敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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予測と不測

──────

 

 

 

 

「ここで終わりだ!死柄木弔!!」

 

 

 圧倒的なプレッシャーを放つオールマイト。

 それは他のヒーローよりもずっと濃厚で、そして重い。

 スピナーはステインが求めたヒーローの姿に戦慄しているようだ。

 もったいねーなー。

 もっと楽しめよ。

 喉が、肌が、生命が乾いていく感覚を。

 身体がもう生きなくてもいいと思える程の、死を予見させてくれるあのなんとも言えない感覚を。

 それに打ち勝ち、生き残った時の、あの最高の快感を。

 

 正義や平和といった不確定なもので満たされたこの世界をぶち壊すという死柄木。そのために、象徴であるオールマイトを殺すと。

 殺意と憎悪の篭った視線を向けているが、シンリンカムイの拘束は解けそうにない。

 たった今、頼みの黒霧もエッジショットの個性『紙肢』により身体を貫かれ、まるで死んだかのように倒れ、動かない。が、口ぶりからして生きてはいるようだ。

 死柄木の中で恐れや悲しみ、絶望と言った様々な感情が入り混じり、それはやがて怒りへと変わる。

 

 そろそろ、俺も動くとするか。

 

 

「まぁまぁまぁ!オールマイトさぁ!!」

 

「十三分一少年……」

 

「お前……」

 

「裏切りモンが何言ってんだ!!俺は信じてるぞ!!」

 

 

 カウンターによじ登り、真横にいるエッジショットが警戒の目を向けているが、どうやら攻めては来ないよう。

 甘いなぁ、ヒーロー。

 

 

「ほら。探し人来てるから」

 

「なに!?」

「──!?」

 

 

 何気なく、普段通りにオールマイトの開けた壁の大穴を指差した。

 瞬間、攻撃に対する初動も、殺気すらもなしに、エッジショットの意識の外からその無防備な顎を蹴り飛ばす。

 

 

「ブッ!?」

 

「少年…!!」

 

「王華ちゃんばっかじゃなくてさー。俺ともしてよ、リベンジマッチ……!!」

 

 

 言葉を終えると同時に真横に飛ぶ。

 瞬間にグラントリノがカウンターを吹き飛ばすも、その短く小さな腕を掴み、自身へと向かい伸びるエッジショットへとぶつけた。

 

 

「グっ!?」

「──!!?」

 

 

 どちらとも、速いが故に止まれないし、躱せない。

 薄く、鋭く伸びたエッジショットはグラントリノの腕を貫通していた。

 

 

「どんだけはやかろーと、あんたらのピンポイント攻撃は俺の得意とするところだよーん。相手にならんね」

 

 

 当にとってエッジショットもグラントリノも、"一対一"なら怖くはない。

 先読みで選択に当選しておけば躱せるし、カウンターも合わせやすい。隠し球があるなら別だが、今のところそれは無いと出てる。とはいえ、あの速さに当たりを出し続けるのは苦だし、2人がかりで攻められるのは実際のとこかなりキツイ。

 そのため、余裕の表情を浮かべて言葉で牽制をしておいた。

 と、不意に伸びてくる木々を踏みつけ、飛び退いた。

 

 

「先輩!!!」

 

 

 相性としては最悪な奴が迫るも、既に知っていた事ではあるが時間切れだ。

 

 

「お前の相手は俺じゃない。ねっ!せーんせ!」

 

 

 シンリンカムイは苦手だから、今から次々と現れる奴にやってもらおう。

 バシャバシャと音を立てながらも、黒い液体が部屋中に広がっていく。

 その液体から浮かび上がり、這いずり出る異形のものども。

 

 

「脳無!!?」

 

「ははははは!!こーこは俺と脳無に任せんさい!」

 

 

 当は腕を組んで笑っており、敵連合の者たちも口から液体を吐き出しながらも、手のひらを返したと思っていた当の背を見つめていた。

 

 

「お前…まさかこれを…?」

 

「先いけ、弔!!」

 

 

 黒霧は気絶しており個性を発動できる状況では無い。

 じゃあ誰が、と皆は思うが、それを行っているものが誰かを確信している者がこの場には4人いる。

 その内の一人は拘束されたまま、自分自身も黒い液体を吐き出している。

 一人は腕を負傷しながらも辺りを警戒しており、残りの二人は、目的は違えど同じ方向を向いている。

 

 

「お゛!!?」

 

