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なんてことのない、所謂お金持ちの家に生まれた帝 王華は、生まれ落ちたその時から、自らを特別な存在だと考えていた。
物心つく前から生まれ持った自我と、自身の能力の高さ。
知識にしてみれば、見聞きしたことを忘れたことなどない。
性能の良い脳はインターネットのように、己の頭の海へと知識を浮かべ、必要な際に取り出せば良いだけ。
全ての書物は一目通すだけでゴミと化した。
身体能力で言えば、一歳にもなれば、言葉を操り、家の中を歩き回り、周囲を驚かせた。
しかし、わずか一歳の少女がおこなっていたのは周囲の観察。
そこで感じたのは周囲の人間と自分との、あまりの格差。
何故こんなこともわからないのか。
何故こうも無駄なことをしているのか。
自分以外の生き物が知識を有さぬ馬鹿にしか見えなかった。
そして、その後4歳になり言われた己の個性。
個性を判別した医者のような男は、馬鹿が故にわかりもしなかったのであろう。
その男が診断の結果、私と両親に言い放った言葉が、
ざんねんですが、お子様は【無個性】です。
もしかしたら、知能の面では『前世の記憶』を有しているかもしれないが、個性としてはない。
歳を重ねるごとにそれも忘れていくでしょう。
小指の関節が二つある、旧時代の人間と同じ作りの身体なので、個性の今後の発現はないでしょう。
だが、そうではない事は、言われた本人がわかっていた。
なぜなら知恵や、身体能力などは、生まれ持った"才能"である。
それに、関節は身体を動かす上で加速パーツとなるのだから、多いに越した事はない。言わば、今の人類の身体こそ、生存競争を忘れ、退化した物なのだ。
その上、言うに事欠き前世などと、自分が知り得ない何者かの借り物などであるはずがない。
私と言う"個"は、全て私のものだ。
己の事は己にしか理解できない。
この陳腐で下等な生物には理解できない。
魚や虫の行動を理解できないのと同じ。
そもそも種族が違うのだ。
王の事は、王にしか理解できるはずもない。
そう、私の個性は───
【帝王華】
王となるべくして生まれ、王となる運命の下に生まれた。
私と言う『個』が、何者にも勝る個性なのだと考えた。
世間を賑わし、何度もテレビや雑誌で見てきたヒーローとヴィランの織りなす、まるでフィクションのような活劇。
ただ、ヒーローの活躍ばかりではない。
超常黎明期に対し、法も制度もまだ整いきっておらず、ヴィランにのる被害や、殺害されたヒーローのニュースなども多く流れていた。
そこで、王華は思う。
敵であるヴィラン?
味方であるヒーロー?
そんなものはどちらも必要ない。
この世は、私のためにある。
私が創る世界は、敵か味方かなどない。
私という絶対の存在と、その他だ。
そこに争いなど、起きるはずもない。
恵まれていた、天賦の才を持っていたが故に、歪んだ人格を持って生まれた王華は、敵に憧れるでもなく、英雄に憧れるでもなく、そのどちらもを無くすと言う事を理想としたのだ。
そう思い立ち、未来を見据え、世界を統治するために身体を鍛え上げ、心の強さを練り上げると決めたのは、帝 王華がまだ四歳になったばかりの時だった。
しかし、実の両親である二人は、あれほど神童だと溺愛していた娘が、【無個性】であるからと、掌を返したように虐待し始めた。
元々名家であり、厳しくもあった両親は、個性を持たない出来損ないへの教育と称して、王華への当たりは別の意味で厳しさを増した。
