欲張りファンタジーの世界で生きたい   作:ゼラチン@甘煮

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七話/一章終幕、そしてサイトウ探偵事務所

 速い、さっきよりもずっと速い。見失わないようにするのがやっとでとても追いつけるとは思えない。

 

「待って...ください」

 

 息を切らしながら絞り出した言葉、それが聞こえたのか仮面の女性がピタと立ち止まる。

 

「...頑張るのね。そんなにぜぇはぁ言っているようじゃまだまだだけど」

「なんで、なんであなたは通り魔なんてやっているんですか?そんな速さを出せるのに」

 

 わざわざこんなことをしなくてもその実力があれば仕事やお金にも困らないはずなのに、なんでこの人はやっているのか、純粋に気になった。被害者の人はお金などを盗まれたわけじゃなかった。所持品が目的じゃないならいよいよ理由がわからない。

 

「──魔神教会」

「へ?」

「それがワタシの所属している組織、サービスで教えてあげるわ。またね」

 

 そう言った瞬間、さっきと同じようにとてつもない速さで逃げて行った。

 追いかけることもできず、私は見有さんが来るまでその場に立ち尽くしていた。

 


 

 

 

「見有くん、長雨ちゃん、依頼達成おめでとー」

 

 翌日、どうしようかととりあえず事務所に来たら早々にサイトウから祝いの言葉を投げかけられる。

 

「依頼達成って...通り魔は片方逃がしたし間宮の方に関してはよくわからんぞ」

「今朝警備隊の方で発表があってね、通り魔らしき人物を逮捕したって。それが本当かどうかはわからないけど表向きにはその事件は解決した。それと同時に間宮家の方からも連絡があってもういいってさ。釈然としないけどそういうことで頼む」

 

 確かに釈然としない。長雨が追いかけていた女やそこから出た『魔神教会』という単語など警備隊としても調べたい情報はたくさんあるはずだが。

 

「すみません見有さん...、私がちゃんと追いかけていたら」

「あそこで追いかけるのは逆に危険だった可能性がある。むしろよくあそこで持ちこたえた」

 

 長雨が落ち込んでいる雰囲気だったので一応フォローしておく。そうするとさっきまでのはなんだったのかすぐに顔を緩めてエヘヘと笑った。

 

「まあ、それならこれで終わりってことで良いのか?まさか三日で終わるとは思わなかったけども」

「そのことなんだけどさ」

 

 サイトウがこっちに向き直る。協力する依頼も終わったことだし別れの挨拶でもしようとしているのか?何も心当たりがない。

 

 

「見有くん、ここで正式に働かない?」

「え?」

「給料もちゃんと払うしもちろんそっちの依頼を優先して構わない。どう?」

 

 サイトウ探偵事務所で働く?確かに新しい仕事を探してはいたがここで働くことは考えていなかったな。

 わずか三日足らずとはいえ、なんだかんだ一人より楽だとわかった。今までより依頼が楽になってしかももらうお金が増える。俺にとってはメリットしかないな。

 

「......わかった。ここではた────」

 

 

 

 

 

 

 

「それ、僕も良い?」

 

 返事をしようとしたら扉からの声に遮られる。まだ俺の部屋で安静にして寝ているはずの間宮だった。

 

「まだ寝てろって言っただろ...また傷が開くぞ」

「僕は二度も同じ過ちを犯さないんだ。...それより、サイトウだったっけ。僕も見有と一緒に働いて良いよね?もう魔力を奪うことはやるつもりないししばらくやることなくて困ってたんだ」

 

 おい、何勝手に俺も事務所に入れてるんだ。どうせ入るつもりだったけど。

 

「とのことだけど、見有くんはそれで良い?」

「ああ、改めてよろしく。間宮もな」

 

 俺が手を差し出すと、少しだけバツの悪そうにしながら間宮も手を差し出す。

 通り魔は捕まったが間宮のやったことが許され無罪放免消え去ったわけではない。だがそれについて俺が何かを言う権利はないしあったとしても言うつもりはない。サイトウたちや警備隊が何もしないのなら、それでいいんだろう。

 

 

「それで、見有くんがここで働くことは見有くんのご主人様に伝えなくてもいいの?」

「うっ...」

 

