それはそうとして通算七話目にして未だ戦闘しない主人公たちがいるらしい。
サイトウと長雨と話し合った結果、間宮を探すことが第一目標となった。あの傷で無理されて死なれても困るし夢見が悪い。
「見有さん、あの人を探すのはいいんですけどどう探すんですか?」
「昼間はどうせ見つからないだろうから夜中に人気のない道路を探す。うまくいけばあいつと通り魔両方見つかる」
幸いというべきか間宮は深手を負っていている。能力持ちだということで懸念してたがそれならまだ大丈夫だろう。
問題はもう一人いる通り魔の方だ。そこまで強くはないと信じたいが油断はできない。
「夜は私に任せてください!あの人も通り魔もギッタンギッタンですよ!」
「間宮は怪我してるから手加減は頼む」
サイトウは長雨の戦闘力が高いと言っているけどいまいちそう思えないんだよな。わざわざ刀を使うっていうことは弱くはないんだろうけど。
拳銃を使う身からすると刀使いは一見優位そうに思える。だが、近づかれて向こうの間合いに入った瞬間こっちの勝ち目はほぼないと言っていい。一度だけ刀使いと戦ったことはあるがあの妙な緊張感はもう味わいたくないな。長雨がそいつのような緊張感を出せるかはまた別だが。
夜に通り魔を捕まえようとすると昨日病院に行こうとしたのが無駄になるな。それについてはこの際構わないけど何か不安があるんだよな。無事に終わればいいが。
体が痛む。右腕に思うように力が入らない。出血はとっくに止まっているはずなのにまるで血が足りないとでも言うかのように
認めたくないけど今の僕じゃあのムカつく国家警備隊には勝てない。もっと、もっとこの
僕は、僕にしか理解できない高みを目指す。
「ねえお兄さん。こんな夜中にそんな痛々しい恰好で、危ないよ」
前の方向、若い男の声が聞こえる。
「オレみたいな不審者がいるからね」
見た先にはナイフを持つ仮面の男。僕が歩く道を塞ぐように仁王立ちをしている。
「へえ...。もしかして君、通り魔ってやつ?思ってたより弱そうじゃん、死者も出してないんでしょ?」
「仕方ないよ。夜中に出歩こうなんて人間は何かしらの自衛手段は持っている。ナイフ一本じゃ限界があるよ」
そう言ってケタケタと笑う通り魔。余裕だね、まあ僕の状態を見れば当然か。考えたくないけど僕が通り魔なら良い餌が舞い込んできたと間違いなく喜ぶ。
でもね、餌が舞い込んできたのはこっちだよ。見てろ、その余裕を今すぐ剥がしてやる。
「あれ、お兄さん。その顔はもしやオレと戦おうと思ってるなあ?良くないよ、他の人みたく逃げてくんないと」
「身の程知らずの通り魔に天罰をと思ってね」
「ここに天罰を与える神なんてないよ。いるのは怖い怖い通り魔さんだけ」
右腕に無理やり魔力を溜めていく。この体じゃどのみち長くはもたない、いつもみたく一撃で決める。
「神は僕だよ、知らなかったの?通り魔ごときが僕に罰せられるんだから感謝しなよ」
「自信過剰すぎて笑っちゃうなあ、自分が負ける可能性なんて考えてないわけだ。プライドだけ高いと色々大変でしょ?」
「自己紹介ありがと。頼んでないのに親切だね」
「...」
「...」
「「死ね」」
「昼間はあんなに賑やかだったのに嘘みたいですね」
「昼も夜も人で賑わっているなんて場所は意外と少ないもんだ。昼の賑やかさを知ってるからこそ夜道でも油断しやすいってのはあるけどな」
三十分ほど二人で歩いているものも、間宮どころか人一人見かけない。それほど通り魔事件が世間に影響してきていると考えるべきだろう。
それでも警備隊の見回りくらいあって良さそうなもんだがあるのはおそらく監視魔法を使った痕跡だけ。これじゃここを通るなと通り魔に教えてるのと一緒だ。
「この道には多分現れないな。別な所行こう」
「わかりました、見つかるんですかねこれ」
三十分これを繰り返している。適当に歩き魔法の痕跡が見つかったらその段階で別な道に移る、といった感じだ。正直終わりの見えない作業だが仕方ない。地道に続けて行くしかないだろう。
