敵か英雄か   作:eeeeeeeei

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夢か現か

──────

 

 

 

 

 

 懐かしい夢を見た。

 

 まだ、燈を失って数年しか経っていないというのに、随分と昔に感じる。

 

 夢とはいえ、感じるのは、幸福感。

 常日頃から、おさまる事を知らない苛立ちと、モヤモヤとするこの頭の中をスッキリさせてくれる。

 だが、その後に湧き上がる、身の毛もよだつ程の不快感と、込み上げる吐き気。

 

 この身を産んだ、あの下等な肉親の顔を思い出してしまう。

 自らではなく、家柄しか誇れるものはなく、個性などに固執する地獄の畜生にも劣る、我が肉親。

 

 そんな腐った両親は物言わぬ生ゴミへと変え、この世から葬ってやった。

 それでもなお、顔を思い出す度に、この身に流れる赤い血が、アレらと同じだったのだと思うと、どうしようも無い程の嫌悪感に襲われて、吐き気を催すのだ。だが、あのゴミどもに対してのこの拒絶反応も、時と共に随分と薄れてきたものだ。

 

 燈がいてくれたから。

 幸せと、愛という感情を教えてくれたから。

 私は一人じゃなくなったから。

 教えてくれた、あの料理のように、鮮血と闇に塗れた、私の赤と黒だけの世界に、鮮やかな彩りが出来た。

 

 ずっと一人で生きてきた。それが燈と二人になり、私の野望は二人の理想へと変わった。理想、それは燈の好きな言葉。だと言うのに、いつまで経っても私を憧れだという、燈の少し照れたような顔を思い出す。

 

 だが、そんな燈も、もういない。

 

 そのハリのある、私より少し硬い髪も。

 私に教えてくれた、そのお弁当の味も。

 私を安らかな眠りに導く、その白い脚も。

 私を優しく包み込む、その柔らかな腕も。

 私へと微笑みかける、あの美しい笑顔も。

 

 もう、どこにも無い。

 

 自分の隣に、ずっといた。

 ずっと一緒だと約束した、親友はいなくなった。

 

 

 そして、私はまた一人になった。

 

 

 

────

 

 

 

 

 そういえば、私はまた、勝てなかったのか。

 

 弱っていると言うのに、未だ馬鹿げた力を持つオールマイト。

 アレで残りカスと言うのだから、受け継がれし【ワン・フォー・オール】も、平和の象徴とまで呼ばれたあの筋肉達磨も、侮れないか。

 それ故に、緑谷の成長が今後の自分にどう作用してくるかわからないが、それすらも叩き潰せばいいだけの事だと、腹を撫でながら思う。

 幾度となく暴力に晒されて生きてきた王華だからこそ、腹部に走る痛みの度合いで、自分の損傷具合を理解した。

 あれは良い一撃だった。

 次は躱して、こちらが三連撃を打ち込んでやると意気込みつつも、上半身を起こして辺りを見渡す。

 ここは、見慣れた小さな部屋だった。

 

 

「チッ……またここで目が覚めるとは」

 

 

 幾度となく治癒を受けてきた王華は、リカバリーガールとも顔見知りであり、このベッドすらお馴染みになりつつある。

 オールマイトがトゥルーフォームでいられる、秘匿性の高い部屋。

 リカバリーガールに言われては、教師陣であろうが立ち入ることはできない、雄英高校の中でもトップクラスの秘匿性を持つ部屋だった。

 王華はこのベッドを使っているのが、ほとんどが自分と、最近は緑谷だと言うことはまだ知らない。

 

 

「"また"あんたから挑んだのかい?」

 

 

 その言葉に、ゆっくりと首を振る。

 腕の方は問題ない。包帯とギプスが鬱陶しいだけ。

 毎度の事ながらリカバリーガールの大袈裟な処置にウンザリしながらも、その胸から腹にかけて巻かれた包帯の真新しさに、何度も巻き直した事が推測できる。それに、思った通りなかなかの深傷だったようで、身体はいつもより重く感じられ、治癒に回した体力の多さが、その傷の深さを再確認させてくれた。

 

 というか、私から挑んだのではない。

 そもそも喧嘩を売ってきたのは、間違いなくアイツだ。

 つまり、アイツが、この私に挑んできたのだ。

 

 

「いや、"いつも"アイツが悪い」

 

 

 少し唇を尖らせて答えた王華に、彼女はすでに落ち着いているとわかり、ホッとした内心は隠して、リカバリーガールも話を続ける。

 もう何度目かになる、オールマイトと王華の小競り合いと言う名の仕合。

 とはいえ、高校一年生の女の子がオールマイトとやり合う事ができるという時点でおかしいのだが、最初の頃は酷かった。

 

 起きた瞬間にオールマイトがいると必ず暴れだす。

 

 その騒動により、幾度なくリカバリーガールの出張所を破壊したために、王華が目を覚ますであろう時間帯は、病室にはリカバリーガール以外の立ち入りを禁ずるというルールができた程だった。

 

 

「あいつに突っかかるのもいいけど、回数は減らした方がいいんじゃないかい?あんた、筋肉つけすぎだから胸が大きくならないんだよ」

 

「五月蝿い!胸の事はほうっておけ!」

 

 

 いつもより少し高い位置で腕を組む、王華の年相応の反応に、リカバリーガールは母のような微笑みを浮かべていた。

 

 

 

────

 

 

 

「大見得切って三種目目一回戦敗退……あの、帝王 王華さまともあろうものが……すっげーかっちょわる──」

 

 

──ヒュン!!

