安そうな顔で相澤と13号を含んだ重傷者を見ている中、宙に浮かぶ手袋が何かを指差すような形を作り、それはプルプルと震えていた。

 

 

「て……」

 

「手?何が言いたい?」

 

 

 自分を指差していることを理解している王華は、何が言いたいのかわからず、少し考えるように、腕を組み思案しようとしたのだが、

 

 

「帝王……オーガだぁーーー!!!」

 

 

 

『──は?』

 

 

 突然大声をあげる透明人間である葉隠に、きょとんとした顔を向ける面々。

 呼ばれたであろう、当の本人は気にも止めていない様に見えたが、その輝かしい黄金の髪に隠れて顔色は伺えない。

 

 

「私、近所だったから…有名だったし、帝 王華ちゃん…でしょ?」

 

 

 少し顔を上げると、そこには無表情ながらも洗練された顔立ち。

 その高校一年生とは思えぬ、女の色気と、醸し出す雰囲気に、生徒はもちろん、教師ですらも飲まれている。

 組んでいた、そのスラリとした腕に力が込められたのか、制服の上着に食い込む指がその皺を広げていた。

 ピクリと、形の良い眉毛が動き、そのプックラとした唇を震わせた。

 

 

「……帝王と呼ぶのは構わん」

 

 

 ゆっくりと言い放ち、そして、顔を上げると葉隠を視線で射殺すように睨みつけた。

 心なしか、紅い瞳も輝いているように見える。

 

 

「だが、もう一つは二度と使うな!長生きしたければな!」

 

 

 幼少期、その傍若無人な振る舞いは相変わらずだったようで、影でオーガと呼ばれていたらしい。

 王華自身もその呼び名は知っており、幼少期にその発生源を完膚なきまでに、身も心も叩き潰したのだが、既に他校にまでその名は轟いていたのでどうしようもなかった。

 葉隠はその気さくな性格から他校であれ有名な王華の噂は良く聞いていたので、その容姿の特徴すらも覚えていたのだ。

 他の者たちも、結局この四人組がいったいどこのクラスの誰なのか気にはなっていたが、その中で、唯一無傷で話のできそうな王華も、葉隠の一言でプイッと踵を返し、刑事や教師達を無視してサッサと出て行ってしまった。

 

 

 

 この敵襲撃事件で雄英側は重傷者が教師2名、生徒4名に対し、敵側は総勢72名のうち、軽症で捕縛されたものは20名以下。

 重傷者は50名を超えており、その全てが、雄英高校一年U組、その中でも亡女 想が相手をした者たちであった。

 

 

 

────

 

 

 

 テーレーレーレーレ、テッテー♪

 

 

 

「んーーーーー。今日も気持ちのいい朝」

 

 

 脳内に流れる曲に、昨日のケガもまるで無かったことのように平然と朝を迎える。

 亡女 想の1日は、必ずこのメロディーとともに始まる。

 

 そう、何故か一晩眠るとこのメロディーのおかげかはわからないが彼女の消耗した体力も、負傷した部位でさえも元通りになっている。

 

 雄英高校内の外れにある寮の一室で朝を迎えた想は、日課のように外に出て、特に理由もないがブラブラと歩き回るという習性があり、今日もまた、外へと出ていった。

 

 

 ふ ふ ふんふんふんふーん♪

 

 

 超有名なゲームのテーマ曲を鼻歌で歌いながら、テクテクと歩く。

 この時間は好きだ。

 悪人を打ち倒す使命を負った私の安らぎの時間。

 嵐の前の静かさのような、何も無い休日のような。

 そんな喧騒から遠く離れた、こんな日常をぶち壊す悪人を殺……打ち倒す事を想像しながら天を仰いだ。

 

 あぁ。今日も平和!!