「ねえそこのアベックたち、夜中にデートかしら?ここは危ないわよ」
監視魔法に映らないよう引き換えそうとした瞬間、後ろから女性の声が聞こえた。
「ワタシみたいな怖い不審者がいるから」
振り返った先にナイフを持った仮面の女性が立っていた。足踏みをしながらまるで品定めするかのようにナイフと俺たちを見比べている。
「......見有さん」
「わかってる」
長雨は刀を抜き構え、俺は拳銃を取り出す。
「あら、やる気なのね?最近人も見かけないしいてもすぐ逃げちゃうのよねぇ」
俺たちを見ても声色を変えることなく逆に近づいてくる。
「ワタシたちだけじゃない通り魔もいるみたいで予定以上に被害者がでちゃったのよ。おかげで警備隊の魔法は置かれてるわそもそも人はいないわで散々なのよね」
ん?ワタシ
「警備隊も魔法だけ置いて見回ることをしないんですもの。弱い人たちだけを相手にしてたらやる気も出ないわ」
「...長雨、後ろからの攻撃を避けながらあいつの所まで行けるか?」
「銃弾くらいだったら、なんとか」
どうやら既にやりたいことは伝わってるらしい。ならあとはタイミングだけだ。
俺が合図を長雨に送ろうとした時、女がナイフを見るのをやめこちらを見据えた。ナイフを逆手持ちに持ち替えユラユラと動いている。
「...ッ!!」
全身に寒気が走る。この感覚は間違いない、特大の殺気をぶつけられた時に起きる感覚だ。
俺が合図を出すのを一瞬躊躇うと、女はその足で踏み込んで、
「長雨!行けっ!」
「遅いわよ」
なっ、速...!
気づいた時には、ナイフが目の前まで迫っていた。避けるのは間に合わない、頭を守るため腕を出す。片腕が持ってかれても、もう片方があれば引き金は引ける。
「......あれ?」
一向に腕への痛みがない。
「...本気のつもりだったのだけれど」
「任せて、くださいって、言いましたから...!」
見ると、長雨の刀が振り下ろされたナイフを受け止めていた。
俺がそれに気づいたのを見ると女はすぐさま俺たち二人から距離を取った。
(ワタシの本気についてこれる反射神経にもう片方は銃持ち、しかもとっさに腕で急所の頭を守ろうとしてた...。下手な能力者よりかは楽しめそうね)
「予想以上に速いな、ニ対一が逆に仇になる可能性もある」
「...大丈夫ですよ。
長雨の言葉の直後、女のナイフを持っている方の手の甲が切り裂かれた。血が溢れ出し地面にポタポタと滴り落ちる。
「いつの間に切ったのかしら?」
「そっちへ逃げた時ですよ。遅いのはどっちですかね」
「...可愛くない子」
女が長雨に気を取られている間に拳銃に
「行きますよ見有さん、やっちゃいましょう!」
「おうっ!」
「は...はは......。こんな怪我人にそんな苦戦して、恥ずかしくないの?」
「お兄さんこそ、さっきまでの威勢はどうしたの?傷口も開いてるみたいだしそろそろ逃げる準備しなよ」
「そんなこと言って君が逃げたいだけじゃないの?」
まいったな、この通り魔思ったより動きが速い。ちょこまかちょこまかと動き回って僕の右腕がまるで当たらない。死んでも表には出さないけどとっくに体力は限界に近い、意地で動いてるだけなんだよね。癪だけど確かに逃げる方法は考えないといけないかもしんない。
(お兄さんの右腕...、あんなの俺でもわかるよ。あれはマジでヤバくて一度でも当たったらダメだってこと。あれを避けるのに神経すごい使っちゃってオレもちょっと疲れちゃったよ)
でもね、ただ外してたわけじゃないんだよ。僕は天才だから、何回も外している間に君の動きはもう見えるようになっている。次こそは、次こそは当てる。
右腕に何回目かわからない魔力を込める。右腕が黒く、濃く、禍々しく歪んでいき指の一本一本が生きているかのように脈動する。
「来なよ、天罰を受けるためにね」