 

 

 乾いた音が当の耳に木霊する。

 その頬には一筋の赤い線が浮かび上がってきた。

 

 

「……五月蝿い。あの筋肉達磨が邪魔をするからだ」

 

 

 苛々を全面に押し出したまま、リカバリーガールにもらって口に放り込んでいた飴玉の袋紙に気を込めて飛ばしたのだ。当は鏡で頬を見ながら、「流石に顔はやめてよー」と鏡に向かって話しかけている。

 

 

 ここは、リカバリーガールから行くようにと言われた、いつものU組の教室の中。そこには普段とは違い、部屋の教壇の上では大きなテレビが設置されており、ミッドナイトの声がスピーカーから流れてきている。映像を見ると、さっきまで出場していた体育祭の様子が映し出されていた。

 

 

「またオールマイトと手合わせしてたの?試合も放っといて?」

 

「…………ぐぅ」

 

 

 小さな伸を膝で寝かせたまま、こちらを見ている想は訪ねるも、当のせいと、そもそも虫の居所が悪い王華はそれを無視し、モニターの前にドカリと腰掛けた。

 

 今は丁度表彰式であり、3位の表彰台には塩崎 茨。

 2位の表彰台にどこかすっきりした様子の轟。

 1位の表彰台に括り付けられたのは、怒りの治らない爆轟であった。

 

 

「手合わせではない……というか、さっきからコイツはなにを喚いているんだ?」

 

 

 手合わせなどでは無く、粛清なのだが、それに答えるよりも、拘束されて、猿轡までされて、なお暴れている爆豪が気になった。

 映像の中にいる小さな爆豪を指差し尋ねると、その答えは教室の後方から帰ってきた。

 

 

「あー。なんか王華ちゃんがいないからって、暴れてたらしいよ。罪な女だねー」

 

 

 実際、王華の不戦敗にはかなりの衝撃が走り、マスコミも仮面の奥の、純粋なガチンコで発揮されるであろうその姿を求めていたが、現れもしないのであれば……と諦めた。

 

 だがその中で、諦めなかったものがただ一人いた。

 それが爆豪であった。

 

 

「ふざけんなッ!!あの赤目を殺さねぇと、一位じゃねぇ!!こんなトーナメント自体、意味がねぇんだよ!!いいからアイツを連れてこい!!」

 

 

 と喚き散らし、暴れ回った、らしい。

 ここまで自分を求められるとはと、流石にちょっと引いている王華であった。

 

 そんな中でも、画面の中の映像は進んでいく。

 丁度オールマイトが登場し、三位である茨にメダルをかけているところだった。

 

 

「3位入賞、おめでとう。君は強いな」

 

「ありがとうございます……」

 

 

 茨は一回戦の相手である芦戸をツルの拘束で瞬殺し、続く二回戦、常闇との対戦では騎馬戦で見せた、遠隔での成長を使い、一時拘束はしたものの、汎用性も攻撃力も高い常闇の個性、【黒影】(ダークシャドウ)に苦戦を強いられていた。

 だが、初めに比べて周りの植物を増やすほどに攻撃力が増すことに気づき、場を覆っていたツルを集約させて放ったメテオヴァインの大規模破壊で、見事常闇を場外に触れさせて勝利した。

 

 三回戦、爆豪に健闘はしたものの、相性の悪さを覆すことができず、悉くツルを燃やされ、爆破され、遂に場外へと吹き飛ばされて敗北を喫したが、B組の強さを見せつけたので、物間たちB組の面々は嬉しそうであった。

 

 ちなみに、本来であれば、茨と同率で飯田も三位なのだが、ある理由から既に雄英高校を後にしている。

 

 

「あの……帝さんは?」

 

 

 一瞬、その大きな身体をビクリと震わせ、気まずそうな顔をしたオールマイトだが、咳払いを一つして、続きを話す。

 

 

「彼女は、大丈夫だ。心配はいらない。さぁ!君の話だ。相性差を覆すには地力の力も必要だ。その辺りは、帝少女に聞くといい。彼女はそう言った技術のスペシャリストだからね」

 

 

 王華については手早く切り上げ、サッサと評価と改善点を伝えたオールマイト。

 教師ではなく、同級生に聞けと言うのもどうかと思うが、茨は納得していたようでコクリと頷いた。

 モニター越しで見ている王華は特に反応することはなかったが、隣の当はやけに反応しているよう。

 

 

「え?なになに?なんでこの子王華ちゃん信者みたいな事いってんの?なんであんな顔してんの?何時から知り合ってんの?今度紹介してよー」

 