 

 この平和な世界を謳歌すべく、今日も亡女 想は散歩を楽しんでいた。

 

 

 

 

 亡女 想は人格が破綻している。

 とは言っても、倫理感が、自分や他者の言動や行動の善し悪しや、正否を測るといった、人としてのモノサシが壊れているわけではない。

 良いことは良い。

 悪いことは悪い。

 と言った感覚はなんなら全ての日本人を見ても、最もポピュラーな見方ができる。

 ただ、悪人と呼ばれる人間に対しての制裁が異常なのだ。

 

 彼女が初めて敵を殺したのは11歳の時。

 既に発現していた自身の個性により、彼女は敵であった育ての親を自らの手で殺し、そのまま警察に二つの首を届けたのだ。

 

 しかし、亡女想は両親を殺され、自身は誘拐された事件の被害者であった。

 とは言え、それを知ったから、育ての親を殺したわけでは無い。

 

 想は誘拐された少女であるが故に、外に出る事を許されなかった。

 両親だと思い込んでいた、愛する家族の言う事ならばと受け入れており、そこに恨む気持ちなどは一切なかった。

 実の両親の顔や言葉を覚えるよりも早く、誘拐され、10年近くもの間ずっと家に篭り、毎日ひたすら与えられたゲームをしていた。

 そのうちに、自分がその中の主人公、勇者であると妄想は膨らんでいた。

 そう、彼女の個性は物心つき始めた3歳で発現し、外出もせず、余計な事を考えることのない少女は8年間ずっとその個性の力を強く、完成されたものへと練り上げていたのだ。

 

 11歳になった想の中では、自分は既に勇者であり、自分の外出を許さない両親は人の皮を被った魔物だと、ある日、そう判断したのだ。

 

 そのため、すぐさま両親の首を切り落とし、その手で生首二つを警察署に届けた少女は、笑顔を浮かべてこう語った。

 

 

『勇者である私を、旅立たせないよう閉じ込めている魔物を倒したの』

 

 

 確かに、彼女の育ての親は敵であり、誘拐犯。

 虐待も疑われたが、不思議と彼女には蓄積された暴行の痕は見受けられなかった。

 だが、自らを殺そうとする娘代わりに対抗したのであろう、親代わりの二人から受けた攻撃により、彼女も血塗れで、四肢はズタズタ。

 腹にも穴が空いていたが、集中治療室に入るも、不思議なことが起きた。

 翌日、全くの健康体となっていたのだ。

 

 その不可解さにあらゆる検査、の前にまずは個性検査をしたのだが、そこで発覚した彼女の個性は【RRPG(ダブルアールピージー)

 つまり、リアルロールプレイングゲーム。

 登場するキャラクターである自身に対してのみだが、妄想した設定を現実に再現する事のできる力。

 少しでもできないと思えば、心の弱いものであれば現実的な事しか為し得ない個性。

 

 だが、約10年もの間軟禁され、感受性を成長させる年少期にゲームのみをしてきたために、本来であれば外から受けるはずの刺激をテレビ画面以外から受けることのなかった、己を疑うことのない彼女にとってはとんでもない個性であり、こうして【勇者こころ】は誕生した。

 

 人間が自分を人間だとわざわざ認識しないように、信じるとかの話ではなく、亡女 想は細胞レベルから勇者として成長していたのだ。

 

 そんな彼女は施設に預けられた後、誰に言われることもなく敵を探し出し、殺害するようになる。

 その度に想自身も怪我を負っているため、当時は超常黎明期の名残もあり、敵の凶悪犯罪は今よりも多く発生していた。

 そのため自己防衛として処理はされたが、過剰防衛として、2年間で逮捕、補導される事50回。

 それ以降、彼女は敵を殺害する事をやめた。

 

 悪とはいえ、殺すと己は囚われてしまう。

 ゲームが教えてくれなかった事を、2年かけてようやく彼女は学んだのだ。

 

 ならば、殺さなければ良い。

 命を奪う事なく、再起不能に追い込むほどにダメージを与えれば良い。

 妄想を妄想と認識すらしていない彼女は、己の絶対の使命、つまり個性【勇者】はヒーローになるまで使っては行けないのだと言う事は理解した。

 相対したヒーローや警察が悪には見えないので、攻撃は加えない。

 だから、気付かれぬように、バレないように、己の使命を完遂する必要があると考え、自由を奪う雷の魔法を、心を傷つける大剣を生み出し、今の亡女想を創りあげたのだ。

 

 何度逮捕されようと、何度指導を受けようと、悪を滅ぼす。

 その使命を想がやめる事も、やめようと思う事すらもなかった。

 

 

 

──

 

 

 