何度地べたを転がされ、屈辱を味わされたことか。
王華はこの二人の役目は自身をこの世に生み出したことで既に終えていると思っていた。
派手で強力な【個性】などというものに囚われ、【才能】を見ることのできない凡人。
そんなものに囚われているから、この世界は腐っている。
人間の価値はそんなものでは決まらない。
私がそれを証明する。
人の持つ個性は、天からのギフトなどではなく、自分自身でなければならないのだと。
だから、忘れない。
この扱いを。この屈辱を。
自らよりも劣る"弱者"に見下ろされると言う事がたまらなく腹立たしく、個性と言うものに怒りを覚えるようになった。
生まれながらの名家である両親からの愛の無い教育は、二つ年下の弟に【個性】が発現したと同時に、ただの虐めへと変わっていった。
食事は与えられず、金だけ渡され自分で買いに行った。
教育と言う名の暴力時以外は干渉すらされなかった。
そうして、ただでさえ歪んだ人格である王華の人格を、更に捻じ曲げていった。
ただ一つ、王華がこの二人から学んだ、真理があった。
『強者が弱者から奪う事は必然』
そう言いながら娘を嬲る二人に対して、逆にその娘が、既に実の両親を"弱者"として見ていることになど、気づきもしなかった。
────
小学校へ通う事になった王華六歳であったが、自分と同じ年月を生きてきたとは思えない、なんの苦労もせず、へらへらと笑う幼すぎる同級生達や、何の力も持たずして偉そうにしているだけの、教師と呼ばれる凡夫。
そんな人間たちに囲まれた入学式で、王華は既にこの学校生活には見切りをつけていた。
入学式が終わり、自分に振り分けられたクラスへと移動する。
そのクラスが”B"組、と言う事も王華をイラつかせる。ただのアルファベットでしかないが、Aが存在する以上、まるで自分が劣っているように見えたからだ。
苛立ちが募る中、何一つとして聞いていなかったクラスの自己紹介の順番が自分にまわってきていた事に気づいた。
「おや?聞いてなかったのかな?他の子の話は聞かないとダメだよ」
己よりも劣るものが、教え、師事される、教師などと……
苛立ちは既に通り越し、怒りと殺意にわなわなと震えてきた。
「おや?緊張しちゃっているのかなぁ?」
はははと笑う同い年の子供たち。
その中に、自身と同じような知識を有するものなどいない。
それに、教師という癖に、こんなにもあからさまな感情すらわからないとは……
元から期待することもなかったが、この世界を腐らせた原因の一部はこの教師という職業にあるのだろうな。
スッと、椅子から立ちあがり、ぐるりと教室を見回す。
それだけで、騒がしかった教室の空気は一変した。
まるで下等な生物を見るような、冷ややかな紅の瞳と、その異様な雰囲気を作り出したわずか六歳の少女に、教師までもが飲まれている。
そうして、ゆっくりとその形の良い唇を開いた。
「私、帝 王華が貴様らと語り合うことも、貴様から教えを受けることもない。ここでの生活が今後の私に与えるものなど、何一つとしてないだろう」
ポカンとする一同をそのままに、フワリと椅子に腰掛けた。
入学初日での強烈な自己紹介。
その日から、家庭内での扱いは置いておいて、家柄としては名家のなかでも上位である彼女は、学園のアンタッチャブル扱いとなり、近づくものは、同級生はもちろんのこと、上級生までも、更には教師も含め、誰もいなくなった。
──────
小学校も一年生が間も無く終わる頃。
