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第二種目
【騎馬戦】
二人から四人まででチームを組み、先程の順位で加算されたポイント合計の鉢巻を騎手が装着しての鉢巻の奪い合い。
チーム戦と言う事がネックなのと、もうひとつは……
『…………』
怨念のように込められた視線がただ一人へと注がれている。
そう、一位である緑谷出久に与えられたポイントは、1000万。
二位である王華の205ポイントに対してこれなのだから、一位である緑谷さえ潰せば、余裕で勝てる。
どう潰すか、どう奪うか。
そう言った殺気にも近いものにあてられる事は、緑谷にとっては初めての経験だった。
その後、15分のチーム決めのための交渉時間が設けられ、避けられている緑谷が、もう一人の避けられている存在へと歩み寄った。
「帝さん、僕とチームになって欲しい。作戦は考えてあるんだけど、僕が逃げ切るためには、帝さんの力が──」
なるべく丁寧に、だが決意した顔で話し始めた緑谷。
個性も不明。話した事も殆どない。
そもそも会うのさえ2回目でしかない上に、自分の秘密を知るものという、不確定要素の塊。
その性格が、自信家ということと、持っている力は間違いなくトップクラスということくらいしかわからないが、この少女であれば作戦の枠が大幅に拡げられると判断したが故の誘いだった。
しかし、そんな緑谷の誘い文句も途中でぶった斬られた。
「断る」
「そ、そんな…」
「私がお前を逃すだと?言葉を選べ。全てを潰して1位になるという誘いであれば乗ってやったぞ」
逃げるという選択肢は王華にはない。
堂々と、悠然と見せてこその背中。
逃げるように背を見せることは、王華からすれば耐え難い。
攻撃こそ最大の防御。
頂点至上主義であり、基本的な考え方は脳筋である王華にすれば、当然と言えば当然の答えだった。
仕方がないと、去っていく緑谷は放っておき、王華は周りを眺めていた。
……私の足は、アイツだな。
ひとしきり観察を終えて、元々有力候補に上がっていた者を騎馬に決めた。
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「……今の、本気で言ってるのかい?」
B組である物間寧人の言葉に、塩崎はうなづいた。
常にA組と比較され、今回のUSJ騒動で劣っているように見られている、B組の結束は固い。
今回の騎馬戦もA組と組むことはなく、もちろんB組で固まってチーム分けを進めている中、一人違うチームを組むと言い出したのだ。
「君が初めて言う冗談じゃないの?裏切るとか、頭がおかしくなったん──」
「物間!!」
口の悪い物間の口撃が始まる前に、B組の姉御こと、拳藤一佳が前に出た。
「そっか。茨がそうしたいなら、そうしたら良いよ。でも、負けないから」
ニコリと笑う拳藤に、塩崎は頭を下げると背を向けて歩き出す。
自分が憧れた者の元へと。
第一ステージの最後、爆豪の爆破を躱すために、その槍から降下した王華へと放ったツル。
だが、私は一瞥さえされなかった。
右腕一本で氷の壁を破り、前をいく三人を迎撃。
足に絡み付かせたのに、振り向きもせず、まるで埃でも払うかのように、軽く左手を振るっただけで、私のツルをたやすく切断していた。
圧倒的だった。
その強さは、かつて遠巻きに見た少女の、今の姿であると確信していた。
理想……と言われたものの、それを望むことは、おこがましい行為。
やはり、私にとって、黄金に輝く貴女は、憧れでしかない。
せめて一度でいい。
その黄金の気に当てられたいと。
その輝かしい道を歩きたいと、そう思ったのだ。
「帝さん……私と……」
「随分と遅かったな。私が牙となろう。貴様は我が足となり盾となれ」
茨は、今だけはその棘全てに花が咲いているような満面の笑みを浮かべて頷いた。
ここに、二人だけの帝チームが誕生した。
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派手に動き回る多くの騎馬は観客や視聴者、マスコミを楽しませている。