「爆豪少年!!No!!」

 

 

 掴んでいる爆豪はゴポリと口から液体を吐き出した。

 その様子に慌てて振り向き、抱き抱えようとするオールマイトと、その爆豪越しに既に上段蹴りの態勢の当。

 その当の爪先が、オールマイトの米神に突き刺さった。

 

 

「俺は無視か?ナンバーワン?」

 

 

 音を立てて吹き飛ぶオールマイト。

 そして、自らが吐き出す液体に、逆に飲み込まれていく爆豪を見つめて笑う当。

 

 

「それ、くせーよなー」

 

「っだこれ!?テメェは……」

 

「今のお前にゃカケラも興味ないよ。さっさと消えろ。クソザコが」

 

「………!!」

 

 

 憤怒の表情の爆豪を無視して、半歩後ずさると、何も無いところに踵落としを放つ。

 

 

「逸りか焦りか。あん時よりも、随分と弱いな、ナンバーワン。急いだって流れは止まらない。そう、決まってるんだから」

 

 

 振り下ろされた踵を受けるも、予想以上の衝撃に、地面に片膝をつくオールマイト。そこに群がる脳無たち。

 そこで、当と脳無だけを残し、敵連合と爆豪は、バシャリと黒い液体を残して全員その姿を消すと、すぐにその液体すらも消え去った。

 

 

──Oklahoma … SMASH!!!

 

 

 どれだけ掴まれようと、その場で力強く、回転をするオールマイトに張り付いていられるはずもなく、あっけなくも壁や天井、床に穴を開けながらも脳無は吹き飛んでいった。

 

 

「俊典……こいつぁ…」

 

「……君の目的は、何だ?」

 

 

 他のヒーローは別の脳無に襲われており、その中にはオールマイトがUSJで倒し、王華が保須市で辛勝した程の脳無も2体だけだが紛れている。

 未だに脳を揺さぶられたままのエッジショットと、捉えていた敵連合に逃げられ心情を揺さぶられている、まだ新人とも言えるシンリンカムイ。上位種の脳無を相手取っているエンデヴァー。

 そして、グラントリノもまた、上位種の脳無の攻撃を躱して空を舞う。

 今、当を止められるヒーローは、オールマイトだけであった。

 

 

「さぁ、なんでしょうねー?先生なら、わかんじゃないの?」

 

 

 この流れを作り出したのは、オール・フォー・ワン。

 だが、その流れを嫌な方向へと加速させているのは、目の前にいる少年、十三分一当。

 ヒーロー名ヒット(仮)そして、敵名ファントム。

 ファントムは都市伝説のような扱いで、大小様々な敵組織を裏で束ねていたとされる敵。

 ファントムに連なる数々の組織をオールマイトが壊滅させはしたが、結局その首謀者とされるファントムは捕まっていない。

 全く表に出てこず、目に見えないほどの深い闇に紛れ、隠れていた狡猾な敵。

 壊滅させた敵組織からの情報を掻き集め、汗と血の滲むような捜査の末ようやく見つけたアジトに攻め込んだ。だが、そこにファントムはおらず、いたのは十数名の敵と、一発で殴り飛ばした、自分を小間使いだと言う、不思議な少年だった。

 己以外に何も写していない目を持った少年は、結果として敵ではないと心療診断を受けた。

 それが、オールマイトと当の出会いであった。

 

 

「君のことも生徒だとは思っているよ。だが、教師だからと言って全てがわかるわけじゃないさ」

 

「いっぱいあるけど、ひとまずはリベンジマッチかなー。俺もあん時の俺じゃない。13を越えられなくとも、やりようはあるでしょ?」

 

 

 脳味噌が弾ける。鼻血が噴き出る。眼の奥はマグマのように熱い。

 でも、これでいい。

 俺のこの気持ちは誰にも理解できない。

 無限に生まれる、キラキラと輝くアタリ。

 狭い部屋に充満し、響き渡るオールマイトの存在感。

 初めて俺に、この感情を与えてくれた。

 今、あんたを独り占めしているのは、間違いなくこの俺だ。

 

 

「プルスウルトラってね。今の俺なら、もしかしたら勝ちの目見えるかも」

 

 

──最良の一手。

 

 

「クッ!!?」

 

「──シッ!!」

 

 

