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「なんだ……」
「まぶしーです」
「攻撃じゃ、なかったのか?」
「イテェ!!!痛くねぇけどな!!」
爆ぜた青い光が収束した時、その中心に立っていたはずの王華は、既にいない。
『「私ね、王華程強くはない代わりに、武器の扱いは得意中の得意だったの」』
いつの間にか敵連合の後方にいた王華であったが、その腹に開いた穴は蠢きながら収束を始めている。
そして、その手にはかなりの長さを誇る棍が握られていた。
飛び掛かるも、まだ距離がかなりある。
「何あの子、いくら長いって言っても、まだ随分と離れてるけど──!?」
だが、振るわれたその棍は、手首と腰を軽く翻す事により、その長さを更に増す。
「228.5cmの九節棍。その中に仕込む鎖の長さはそれぞれ12.5cm。重さは25.7kgで使用する木材は樫。接合部と鎖に使用する金属は…………刀身は180.5cm、柄は22.7cm。鍔のサイズは………」
「八百万、さん?」
「あぁ、すみません!あの方に言われた物をずっと頭に叩き込んでおりましたので…思わず…」
そう言った八百万の身体からは、いまだに武器を生成しようと【創造】を駆使している。
燈はそのうちの一つを握りしめており、踊るように振われた九節棍を前に、オール・フォー・ワンは余裕の声色で、声をかけた。
「素晴らしいね。僕は、君が欲しい」
『「王華の最低な弟といい、碌なのに好かれない人生だったな」』
九つに分かれた棍は鞭のようにしなりながらもオール・フォー・ワンへと迫る。
だが、片足を引いただけで躱されてしまうも、燈は笑みを浮かべていた。
『「個性を抜きにした、純粋な戦闘には慣れてないのかしら?これは紙一重じゃ───」』
手首から先を、ブレて見えないほど高速に振るうと、円を描いていた九節棍はその綺麗な軌道をたちまち歪なものへと変える。
『「躱したことにはならない!!」』
「──!!だけど、大したことはないね」
オール・フォーワンの後頭部へと棍の先端が叩き込まれ、オール・フォー・ワンは一歩後ずさったのみでダメージは見受けられない。
だが、その後すぐに鎖はぐんぐんと繋がっていき、九つの鈍器は、一つのより強力な鈍器へと繋がっていた。
『「だろうね。でも、コレは痛いよ?」』
まるでフラフープでも持っているのかと思えるほど、ただの円に見えるほど高速に回転している棍。
先程とは比べ物にならないくらいに強力な一撃がオール・フォー・ワンを襲う。
伊達に王華と肩を並べて幼少期を過ごしてきたわけじゃない。
血の滲む鍛錬の末に身につけた武器術には自信がある。
ましてや、今扱っている肉体は極限まで鍛え込まれた、まさに神の宿る究極の肉体。
それをこんな、奪い集めたものの上にあぐらをかいている奴なんかに……好き勝手言わせてたまるか!!
この肉体は最強の身体!帝王華だ!!こんなもんじゃ、止まらない!!
『「地旋風……双頭の蛇!!」』
くるぶし、脛、膝へと三度打撃を与え、棍の中央を持ち高速回転させる。
九節棍の中央から、それぞれ四つずつ左右にわかれた棍が蛇のように唸りオール・フォー・ワンを襲う。
「こっちも、もう少し、強くいこうか」
【空気を押し出す】【筋骨発条化】【瞬発力】
三つの個性を使った衝撃波が放たれたところで、王華の肉体は既に棍からは手を離し、その場から消えている。
攻撃の命令を覆し、回避行動を優先。
王華の肉体操作ではなく、自身の幽体の操作へと、瞬時に切り替える。
燈のいた地面と棍が消し飛ぶ中、王華から膨れ上がったオーラは離れた大地を掴み、高速でオール・フォー・ワンの後方へと回り込む。
もう一方に伸ばされたオーラの手には、6尺6寸を越す、あり得ない長さの刀が握られており、王華の肉体は既に構えをとっていた。
「本当に、いい個性だ。弔にはまだ難しいかもしれないが、僕なら──」
『「蜂の巣にしてやる…!!」』
王華の大きく腕を後ろに引いた構えに、刀を持った燈の幽体が重なり合った。
背へと大きく回し、目一杯引いた突きの体勢というにも関わらず、あまりにも長いその刀身の先端は、既にオール・フォー・ワンのすぐ間近まで伸びている。
『「
腰だめから、腰の回転のみを使い放たれる突き。
それは無呼吸連打で行われる音速の突きの連撃であった。
まるで壁のように打ち付けられる燈の突きを【増殖】し、更に【硬化】した腕でガードするオール・フォー・ワンだったが、その硬い外皮を問答無用で叩き割っていく燈の刀に、全身から放つ衝撃波で対抗する。
『「──くぅ…!!」』
チッ……
痛みを無視。
