彼女が言ったことは嘘ではなく、町の中心部にあるマンションの一室を俺の家として与えられた。
マンションという単語から想像はできるが俺が住んでいる町は違う世界の常識でいう現代の町に近い。そこまで都会というわけではないが変な知識を持っている俺としては違和感が少なく過ごせるのは素直にありがたい。
窓から入ってくる日差しで目が覚める。目を擦りながらカレンダーを見る。
「今日月曜日じゃねえか...」
早速憂鬱な気分になりながら外に出て郵便を確認する。俺の予想通り手紙が一通届いていた。俺にとっては不幸の手紙となんら変わりないのだが、このままにしておくわけにもいかないので一応確認する。
【今週の依頼だよ!期待はしてないけどよろしくね】
最初の一文から既に破り捨てたくなる。こんなのでも大事な収入源なのだ。大事にしなければいけないとわかりつつもイライラしてしまう。
三年前、運命の依頼後。
腕を縛られ、その場に座り込む形になるようにスーツたちに押さえつけられる。解放を求めて顔を上げたらあの女の子がいた。無様な姿の俺を見ながら変わらず例の笑みを浮かべている。
「クソッ、終わったらあの生活から脱出できるんじゃねえのかよ...」
呟きとも言える俺の悪態を聞いて、少女はますます嬉しそうに口角を上げる。
「勘違いしないでくれたまえ。僕はあの依頼が達成されるなんて思っていなかったんだ。しかも君が彼らの中で唯一の生き残りとあっては、会いたくなるのも当然だろう?」
「知ら...ねえよ。さっさと解放して俺を普通の生活に戻してくれ」
全身がズキズキと痛む。傷も治したいし懐にある戦利品の拳銃で試したいこともあるんだ、何をしようとしているのかは知らないが早くしてほしい。
「ッ!」
少女が俺に近づいてきたと思った瞬間、顔面に衝撃が走った。口内が切れて血が滲み出てくる。どうやらこの少女に顔面を蹴られたらしい。靴を拭いている少女を跪きながらなんとか睨みつける。
「君がどう生き残ったのか、あの場で何があったのかはどうでもいいんだよ。僕は君自身に興味があるんだ。そしてそこで手に入れたものもね」
少女は俺の腰のあたりを指差した後、近くのスーツの耳打ちをした。
俺を押さえつけていた手が解放されたと思ったら今度は体を漁るようにまさぐってきて拳銃があっという間にとられて少女に渡された。
「おい!返せ!戦利品は自由にしていいって言っただろ!」
「だから勘違いはするなと言っているじゃないか。人の話は聞くものだよ、これから生活も変わるのだから尚更にね。......実弾は入っていないね、そもそも実弾を撃つタイプなのかな。それにどうにもあの吸血鬼がこんなもの所持していたとは思えないんだよね。...これについて君は何かしら知っているんだろう?」
拳銃をしばらく眺めブツブツと独り言を呟いた後突然俺に質問を投げかけてくる。
「...それは実弾がいらないとだけ伝える。俺も偶然見つけたんだ、それ以上は何も知らねえぞ」
「ふーん......殺傷力はあるのかな?」
「ちょっ、待て!」
そういうと自身の頭に銃口を突きつける少女、そして。
バンッ
「まじかよ、やりやがったこいつ...!」
耳に響く音と共に倒れる少女。慌てて周りを見るもスーツたちは特に動じてない。
この少女はこいつらにとって主人的な存在じゃないのか?違うにしても目の前で人が、しかも子供が拳銃自殺をしたんだぞ。もう少し取り乱してもいいんじゃないのか?
「あっはははは!!そんなに慌てて、意外と可愛い所もあるらしいね」
頭の中にそんな声が聞こえてきた瞬間、倒れていた少女の体がビクンと震える。
そのままゆっくりと関節を鳴らしながら立ち上がり俺がまばたきをした後には元通り嗜虐的な笑みを浮かべていた。
「やっぱり、『魔力』を撃ち出す拳銃かあ。殺傷力も充分にあるし良い戦利品を見つけたね。それにしても、君は無能力だって聞いていたけど問題なくこれを使えるのかい?」
「なんなんだよ、不死身とでもいうのかよ。化け物じゃねえか」
「別に不死身なわけではないさ、少々特別性なだけだよ。あ、ちゃんと安心してくれたまえ、あれを無防備な頭に撃ち込まれて生きている人間はそうそういないよ。僕がレアなんだ、珍しいんだよ」
そう言いながら嬉しそうにヒラヒラと回る少女。生きていることにも驚いたが拳銃の仕組みを一瞬で見抜いたことにも驚愕した。何者なんだこいつは。
「さあ、本題に行こうか。...吸血鬼は倒され君は生き残った。約束通り家やある程度のお金を用意しているよ。それとは別に僕は君に提案をしたいんだ」
「提案?」
「新しい生活が始まったとしても、仕事がなかったら困るだろう?いくら僕からお金を渡されるとはいえ、必要なものを揃えていったらすぐになくなるだろうし」
「何が言いたいんだよ、仕事を用意してくれるとでも言うのか?」
俺の相槌にひときわ笑顔を輝かせて頷く。
「その通りさ!僕が君のために『依頼』を用意して君がそれを達成すれば報酬を支払おう。悪い話ではないよ」
「ま、待てよ。それって、
「違うさ。ちゃんとした家もあるし僕からは不定期ではなく定期的に依頼を用意する。しかも報酬は今までの3倍、いや5倍は払おう。ここまで安定して依頼を供給されることなんて国家警備団でもないとそうそうないよ?個人事務所なんてそれはそれは悲惨なんだよ。どうせ君はそういう仕事が合うだろうし僕直属で仕事をした方が良いと思うよ。受けないって選択肢はないと思うけどどうかな?」
これはどうするべきか、ここで余計に反発しても相手は殺せるかわからない化け物なんだ。ここはとりあえず従っておいていずれ別の就職先を探すべきかもしれない。それにこいつの言う事は正直正しい、結局は従う他ないだろう。
「......わかった。その提案に乗ろう」
「ありがとう。契約成立だね、よろしく頼むよ」
そう言って手を差し出してきた彼女の笑顔は、あの嗜虐的なものではなく年相応のかわいらしい笑顔だった。
「そういえばお互い自己紹介がまだだったね」
「そっちは俺のこと知ってるんじゃないのかよ」
「君の口からは一切聞いていないし、僕の名前も君は知らないんだろう?これでもそこそこの有名人のつもりなんだけどね」
そうだ。一応これから付き合っていくんだから名前くらい知った方が良いに決まっている。
「ええと...
「スカイ家の若く麗らかな現当主にして哀れな実験動物、アウルム・スカイだよ。気軽にアウちゃんと読んでくれてくれたまえ、見有くん」
結局あれから三年、新しい仕事が見つからずアウルムからの依頼を受け取る日々。悔しいことにそれが自分に一番あっているのだと実感する。
【最近被害が出始めている通り魔事件に関して調べてくれたまえ。色んな個人事務所にも同じような依頼が出されているらしいからそこと協力するのもいいかもしれないね】
「個人事務所なんてどこにあるんだよ...」
着替えを済ませ慣れ親しんだ拳銃を手に取る。探せばすぐ見つかるだろという安易な考えを持って玄関を出る。
適当な店へ買い物のついでに聞き込みをする。怪しい人間がいないかどうかとここら辺にある個人事務所についてだ。あいにく怪しい人物については何もわからなかったが、事務所については無事見つかった。
「サイトウ探偵事務所...?」