だが、そんな中でも、帝チームは動かない。
「…………」
『鷹は下界観察のつもりか、今回も最初は全く動かねーけど、なんか考えでもあんのかな?』
『俺に聞くな。見てりゃわかるだろ』
プレゼント・マイクの言う通り、王華はスタートしてから塩崎の個性で空へと伸びたツルの上にいる。
まるで上空から下界を見下ろす神のように、ただ眺めているだけ。
塩崎自身は周りにツルを生やし防御に徹しているも、手を出すものはいない。
全員が、爆豪の爆破も轟の氷も軽くいなした、あの強力なパワーと得体の知れない空気感に手が出せずにいるのだ。
開始から既に少なくない時が経過して、なおも動かない王華に対して、塩崎は疑う気持ちなどひとつもなかった。
そもそも、開始前から聞いていたし、自らの王を疑いはしない。
『さぁ!残り時間半分をきったぞ!!』
アナウンスが流れたところで、一頻り観察を終えた王華は地上へと舞い降りる。
まるで椅子のような、絡み合い集中したツルの上に飛び降りると、仁王立ちをする鷹の仮面。
不気味な雰囲気を纏っており、足となる茨へと指示を出そうとしたのだが、ちょうど爆音で実況が入った。
『動かざること山の如し!!だがついに、その山が動く!!次は一体何を見せてくれんだぁ!?』
仮面の下の顔を苛立たせながらも、今度こそ茨へと指示を出す。
「五月蝿いな、あの男は……」
いくつかの地点を指差しながら茨へと指示を出すも、茨は困惑していた。
元々、残り時間半分になるまでは動く気はないと言っていた。
自分の個性に関しても話した。
頭のツルを伸ばすことができる個性だと。
切り離すことも、多少であればそれを操作することも可能ではあるが、切り離したものを再度伸ばすことはできないと……
「先程も申し上げた通り、私は──」
「できないと思うな。できて当然だと思え。この私が選んだ貴様は、なにもできない豚なのか?自らに上限を引くな。個性など暴走するならさせればいい。さぁ、やれ」
やってみろなどではなく、やれと言うのだ。
それに、上限を超えた時どうなるか、私自身把握もしていない。
暴走してしまうかもしれないとも伝えている上で、だ。
過去に一度だけ、暴走させてしまったことがあるのだ。
ちょうど、二人の噂を聞き、その二人の小学生が、大人の敵を倒すところを、遠巻きに見た数日後に。
興奮冷めやらぬ中、二人に憧れ無茶をした結果、公園が立ち入り禁止になる程めちゃくちゃにしてしまい、その時のことは、全く覚えていない。
両親にはこっぴどく叱られ、ヒーローという夢への道が閉ざされてしまったのではないかと、不安に駆られ毎晩のように泣いた。
もしもまたあぁなってしまったら…
切り離しても切り離しても無限増殖する凶暴な刺の蔓を生み出してしまったら……
「何を恐れることがある?」
過去のトラウマに対して、確かに恐れの感情を抱いた私に、その声は重く響いた。
私だけに見えるように、鷹の仮面を外して、その美しい、神の造形物のような素顔を顕にしている。
その真紅の瞳が私を捉えて離さない。
仮面ひとつ無くなっただけだと言うのに、この違いはなんだ?
纏う空気はなんだ?
麻薬のように私の心に染み渡り、拡がっていく自信。
そうだ。絶対的な存在が、味方にいるのだ、確かに、恐れることなどない。
「ようやくわかったか?私がいるんだ、貴様は何も恐れることなく、全てを曝け出せばいい。何が起きようとも、結果は勝利の二文字のみ。貴様はこの私が選んだのだぞ、塩崎茨」
静かな、脳の奥底まで響く声だ。
絶対の自信を持ち、それを自分にも伝染させてしまう。
理屈を抜きにして、信じてしまいたくなるような、ついていきたくなるような。
そんな力強さがあった。
王華は仮面を付け直し、再度茨へと指示を出した。
「さぁ、飛ぶぞ」
まだ個性を発動させていないにも関わらず、王華は飛んだ。
足場は無い。
失敗して地に足つけば、すごくカッコ悪い上に、それで終わりとなる。
