敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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偽物か本物か

──────

 

 

 

 

 

 神野区の外れ、と言うわけでもなく、歓楽街から程近い何の変哲もない、錆れた工場。

 そこに集まっていたのは、ベストジーニスト、Mt.レディ、ギャングオルカのヒーロー3名と、確か今はSCCAT所属のヒーローが2名。

 それと、僕たち雄英高校1年A組の5名。

 

 突入の合図と共に、Mt.レディの一撃は建物を叩き割り、瞬時に突入。なんの命令も受けていない脳無がただ格納されているだけであった工場は一瞬で制圧された。集まっているヒーローたちとその手際に、自分たちよりももっと早く、ヒーローたちは体制を整えていたのだと安堵した。

 

 

「さぁすぐに去ろう。俺たちにもうすべき事はない!!」

 

 

 そう言った飯田くんであったが、僕はMt.レディが呟いた、「オールマイトの方」という言葉が引っかかっていた。助けに来た、幼なじみでありクラスメイトであるかっちゃんは、そっちにいるのかと。八百万さんはオールマイトがいるのであればなおのこと安心だと言い、一刻も早くこの場から去ろうとしていたのだが、工場の奥より、こちらへと迎ってくる者がいるようで、ヒーロー達の反応からして、僕はそれが気になった。

 

 

「ようやく撒いたというのに……君たちも、邪魔はしてほしくないんだ」

 

 

 暗闇の向こう。

 なにか影が見えるが、その顔は見えない。

 

 

「止まれ、動くな」

 

「動けば敵対しているとみなす。そのまま両手を上げて後ろを向け」

 

 

 ギャングオルカは瞬時に構え、SCCATチームは左右に展開して乱入者の逃げ道を塞ぐように移動していく。ベストジーニストに至ってはすでに個性で拘束を試みているのか、腕をクロスに構えていた。

 

 ヒーローたちと違い、僕らは遥か遠くにいる。

 それが何故こうも気になったのか。

 その理由はわからないが、この得体の知れない者の力は直ぐにわかる事となった。

 

 

「連合のものか……」

 

「オイ!動くな!!」

 

 

 一歩踏み出したその者に対し、警告をしたSCCATチームよりも先に、ベストジーニストが動く。

 

 

「敵には、なにもさせるな」

 

 

 相手が誰かも確認もしないままにベストジーニストの個性により、黒い影の着ている衣服が縮み、縛りつけた。

 

 

──バンッ!!!

 

 

「せっかく弔が自分で考え、自身で導き始めたんだ。できれば、邪魔はよして欲しかったな」

 

 

 大きな音がした。

 ただ、それだけだったと思う。

 

 ほんの一瞬の出来事。何が起きたのかも、理解できていない。

 一秒にすら満たない、まさに一瞬。

 だがそれでも、あの男の気迫は……

 僕らに"死"を錯覚させた。

 込み上げてくる吐き気に、なんとか耐える。

 

【君はいつか奴と……巨悪と対決しなければならないかもしれん……】

 

 弔…死柄木の事だ。じゃあ、アレが……オール・フォー・ワン……!

 

 

「うん、こっちが来たか……」

 

 

 動きたくても動けない。

 逃げなきゃいけないのは、わかってるのに……

 

──ザンッ!!!

 

 その時、何か鋭利な物が風を切り裂く音が、耳に響いた。

 そして、次に聞こえたのは、この場に似つかわしく無い、聞いているだけで、なぜか安らぐような、幼さを残した女の子の声だった。

 

 

『あなたたち。絶対に、動かないでね。これ以上近づくと死ぬから』

 

 

 なんの、誰の声だ…?

