「暗殺者の家系...?」
「うん、でも依頼以外での殺人は一切しないし最近はその依頼すらも受けていないらしい。見有くんが思っているより真っ当な人たちだよ」
「昔ならともかく色んな事務所が乱立している今の時代じゃ暗殺一本で稼ぐのも厳しいのかもな」
「表向きは大手企業の元締めだしね、そっちで充分すぎるほど稼いでるんだろう」
そういえば間宮食品って聞いたことがある気がする。世間に疎い俺が知っているくらいだしかなり有名なんだろう。食品を取り扱ってる企業の裏の顔が暗殺者なんてほとんどの人は思いもしないよな。
いくら事務所の経営者とはいえそこの関係者と知り合いってサイトウは何者なんだ?
「その間宮家の跡継ぎ候補か、これは通り魔事件の方にも近づいたかもな」
ただ、新しい不安も生まれた。
通り魔事件はまだそこまで大きな事件にはなっていない。何故なら今のところ被害者は戦闘経験の少ない一般人にとどまっているからだ。多くの人が通り魔について一般人のみを狙う、つまりその程度の実力でありすぐに逮捕されるだろうと考えている。俺もさすがにそこまで雑魚だとは考えていなかったがもし交戦に発展したとしても問題はないと高を括っていた。もし、通り魔がその息子だとしたら。
「なあ、最近はやっていないにしても何十年も暗殺をやってきたんだろ?素の戦闘力は高いのか?」
「俺は息子の方に関して見たことはないけど大丈夫?」
「あくまでも参考だから遠慮なく教えてくれ」
サイトウの知り合いと親子関係なら、戦闘スタイルは似ている可能性がある。
「あくまで知り合いの話だけど......強い。投げナイフを主軸にした戦い方で近づかれたら彼の能力で一撃で終わらせる、隙が少ない良い戦い方だったよ」
「能力?能力ってなんだよ」
一部の人が持っている『能力』は個人個人で違うものだ。ここで聞く意味は正直少ないのだが好奇心が勝った。
「俺も詳しくは知らないんだけど、彼の能力は『腕』だ」
「腕?」
「ああ。近づかれた瞬間、彼の右腕に魔力が集中してね。気づいたら素手で相手の胸を貫いていたよ」
「能力じゃなくてただの肉体強化系の魔法じゃないのか?人の体を貫いて殺すくらいならあんま珍しくはねえぞ」
能力なんて言うからもっと圧倒的なものだと思ったんだが、そこまでヤバいもんじゃないかもな。
「それが息子も使うかもしれないと言ったら?」
「...え?」
「間宮家の暗殺技術は数十年前から脈々と受け継がれているらしい。その内容も詳しくはわからないけどもしかしたら能力を代々受け継いでいっているのかもしれない」
「もしそうだとしても息子はまだ候補なんだろ?受け継いでいない可能性もある」
俺がまくしたてるとサイトウがニヤリと笑った。まるで待ってましたと言わんばかりの表情に少しいらっとする。
「その知り合いからの情報だよ。『息子は受け継ぐ前にすでに自分自身の能力を発現している』そうだ、しかも『腕』を使うものだって」
「...まじかよ」
覚悟はしていたが改めてその事実を突きつけられたことに対し頭痛がする。相手は能力持ち、しかも戦闘経験豊富な暗殺者の息子ときてる。
「なんにせよまだ息子が通り魔だと決まったわけじゃない、もしそうでも大丈夫だよ」
「大丈夫って...俺はこの拳銃しか戦い方はないんだぞ」
「こっちは長雨ちゃんがいるじゃん」
「長雨?」
そういえば自分は結構強いとか言ってたな。あの時は半分冗談で受け取っていたが本当だったのか?
「
アホみたいな顔でもぐもぐしながら首をかしげる長雨。どう考えてもこいつが強いとは思えないんだが。
「どちらにせよ今日は終わりだ。明日また病院の様子を見た後息子を追っかける。長雨はそれで良いな?」
「はい!明日もよろしくお願いしますね!」
一番良いのは警備隊がさっさと解決してくれることなんだが、あの様子を見てるに通り魔事件が本命じゃないっぽいし期待はできないな。警備隊じゃなくても他の事務所が解決してくれねえかな。
...能力持ちか、戦いたくねえなあ。
せっかく怪我を偽ってまで病院に行ったのに、家族や知人以外の面会は遠慮してくださいと断られた。
「なんだよあいつら、面会くらい許可しろっての。心狭いなあ」
僕が面会しようとしたのは、僕が襲っていないけどあそこに運ばれた人。つまりふざけた通り魔の被害者だ。
僕をこれ以上通り魔と一緒にされないためにはやめに通り魔を捕まえようと、いつもの魔力収集のついでに怪しそうな人を探しているんだけど向こうも感づいているのか見つかる気配すらない。
「通り魔!?誰か...!」
「うるさいし通り魔じゃないって」
誰かに気づかれて面倒くさいことになる前に後ろから胸を貫く。
質の悪い魔力にも飽き飽きしてきた。この際警備隊でも襲おうかな、さすがに一人では厳しいかもだけど僕ならいける気がする。警備隊なら魔力の質もまあまあなものだろう。
「そこの男、止まれ」
後ろから声をかけられる。敵意を含んだ声だ。警備隊を襲おうか考えていた瞬間に来るなんて運が良いのか悪いのかよくわからない。
「すぐ近くで気絶している男がいた。見た感じ魔力欠乏症による気絶で最近の通り魔事件での被害者の特徴と一致している。...すまないが少し話を聞かせてくれないか」
「......僕はその犯人ではありませんよ、たまたま近くを通っただけです。それに魔力を取るのは通り魔じゃありません、もっと上の存在ですよ」
「魔力欠乏症の理由は犯人に取られたからか、これで捜査が一つ進んだ。感謝する」
「...そんなのもわからなかったなんて、警備隊は無能ばっかだね」
「証拠もなしに断定はできない。様々な可能性を考えなければならないんだ」
気配の感じ警備隊はおそらく一人。魔力の質もまあまあ良さそうだし、これはいける。
「わかったよ、話ぐらいならしてあげるよ。感謝しなよ」
右腕に魔力を溜めながら振り返る。初めて相手する警備隊、しっかりと見ておかなきゃね。その余裕そうな声を絶望に変えてやる...!
