一話/サイトウ
小さな二階建ての雑居ビル。そこの一階部分にはカフェがあり二階部分に俺が聞いた探偵事務所があるらしい。
正直こんな事務所と協力してもどうしようもないと思うのだがどうなんだろうか。
「すいませーん、サイトウ探偵事務所ってここであってますかー」
インターホンを鳴らし声をかける。しばらく中でどたばたという音が聞こえた後慌ただしげにドアが開く。
「はい、サイトウ探偵事務所です!依頼ですか?」
女の子がでてきた。女の子と言ってもアウルムみたいな子供ではなく俺と同じくらいの歳に見える。てっきりもう少し年上の男が出てくると思ったばかりに面食らう。
「ええと...依頼というか、相談というか」
「とりあえず中で話をしましょう!遠慮せずにほらほら!」
「あ、え、ちょ」
何か言う前にぐいぐいと家の中へ引っ張られる。なんとなく押しが強く気も強そうなところは少しアウルムに似てるなと思い特に反抗することもなく身を委ねた。
「今は私しかいなくて、サイトウさんが帰ってくるまで少し待っててください。ゆっくりしてくださいね!」
出されたお茶にどうもと言いながら周りを見渡す。案内された部屋は今俺が座っているソファーとテーブルに棚が三台ほどあるのみというシンプルな内装でどことなく落ち着く雰囲気がある。それよりも気になるのは照明や暖房器具の存在である。俺の住んでいるマンションは機械関係の動力を全てマンション側の魔力で賄っており電気を使用しなかったのだ。だがここはどうやら電気を使用しているらしく電力使用器具のマークが照明、暖房器具ともにつけられてあった。そこはかとなくそれについて目の前でそわそわしている女性に聞いてみると苦笑いをしてこの地域では珍しいですよね、と話し始めた。
「魔力使用器具は確かに安いんですけど自分で使用する場合はどうしても魔力を供給しなければいけませんからね。私もサイトウさんも魔法は使えないわけじゃないんですけど...、とにかく電力の方が楽なんですよ」
途中少し言い淀んだ箇所があったのが気になったが、特に気にしないことにした。使えないのか使わないのかはどうでもいいが確かに魔法を使用しないことは今の世の中言うのはためらうよな。
魔法とは違う『能力』という特異な存在があるとは言えども、主流はやはり魔法だ。ほぼ全ての人が持っている魔力というものがある以上それを使わないわけにはいかないのだろう、世の中に出回っている器具/機具のほとんどは魔力で動く。一定量の魔力を要求してくるがちゃんと流してやれば劣化もなく動き続け、しかも電力性のものよりも比較的安価で購入できる。一方で電力性のものは先に挙げた通り高価で劣化もある。しかし魔法を普段から使わないという人や魔力の保有量が少ない人にはわざわざ魔力を流す必要がないからという理由で割と人気だったりする。そんな俺もマンションから支給されている器具以外は電力性のものを愛用している。どこにも需要というものはあるのだ。
「あっ、サイトウさん、お客さんですよ!久しぶりの依頼かもしれないんです、絶対逃がさないでくださいよ!」
ちょっと聞こえ辛い部分もあったがどうやら家主が帰ってきたらしい。個人事務所というものに来るのは初めてなので少々どういう人間が経営しているのか興味がある。
「はいはい、わかったよー......。あー、どうも。個人事務所やってるサイトウだ...ってここにわざわざ来るくらいだから知ってるか。どういう目的かは知らないけど、よろしく」
出てきたのは何だか軽く気だるげな雰囲気を身にまとっている男。腰には刀らしきものを差しており全体的に黒い服を着ている。はっきり言うと怪しい。
「見有です。今回は、ええと、依頼ではなく相談というか協力のお願いをしにですね」
「敬語はいいよ、その感じだと短い付き合いにはならなそうだし...な」
こちらを見定めてくるような視線に少し身構えしまう。いきなり協力だか言われてもそりゃ怪しむか、ただでさえ客が少ないみたいだし。
「わ、わかった、改めて見有だ」
「よろしく見有くん。それで協力って?正直いきなり見有くんみたいな素性もわからない人が訪ねてきて協力しろってどう考えても怪しいんだよなあ」
「......最近の通り魔事件について知ってるか」
「...知ってる、有名だからねえ。もしかしなくても協力ってそのこと?」
思ったより話がとんとん拍子に進んでいる。早く話がつくのはありがたいが...。
「俺は依頼でその事件について調査、できれば解決しろと言われている。今まで貰ってた依頼とは違い一人でやるのが難しいんだ。頼む、力を貸してくれ。報酬も半分渡すしなんならそっちの要求もある程度は聞く、だから頼む」
頭を下げる。
「うん、良いよ」
「へ?」
思わず変な声が出てしまう。こんな簡単に承諾されるとは思わなかっただけに呆然とする。
「こちらとしてもしばらく客がいなくて暇してたんだ、一応雑貨業もやっているけど中々厳しくてねえ。偶然にもその事件はこれから個人的に調べようと思ったんだ。協力は大歓迎だよ」
「ええと、俺がどこから依頼を貰ってるかとかそもそもの俺の素性とか気にならないのか?」
「誰かのお抱えで依頼を受け取るなんて特に珍しくないし、素性がわからないなんてそれこそありふれている。仕事柄そんな小さなことを気にしてなんかいられないしなあ」
それに、とサイトウは続ける。
「スカイ家お抱えの人物がどういう立ち回りを見せるのか、ちょっと気になったんだよ」
「なっ!?」
こいつなんで知って...!