 声色の割に随分と物騒な物言いに驚くも、先程の音を放った張本人がこの場へと現れたようだ。

 

 

「────やぁ。昨日振りだね」

 

「チッ……頭を飛ばしたつもりだったのだがな」

 

 

 こちらは聞き覚えのある声。

 僕らは動くことも、振り向くことすらもままならない相手に、相変わらずの規格外である少女は、どうやら真っ向から挑んだらしい。

 

【その時は、きっと帝少女は君の力になってくれる。だから、緑谷少年────】

 

 僕は、本当に彼女と肩を並べられる程、強くなれるのだろうか……

 

 

「あの声は……」

「帝さん…ですわね……」

「流石に…帝でも無理なんじゃ無いか…?」

「………帝の前に、響いた女の声…おまえらは聞こえていたか?」

 

 

 轟くんの言葉に全員がうなづいている。どうやらみんなにも、さっきの声は聞こえているみたいだ。

 あの声は、誰だったんだろう?

 それよりも、いくら帝さんと言えど、今回ばかりは、相手が悪い。

 とはいえ、僕たちに出来ることは……

 

 

「昨日と同じだとは、思わんことだ……」

 

 

 催していた吐き気はわずかだが引いており、ミルコのサイドキックだから学校外に持ち出していたのか、などと場違いな事を思うが、ヒーローコスチュームに身を包んだ帝さんの姿が、消えた。

 

 

 

────

 

 

 

「フッ!!」

 

「おっと」

 

 

 お互いの速度はほぼ互角。それ故に、互いに攻撃が当たらない。

 これでは前回と変わらない。

 昨日の私と、まるで変わりない。

 とでも、思っているんだろうな……

 

 

「崩してやろう…貴様のその余裕をな」

 

 

 王華の顔に、身体中に血管のような線が浮かび上がり、疾る。

 体内の気を増幅させ、神経や血管へと流し込んでいく。

 研ぎ澄まされた神経は太く脈打ち、血管を巡る血液は通常の数倍の酸素を身体へと行き渡らせ、常人とはかけ離れた超反応を可能にしていた。

 

 

「はぁぁぁぁあッ!!!」

 

 

 その動きはオール・フォー・ワンを確実に捉え、ガードの上からであろうと重い一撃を浴びせていた。

 左フックをフェイントに、右脚がオーラと共に膨れ上がり、強烈なローキックを浴びせ、左のハイキックをガードされた瞬間には、既にオーラでできた左脚がその腹に突き刺さっている。

 すぐさま右脚の裏から爆発的にオーラが噴き出し、その膝が、パイプが大量に繋がっている顎を捉えた。

 

 

「──ッ!!」

『「おおぉぉぉぉぉッ!!!!」』

 

 

 ダメージを喰らいながらも全身から衝撃波を放ち、その一撃をガードした王華であったが、歯がすり減るのでは無いかというほどに強く噛み締め堪えると、咆哮と共にオーラと自身の拳を数十発放ち、地面へとオール・フォー・ワンを減り込ませた。

 

 

「…はぁ…はぁ……ぐぅ…うぅ…!」

『王華…その状態は……』

 

 

 神経に気を込め、研ぎ澄ませている今、速度、反応共に超が付くほどのものを誇るが、その反面、痛みに対しても通常の数十倍に感じている。

 事実、プロヒーローが一発で気を失うほどの攻撃を喰らった今、無理矢理に押さえ込んではいるものの、王華の体は悲鳴を遥かにこえ、警報を鳴らしていた。

 

 

「ここで死ぬ気かい?」

 

「……貴様に奪われるような安い命など惜しくはないッ!!燈の敵は私が討つのだ!!貴様は私が!!」

 

『………』

 

 

 突き出した剣指をオール・フォー・ワンの手足の末端部へと突き刺しながらも、すぐにその身を蝶のように翻し、オール・フォー・ワンの攻撃を、ことごとく躱していく。

 掻い潜りながらも、燈が飛び出し攻撃を加えていくが、そのコンマ数秒後には全く同じ場所に王華が強烈な一撃を叩き込んでいく。

 

 

「……本当に、俺たちを相手にしてた時は、本気でもなんでもなかったんだ……」

 

「帝さん……やはり、貴女は凄いですわ……」

 

 