だが、焦りも、恐れも、不安もない。
落ち着き払っている。
今の自分であれば、初めからできたのかも知れない。
だが、そうは思わない。
この方がいるから、私は今、ひとつの殻を打ち破ったのだ。
「えぇ。貴女に舞えぬところはありません。貴女の道は、私が創るのだから。
王華が遥か上空からいくつかのポイントに撃ち込んでいた、茨の棘が急成長し、それはまだ頼りないが、腕くらいの太さのツルへと急成長した。
「できた……けど!」
「十分だ。恐れる事はないと言っただろう?」
『なんじゃこりゃあーー!!ステージにミドリのチンアナゴ登場ーーーー!!!』
そのツタを掴んでは、勢いのままに再度跳ぶ。
王華の左手は、塩崎の右手を掴んでおり、その姿はまるでジャングルを駆ける二匹の猿のようであった。
そんな二人が真っ先に狙いをつけたのは……
「やれ!上鳴!!!」
轟チーム。
だがそれと同時に、上鳴による無差別攻撃、130万ボルトをフィールド全体に撒き散らす。
上鳴から放たれる放電が広がりきる前に、王華は茨を空高く放り投げ、攻撃の範囲から茨を逃す。
自分は至近距離で電撃を浴びながらも、止まる事はなく、絶縁体のシートに覆われた轟チームへと着地した。
爆豪が物間に仕掛けた際、失格にならなかったのは確認済み。
要は、私の足が地面につかなければいいのだ。
「お!重いッ!?」
「ぐっ!ここで来るか!!だが……」
轟は地面を凍らせ、他のチーム全ての騎馬の機動力を氷で奪う。
王華からすれば、それは愚策であった。
「私の対処を二の次にするとはな!」
「なんで!?俺の無差別放電モロにくらってんだろ!?」
私がこの程度の放電で意識を失うか、動きが止まるとでも思ったのだろうか?だとすれば、随分と甘く見られたものだ。
真っ先に自分へと攻撃を仕掛けなかった轟に叫びながらも、驚愕の表情を浮かべる上鳴へと言葉を返す。
「確かに痛みは感じるが、それだけだ。私を止めるには至らん」
地面を凍らせた後、ようやく轟は左手を王華へと伸ばそうとしたのだが、数手遅い。
簡単にその腕を蹴り飛ばされた。
「これは、どうですか!?」
「話にならん。扱うのであれば、棒術くらい学ばなかったのか?」
八百万が創造で作り出したものの、何の変哲もなく殴りかかるだけの棍棒は右手の甲で受け、手首を捻り奪い取る。
首にぶら下げた鉢巻に伸びる轟の右腕は棍棒で回し受け、弾いた。
「棍とは、こう使うのだ!!」
そしてお返しとばかりに八百万の肩部を貫かんと、両腕に力を込めたところで、
──バギャ!
「チッ。粗末な作りに助けられたな」
棍棒自体の強度が弱く、握り潰してしまい不発に終わった。
飯田は何かしようとしていたらしいが、視界は王華の靴底に覆われており、そのまま顔を踏まれ、軽やかに王華は跳躍した。
「俺を踏み台にしたぁ!?」
どこかで聞いたことのあるセリフを飯田が叫ぶ頃には、王華は既に顔を蹴り高く舞い上がっており、その右手にはいつのまに取ったのか、轟の鉢巻が握られていた。
そのまま茨の側へと舞い上がり、空中で合流を果たした瞬間。
「フン。──貴様では相性が悪い。先に行け」
「はッ!?」
王華の声に、茨は迫る脅威に振り向こうとするも、王華の投げが早い。
チームメイトである茨を空中にも関わらず、背負い投げの要領で地面に向かい、勢いよく投げつける。
「完膚なきまでの一位になるんだ!!俺が一番ぶっ殺したいのは、テメェなんだよ!!!!」
投げ終わった体勢のため、完全に無防備な王華へと、一直線に向かう爆豪。
王華が動いた事を確認し、翻弄されかけた物間を瞬殺し、上鳴の放電に合わせて、爆豪もまた飛んでいたのだ。
USJで思い知らされた。
障害物競走でも一蹴された。
この女を倒さない限り、俺は一位にはなれない。
リスクも気にせず、最大火力をぶっ放そうと腕を突き出そうとした瞬間、王華の仮面の奥にあるその瞳は、獰猛に、爛々と輝いていた。
爆豪の汗腺からは汗が噴き出る。
何か仕掛けてくる。
だが、そんなもん、関係ねぇ!!
ぶっ放して!ぶっ殺す!!!
