暗いのもすぐなくなります。
『魔法』『能力』『妖怪』『モンスター』
そんな物語でしか見たことのない存在が、この世界にも確かに存在する。
ビルが建ち並ぶ都会、日本の江戸時代のような古風な町、中世ヨーロッパのような都市が同じ国に存在しているのを見てなんてめちゃくちゃなんだと最初はため息を吐いた。
多種多様な人々(一部人外)が暮らしている都市、そして人間に明確な敵意を持って襲ってくる怪物たちがいる場所。危害を加えてくる怪物に対抗するための職業があると知った時は思わず感嘆した。
まるで『ファンタジー欲張りセット』なこの世界に、俺は生まれた。
前世の記憶を持っているなんてことはなく、前世での常識を知っているのみだった。その常識が正しいものなんていう確証はないのに俺はその知識を絶対正しいと信じこの世界が異常だと思い込んでいた。
ある日、俺の家を怪物が襲った。
すぐにたくさんの大人が来て怪物を倒したけど、俺の家族と周りの家の人は助からなかった。
俺は魔法を使えなかった。特別な力もなかった。
どうやらそれはこの世界では冷遇される存在らしかった。酷い扱いを受けるわけではないけど、いい顔はされない。子供と同じく、守られる存在。だけども別に大切にしなくても良い存在、それが俺たちだった。
俺はいわゆる路上生活者になった。案内された場所には既に二十人ほどの仲間がいてすぐに歓迎された。
たまにスーツを着た人が来て俺たちに仕事を渡してくれた。俺たちは人数が多くてしかも人件費が安いから仕事には困らないと先輩が教えてくれた。
単なる落とし物やペット探しもあれば、中身がわからない箱を運んだり怪物を倒すこともあった。先輩はとても強くて中には魔法を使ってる人もいた。こんなに強いならなんでここにいるのと聞いてみたら先輩は曖昧な笑顔を浮かべて、俺たちは運がなかっただけなんだよ、と言って頭を撫でてきた。運がなかっただけ、頭を撫でられながらその言葉を忘れないように何度も反芻した。
何年か経ったある日、いつものようにスーツ数人が仕事を持ってきた。唯一いつもと違ったのは、スーツに囲まれて女の子がいたことだ。ここに来た当時の俺と同じくらいの歳に見えた。彼女は俺たちを見ると嗜虐的な笑みを浮かべて高らかに宣言した。
「とても不幸な君たちに這い上がるチャンスをあげようじゃないか!僕に感謝したまえよ!」
彼女が言うにはこれから渡す仕事は今までとは比べ物にならないくらい危険で難しい仕事で死にたくなかったら仕事を受けなくても良くその代わりに仕事を達成したら彼女の権限で路上生活から脱出できるらしい。そこまでするほど危険な仕事とは何なのだろうか、いくら気にしても俺たちに受けないという選択肢はなかった。
それはいつも通りの怪物退治。町の近くに住んでいる吸血鬼を被害が出る前に倒してほしいという内容だった。
俺たちは甘い言葉にただ飛びつくまま準備をして屋敷に向かった。
俺たちは気づいていなかった。それでうまくいくような人生なら、そもそもこの場所に来ることはなかったんだ。
俺以外の全員が死んだ。家と多額の金、そして戦利品の拳銃を持って数年に渡る生活に終わりを告げた。
それでも生き方は変わらず、依頼をこなし金を受け取るだけの日々。どうやら終わりを告げることはできなかったらしい。
この国のトップが変わってから、もう5年となる。
魔力などをいっさい持たない人間がトップになるのはこの国どころか全世界の歴史でも初めてのことらしい。広大なこの国をどうまとめていくのか注目をされていた彼が選んだのは「何もしない」だった。
『俺は魔法とかには詳しくないしそれはこれから勉強していく。そんな俺が余計なことやろうとしても悪化するだけだ。だったら今まで通りやってもらった方がいい。外交とか要望に応えるとか最低限のことはやるからよろしく頼む』
というのが彼の最初の演説を簡潔にまとめたものだ。国のトップとしてどうなのと思うかもしれないが元々この国は広すぎてそれぞれの地区や町で政治を行っていたのでそれが公式なものになりますよと改めて宣言しただけであって批判の声も少なかった。
そんな彼でもこの国に根付いていた魔法やその他特別な力を持たない無能力者に対する一定の差別をなんとかしようという思いはやはりあったようで重火器にかかっていた多額の税金がなくなったり路上生活者に対する支援を行ったりある程度の措置はされた。
それでも能力は絶対正義という考えはすぐに変わらず、無能力者が肩身の狭い思いをしているのも特に変わることはなかった。拳銃をこそこそ隠す必要がなくなったのが、唯一の良い事だ。