欲張りファンタジーの世界で生きたい   作:ゼラチン@甘煮

8 / 9
六話/間宮家、そして一つの決着

 

 物心がついた頃、『能力』が発現した時は素直に嬉しかった。これで僕も間宮家の当主として相応しくなれると声をあげて喜んだ。

 当時はまだ加減がわからず必要以上に魔力を消費してその場に倒れてしまうことなど日常茶飯事だった。使用人の心配する声が聞こえ、今日は昨日より魔力を使わなかったな、とほんの少しの成長に頬を緩めていた。練習を欠かさず続けていくうちに一日に数度くらいなら問題なく使えるようになっていった。

 

 ある日、父さんが使用人の一人と話し合っているのが聞こえた。黙って通り過ぎれば良かったのに、変な胸騒ぎがしてそこから動くことができなかった。

 

『聖也の事なんだが──』

 

 間宮家の跡継ぎとして父さんの能力を僕に移植するのに僕の能力は邪魔だという内容だった。燃費も暗殺としての使い勝手も父さんの方が良かったから仕方ないのは理解していた。それでも納得はできるわけがなく次の日から練習の時間を二倍に増やした。今の段階で劣っているのなら、もっともっと僕の能力を父さんに追いつけるようにするだけだ。

 

 僕の能力は()()の力。能力を発動した右腕でどんなものも『奪う』ことができる。奪うと決めたもの以外は一切無視できるため、どんな物理的障壁も意味をなさない。魔術的障壁は...これから克服するよ。燃費は悪いけど誰にも負けない力、僕が僕であるための力。

 

 父さんの能力は詳しくはわからないんだけど、僕と同じく()を使うもので殺傷力に優れている能力だと聞いていた。同じ腕を使う能力だからこそ、いっそう僕の能力が邪魔に思えたんだろう。

 

 

 

 

 今に至るまで父さんは僕に何も言わなかった、既に諦められているんだ。跡継ぎ候補となってはいるけど、新しい候補を父さんが探しているのはとっくに知っていた。その事実を知っても、特に何も思わなかった。強がりじゃない、僕はもう父さんなんて小さなものは見ていなかった。

 

 燃費の悪さも人から魔力を奪うことである程度はなんとかなる。何でも奪えるこの能力は人なんて簡単に殺せる。  

 間宮家だけじゃない、この国の頂点に立つために僕は...。

 


 

 

 

 

 

「来なよ、だってえ?オレの動きについてこれないくせに良いのかなあ?」

「もう慣れたよ。良いから......来いよ...」

 

 危ない危ない、気を抜くと意識が飛びそうになる。

 

「わかった。お兄さんも限界みたいだし、楽にしてやるよ」

 

 通り魔がナイフを握りしめ体勢を低く構える。

 

「じゃあ、今度こそ...死ねッ!」

 

 一瞬の脱力と共に解放、こっちに突進してくる。

 確かに速いのは認めるよ、だけどそれなら最初の一回で決めるべきだった。ただ一直線に向かってくるだけだったらボロボロの僕でも対処できるんだよ。

 

「な...!」

 

 こいつがナイフを僕に当てる直前、体をほんの少しずらす。この体じゃこれくらいしか動かせないけど、攻撃を避けるには充分だ。あとはそこに右腕を当てるだけで終わる。

 じゃあね、ダサい通り魔。その速さだけは褒めてあげるよ。

 

 

 

 

「───なんてね」

 

 僕の出した右腕、確実に当たるはずだったそれが避けられた。何が起きたかわからない、想定は完璧だったはずなのに、なんで当たらないんだよ。

 

「正直危なかったよ。()()()()()()()()()きっと当たった」

 

 視線を落とす。僕の右腕が、力なくだらんと垂れている。

 

「お兄さんの右腕がそのままの速度だったなら、オレはきっと貫かれていただろうね。そんな遅い一撃だったら避けることも簡単だよ」

 

 何も聞こえない。視線がぐらつく。血が流れ過ぎてる、おかしいな、一回も向こうの攻撃は当たってないのに。

 

「...どうやら、今の一撃に全てを賭けていたみたいだね。よく頑張ったねと褒めてあげる、記念すべき最初の死者としてずっと覚えてあげる」

 

 勝ち誇ったように、あるいはこれからのために切れ味を確かめるようにナイフをじっくりと眺めている。

 ここで死んでたまるか。動け、動け、動け────

 

「動かないよ、さようなら」

 

 視界の端にナイフが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 苦痛の声が漏れる。

 

「────動いた」

「ガ...あ、あれ?おかしい、な。なんで、お兄さん、限界だったんじゃ」

 

 僕の腕が、今度こそ、通り魔の胸を貫いた。

 

「僕は馬鹿じゃない、こんな体力もない状態での攻撃なんてかわされるのが当たり前だよ」

 

 腕を抜くと同時に倒れこむ。はは、もう立てそうにないや。

 

「それでも賭けだったよ。君が本当に油断してくれなきゃ当たらなかった、ありがとね」

「そんな、状態で......よくもそんなことが言える...ね」

 

 言い切ると共に通り魔も倒れた。奪ったのは()()だ、しばらくそこで気絶してな。

 

「ゲホッ...あの見有って言う人今日もあのマンションにいるかな」

 

 だとしてもしばらく行けそうにないけど。参ったな...気を抜いたら、眠たくなる。

 ゆっくりと目を閉じて、身を任せた。

 

 

 

 

「おい、大丈夫か。怪我は治ってないって言っただろ」

 

 見知ってはいないけど、確実に知っている声で意識が戻る。

 

「...なんでここにいるんだよ。僕のストーカーなの?気持ちはわかるけどさ」

「依頼でお前を探しに来たんだよ、おかげでこっちも通り魔に襲われたわ責任取れよ」

「知らないよ...」

 

 声の主を目で捉えて、僕は今度こそ意識を失った。

 

 


 

 

「こいつ意外と重いな...」

 

 先程、お互いに気合いを入れて戦闘開始、というタイミングだったのだが女が急にものすごい速さで逃走した。こっちはともかく向こうはやる気があったと思ったんだが、よくわからないな。

 長雨に一応女の追跡を頼んで俺は間宮探しを再開...したのだが、まさか女と同じ仮面をつけている男を一緒に倒れている瀕死の間宮を見つけるとは思わなかった。あの女はまるで一人じゃないみたいに話していたがきっとこの男が仲間なんだろう。

 

「これは依頼達成的にどうなんだ?」

 

 通り魔事件の依頼も、間宮の依頼も、達成できたかはわからない。だけどまあ、良い方向には進んだはずだ。

 俺の背中で満足そうに寝ている間宮を見て、なんとなくそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回でとりあえず1章終わりの予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。