当時、虐待まがいの教育を受けていた、まだ幼い王華は常に生傷の絶えない少女だった。
だが、幼いとは言え既に自尊心の塊である王華が泣き喚き、両親に許しを乞うような真似などは絶対にしなかった。
だがそれでも、辛さと苦しさに耐えきれず、一人部屋で涙した事もある。
初めの頃は話しかけてくる教師もいた。
夢でも見ているのか知らないが、他人に対して自分の思想を押し付けるだけの会話。
なんの意味も、価値もない。
くだらなすぎて、同じ事象ばかりを取り上げる、代わり映えのないニュース番組でも見ていた方がマシだと思っていた。
そう言った態度を崩すことのない王華に対して、半年もすればそんな事すらもなくなっていた。
弟も、両親の愛を一身に受け、姉とは違った方向に歪んでいた。
家族と一緒に過ごすことのない王華を、飯を食うだけの家畜、"豚"と呼び始めたのだ。
たまらなく悔しく、王華は、はじめに殺すべきは家族だと、そう決めていた。
家であっても、外であっても、どこにも王華の味方はいなかった。
常に傷の絶えない不気味な少女であり、人との接し方を知ろうともしないし、そもそも拒絶する王華に対して、誰もが近づく事を拒んだ。
自分以外の、その他大勢など必要ない。
同情も哀れみも要らない。
私は、ずっと一人でいい。
そんな、七歳にして周り全てを拒絶する、ひとりぼっちの少女に近づくものが、たった一人だけいた。
「おはよう。帝さん」
「…………チッ。また貴様か」
教室で一人、コンビニのおにぎりにパクつく王華の向かいに、明るい、薄い水色の、まるで空のような髪の色の少女が当然のように座る。
王華と同じく、腰まで伸ばしたその艶のある髪は水面のように幻想的に輝き、整った顔立ちが作る、優しくも明るい笑顔は、向けられた者を安心させる力があった。
それが、『
王華のクラスメイトであり、そして、一年生も半分が過ぎた頃に転校してきたその日から、何故か毎日話しかけてくる女。
いつも変わらず笑顔で話しかけてくる彼女を、王華はいつも冷たくあしらった。
次第に、何度打ちまかしても何もなかったかのように来る彼女に腹が立ち、手こそ挙げはしないが、恫喝した時もある。
だが、その次の日も、変わらぬ笑顔で話しかけて来る彼女に、驚いた王華は、ようやく燈に対して思考を巡らすようになった。
意味がわからん。こいつは言葉が通じないのか?
いくら考えても答えは出ない。
王華の、七年という短い人生において、物語とは違い、自身に"好意"を向けてくる相手というのが初めてであり、それが"好意"だと理解できなかったのだ。
理解できないという事が、王華の苛立ちを加速させ、遂に折れるように燈へと問いかけた。
「なぜ、貴様はそうも懲りずに私に話しかけて来るのだ?」
「何度も言ってるよ。聞いて欲しい事があるからって」
「…………ふん。では言ってみろ。なんだその話とは?」
王華は残り四分の一となっていたおにぎりを口に押し込み、飲み込むと真っ直ぐに、その青い瞳を覗き込む。
今まで一度として聞いてやらなかったが、今回ばかりは聞いてやる事にした。
これが終われば、自分に構うこともなくなるであろうと。
「え?えぇ!?いいの!?」
「……サッサと言え、私の気が変わらんうちにな」
言えと言ったにも関わらず、その覗き込んでいた瞳を大きく見開き、手をパタパタとさせて喜びの感情をアピールしている。
幾度となく暴言を浴びせかけてきたのだが、何がそんなに嬉しいのかも、理解できなかったのだ。
「えへへ。あのね、私と、友達になってよ!」
やはりこいつは、ただの馬鹿か?