 昨日の出来事、その中でも蛙吹梅雨だけが明確に己の死をイメージした。

 目の前で、絶対の強さを誇っていた、プロヒーローであり、担任でもあるイレイザーヘッドが意識を失う程の重傷を負わされていた。

 死んでいるんじゃないのかと思う程に、痛々しい見た目と、ピクリとも動かないその姿に恐怖した。

 それを悲しんでいる暇もなく、自身に迫るのは、指先で触れたものを粉々に崩壊させる力を持った敵。

 その明確な"死"が、顔先わずか数センチのところまで迫っていたのだ。

 いくらヒーローを志す、天下の雄英高校ヒーロー科とはいえ、怖くないわけはなかった。

 

 

『あとコンマ数秒、帝ちゃんが来るのが遅ければ、私は……』

 

 

 昨日はよく眠れなかった。

 そのため、こんな早朝から校門を潜り、無意識のままに雄英高校のその広い敷地内を歩く。

 自分は、メンタルは強い方だと思っていた。

 焦ることもあまりなく、自分の中ではいつでも冷静だ。

 なのに、この鼓動は、この脳裏にへばりついて、拭い取れないイメージは……

 

 私、本当は弱かったのかしら。

 

 

「……ふふふふーんふーーんー♪」

 

 

 TVのCMで数年おきに聞く、日本を代表するRPGのシリーズ作品のテーマ曲が聞こえて来る。

 家を出てからほとんど上げていない顔を上げると、そこには、自分と同じく昨日死にかけていたはずの、桃色の少女がいた。

 

 

「あ、昨日の!おはよーー!」

 

 

 朝から元気いっぱいに手を振られるも、なぜあれ程のケガがすでに治っているのか気になり、上手く挨拶を返さないでいると、

 

 

「おりょ?どーしたの?そんな怖い顔して?私で良ければ、その原因、殺して……んんっ!倒してあげるよ?」

 

 

 何かを言いかけてやめたのは気になるが、話を聞かせてと言わんばかりのキラキラとした黄金色の瞳。

 綺麗に切り揃えられた桃色の髪を振り乱し、両手を嬉しそうに握り込む。

 

 

「なんでもないの。ごめんなさい。あなたは、確か亡女ちゃん…だったかしら?」

 

「うん!亡女 想だよ!あなたは?」

 

「蛙吹 梅雨よ」

 

「そっか宜しくね、蛙吹さん。それで、どーしたの?」

 

 

 覗き込むその黄金色の瞳。

 自分と同じく死にかけたというのに、キラキラとした瞳は純粋そのもので、何故そうも強いのか気になった。

 

 

「……亡女ちゃんは、死ぬ事がこわくはないの?」

 

「こわい?こわくないよ?私死なないし」

 

 

 あっけらかんと言い放つ想。

 でも、そんなわけがない。死なない人など、それこそ不死身の個性を持っていない限りは無理だ。

 生物である以上、死は虫から人まで、生物全てにおいて、平等に訪れるのだから。

 

 

「それがこわいの?じゃあ大丈夫!梅雨ちゃんに何かあったら、私が必ず守るから。ね?」

 

 

 安心させるその笑顔と、あの時見せた確かな力。

 それは紛れもなくヒーローそのものだった。

 思った事をすぐに言っちゃう事は自覚している。

 自分の性格は把握している。

 それが故に、今浮かんだ疑問を、半ば無意識に口に出していた。

 

 

「ありがとう。亡女ちゃんは、何でヒーローになりたいの?」

 

「私?私は別にヒーローになりたいわけじゃないよ?」

 

 

 少し前と焼き回しのように、あっけらかんと言い放つ少女に対し、ではなぜ雄英高校にいるのかと、頭にハテナが浮かぶも、蛙吹はまたも頭に浮かんだ言葉をそのまま無意識に吐き出す。

 

 

「じゃあ、なぜここにいるの?」

 

「ここには連れてこられたんだよー。私は勇者だから、悪を許せないだけ。やりたい事、ううんやるべき事があるの。だから、ヒーローになるのは、その過程でしかないかな。

 

──蛙吹さんは、そうじゃないの?」

 

 