突き出された掌の、その汗腺から溢れ出るニトログリセリンのような汗に着火される、ほんの少し前。
王華のその口が大きく開いた。
「アッ!!!!」
馬鹿げた声量が、爆豪の鼓膜目掛けて飛び込んでいき、思考が飛んだ。
完全に虚を突かれた。
王華の反撃のパターンはいくつか予想していた。
恐らく肉体強化系の個性である王華に遠距離攻撃はないと予測し、何かを飛ばしてくるにしろ、その起点は腕や脚だと思っていた。
もしそうであれば、一撃もらいながらであれ最大火力を喰らわせる覚悟もできていた。
それがまさかの、音。
油断していたわけじゃない。だが、完璧だと思っていたタイミングを崩され、爆破を放てない爆豪に、王華の追撃が入る。
「甘い。貴様のそれは予測ではなく希望でしかない。そんなくだらん思考、自分の行動を縛るようなものだぞ」
『声、デケェーーーー!!!』
『お前も大概だ。だが、至近距離であれば有効な手である事は確かだな』
重力により落ちて行く王華が、地面まで後数メートルというところで、茨の作り出したツルの丸い塊に着地した。
「メテオヴァイン────
私が、貴女の道を創るのです!帝王の、覇道を!」
その2mはあるツルの塊は、三つ編み状に絡み合った3本のツルで茨と繋がっており、それはまるで巨大なモーニングスターのよう。
王華を乗せた状態のまま、茨はツルでできたモーニングスターを思いっきり振り回し、王華はその、遠心力も上乗せして、今までよりも速く飛ぶ。
その狙いは、もちろん爆豪。
「仕掛けてきたのは貴様だ。まぁ、狙いは中々良かったが……」
「黙れクソ仮面ッ!!!」
爆豪の右の大振りを躱す事もしない。
掌に多く存在する汗腺。爆豪の個性の源であるそこをつく。
掌には他の部位と比べ、多くの汗腺が存在しており、その全てを塞ぐことは不可能。
だが、基本的に振るうのなら、その爆破方向は上下左右と散りはするが、それは進行方向のみから来るのだと、より限定されるし、掌を使う事は明白。
肩部、肘での加速や、足裏、膝などからも出し攻撃に出るのであれば、初動を見てから止めれば良い。
それ故に、自身に被害が及ぶであろう、主に頭部を襲うであろう位置に剣指を突き立て、その爆発は王華の胸から下を襲っていた。
指先は焦げ、爆発にさらされた身体に痛みも熱も感じるが、そんなもので怯む王華ではない。
「相手が悪かったな」
爆豪の鉢巻、しかも正確に、元々の爆豪チームの鉢巻だけを奪う。
そのまま蹴りの一つでも入れ戻ろうとした王華に、
「えーーいっ!!!」
芦戸の酸が襲った。
同時に、瀬呂のテープが爆豪に巻きついている。
「ふむ。ここで攻勢に出るのは評価できるぞ芦戸三奈。ただ、スピードも範囲も、何もかもが御粗末すぎる」
爆豪と同じ、右の大振り。
だが、速度が全く違う。
至近距離で見ていた芦戸と切島ですら、その腕の振りは、微かにしか見る事はできない。
その振りが巻き起こす突風は、芦戸の酸を押し返す。
自らの攻撃が返され、バタついている爆豪チームを尻目に、足元から伸びてきたツルに蹴りを入れた反動で塩崎の元へと帰還した。
「さぁ。これで1635ポイント。最終戦への出場切符は得たな」
「それは、取られる事も計算してる!?帝ちゃん!」
物間に奪われて今はゼロポイントである葉隠チームが迫り寄ってきている。
王華は塩崎の横に転がるモーニングスターの上に仁王立ちしていたのだが、その脚を大きく振るう。
その脚が作り出した強力な衝撃はスタジアムの地面に大きな線を描くように、切れ目を入れた。
「無駄な事はしないのでな。この線から入ってこん限りは何もせん。
──死にたいのなら、向かって来い」
茨は、王華の乗るその大きな塊を宙へと浮かし、空から見降ろす帝王は葉隠の"眼"を見つめ、その纏う空気の濃度を上げる。
死にたいのなら。
それは比喩ではないと、葉隠チームの脳内には警報が鳴り響いていた。
まるで極寒の冬山に裸で放置されいるような心細さと、肌を刺す、冷たいを通り越した痛み。
葉隠は答えることができず、パクパクと口を開け閉めしている。
見られている。
確実に、私の眼を。
人と目が合うことなど、数えるほどしかない。
だが確実に、今目の前に立つ、鷹の仮面の奥の瞳は正確に私の……
葉隠の様子がおかしい事に加え、USJで相対した敵など目ではない存在が目の前にいる。
騎馬である耳郎は、逃げるというを選択をした。
「あ、相手が悪い……引くしかない…」
「賢い選択だ、耳郎響香。貴様の判断は間違っていない」
引いて行く葉隠チームを放っておき、ドカリと腰掛けた王華に、茨は聞いてみる。
「1000万を、奪いはしないのですか?」
クククと笑い、そばに来ていた茨の頭に手を置く。
「教師どもに釘を刺されていてな。やりすぎるなと」
もう十分にやりすぎている。と思いつつも、茨はそれを口には出さなかった。