「あー、そんな構えなくても良いから。スカイ家に手を出したら俺が逆に殺されるよ。結構有名なんだよ?
「え、そんなに俺って有名なのか?」
「有名というか最近スカイ家が公表したから」
あの野郎!どうりで最近じろじろ見られるなと思ったんだよ!
「え!お客さんってそうだったんですか!?」
声が聞こえた方を見るとさっきの女性がサイトウのお茶を追加で持ってきているところだった。
「ま、こういう世間知らずくらいしか知らない人はいないよ」
「お茶を持ってきただけなのに悪口を言われた!?」
「で、見有くん。要求なんだけどこの子と一緒に調査に行くことかな」
叫びながら向かっていく女性をあしらいながらサイトウはそう告げる。一方女性の方はサイトウがそう言った途端にこっちへ向き直り元気よく敬礼した。
「サイトウさんが勝手に提案したみたいですけどよろしくお願いします!サイトウさんの助手やってます
「あ、見有です」
その気迫に思わず敬語になってしまった。アウルムとは違うタイプの女性だけど、アウルムと同じくらい苦手になりそうだ。
「これからよろしくお願いしますね!」
続いて勢いよく差し出されてきた手にも気圧されそうになったが、ぎこちない笑顔を保ちつつその握手に応えた。
人気がない道で男が二人歩きながら何かを話してる。深刻な話をしているというわけではなさそうで、おそらく友人同士目的地まで世間話でもしながら歩いているのだろう。
それを見て僕は彼らに向かって歩いていく。彼らは僕に気づくも何もなかったように話を再開する。通り魔事件があるのは知ってるけど相手が年下のガキだと思って安全だとでも思ってるんだろう。本当に、
「そういうの、ムカつくんだよね」
「あ?」
すれ違いざまに話しかける。
男のうち一人が反応し振り返った瞬間、僕の腕が胸を貫いた。
「え、な、これ、ガ...」
「うわ、ヒッ...!?通り魔...!」
もう片方は悲鳴を上げることはなく震えながらその場に座り込む。叫ぶことができないくらい怖がるくらいだったら、友達を助けたり逃げたりなんかした方がいいと思うけどね。
「通り魔ってやめてくれない?僕はその通り魔じゃないしそもそも通り魔なんてダサい存在じゃないんだよね。その人も別に死んでないよ、気絶してるだけ」
こちらに倒れ込んできて邪魔だった男をもう一人の方へと放り投げる。
「その人、病院に連れて行った方がいいよ。大事な大事な『魔力』が取られてるからね。あと、絶対に通り魔の仕業なんて言わないでよ、僕をそんなダサい存在と一緒にされちゃたまらないから」
もう片方もやろうと思ったけど、まあいいよ。ずっと路上で倒られても気持ち悪いしね。
魔力の質が悪いなあ。ま、僕の殺気に気づかない程度の人だったらこんな魔力でも仕方ないか。
「それにしても通り魔なんて迷惑な存在、早く捕まってくれないかなあ。僕の邪魔なんだよ」