 蛙吹の頭に衝撃が走った。

 ヒーローになりたい。

 ただただ漠然としていた夢に花が咲いたように、その漠然が歴然へと変わっていく。

 そうだった。ヒーローになりたい。それにはもちろん理由があった。

 それは、幼い頃から見てきた、人々を助けるあの姿に憧れたからだ。

 戦闘も必要ではあるけれど、それよりも、困った人々を救う正義の味方に、私はなりたかったんだ。

 一昨日までの私は、少なくともそうであった。

 それが昨日の一件で、死を間近に感じてしまって、どうしても戦闘面でしか考えられなくなってしまっていた。

 そんな簡単な事ではあるが、ブレる事なく、死にかけたと言うのにも関わらず当然のように言い放つ想の強さに、蛙吹は惹かれていた。

 

 

「どうしたの?蛙吹さん?」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。想ちゃん」

 

 

 今回は血塗れではなく、その綺麗な、太陽のような明るい笑顔を梅雨だけに向けていた。

 

 

「うん!梅雨ちゃん。どーやら悩みも無くなったのかな?それじゃあ、次に困った時には、私が助けるからね」

 

「あの、もう少し、話せるかしら?」

 

 

 遠慮をしたように、伏し目がちにこの時間の延長を申し出る梅雨。

 一瞬キョトンとした顔をする想だったが、その直後に白い歯を見せて笑う。

 

 

「もっちろん!」

 

「良かったわ。ちなみに、勇者って?」

 

「私だよ?でも、梅雨ちゃんもそうかもね」

 

 

 梅雨にその言葉の意味はよくわかっていなかったが、想が楽しそうなのでそこまで気に留めてはいない。

 もしここで、詰め寄っていたら、想から妖精の兄弟が合体してできる、バッチを付けてクリティカルヒットを量産する、伝説の剣を持つ蛙男の説明を長い事受けていただろう。

 

 

「そう。でもそう言えば、同じ一年生と聞いたけど、想ちゃんは何組なの?私も見た事がないし、B組でもないわよね?」

 

 

 そう言ったことに興味のない想は、記憶から排除した自分のクラス名を、なんとか絞り出すように思い出そうと、頭と顎に手を当ててうんうんと唸っている。

 

 

「想ちゃん、手を置くのはどっちかだと思うわ。それだとお猿さんみたい」

 

「あっ!そっか!……えへへへ」

 

 

 照れたように笑いつつも、まだ想は思い出そうと頑張っていた。

 なぜこうも想が梅雨に対して親身になっているのか。

 それは、勇者とは、良い人であるべし。

 勇者とは、不幸に塗れるも、最後には幸せを掴む者。

 孤独な時もあるが、最後には助けた仲間が助けに来てくれる者。

 などと言った王道展開もしばしばのため、彼女は他のヒーローのように、悪人以外には明るく優しいのだ。

 

 

「えーと……アンタッチャブル!アンノウン!──って、王華ちゃんが言ってたかな」

 

 

 自分たちの所属するクラスを聞いた時に、隣に立っていた、仲間である王華の言葉を思い出していた。

 オールマイト、校長、教師たちからは、そう思われているのだろうと、聞いた瞬間に目の前で皮肉を込めて言い放った王華の姿は、何故か鮮明に覚えている。

 亡女の中で、味方である四人パーティーは今のクラスメイトで埋まっていると思っていたが、梅雨と話して、どうやら仲間はまだいたらしいという考えが生まれていた。

 梅雨が太陽のような想に惹かれたように、想もまた、雨上がりの晴れ間のように、光がさせばキラキラと輝いて見える梅雨に惹かれ始めていた。

 

 

「U組…って事かしら……。Unkownって、言っても良かったのかしら?」

 

「言わないでって言われた事なら、私言わないタイプだよ?」

 

 

 ニシシと笑う想と、それに釣られて微笑みを浮かべる梅雨。

 その後もしばらく二人きりで話をしていたが、どうやらそろそろ教室に向かわないとマズイ時間。

 名残惜しさもあるが、梅雨は手を振って想と別れた。

 

 そこには、不安や恐怖に縛られた顔ではなく、梅雨が明けたかのように、晴々とした顔の蛙吹 梅雨がいた。

 




この世界では自衛のための、止むを得ない状況での敵殺害に対してはそこまで厳しくないという設定です。
でなければ、ヒーローも思いっきりやれないと思いますし、本音はイカれたキャラを出すとなると、そのくらいにしておかないと変になりそうでしたので……


クロノ・トリガー「カエルのテーマ」は最高に上がりますよね〜
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