振り返った瞬間、僕の目が驚愕により見開かれた。目の前にいる警備隊の恰好が僕の予想、そして期待を大きく超えてきたからだ。
服の上からでもわかる無駄のないしなやかな筋肉、特徴的な真っ黒な制服、何よりも胸にある剣と魔法陣を模した紋章はこの国の国章だった気がする。こいつはただの警備隊じゃない、こいつは...
「国家警備隊、四番隊...ッ!」
国章を胸に宿しているのは地方警備隊とは違う国直属の警備隊である国家警備隊の証。その中で黒い制服なのは四番隊だけ、国から与えられる仕事をなんでもこなす四番隊は国家警備隊の中でも戦闘力が高いと言われているんだけど...。
「なんでこんな町に国家警備隊様が来てるんだよ。四番隊は特に忙しいんでしょ?」
「ここに来たのは俺だけだ。通り魔事件とは関係ない別件で来たんだがな...。わざわざ犯人らしき男を見逃すわけにもいかない、悪く思うな」
余裕のまま気だるそうに話しているのを見てだんだん苛立ってくる。こいつも僕のことを年下だと思ってなめてるんだろう。本当にムカつく。
「そんなに余裕でいいのかな。僕相手に一人だと厳しいんじゃない?」
「問題ない、充分だ」
殺す。殺意が魔力として右腕に溜まっていく。
「その右腕、肉体強化ではないな。なんの能力だ」
「うるさいなあ!もう魔力なんていらないから死ねよ!」
僕の『能力』を発動させて飛びかかる。国家警備隊だろうがどんな魔法や能力を使ってこようが関係ない、これを防ぐことなんてできないはずだ。確実に心臓を貫いてやる。
「────『エネルギーシールド』」
こいつの胸に当たる瞬間、腕が思い切り弾かれる。右腕に引っ張られるがまま全身も吹き飛ばされていく。
「...ッ!なんだよそれ、バリアでも着込んでんのかよ!」
腕がじんじんと痺れている。相も変わらず余裕そうな顔しやがって、僕がそんなに滑稽かよ。
「バリアを着込む、間違ってはない」
「うるさいなあ!次こそは当てる!」
もう一度飛びかかる。それでも体に触れる瞬間にものすごい力で弾かれてしまう。
「ガ...ッ!クソッ、なんで僕の右腕があたんないんだよ」
「残念がる必要はない。エネルギーシールドを破れる者は四番隊でも一人しかいない」
四番隊?僕をその程度と一緒にするな。お前とは格が違うんだよ...!
「おい、右腕に溜まる魔力が濃くなったぞ、大丈夫なのか」
濃くしてんだよ馬鹿。次こそあの馬鹿げた装甲ごと体を絶対に貫く。
「ねえ、名乗りなよ。僕に対して名前も言わないのは失礼だよ」
「国家警備隊四番隊副隊長、バレッタ。今更名前など、どういうつもりだ」
どういうつもり?本当に馬鹿だなこいつは。僕が名前を聞く理由なんて決まっている。
痛む右腕をもう一度構えて、余裕の笑みを見せてやる。
「これから話せなくなるんだから、名前くらい聞いておかなきゃね。もうこれ以上聞くことないよ──────死ね」
「お前の意地に俺も多少答えよう。...行くぞ」
どうすっかなあ、身分証明書なんて大事なもの郵送じゃないほうがいいよな。会いに行くにしてもいつにするか、しばらく今の依頼に集中しないといけないだろうから会いに行けなさそうなんだよな。
とりあえず身分証明書が欲しいという旨の手紙は送ったけど会いに行く前にしれっと明日あたりに届いてそうだな。まあそれはそれで良いとして今は明日の動きについて確認しよう。
「なんか外騒がしいな」
マンションの一室とは言っても俺が住んでいるのは二階だ。遠い記憶の中でおぼろげに浮かんでいる家の風景と特に差異無く今のところ住んでいる。
だから外の様子も上階よりかは見やすいし聞こえやすいのだが。
「マンションの前だよなあこれ」
何かを引きずる音とうめき声のようなものが聞こえていたのだがガタッという音と共にそれがマンションの前で止んだのだ。正確に言うとうめき声は止んだが代わりに浅い呼吸音のようなものが聞こえてきている。恐らく怪我人がマンションの前で休んでいるんだろう。
人を助ける趣味はないがこの怪我人は通り魔に襲われた人だという可能性が高い。病院に入ることが現状厳しい以上ここは助けるべきだろう。
「おーい、大丈──」
「ああ、そこの人...助けて......くんない?僕を助けたらきっと...良い事あるよ」
明日からの
これも一種のわからせなのかな。