 そうだ、依頼のやり方に影響が出る以上アウルムに伝えなければいけないだろう。なんと反応をされるか考えるだけで寒気がする。

 

「なんなら俺が言おうか?挨拶はどのみちしなきゃいけないし」

「ごめん、頼む」

 

 思わぬ助け船が出た。これなら何の心配もなくサイトウの所で働ける。

 

「,,,見有さんたちが働くことになったのは嬉しいんですけどサイトウさん先月から私への給料滞納してますよね?大丈夫なんですか?」

 

 さっきから黙って話を聞いていた長雨が不思議そうにサイトウに言う。

 そういえば久々の依頼だかなんだか言っていた気もする。でもサイトウは作家業もやってるって言ってたよな、その収入はどうなんだ?

 

「......」

「サイトウさん、もちろん一気に二人も雇ったんですからちゃんと払ってくれますよね?」

「...」

 

 無言を貫き目が泳いでいるサイトウを見て長雨がゆっくりと刀を抜く。

 

「ふう......。うん、じゃあ俺は給料を払う準備をしてくるね」

「逃げないでください!私だって欲しいもの我慢してるんですよ!」

 

 窓から飛び降りるサイトウとそれを急いで追いかける長雨。俺と間宮はそれをぽかんとしながら眺めるだけだった。

 まあ、賑やかなのは嫌いじゃない。給料に関しては...アウルムからのを長雨にちょっと渡してやろう。

 

 


 

 

 

 広い会議室、白い服を着た数人の男女が話し合っている。胸には彼らが()()()()だという証、国章が刻まれている。

 

「────5区にて怪物が出現。タイプは獣型で猪を模したと思われます。5区の警備隊と近くの個人事務所でこれを鎮圧、死傷者はありません。それらを加味し危険度は『怪談』となりました。通常であれば報告の対象外となる危険度ですが、一般的な怪物の居場所からは離れているはずの5区での出現ということで報告しました。私からは以上です」

「了解。一応の対策としておよそ一月の間5区へ四番隊から数人派遣、他に異常がないか調査並びに再び出現した時のために調査を依頼する。他に何かないか?」

 

 しばらくの間沈黙が流れていたが、耐えかねたかのようにそのうちの一人が手を挙げた。

 

「先日18区に派遣した四番隊から少し気になる情報が。18区では通り魔事件が発生していたのですが、逮捕した犯人の仲間と思わしき人物が『魔神教会』所属と言ったと証言がありました」

 

 空気が一変する。先程の真面目な雰囲気がより研ぎ澄まされたものとなる。

 

「三ヶ月前の24区での『猟犬』に始まり16区での『白夜』、41区での『爆弾魔』、そして今回の『通り魔』で魔神教会関連の事件が四件目です。いずれも完全な解決へは至っておらずしかも4区とも人口の多い都市です。そろそろ魔神教会と言われる組織への本格的な対策をする必要があると思います」

「......最近は怪物の出現頻度も少なくなったと思ったのだがな。わかった、とりあえずその4区に四番隊とこちらの隊員を派遣する。これ以上魔神教会関連の事件が発生し被害の規模が大きくなるようなら私たち幹部の中からの派遣も考える」

 

「ちょっとちょっと!それ、もう私が行ってもいい?」

 

 一人の少女が元気に手を挙げて発現する。今まで眠っていたのか口元によだれの跡がついている。

 

「別に構わないが何をするつもりだ。幹部がわざわざ出向くなど普通はかなりの緊急事態だぞ」

「そう!最近暇なの!毎日毎日書類仕事ばっかで、そんなことをやるつもりで国家警備隊に入ったわけじゃないのに」

「行くとは、どこに」

 

 少女を遮るようにさらなる質問が重ねられる。

 少女は一瞬不機嫌そうな顔になるもすぐに笑顔を取り戻す。

 

「18区、その中だと一番物騒だし」

 

 

 そう行ったきりすぐに部屋を後にする少女。その様子を見て誰かがため息を漏らした。

 

「あいつが向かうことで変に刺激しなければいいんだがな」

 

 そう呟いた手元には会議に出席した人物の名簿が書かれている。何気なく少女の場所を目で追いかける。

 

 

 

 

 国家警備隊一番隊幹部 ネージュ

 

 写真の中の少女はふてぶてしく笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 これで1章終了。少し閑話を挟んで2章いきます
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