転校してきたばかりで友達が欲しいのなら、別の者の方がいいに決まっている。
私と一緒にいる方が、あらゆる人間は避けていくというのに。
「……冗談だろう?くだらんお仲間が欲しいのなら、そこらの凡夫どもと話していろ」
呆れて席を立とうとした王華を、燈は手を取り引き留めた。
自らの行手を阻まれる事に怒りが湧いてきた王華は怒気をあらわにする。
「離せ。殺されたいか?」
本気で自分の存在そのものが個性だと主張する程の、王華の強い意思が込められた睨み。
それだけで、不思議と教室全体を圧倒的強者の空気が包み、気の弱いものなどブルブルと震えていた。
これこそが、己を王と信じてやまない、帝王の纏う空気であり、圧倒的なまでの存在感。
だが、それでも燈は平然としていた。
「待ってってば。"貴女"と、友達になりたいの」
「…………」
こちらの怒気に当てられようとも、一切揺らがない、その不思議な笑顔に、王華の怒気が霧散していく。
王華の心は叫んでいた。
なにを躊躇する?その手を払い、いつものように立ち去ればいいのだと。
しかしこの時ばかりは、何故か心と違う言葉が出てきた。
「……勝手にすればいい」
それでも、今までと変わらぬ対応をしていれば、流石のこいつも離れていくだろうと、まるで自分へと言い訳をする様に思考を切り替える。
「やったぁ!!じゃあ、今日から私たち友達だね!王華ちゃん!ん?友達だし。王華でもいいのかな!?」
「……好きにしろ」
何をそこまで喜ぶ事があるのか、掴んでいた王華の手をブンブンと振りまわし。晴れやかな笑顔を撒き散らしていた。
やはり、こいつの事は理解できない。
王華はそう思いながら、生まれて初めてできた"友達"を怪訝な顔で眺めていた。
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「まだコンビニ弁当なんて食べてるの?」
「……どうでもいいだろう?活動に必要なエネルギーは摂取している」
「そーじゃなくて!誰かの手料理の方がぜぇーーったい美味しいのに!」
燈と友達になってから一年も経ったころ。
気付けばほぼ毎日一緒にいるようになっていた。
彼女は自分と違い、その愛らしい容姿と性格から、友達も多くできるはずなのだが、何故か王華以外の人間は避けており、今日もそばへと寄って来る。
「そんな王華に、私の愛の籠った手料理作ってきたよー!」
「む?貴様、料理ができたのか?」
テンションの高い燈が鞄からごそごそと取り出したのは、清涼感のある、空色の弁当箱だった。
「女の子なんだから、料理くらいできるよー!ほら、食べて食べて!」
グイグイと押し付けられる弁当箱越しに、期待の篭った目で見つめられる。
何故だか無碍にできない友人にため息を溢しつつも、弁当箱の蓋を開けた。
見た目は悪くなく、片側は白いご飯の上に梅干しと、シンプルな王道スタイル。おかずの方はソテーされた鶏肉と、緑の野菜が生い茂る森林ゾーン。そこにのるプチトマトがいいアクセントとなっている。その横には定番の卵焼きが二切れあり、香りからするに刻みネギが混じっているようだ。
「ふむ、どうやら口にできる物ではあるようだな」
「ひどっ!当たり前だよ!ちょっと自信もあるんだよ?」
早く早くと急かされ、観念したように、まずは鶏肉のソテーを口にした。
醤油ベースの味付けは口の中に広がり、その香りと味の残るままに白米を口に運ぶ。
「どーかな?美味しい?」
「…………」
その言葉に答える事なく、箸は休まなく動き続け、次々と口へと放り込んでいく。
わずか5分足らずで、弁当箱は綺麗に空になっていた。
「どう?美味しかった?」
「…………」
「一心不乱に食べてたし、美味しかったんだよね?」
正直、味としては全く美味しくはない。だが、認めるのは癪だが、初めて感じる食事での幸福感。それに、箸を止める事なく完食してしまったが故に、今回は素直に答えてやる事にした。
「あぁ。上手くはないが、悪くはない味だ。燈の言うことにも一理あったようだな」
素直に言おうとしたのだが、どうしても一言多いこの性格は一年やそこらで治る物ではない。
そんな言葉に対しても、向かいに座る燈は、心なしかいつもよりもニコニコとしている。
「ふふふ。王華が私を認めてくれたの、初めてだね」
えへへと、笑うその顔は、いつもと違う。