 切島はそう呟き、格闘技や武器術を王華から習っていた八百万も息を呑んで王華の戦いを見守っている。

 全員が果敢に攻め続ける王華に目を奪われていたが、緑谷は王華が焦っているような、勝負を急いでいるように見えた。

 痛烈な拳の雨がオール・フォー・ワンへと降り注ぎ、両者の距離が開いたところで、オール・フォー・ワンは口を開いた。

 

 

「つくづく、君は凄いね。だけど、個性を嫌っている君のその力すらも、『彼女の個性』の賜物だと、考えたことはあるかい?」

 

「……なんだと?」

 

『王華!!聞く耳持っちゃダメ!!』

 

 

 燈は焦ったように叫ぶも、王華は動かない。

 そもそも、燈が反応しなければ王華は気にも留めなかっただろう。

 だが、燈の反応により、王華は気になってしまった。

 何を言っているのだ。

 私の力は、私が血反吐を吐きながらも手にした力だ。

 私の知らないところで、私に何かが起きているとでも言うのか?

 

 

「どうやら、君は自分の持つ、死すらも超越したその"個性"の素晴らしさに気づいているようだね」

 

『うるさい!!黙りなさい!!私は────』

 

 

 王華から飛び出た燈は青白い焔を撒き散らしながらもオール・フォー・ワンへと突貫するも、難なく躱された。

 燈の様子がきになりながらも、王華は次のオール・フォー・ワンの言葉を聞き、立ち尽くしていた。

 

 

「【優先】の個性。いや、それでは収まらないな。

【Over ride】とでも言おうか」

 

 

 燈の個性?

 優先…オーバーライド……だと?

 覆し、無効にし、優先する…と言うことか?

 それが、私の、力に……?

 

 

「気づいたかい?彼女の個性の素晴らしさが。

 私に奪われる事を"無効"にした上、死を"覆し"、君の中に意識だけを残すことを"優先"した結果が今の彼女の存在さ。

 そして、君の常人離れした力もまた、死に行く体組織の死を"無効"にし、一つ一つが修復することを"優先"させた。

 それが君の異常な肉体の正体。

 ははは。

 君は全て自分の力だと思っているようだけど、彼女のおかげで、その"個性"のおかげで"無個性"の君は強さを得ているに過ぎないのだよ」

 

 

 全部、燈のおかげ?

 今の私を作り上げたのは、燈だと言うのか?

 じゃあ、私は、いったい……なんなんだ。

 今まで、自分は選ばれた存在だと……絶対の強者であると。

 だがそれは、私も知らない、燈の"個性"……?

 それでは、私もあの醜い弱者どもと同じではないか。

 信じてきた、己と言う絶対の存在が、与えられたものだと…

 それも、燈は知っていたと言うのか?

 自分の個性を知らないと言っていたのは、嘘だったのか……?

 

 父の愛を失い、母の愛も失った。

 たった4年生きただけで全てを失い、信じられるものは己だけとなった。

 辛かった。しんどかった。泣きたかった。

 だが、そんな私と共に生きると誓ってくれた燈。

 初めて自分よりも大切な存在が加わったが、それもまた、失った。

 一度は失ったものの、再び出会えた。

 だと言うのに……私に、ずっと嘘をついていたのか…?

 その個性で、私の内に宿り、まるで洗脳でもするように私を創ったと言うのか?

 

 疑心はどんどんと大きくなり、王華の中で、何かが切れてしまった。

 

 生まれてからたった二つだけ大事にしてきたものを、両方失った。

 私に残るものは、もう何もない。

 私は弱者……奪われる、側の人間か?

 

 

『王華ってば!!アイツを殺すんでしょ!!』

 

「──あ……」

 

 

 間の抜けた声がやけに響くと思えば、どうやら私の口から出ているらしい。

 これで終わりか。

 私の野望は…燈との約束は……弱い私には、果たせそうもないし、そもそもどこまでが私だったんだ?

