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「二人とも……」
「殺しちゃあかんよ。想ちゃん」
身に纏う雷の衣を消し、衣に覆われていた部分と両腕は思わず目を背けてしまうほどに酷い状態。顔の一部の皮膚も剥がれ落ちている想は、自分に向けてそう言った、悲しそうな顔をしたお茶子を見た後に、梅雨を見つめると、梅雨もお茶子と同じ顔をしており、ハッキリと頷いた。
「それをしてしまえば、想ちゃんも、敵と同じになってしまうわ。私は大丈夫だから、落ち着いて、想ちゃん」
恍惚の顔で想を見ているトガはペタリと地面に座り込んだまま、三人の様子をただ眺めていた。
「……わかったよ。二人がいいなら、私ももう手は出さない。それに、この子から悪の波動は感じないから。そもそも、なんで二人を襲ってたの?この子、知り合い?」
常人であれば泣き叫び、喚く程の傷を負っていると言うのに平然としている想は二人にトガが一体何者なのかを問いただす。
ゲームの中にも散々いた、悪の親玉や手先。そして、裏切り者。そういったものの予兆を感じとる事のできる想には、目の前のトガがそうであるとも思えず、今更ながらに気になっていた。
「友達じゃないわ。クレイジーよ。普通じゃないわ」
そう言った梅雨にばつの悪そうな顔をした想。
そんな想の顔を見て、思わず梅雨と、釣られてお茶子もしまったと言う顔をした。
「……あちゃー。そう言われると、私も普通じゃないからなぁ……」
二人に向けて頭を掻く想の顔は、苦笑いであった。
普通じゃない。おかしい。異常者だ。
あの部屋を出て、散々言われ続けた言葉。悪を倒すのは普通じゃないのか?普通って、そもそも何なのだ?
いくら考えても答えは出なかったが、そんな中、U組に入った時の三人の反応は様々だった。
「あの……私は勇者の、亡女想です。その……普通じゃないって良く言われるから、思ったことがあったら言ってね。変えられるか、変えるかどうかはわからないけど」
四人が四人、初めて顔を合わせたのはいつもの教室の中。
伸の簡単すぎる自己紹介を終えて、王華に対して即個性を発動した令親と、暴れ狂う王華の次が、想の番。
当たり障りのない事を話したつもりではあるが、同年代の子らとちゃんと話す機会は初めてで、自分でも気づかないほどに緊張していた。
でも、あの三人と、中指先生は、今まで出会ってきた人たちとは全然違った。
「普通?それは平凡という事か?私と比べたら、貴様もそこらの者と大差などない」
「へー!俺はめっちゃ普通だよー!普通教えてあげるからさ、今晩俺の部屋来る?来ちゃいなよ?どうせすぐ隣とかっしょ?」
「………俺も、普通じゃない。らしい…」
王華は腕を組んだまま、心の底からそう思っていると言う顔で言い放ち、当はヘラヘラと笑顔を浮かべて肩を組んできた。伸は、机に突っ伏した顔を起こす事なく喋っていたのでうまく聞き取れなかったが、きっとこんな感じの事を言っていた気がする。
「俺もまーまー普通じゃないとは良く言われるけどな。人間全員違うんだから、普通なんてなんだっていいんだよ。
──ただ、常識ってもんだけは、お前らは学んどけ。ここはそのためのアカデミアだからな」
親指で額を突かれた後、笑ってガシガシと頭を撫でまわす令親。
想はそんな、普通でない事を受け入れてくれた三人の友達と、自分を受け入れた初めての大人を思い出しての、そして、今も自分を気遣って来れた二人の優しい友達に向けての、苦笑いであった。
「ねぇ。貴女はなんて言うの?私は亡女想。私も、きっと貴女と同じだよ?」
「こころ、ちゃん。私、トガです。貴女が好きです」
キョトンとした顔をした想と、驚いたように目を見開く二人。
それとは対照的に、至って真面目に、瞳を潤わせ、頬を赤く染めて言うトガに、想も微笑みを浮かべた。
「ありがと。私はまだトガさんの事わかんないけど……普通でいなくてもいいよ。私もそうだから。知らなければ、知ればいい。普通でいられないなら、そう在ればいい。少なくとも、私も私の友達も、貴女を否定しないよ」
恍惚の表情を浮かべていたトガであったが、その眼は熱を浴びて、ジッと想を見つめている。
「私は……」
──ガサッ!!