きっと、照れているのだろう。
はにかんで笑う、燈のその顔から視線が外せない。
こいつには、本当に調子を狂わされる。
この相手が燈でなければ、心のままに拒絶を示す事ができるのだが、こと燈を相手にした時は、なぜかできない。
それに、嫌な気もしてはいなかった。
「燈は、何故私と友達になろうなどと思ったのだ?」
「え?それ、今更?」
最近では教室にいると、チラチラと感じる視線が鬱陶しいので、天気が許す限りは校庭の、大きめの木の下で食事をとっている。
そんな誰もいない木陰で、燈は顔を伏せるとクスリと小さく笑った。
「それって、言わなきゃダメ?」
「ダメだ」
その紅い瞳を逸らすことなく、逃がさないとばかりにしっかりと燈を見つめて言う。
燈はうーんと唸りながらも、やがて観念したように話しだした。
「憧れ……一目惚れなのかな?」
「……は?」
何を言っているだと言う目を自分に向ける王華に、燈は咄嗟に弁明をする。
「いや!そー言うんじゃないよ!?初めて王華を見たときにね、かっこいいなーってのと、友達になりたいって、そう思ったの」
「…………」
無言で、続きを促す王華。
これで終わりでない事はわかっている、という顔をしている。
仕方ないかと、スッと息を吸い、燈は告白するように、ゆっくりと続きを話す。
「私ね、前の学校ではずっと一人だったの。私のお父さんが敵だったから、発覚して逮捕されてから、周りからは虐められてたんだ。でも、お母さんは、周りの人からもっと酷いことされてたみたいで、心が壊れちゃったの」
ポツリポツリ話す燈の言葉を遮らず、哀れみの目を向けるでもなく、表情を変えることのない王華。
「それで、私はおばあちゃんの家に預けられる形で転校してきたの。でも、おばあちゃんも私をいないものとして扱ってるし、一人ぼっちになっちゃって……
だからもう、周りの人は誰も信じられなくて。みんな……私も含めて、みんな死んじゃえばいいって思ってた。
でも、王華を見た時に、私は心惹かれたの。きっと、王華の強さに憧れたんだと思う。力じゃなくて、心がこんなに強い人がいるんだって。どんなヒーローなんかよりも、王華が私を救ってくれるんだって。なんでか、そう思ったんだ」
燈の告白に、王華は驚きを隠しながらも、彼女を凝視する。
燈は頬をかき、苦笑を浮かべて話す。
「貴女に助けて欲しかったから。
こんな理由でも、まだ私と、一緒にいてくれる?」
王華は答えることなく立ち上がり、燈を見下ろしている。
腕を組み、風に揺らめき、顔にかかる金色の髪を払いもせずに、口を開いた。
「私は、いずれこの世界を統べる王となる。
お前の望まぬ今の世界を壊し、ヴィランもヒーローも、敵も味方もない。【個性】などと言うものに縛られない、私という絶対の頂点を置いた、争いのない世界を創る。
共に、やるか?……その…お前が望むなら、だが……」
最後に、少し声量を小さくしながら、伺うような視線を燈に向けている王華。
年相応に、『誘ったのに断られたりしたら……』などという不安を感じさせる、らしくない王華。
らしくない事など、自分が一番わかっている。
だが、そう思ってしまったのだから、仕方がない。
初めて現れた自分の感情に、驚きと不安が交互に現れて、王華はモジモジとしていた。
「ふふふっ!おっきな夢!!それに、王華からの誘いなんてはじめて……
うん!モジモジしちゃう可愛い帝王には、私みたいな可愛い相棒が必要だもんね!私だけが、王華の横に立つ。ずっと一緒にいるよ」
真面目な顔をして聞いていた燈であったが、最後にモジモジとするらしくない王華の姿を、堪らなく愛おしく感じていた。
燈もまた、一人じゃなくなったから。
「それにね。王華の理想の世界は私の憧れの世界でもあるよ。
私も、強くなるから……
だから、連れて行って。
私も、その世界に」
王華の不安は杞憂であった。
燈は今までで一番嬉しそうに笑うと、王華へと飛びつき抱きついた。
「あ、でも私は個性、使えないけど……」
「強さに個性など関係ない。私とて愚者に言わせれば無個性だ。
それに、全ては発想と身体の使いよう。そこは私が鍛えてやろう」
今までであれば、離せと言い、背負い投げの一つでも繰り出して地面に転がしている事だろう。
だが、今は燈を優しく抱きしめ、誰にも見られる事はないが、生まれて初めてその頬を優しく綻ばせていた。