それよりも、身体へと向けた脳の命令を優先。
『「邪魔を…するな!!!」』
衝撃により折れた刀を、突然何もない場所へと横薙ぎに大きく振るう。
それは、音もなく忍び寄っていたコンプレスを軽く切りつけていた。
「うぉっと!!…たく、どんな高校生だよ!?」
完全に虚をついたと思っていたコンプレスであったが、肩越しに睨みつけられるその紅い瞳の放つ重厚な殺意に思わずたじろいでいた。
『「はぁ…はぁ……」』
コイツ相手に邪魔立ては、しんどいなぁ……
私に王華程の戦闘感はない。
いちいち個性を使わないと、王華並みの反応速度には至れない。
王華が私を使う事ができれば、彼女はもっともっと強くなる。
つくづく、私の王華は凄いのだ。
だから、こんなところで終わるわけにはいかない。
「そんなに大事かい?自分の創り上げたものが」
『「……どういう意味?」』
「君は僕と似ている気がするよ。彼女を自分好みに育て上げたんだろ?自分を決して裏切らず、依存するように」
私の、私だけの秘密。
結果そうなっていただけであって、私にそんな気は……
「図星だろう?彼女の考えていること、教えようか?自分はただの人形だったと知り、今は虚しくいじけているのさ」
『「私は、そんな事……」』
嘘だ。
全部気付いてた。
私と出会って、王華は変わった。
自分以外の全てを下等な生き物にしか見ていなかった傲慢さは少しづつ薄れ、私に至っては対等に見てくれていた。
常々持っていた王華の信念は、野望は、どんどんと薄れていき、今や癇癪を起こした子供のように、支離滅裂な壊れた理想の元に暴力を奮っているにすぎない。
私が、そうしたのかも、しれない。
「作者が消えた物語の主人公。自分を持たないが故に未来を思い描くこともできず、無様に踊っていたのが、君の創った帝王華だよ」
『黙れ……ッ!?』
突如飛び退き、マグネの磁力により飛び込んでくるスピナーの顔面に刀の柄をカウンターで打ち込み、そのままオーラ弾で弾き飛ばすとともに、跳躍。
燈のいた場所は、再度迫りよっていたコンプレスにより、地面が丸く抉り取られていた。
『「邪魔するなと言った。そんなに、先に殺されたいか?」』
鬱陶しいコンプレスの腕にナイフを投じ、突き立てつつも肉薄し、そのナイフへと突きを放ちより深くへとナイフの刃をコンプレスの腕へと侵入させていく。
「いってぇぇ……」
あの子たちを嗾けてもいいが、素直に動きそうもないし、緑谷くんを取られたら終わるし、今は時間もないから邪魔なだけ。
そうなると、他にこの場で使えるのは……
王華の、今は燈が使用している肉体にだが、爆豪からすれば王華にチラリと向けられた青い瞳の視線に、あまりにも帝王華らしからぬ感情を感じ取っていた。
「……ッ!?」
それに、爆豪は完全に萎縮してしまった。
それも仕方のない事だった。
ヘドロの敵の時は、何もできなかった。
その後いくつかの実践経験を経たとはいえ、それは雑魚相手でしかない。
実際はたかだか16歳の高校一年生。それも恵まれた環境で育ってきたのだから。
それがいきなりトップヒーローが瞬殺されるような現場に放り込まれているのだ。
むしろ、怯え、泣き叫び、逃げ出さないだけ大したものだと言える。
『「………」』
まぁ、そりゃあ無理ってもんだよね。
あのサングラスとさっきからちょっかい出してくるマジシャンのような奴が尚も絡んでくるのであれば、相当ウザいな。
さて、次はどうするか。
一対多なら、やっぱり九節棍の方がやりやすいんだけど……
燈は既に思考を切り替え、爆豪からは視線を外し、敵連合とオール・フォー・ワンのどちらをも視界に入れるように爆豪に背を向け警戒を強めた。
だが爆豪は、プイと逸らされた王華のその視線に、先程の当の時と同じ感情が込められているというのがわかった時、考えるよりも先に、怒りが全身を駆け巡り、気がつけば叫んでいた。
「ざっけんな……!!俺はオールマイトをも超えるヒーローになる!!あのクソニヤケにも、テメェにも!!俺をザコとは呼ばせねェッ!!!」
その爆豪の叫びにクスリと笑った燈は、優しげな笑みを浮かべている。
たしかに、頼ろうとした。
こんな状況で、他の相手はしていられない。
私の力も、あと少ししか持たない。
でも、彼は引いた。だから見限った。
だが、彼はどうやら怒りで火がつくタイプみたい。
今の彼なら、少しの間なら任せられるかも。
『「じゃあ、お願い。私はアイツで手一杯だから、ソッチは任せたよ?爆豪くん」』
その王華らしからぬ優しげな微笑みと言葉に、爆豪は一瞬目を奪われた事が理解できなかった。
なんで……こんな奴に……。
この俺が……こんな……!!