「麗日!?」
「障子ちゃん。皆……」
「──あっ!想ちゃん!服っ!服っ!前隠さんと!!」
血塗れで肌も赤黒くはあるが、アレからずっと想は上半身裸でいた。なんの事かキョトンとしている想ではあったが、シャツの下にタンクトップを着ていたお茶子のシャツを無理矢理羽織らされている。
「殺されるのも捕まるのも嫌です。想ちゃん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃん。また、お話ししてください。バイバイ」
ビュンと森の中を疾走し、直ぐにトガの影も見えなくなった。
「何だ、今の女…?」
「麗日さん、ケガを…!?えっ!?亡女さん大丈夫なの!?」
障子に背負われているボロボロの緑谷はお茶子の腕の傷を見て驚くも、その横に立つ、元は白であったであろう、真っ赤なシャツを着ている想を見て、驚愕した。
「私は全然歩けるし……というかデクくんの方が大怪我やん!」
「私も別に動けるから、デクさんよりは平気だよ」
「デクさん!?」
「言ってる場合か。亡女も動けるんだな早くいくぞ」
「うん。半分野郎さん」
「………」
「突っ込まないのね。轟ちゃん」
A組の名前は他人の呼び方でしか記憶していない想はお茶子や爆豪の呼び方を真似てデクさんと半分野郎と呼んだが、この場にいるのは想と梅雨とお茶子と緑谷の他には障子と轟、轟の背負う気を失っている庄田のみ。このクールな面子には、ツッコミが不足していた。
そこで緑谷はようやく気づく。
この状況で声を上げるであろう幼馴染みが、一言も発さない違和感に。
「かっちゃ……」
「俺のマジックで、貰っちゃったよ」
返せと叫ぶ緑谷だったが、爆豪をもっと輝ける舞台へ連れていくと言う敵。アドリブで、と常闇すらも何かしらの個性で奪った敵は轟の氷結を軽やかに身を翻して躱すと、無線を飛ばす。
「開闢行動隊!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後5分以内に"回収地点"へ向かえ!」
「ダメだ……」
「させねぇ!!絶対逃がすな!!」
逃げるMr.コンプレスを追おうとする一行と、予想以上のダメージでその場にペタリと座り込む想。
「ありゃ…?これは予想外だなぁ……ちょっと、血を流し過ぎたみたい。みんなは先に」
想とお茶子と梅雨、それと庄田を置いて、三人は緑谷の策の元、人間玉となって回収地点へと飛んだ。
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「かっ……は………」
「茨!!」
既に茨は満身創痍。鉄哲とポニーは完全に気を失っており、拳藤の両手も既にボロボロであった。
皇貴の耳にもMr.コンプレスの無線は入っているが、手を止めない。
「さぁ。どちらが弱者か、そろそろ理解したか?」
トドメを刺そうと剣指へと力を込めたところであったが、高速で接近するものがいることに、帝家の従者である、遠見は気づいた。
「そろそろ潮時ですぞ。皇貴様」
「……ふん。止めるなジィ!あと1秒もあれば方が付く!!」
帝家の長男であり王華の弟である帝皇貴は何度潰しても立ち上がる茨にうんざりした顔をして、その腕を振るおうとしたところで、衝撃波が皇貴と茨の間に、深く長い線を描いた。
「ずっと殺したかった相手に、まさか一日でどちらにも出会うとはな……」
金色の長い髪を靡かせ、先ほど傷ついていた両の腕の傷は既に塞がっているのか、既に血も止まっている王華。
飛来した王華はもはや全身に血管が浮かび上がっている程に体中に線が浮かび上がっており、その身からは黄金の気と青白いオーラが溢れ出していた。