「当くん見てないからだよ。王華ちゃんと塩崎さん、いいパーティーだったよねー。全距離対応の王華ちゃんと、中遠距離サポートタイプの彼女。相性もいいし、そこに私が入れば……あ!梅雨ちゃんで王華ちゃんをフルサポートでもありかもなー」

 

 

 いつものように五月蝿いと当を黙らせ、なぜかフォーマンセル以内でしか戦闘を考えられない、想の妄想劇を聞いているところで、準優勝である轟の評価も終わっていた。

 

 そして、遂に公開処刑前の罪人のように暴れている爆豪の番。

 オールマイトが、ゆっくりと爆豪に取り付けられた口の拘束具を外すと、

 

 

「オールマイトォ……こんな一番……あの女のいねぇ一位なんて何の価値もねぇんだよ!!世間が認めても、俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!もっかいやらせろ!!!」

 

 

 完全に敵の顔をした爆豪はオールマイトから首に下げられるメダルを拒否し、拘束具からガチャガチャと音をさせ暴れていたが、その口にメダルの紐をぶら下げられた。

 

 

「プッ。コイツにも、好かれてんのね」

 

「………コレが一位、か。笑わせるな」

 

「ありゃ?王華ちゃん、この部屋で待っててって言われてるよ?」

 

 

 当の軽口にも、想の言葉にも反応せず、王華はそのまま教室を後にした。

 

 

 

────

 

 

 

「………また、勝てなかった……私は、まだ…弱い」

 

 

 王華は自室で一人、自分を振り返っていた。

 

 学校内の寮での生活を強要されているU組。

 入居することになって、王華が真っ先にとった行動は、自分の部屋と隣の部屋とを分かつ壁の破壊であった。

 綺麗に破壊をした後に、隣人である伸の部屋は元の半分程の広さに、自分の部屋は広く取るように、自ら壁を作り直した。そのため、他の部屋よりも随分と広くなった部屋。

 中はシンプルながらも統一感のある家具でまとまっており、センスの良さが窺えるも、棚の上に置かれたちょっとした小物の数々が、元来派手好きの王華らしく、ゴテゴテとしたものばかりであった。

 その部屋に鎮座する、大きなベッドの上に制服のまま寝転がり、しばらく天井を眺めて、目を瞑る。

 

 

 前しか見ない。

 後ろは振り返らない。

 圧倒的な強者であり、帝王。

 

 そう思い生まれ、育ってきたんだ。

 燈に会うまでは。

 一人きりの頂点に立つという野望の強さは、友を得た代わりに、随分と弱くなった。だけど、私の野望は、二人の理想へと変わり、あの日までは、ずっと輝いて見えていた。

 

 

「……まだ足りない」

『…………た……ない?』

 まだ、足りない。が、弱るのを待っても仕方ない。アイツは後回しでいい。

『…………おう…か…』

 もっと強くならないと。燈を否定した敵も、口先だけの英雄もいらない。こんな世界は、私が終わらせてあげないと。

『……おうか…と…わたしの……』

 敵も英雄も、全てを滅ぼそう。そうすれば、私と燈の、二人だけの世界になる。ようやく、貴女に会える。

『……おうか…ちが……ずっと…いっしょ……』

 そうしたら、今度こそずっと一緒だ。

 

 

 そう言って、王華は目を閉じた。

 

 二人の理想は、燈を奪った世界への復讐へと変わり、輝きも彩りも失われ、ひどく歪な、汚く濁った色をしていた。

 

『ねぇ、王華。私はずっと一緒にいるよ?はやく、私に気づいて……』

 

 しばらくの間、一人しかいないはずの部屋に、王華の独り言だけが木霊していたが、やがてそれは静かな寝息へと変わっていた。

 

 

 

────

 

 

 

 

「あんの、鷹マスク。あん時の女だな。クソ、ブッ殺してやる」

 

 

 ブツブツと呟きながら掌で転がしていたコルクを握り込み、その個性によって、掌の中のものは塵となり消えた。

 すると、モニターから声が聞こえてきた。

 紳士的なようにも聞こえるが、吐き気を催す程の邪悪さを感じさせる、そんな声が。

 

 

「弔、あの子は君が思っているよりもずっと厄介だ。まずは──」

 

「わかってるよ。仲間をってんだろ。ただ、あの女が不戦敗って事は、弱ってるって事じゃあないのか?」

 

 

 オールマイトの時と同じ、弱っていようが関係なく襲う。

 むしろそこを突くのがヴィラン。

 

 あの時の俺を見る目。

 そしてあの言葉と仕草。

 

 全てにイライラする。

 あの女の全部を、ぶっ壊してやりたい。 

 

 だから今、攻めるのだと息を巻くが、モニターの男は言葉を続ける。

 

 

「あの子のアレは、特別だからね」

 

「はぁ?特別?わけわかんねぇ」

 

「知らなくてもいい。今は手をだす時ではないと言う事だ。まずは、力をつけるんだ、弔」

 

 

 そう、今は、仕掛けるべきじゃない。

 なにせアレは、ワン・フォー・オール以外で初めて、私が"奪う事を許されなかった"モノなのだから。

 

 

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