 燈と出会うまでの私は、間違いなく、帝王華であったはずだ。

 だが今は、それが与えられたものとも知らず、一人間抜けに踊っていただけの偽物の王様気取り。

 それが、私ということか。

 

 

『王華!!?』

「「「「「!!!???」」」」」

 

 

 燈の叫ぶ声も、近くに潜む五人の息を飲む気配も、王華は気付いていない。もう何も、見えても、聞こえてもいなかった。

 

 そんなやる気も、生きる気も失った王華の腹に、オール・フォー・ワンの【鋭利化】により鋭く尖った腕が突き抜けていた。

 

 

 

 

────

 

 

 

 

「帝が……!」

 

「……ハッ!?飯田くん…?」

 

「──やめたまえ!!俺たちが出て行って、どうにかなる物でもないだろう!!」

 

 

 切島くんが呆然と、お腹から腕が生えたまま、ぷらんぷらんと力なく浮かび、揺れている帝さんを見つめていた。

 思わず飛び出そうとしている僕を、飯田くんが掴み止めるも、その手は震えていた。

 飯田くんのその目に、目は口程に物を言うと言うのは本当だと思い知った。

 僕を、みんなを心配してくれているんだ。

 でも、例え何もできなくても、こんな時出て行かないなんて、僕には……

 

 

「見ろ!」

「見てください!!」

 

「え……?」

 

 

 声を上げた轟くんと八百万さんの言う通り、力なくぶら下がっている帝さんを見た瞬間、黒い何かが辺りに浮かび上がっている。

 そこから出てきたのは……

 

 

「ぶへ!!くっせぇ……あんのクソにやけが──な…にが、どう、なってんだ……」

 

「ちょっとこちらもいろいろあってね。爆豪くん」

 

 

 かっちゃん……!!

 爆豪………!!

 

 

『貴女にお願いがある……』

 

「うわっ!!?」

 

 

 だれだ!?この、青白い……人?

 悲しげな顔を浮かべた不思議な存在である彼女。

 どこかで見たことがあると思えば、帝さんから噴き出すあのオーラと、同じ色をしている。

 

 

『このままじゃあ、王華が死んじゃう……』

 

「なんとかって……というかお前は誰だよ!?」

 

『あなたには頼んでいないけど、私は華々理 燈だったもの。これでいい?お願い、聞いてくれる?』

 

 

 この青白い人は、華々理さんというらしいが、だったもの…?

 意味はよくわからないが、八百万さんを真っ直ぐに見据えて話している。

 その顔は、真剣そのものだし、なによりも、僕たちに注意を促した声と、同じだった。

 

 

「私は……何をすればいいんですの?」

 

『コレを創って。私が時間を稼ぐ。1分もあれば、きっと……』

 

 

 コレと言うのが何かわからなかったが、この少女の腕が八百万さんの頭の中に入っており、八百万さんはしっかりと頷いていた。

 

 

「また失敗したね、弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り返した。"彼"もじきに呼び戻すよ」

 

 

 そう言ったオール・フォー・ワンは帝さんの腹を貫いている腕を元の腕へと戻しながらも言葉を続ける。

 

 

「いくらでもやり直せ。その為に、僕がいるんだよ。全ては君の為にある」

 

 

 全員が息を飲む中、ベキベキと言う音が響き渡り、死体にしか見えなかった彼女が、再び動き始めた。

 

 

『「奪わせはしない、私の力を……殺させはしない……"私の"王華を……」』 

 

 

 さっきまで一緒にいた華々理さんの声と、帝さんの声がダブって聞こえる。

 帝さんはオール・フォー・ワンの腕をとんでもない握力で掴み、砕いていた。

 そのままその腕を引き千切ると身体から腕を引き抜きながらも距離を取った。

 

 

「この…女は……」

 

「おいコラクソ女!テメェ…その身体で……」

 

 

 ギラリと目を見開いたその瞳は、片方は太陽のように紅く燃え、もう片方は、水面のように、静かに青く輝いていた。

 

 

『「私の…私だけの王華。そう思うのは、もうやめた。見せてあげる。貴方が嘲笑った、王華の…本物の帝王の力の片鱗を!!」』

 

 

 瞬間、その身から噴き出すオーラが、大きく爆ぜた。

 

 

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