帝国歴1186年翠雨の節。この日、帝都アンヴァルでは、敗戦を重ね、帝都まで攻め込まれたアドラステア帝国軍と、
死んだはずの王子、ディミトリが率いる、ファーガス神聖王国軍の、全総力を持った戦いを繰り広げていた。
「これで、終わりだ!!ヒューベルト!!」
現在帝都の城下町で指揮を執っていた帝国宮内卿、ヒューベルトはかつての級友、フェルディナントに追い込まれていた。
「こうして貴殿を帝都で迎え撃つとは、この世は何が起こるか分かった物ではありませんな。」
「ああ。だが私は、先生を信じると決めたのだ。」
フェルディナントは騎馬から降り、槍を手に取った。オレンジのブロンドをなびかせる彼の顔は、ヒューベルトを討つ。その決意で満たされていた。
「そうでしたか………しかし私も、エーデルガルト様の為に負ける訳にはいきません。」
そう言う彼は、その手に持った、
「分かっている。ここにきても君は、絶対に引かない男だと。だから!!私が君を討つ!!」
「出来るものなら………やってみなさい!!」
彼の描いた魔法陣から闇の魔道が放たれる。しかし、それを神聖武器、アッサルの槍にてフェルディナントは打ち払った。
「ハアアァァァァッ!!」
彼の放つ刺突を、ヒューベルトは体をひねって躱した。
「真っ直ぐな攻撃、単調なんですよ。貴方は昔から、透き通った紅茶のように!!」
そう言う彼の放った魔法で、フェルディナントの槍が弾かれた。
「ほら、これであなたは得意な槍が。ッ!!」
しかし、とっさに魔法空間から彼が取り出したのは、もう一本の槍。英傑の名槍、グラディウスだ。
投擲されたそれは、魔力媒介だった
「そう言う君は、相も変わらず真っ黒なテフ(コーヒーの事)の様だな!!」
「ッ!!その減らず口を、今すぐ叩いて差し上げます!!」
更に激しく、己の魔力を使い放つが、それをフェルディナントは腰に差していた剣で防ぎ、ヒューベルトに斬りかかる。
「ハアアァァァッ!!」
「オオオォォォッ!!」
そして、ヒューベルトの泥ににじんだ白手袋に包まれた手が、フェルディナントの顔を掴んだ。
「ク………クク。非常に残念ですね。もう少しでその貴殿のムカつく正義面を吹き飛ばせたのですが………。ガフッ!!」
「ヒューベルト………。」
苦し紛れに憎まれ口を叩く彼の腹には、フェルディナントの剣が突き出ていた。
「何故だ。君の魔力なら………。」
「勘違い………しないで………いただきたい。情が移ったのでは………ありません………。貴殿のような………優秀な人材が………なくなるのは………惜しい………ですからな………。」
「ヒューベルト………。」
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ヒューベルトSide
何故そんなつらそうな顔をするのです?フェルディナント殿。戦場でよく呟いているではないですか………貴殿に戦場で敵に情けを駆ける猶予などなかったのですよ。
これでいい。フェルディナント殿。貴方は帝国に逆らった帝国貴族と言う十字架を背負い、時代の国を育てていくのです。
貴方の様なまっさらな紅茶には………光の世界がお似合いだ。
「フェルディ………ナント………どの………。」
「ッ!!ヒューベルト!!」
まだだ、まだ大切なことを伝えなければ!!動け!!我が身体!!今までずっと、私の意思で動いて来たでしょうが!!
己に鞭を打ちつけながら、左手の手袋を取る。中指に付けた指輪を、外した。
「私の………書斎の………隠し扉を開くための………。」
「ッ!!分かった!!書斎だな!!」
「フェルディナント殿…………。貴殿はやはり………紅茶ですな。」
「ッ!!ヒューベルト。」
全く。そんな顔で看取らないでいただきたい。敵にそのような顔をされても全く嬉しくない。
「エーデルガルト様を………主の………意思を………。」
「分かっている………!!お前たちの遺志を継ぎ、私は素晴らしき国を作ってみせる………!!」
「託し………ますよ。」
「ッ!!」
そんなに驚かないでいただきたい。私だって、生涯で一度は、本音をさらけ出してもいいでしょう。
「貴殿は………勝ったのです………だから………この私を………エーデルガルト様の国を………越えて見せろ………!!」
「ヒュー………ベルト………。」
「分かっているな………!!勝者の義務を………必ず果たせ!!でなければ………呪う!!」
「分かっているさ………だから、せめて………安心して逝け。」
「ええ………期待………しておいて差し上げます。」
全く。貴殿と言う男は………。託しましたよ。
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そして、一人の男が逝った。
フェルディナントは、その後、貴族の中の貴族と呼ばれるほどの男となり、名采を振るい数々の逸話を残した。
一方ヒューベルトはと言うと………。
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ここは………?薬品の匂い………病院ですかな?何故だろう?身体が上手く動かない………眼もかすんで見えますな………。
そもそも私は死んだはず。あの時の感覚は確かに………
「おめ……………ます。おと…………す…。」
何か聞こえますな。
「よかった………本当に………。」
鬱陶しいですな。一体何に泣いているというのです?
「で、名前はどうするんだ?」
「う~ん、そうね。ヒューベルト、なんてどう。」
「いい名前だな。良かったな、ヒューベルト。」
何故私に向かって行ってくる!?何を言っているのだこの夫婦は、私がお前達から生まれた赤ん坊だとでもいうのか⁉
待てよ………生まれた………赤ん坊………。
とっさに体を動かしてみる。見ると、私の手と思しき、ちんちくりんな手が見えた。
これは………まさか………。
「ヒューく~ん。ママですよ~。」
やめろ!!私をそんな目で見るな!!
顔を真っ赤にして悲鳴を挙げたくなった。これが私の、転生だった。
次回。渋谷へ、