 脳の限界を超え、最速で最高の最適解を出し続ける。

 それに対象は必要としない、己の身体をどう動かすか。

 コンマ1秒以下でその答えを出し続けるには、脳の限界を越えるしかなかった。

 負荷は尋常ではなくかかるものの、通常ではあり得ないバグを引き起こし、無理矢理に格上と同等以上の戦いをするために当が身につけた【当選】の更に向こう。

 選択肢を縛ることで当選スピードを上げるために、普段は攻撃の際に足しか使わない当であったが、この状態になると腕から何から、体全てを使い、無駄と思える動きすらも、まさに最良の一手のみを引き続ける。

 

 

「ムッ……!?」

 

「ほらほらほら!!あん時と、違うだろ!?」

 

 

 二発三発、四発五発。幾数十と撃ち合いを続けている。

 あの時はたった一発で終わった楽しい時間も、今はまだ続けられる。

 血の涙を流し、鼻血を吐き出しながらも歪みきった笑顔を浮かべて、当は尚もオールマイトへと挑み続けていた。

 オールマイトの視界をたまたま瓦礫が塞ぎ、その瞬間に死角から脚が飛び込んでくる。

 それを躱すも、偶然床はひび割れ一瞬足を取られた隙にその拳が後頭部を打った。

 

 

「確かに…違うね」

 

 

 今もまた、Tシャツの前を千切り、なぜか広げながらもあらぬ方向へと跳ぶ。そのTシャツの端を掴んでいた当は、オールマイトの技が繰り出す衝撃波をマントのように受けて木の葉のように舞い、天井へと指を突き立てて貼り付いた。

 

 

「うおぉー!死んだかと思ったー!!一発もらったら死んじゃうクソゲーはたぁんのしぃーねぇー!!!ほらほら!あんたも笑えよ!オールマイトォォォオ!!」

 

 

 壁を使い、天井を使い、四肢を、五指を使い挑み続ける当であったが、彼にとっての至福の時は突然終わりを迎えた。

 

 

「なぁにをしとんならアホンダラぁぁぁあ!!!」

 

 

──ズズンッ!!!

 

 

 建物を破壊せんが如く、クロコの巨体から放たれた尾が、そのバーの入っていた階を消し飛ばした。

 

 

「クロコ……」

 

「ダボかわりゃあ!何が起きとんかは明白じゃろうが!お前が行かんとどうすんじゃい!!」

 

 

──ベリベリベリ……

 

 

「こぉんガキャあ……令親のアホは何をしとんじゃ!!」

 

 

 ビルの2階を消しとばした尾の裏に貼り付き、その鱗を剥ぎ取っていた当は心底つまらないと言った顔をしている。

 

 

「空気読めや。蒲焼にすんぞ」

 

 

 剥がした鱗を投げ捨て、その剥き出しとなった身に肘までを突き立てると、外を見た。

 

 

「ん?全滅してんじゃん。────ブッ……」

 

 

 垂れていただけの鼻血は突如噴き出し、血涙はその勢いを増す。

 それとは裏腹に、急速に下がっていく体温が、終わりを教えてくれていた。

 

 

「もう…時間切れかぁ……」

 

 

 外に放たれていた脳無達はヒーローに蹂躙され、上位種の脳無もまた、エンデヴァーをはじめとしたトップヒーロー達により沈黙していた。

 そう言った当は、ペタリとその場に座り込み、エッジショットとシンリンカムイにいとも簡単に捕らえられた。

 だが、縛り上げられようとも、未だにヘラヘラと笑っており、オールマイトへと言葉を投げかける。

 

 

「"最後"にやれて、まぁ楽しかったよー。急げ急げー。じゃないと、いろいろ手遅れになるぞー?」

 

「────シンリンカムイ、絶対に離すなよ……!!」

 

 

 大地を砕き割りながら、オールマイトの姿は一瞬で消え、当はその先をニヤニヤと見つめていた。

 

 

「おい……わりゃ、自分が何しとんかわかっとるんか?」

 

「おもしろきこともなき世をおもしろく。

──いーぃ言葉だよなぁ。オールマイトがいなくなっても、まぁ、おもしろくはあるんだろーなー」

 

 

 顔面蒼白で、血涙を流しながら恍惚の表情を浮かべる当に、クロコは僅かながらにも恐怖を覚えた。

 

 

 

 当がオールマイトを相手にしたのは、時間にして僅か15分の事であったが、その15分間が、もう一つの戦場にもたらしたのは、惨劇であった。

 

 

 

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