ペルソナ5~怪盗従者~   作:砂原凜太郎

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第2話

 私がこの世界、この世界共通の年号、『西暦の世界』とでも呼びましょうかな。この世界に転生してから早17年。人生とは早いものですな。

 私は転生してからこの世界のありとあらゆることを調べつくしました。幸いこの世界には、スマホやパソコンなる、情報収集に長けた機械がありましたからね。

 分かったのは、この世界はフォドラの世界とは全く別の世界であるという事。

 フォドラと言う大陸は、どの地図を捜し、どの歴史書を見ても確認されませんでした。まず間違いないでしょう。…………寂しいのは否めませんね。

 この世界に魔法の文化は無いという事。無いだけであって、魔法自体は何の問題もなく行使できるようです。魔方陣の展開だけにとどめていますがね。

 

 私は去年から親の勧めで入った秀尽学園に通っている。私が住んでいる都市は東京と言い、この国の首都の様だ。

 この学園には、鴨志田卓という、元はオリンピックと言う国際大会のバレーボール部門で金メダルを手にした男が体育の教師を務める、ぜいたくな学校ですな。

 しかしこの鴨志田、昔から体罰の噂があり、正直この男は好きませんな。あの鳥の巣頭め。

 そんな事を思いながら、スマホでニュースを見る。最近は精神暴走やら廃人化と言った物騒な事件が相次いでいる。この国の政治に文句が問われているようですな。

 そう言えば、学校の裏サイトに『前歴持ちの転校生が来る』と言う噂が立っていましたね。全く、平和ボケした非武装国家の癖して物騒な世の中です。

 

 そんな他愛のない平和ボケした国にふさわしい話題の記事を読みながら、秀尽学園への最寄駅、青山一丁目に到着する。

 改札を出て、空を見上げる。あいにくの雨ですな。ふと隣を見れば、パーカーを被った金髪の少女が雨宿りをしていた。

 彼女は確か…………高巻杏殿。私のクラスの同級生で、イギリス人の血を引いている人間でしたな。

 件の体育教師、鴨志田卓と関係があるとの噂もありますが、あのエロゴリラが彼女の趣味とは思えませんし。デマでしょう。

 ふとその奥を見れば、黒髪のくせっ毛の生徒が、高巻殿に見とれていた。彼の顔は覚えがありませんね。

 まさか、噂で書き込まれていた転校生でしょうか?私は事情は知りませんが、とても暴力を振るうような体質には見えませんね。

 裏サイトでは無免許運転に恐喝、常にナイフを持ち歩いており、目と目があったらタイマンバトルと言うポ○モントレーナーみたいな感じで殴ってくる。

 挙句麻薬に象牙の密売、ホントは殺しもやっている。実は裏社会で犯罪業界の若きナポレオンと呼ばれている。

 と、まるで現代のモリアーティであるかのように言われている人間みたいには見えませんな。

 まぁここまで尾ひれがついていれば信じるのはただのバカでしょうが。

 

 そんな事を考えながら、雨宿りをしていると、クラクションの音がした。ふと見てみると、件のモジャ公鴨志田卓が、車の中から顔を出していた。

 

「おはよう、遅刻するぞー。」

 

 そして、車からそう忠告してくる。自分は屋根付きの四輪自動車に乗っているから雨の中でも余裕でしょうがね。そのまま事故を起こして死ね。

 まぁ、この言葉の対照は、恐らく関係を持っていると噂されており、彼が一方的に色目使っている高巻殿でしょうが。

 

「よかったら送ってこうか?」

 

 その人当たりのよさそうな言葉に甘えるように、彼女は了承した。無言で椅子に座るが、彼女の表情は暗い。何か事情があるのでしょうかな?

 鴨志田はその経歴から行内でも強い発言力を持つ。クズが権力を持つとどうしようもなくなるのは道理なのでしょうな。

 

「君達も同だ?」

 

 私と恐らく転校生であろう青年に声を駆けますが、貴殿の汚らしい心に染まった車などこちらから願い避けですな。

 転校生も、恐らく高巻殿に遠慮をしてでしょうが、首を横に振った。

 

「そっか。遅刻するなよ~。」

 

 そう言って車は地球に有害な二酸化炭素を掃出しながら走り去って行った。すると、

 

「クソッ!!間に合わなかったか。」

 

 そこに来たのは、金髪のいかにも『ヤンキーです。』と言う札を掲げて歩いていそうな男が居た。

 高巻殿とは昔からの知り合いらしい、坂本竜司殿だ。

 こんななりをしていますが、元は陸上部のエースだった青年だ。件の鴨志田相手に暴力事件を起こしたとされていますな。

 まぁ、何があったのかは知りませんが。

 

「あの変態教師め……………。」

 

 地面を蹴飛ばし、恨めしそうに毒づく竜司殿。よほど恨みがあるのでしょうな。

 

「変態教師?」

 

 その言葉をオウム返しするように転校生が疑問符を投げかけた。

 

「ん?」

 

 その声に坂本竜司が彼に顔を向けた。

 

「何だよ?」

 