「久しぶりだな……豚ァ!!!」
「お久しゅう御座いますな。王華様」
両親と同じく殺すつもりであったが、なぜか取り逃した、自分に残る唯一の血の繋がった肉親。そこに姉弟愛などは皆無で、王華からすれば弟は殺す対象でしかない。
皇貴からしても、姉は帝家の家畜であり、汚点でしかなかった。そう、両親からの教育を受けていたから。
「ゴミと話す口は持たん……が、敵ごときに成り下がるとは、さぞかし貴様らにはお似合いの場所だろう」
青白いオーラを纏う王華の姿を見て、僅かに悔しそうな顔をした茨はスッと身体の力が抜けていく。それに、なぜか王華から溢れ出しているオーラを見ていると、心が安らぐようであった。
「王華さん……すみません。私では、まだ……」
「いいんだ。茨。コイツは私の獲物だ。よくやった。貴様は休んでいろ」
王華の言葉を聞いた茨は、安心したように気を失い、拳藤はそんな茨を鉄哲とポニーと同じく後ろへと担ぎ運ぶ。
「王華……すまない。頼んだよ」
拳藤の言葉には答えなかったが、王華は暴れ狂う気の嵐を巻き起こし、同時に身体からもオーラが溢れ出ていた。
それは目の前の敵には死の恐怖を、後ろの味方には圧倒的な安心感をもたらしている。
頼んだと言った拳藤自身、あぁ、もう大丈夫だと、心の底から思っていた。
それはまるで、オールマイトを見る一般市民のように。
『………消えてよ。王華の前に、二度と現れないって、約束したでしょ?』
ボボボと音を立てて顕現した燈に、皇貴は息を飲む。その目をハートに変えて。
「え?ちょ!?なんで?燈!?生きていたのか!?」
「はぁ。皇貴様、戻りますよ。黒霧殿を待たせたら、あの方にどやされますぞ。主に皇貴様が。私は悪くありませんので」
「燈!!俺と…」
『気持ち悪いから、二度と私の名前を呼ばないで』
冷めたような目を向ける燈に対し、興奮したような目を向ける皇貴であったが、憤怒の顔をした王華が蹴りを放つ。
燈しか見ていなかった皇貴ではあったが、王華の蹴りをなんとか受け止めることには成功していた。
「邪魔だ豚!失せろ!!俺は燈と話を──」
「死ね」
王華の右足を左手で受けた皇貴であったが、そこを起点に回転した王華の左脚の踵が皇貴の頭を狙うも、邪魔が入る。
「こうして姉弟喧嘩をよく止めたのを思い出しますな」
『嘘ばっかり。貴方は王華に"何も"しなかったでしょ?』
王華ではなく皇貴を横へと押し飛ばし、王華の左足から救った遠見は、燈の言葉に歪に顔を歪めた。それは顔に刻まれた皺をより深く、嫌らしいものへと変えており、その顔に余計に燈は苛立ちが増している。
追撃に燈がその脚を遠見へと振り抜こうと思ったところで、二人を黒い霧が包みこんだ。
『貴方たちで最後ですよ。全く』
黒霧のワープに吸い込まれていく二人であったが。音も無く放った王華の蹴りの衝撃の刃は皇貴の顔へと向かう。
僅かに首を傾げた皇貴であったが、その顔の左側は、眼球も含め縦に薄く割れていた。
「俺様の顔に……やって来れたなこんのくそ豚ァ……」
「せいぜいその傷を見るたびに私を思い出し、震えていろ……」
奇しくも、この歪みきった姉弟の言葉が重なった。
「「次は殺すからな……!」」
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それからしばらくして、混乱治らない中、林間合宿への敵襲撃はMr.コンプレスの言う通り幕を閉じた。
マグネとスピナーを捕らえたマンダレイと虎であったが、黒霧の襲来を受け取り逃している。