「ォォォォオオオ!!!クソカスどもが!!テメェらは俺がブッ殺すッ!!!」
爆豪は拳。握り込み、大きく爆破させる。
無意味ではあるが、スロースターターである爆豪は痛みを押してでも、身体を熱く高め、その個性の元である汗腺を刺激する。
中距離に陣取りながらも、敵連合へと両の腕を広げて臨戦態勢となっていた。
これで、少しは集中できるか。
とはいえ、本当に、そろそろ限界だ。
実態化するのにすらかなりの力を使うのに、王華の肉体操作まで行っている今、いつガス欠になってもおかしくない。
大甘で予想していた一分など、とっくに過ぎている。
オール・フォー・ワンの言葉による怒りも、横槍のおかげで落ち着いてきた。
予想では今頃オールマイトと共闘に入ってるはずだったのに。
そもそも、爆豪くん達がこっちに来てから30秒くらいあれば駆けつけると踏んでいたが、何をしているんだあの筋肉ダルマめ。
また、間に合わないの?平和の象徴じゃなかったの?
と、散々言っておいて今更英雄に頼っても仕方ない。
ここは、私がどうにかしないと。
新たな武器は、あるにはあるようだが距離がありすぎるし……
はぁ。一旦ストップしてくれないかなぁ……
『「舌戦をしかけてくるなんて思いもしなかったけど。そういえばあの時も、ブツブツとオールマイトを挑発してたか」』
「いや、君にも彼女にも、本当のことを教えてあげただけさ。帝の血を継ぐ彼女がどう受け取ったかは、知らないけどね」
イラつく……
帝の血など関係ない。
何代前の話をしているんだコイツは。
あの弟いい、この手の勘違いした馬鹿は、どうしても殺したくなる。
自信満々なお馬鹿さんなのは、王華だから良いのだ。
『「………続き、やる?」』
「もちろんだよ」
私の個性が欲しいのか知らないけど、こんな状態の私からでも本当に奪えるのか?
ウザいよー。王華の中でのんびりしたいよー。でも殺したいよー。
本当に、どいつもこいつも、大っ嫌い!!!
『「はぁぁぁぁぁぁあ!!!」』
折れた刀で切り結びながらもオーラによる攻撃の手は緩めない。
今まで二人でやっていたことを、全て一人でこなさなければならないのだ。
未だに横槍が入らないということは、彼は上手く立ち回っているのだろう。
が、武器の使用による戦闘に向こうが慣れてしまえば、私は終わる。
私が終わるのは、別に構わない。
元々死んだ身だ。
だけど……今は、今だけは終われない。
王華を子供のままに大きくしてしまった責任は私にある。
あの日から止まったまま、中途半端に他人を知ってどんどんと弱くなっていく一方だった。
元々、王華の戦いは戦闘ではない。蹂躙なのだ。
昔の王華に戻りさえすれば。そして、私を使いさえすれば、王華に敵はいない。
私の夢は、既に叶った。
内側からずっと見守れたし、ずっとずっと、私を想っていてくれた事がなによりも嬉しい。
だから、理由も説明できないままでは、終われない!!
「怒りは動きを鈍らせる。たまには、僕から攻めようか」
『「マズッ──!!」』
大振りとなった燈の剣技のわずかな合間に、最初と同じ、大規模な衝撃波が、私と倒れ伏すヒーロー達に向けて放たれた。