 そして、彼に詰め寄る。

 

「もしかして、鴨志田にチクる気か?」

「鴨志田?」

 

 しかし、転校生は首をかしげた。

 

「さっきの車だよ。鴨志田だったろ。」

「もじゃもじゃの…………。」

 

 彼が思いだしたかのように言うと、

 

「へぇ。言うじゃん。」

 

 そうまんざらでもないと笑う坂本竜司。

 しかし、鴨志田の事を思い出したのか舌打ちする。

 

「好き放題しやがって。お城の王様かよ。…………そう思うよな?」

 

 そう転入生に問いかける。

 

「?」

 

 しかし、転入生は鴨志田の事を知らないのか、頭にはてなを浮かべている。

 

「どこの城だ?」

 

 そして飛び出したのは唐突な天然発言だった。

 

「あ、いやそうじゃなくて…………。」

「随分ともどかしそうですね。坂本殿。」

 

 仕方ないので話しかけてやると、

 

「ヒューベルトか。こいつ話が合わなくてよ……………。」

「ならさっさと別れを告げればいいでしょうに。」

「いやそういう訳にもいかね―じゃん。」

「ククク。貴殿はお人好しですな。」

 

 本当に、どこかの紅茶(誰か)に似ている。

 

「お前が陰気すぎんだよ!!つーか、コイツ誰なんだ?」

「決まっているではないですか。噂の転校生君ですよ。」

 

 そう言うと、彼は驚く。

 

「マジか⁉前歴持ちの!?」

「…………まぁな。」

 

 坂本竜司の投げかけに彼はメガネを直して頷いた。小洒落た動作ですね。

 

「何はともあれ、急ぎましょうか。このままでは遅刻ですよ。」

「…………そうだな。来いよ。近道教えてやる。」

「……………頼む。」

 

 そして、坂本殿の案内で歩いていく。狭い路地裏を抜けると、

 

「…………………へ?」

「道を間違えましたかな?」

「…………………ディズ○ーランドか?」

「「どう見ても違うだろ(でしょう)。」」

 

 そこにあったのは、禍々しい城だった。しかし、決して金で動いている鼠と夢の国(笑)ではないと思いますな。

 見ると、『目指せ!!全国大会!!』や、『祝!!バレー地区大会優勝!!』と言った華々しい文章が、書かれた横断幕。この横断幕、それに、表の看板、

 見ると学校の石碑に酷似した物、そこには、『秀尽学園高校』と書かれている。妙ですな。妙なものを食わされたり幻覚剤を投与されたり嗅がされた覚えはないのですが………。

 

「……………とりあえず、入ってみようぜ。」

 

 ……………それは愚策だと思うのですが、

 

「私はここで待たせていただきますよ。」

「?何でだよ?」

「どう見たって怪しいでしょう。私はここで待ちますな。」

「そうかよ。行こうぜ。」

「………わかった。」

 

 どうやら転校生殿は愚策の方を選んだ用ですな。坂本殿と一緒に扉を開けて入って行く。心配ですな。後をつけるとしましょう。

 しかし、門から入るのは不味いでしょうな。どこかに潜入経路は…………。

 そう考え辺りを見回すと、十字の換気口が見えた。おやおや、鉄格子も付けないとは。

 

 飛び上がり、換気口の入り口に手を掛け、そのまま体を入れる。フム。少々体が鈍っていますな。これでは見つかるかもしれない。

 

 反対側の出口となりうる部分には鉄格子が駆けられていますが、このタイプなら、掴んで、外せば…………。

 

 ガコン!!

 

 力を入れれば、鉄格子はあっけなく外れた。換気口の出口の下には棚が、これならば、物音を立てることなく、この格子を処理できますな。

 さも前から立てかけられていたかのように立てかける。そのまま棚から飛び降り、地面に降りる。

 小さな小部屋ですな。ん?

 外から、ガコン!!ガコン!!ガコン!!と言う音が響いてきた。これは………重層鎧の足音?

 

 少しだけ扉を開け、中を覗く。そこには、転校生殿と坂本殿を脇に抱え、歩いていく鎧の一団が。後を付けてみましょうかな。

 幸い、あちこちにソファーが配置されており、隠れる場所には困りませんな。一定の距離を保ちながら移動して行く。

 そのまま螺旋階段を下りて行く。これは…………もし相手が上ってきては困りますな。

 見ると、無骨な長剣が壁に立てかけてある。仕方ありません。これを使いましょうか。

 近くにあった鞘におさめ、ベルトに差し込む。十分使えますな。

 螺旋階段を下りれば、そこは地下牢だった。

 じめじめとしており、水が流れている。牢に入れられている人間たちは頭に矯正具の様な物をかぶされており、うめき声が絶え間なく聞こえる。

 なんなんだこの空間は……………まるで……………。

 まるでアガルタの実験施設だ。その考えが言葉に出そうになり、呑み込む。

 

「いったい誰なのでしょうな。このふざけた城の主は。」

 

 そんな言葉をこぼし、さらに奥へと進んでいく。




 ヒューベルトのペルソナ覚醒はもう少し先になります。

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