生徒40名のうち有毒のガスによる被害を受けた意識不明の生徒は十名にも及び、軽症者は数知れず。重傷者は亡女、緑谷、糸宿、耳郎、葉隠。そして塩崎の六名。最後に、拉致され行方不明扱いとなった生徒が"一名"の結果となった。
プロヒーローは六名の内一名が頭を強く打たれ重体。もう一名は"行方不明"となっていた。
一方、敵側は三名の現行犯逮捕と、死亡者が一名。他の敵は跡形もなくその姿を消した。
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翌日、雄英高校の前には大勢のマスコミが殺到していた。
そんな中、教師陣たちは会議を行なっている。
"オールマイト"以降、組織だった犯罪は淘汰されていた。仮に今回の襲撃を予見できていたとしても、平和ボケしていた今のヒーローの体制では矢継ぎ早に襲撃を繰り返す敵連合には対応できていたかは疑問が残る。
生徒を拉致されると言う、生徒を預かる学校としてあるまじき失態。しかも一人は秘匿扱いのため公にはなっていないが自ら敵の元へと降ったと言う。しかも、ヒーローを一人殺害して……
メディアは今、雄英の非難で持ちきりであり、これで当の存在が公となり、更に爆豪も敵に懐柔でもされれば雄英高校は今後教育機関としての活動はできなくなるだろう。
そんな中、プレゼントマイクはこの際だからと前置きをして、口を開いた。
「今回で、内通者が決定的になったな。
合宿先は教師陣とプッシーキャッツしか知らなかった。が、寝返ったって言う十三分一が個性で割り出していた可能性もある。USJ襲撃の時もそうだ。それに、今この場にいないし、U組の担任であるエルネストも──」
「呼んだ?何の話?」
マイクの発言に待ったをかけようとしたミッドナイトとスナイプであったが、マイクとスナイプの背後に、いつの間に現れたのか、中指令親がそこに立っていた。
「……あんたか十三分一か、もしくはそのどちらもが、内通者だと思っていると言ったら?」
ミッドナイトの言葉に眼鏡を煌めかせた令親はニヤリと歯を見せて笑う。余裕の表情のまま、ドカリと音を立てて椅子に座ると顔の前で腕を組んだ。
「まぁ、"経歴"からしても俺と思うだろね。でも違う。し、当も違う。いくらアイツの便利個性でも、無限からはアタリは引けねーよ」
「じゃあアンタはこの期間、いったいどこで何を…」
──でーんーわーがー 来た!
オールマイトの声の電子音が響き、マイクの発言が遮られたところで、令親もどーどーとマイクの肩を抱く。
「チミが白とも言い切れんでしょーに。内部崩壊狙いの内通者だって思っちゃうぞ!まっ冗談はさておき、俺が何してたかって言うと、プッシーキャッツの報告と、一個違うのがあるだろ?それを可能にした時点で、アイツはまだ腐っちゃいない」
バチコンとミッドナイトにウィンクをして、その飄々とした令親の発言と態度で、全員がもしやと言う顔をしていたが、令親は立ち上がり言葉を続ける。
「正義の象徴さんの電話が終わったら、ナンバーズも動くでしょーよ。仕返しの準備は着々と整っていってる」
誰にも気付かれていなかったが、血が出る程に拳を握り込んでいた令親は、そのまま部屋を出て行こうとしているのを、ミッドナイトは止める。
「令親。あなた……何をどこまで掴んでるの?」
「さてね。それは社外秘なんで。とはいえ、後でオールマイトが説明してくれるだろうよ。
ウチはウチで動くよ。まぁ、もっと言えば…俺は俺で、本拠地ブッ叩いてやるけどな……!」
戦闘経験も豊富な、歴戦のヒーローである雄英教師陣ですら背筋が凍るような殺気を、一瞬外へと出した令親は、電話を終えたオールマイトと入れ違いに、今度こそ部屋を後にした。