ペルソナ5~怪盗従者~   作:砂原凜太郎

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髑髏の旗 前編

《Side 雨宮》

 

「で、どうやってあの城に行くんだ?」

 

 例の城に向かおう。という話になって学校は出たはいいものの、提案者の竜司はまさかの無策だった。

 

「まさか、何の策もなしにあの謎の国まで行こうと思ったのですか?」

 

 これにはヒューベルトも唖然とするしかないようだ。

 

「う、うるせぇ!! 見とけよ!! ぜってーたどり着いて」

「そのまま行っても、」

 

 歩き出した竜司に、ヒューベルトは声をかける。

 

「絶対にたどり着けないでしょうな。」

「なっ!?」

 

 それに竜司が振り向いて、こっちに戻ってきた。

 

「ンだと!?」

「そもそも、あのような城はこの付近にはありません。それは分かりますね?」

「そ、そうだけどよ……。」

「ええ。ですから、これからいうことは、突拍子もないことだとお考え下さい。」

 

 そう言い、ヒューベルトは指を一本、顔の前に立てた。

 

「現実には存在しない城、謎の魔物、私と雨宮殿が扱えたあのちから。様々な観点から、私が考えられる可能性は、一つだけです。あれは、この世界ではないのでしょう。」

「は?」

 

 淡々とそう語るヒューベルトに、竜司は何言ってんだこいつ。というような顔をした。

 

「この世界じゃないってお前……ゲームのやりすぎ? それともマンガの読みすぎ? それとも」

「ラノベの読みすぎでもございませんよ。」

 

 と、竜司の言葉にそっけなく答えてから、

 

「言ってみればわかることです。そういえば雨宮殿?」

「ん?」

 

 俺?

 

「先日の事を思い出していたのですが……どうも、あのヘンタイ城から逃げ出した後、携帯から音が鳴っていませんでしたか?」

「ん? あ、そういえば!!」

 

 竜司も声を上げる。たしかに、『ホームに帰還しました』という音声を聞いたな。

 

「試しに、スマホを調べていただけますかな?」

「……ああ。」

 

 試しに、スマホを見てみる。

 

「もしかして、これが原因かもしれないな。」

 

 この間唐突に入ってから何度消そうとも戻ってくる謎のゾンビアプリ。というか、これ以外に原因が思いつかない。

 

「……アン? なんだそれ?」

「いくらアンインストールしても気が付いたらインストールされてる謎のゾンビアプリ。」

「……ウィルスじゃねぇよな?」

「多分、きっと、もしかしたら、違うかもしれない……と思う。」

「不安要素山盛りじゃねぇか!!」

 

 と、竜司が鋭いツッコミを入れた。

 

「雑談はそこまでにして、始めましょう。」

「……そうだな。」

「ああ。試しにやってみるか。」

 

 アプリを起動すれば、

 

『キーワードを入力してください』

 

 という電子音性が響いた。

 

「……えーっと、キーワード、わかる?」

「そうですな……あ、ログ検索なんてものがあるではないですか。」

「え? あ、ホントだ。」

 

 全然気が付かなかった。

 

「あったな。なんだこれ? 《カモシダパレス》?」

「……文面から、某ゴリラ教師の存在をひしひしと感じるのは私だけですかな?」

「いや、多分全員。」

 

 と、ヒューベルトの問いに答えてやる。竜司も、渋い顔をしていた。

 

「と、とにかく!! 言ってみようぜ!!」

 

 そう言い、竜司がナビ開始のボタンを押した。

 

「さ~て、どうやって連れてってくれるのか……へ?」

 

 驚くのも無理はない。そんな事を言っていたら、何やら視界が揺れ動いて、気が付いたら俺たちは、あの城にいたのだから。

 

「……マジで異世界だったのかよ!?」

 

 唖然としていた竜司はそう声を上げた。

 

「なるほど、さしずめそのみょうちきりんなアプリは異世界に移動する際の出口まで案内し、その扉を開くアイテム、と言ったところでしょうか。」

「…………。」

 

 すごい品なんだな。今まで消そうとしていて悪かった。と、心の中でアプリに頭を下げておく。

 

「あ、お~い!!」

 

 すると、声がした。シャドウどもが騒がしいと思ったら…………とこちらにはよくわからない単語を使いながら向かってくる黒いマスコットみたいなこいつは……

 

「モナネコ」

「モルガナだ!!」

 

 神速のツッコミが帰ってきた。

 

「確かヒューベルトがそんな風に呼んでなかったっけ?」

「そうでしたかな?」

「忘れてんじゃねーよ!!」

 

 と、モルガナのツッコミが炸裂する。

 

「ま、そんなことはどうでもいいですな」

「よかねぇ!!」

 

 と、手を振って抗議するモナモナ。じゃなくてモルガナ。

 

「で、お前ら、何でこんなところに来たんだ?」

「貴殿こそ、なぜこのような場所に単身でいるのですかな?」

 

 モルガナの問いにヒューベルトが問い返す。

 

「ああ……それが、思い出せないんだ」

「は?」

 

 ヒューベルトが何言ってんだコイツ。という顔になる。

 

「……トンチキなモナネコ…………どうやらモナチキ殿でしたか」

「だからモルガナだよ!! モナネコでもモナモナでもモナチキでもねぇよ!! 俺にはモルガナって名前しかねぇよ!! ファ(ピー)チキみたいなあだ名付けるんじゃねぇよ!!」

 

 何やら漫才を披露している…………。

 

「ここの事とか、名前は覚えてるんだけどな……気が付いたらあそこにいて、ワガハイ、何にも覚えていないのさ……」

「…………。ひとまずは、信じましょう。」

「え? いいの?」

「マジ?」

 

 ヒューベルトの言葉に、二人が驚く。俺も、そう簡単に信じれるのかと驚いたが、

 

「貴方からは噓をついている感じがしませんからな」

 

 腕を組んでそういうヒューベルト。

 

「記憶喪失の振りの人間は何度も見てきました。しかし、貴方からはそれらと似た雰囲気は感じない。嘘を追求するよりここの事を聞いた方が利点があるので、モルガナ殿の記憶喪失云々は後回しにしましょう。してモルガナ殿」

「ん?」

「ここのことは分かるのですね?」

「お、おう!! ここがどういうところなのかとか、大体わかるぞ!!」

「ならば、教えていただきましょうか? ここについて。ここは一体何なのか? そして、どこなのか。」

 

 近くにあった木箱に腰かけて、そう言う。

 

「ここ? ああ。パレスの事か」

「パレス? 現実世界じゃねぇってこと?」

 

 オウム返しに竜司が問いかける。

 

「ああ。ここは、欲望が具現化した認知の世界だ。」

「認知?」

「欲望?」

 

 どういうことだろうか。

 

「つまり、このパレスの主は、学校が城だって認識してんのさ。」

 

 これを聞いた瞬間、もう確信した。

 

「つまり、パレスの主はどこぞのヘンタイ体育教師で確定ということですな。」

「それってあのパンイチの奴の事か?」

「おう。」

「はい。」

「ああ。」

 

 モルガナの問いに俺たちは三者三葉だが意味は全く同じで即答した。

 

「…………。おう。」

 

 それにはモルガナもドン引きな様子だ。

 

「まぁ、とにかく、そいつみたいに、すごく強い欲望を持った奴が、こんな世界を生み出すんだよ。」

「……鴨志田みたいなやつが他にもいるってことかよ…………。」

「まぁ、欲望ってのは人間を作る根幹の一つみたいなもんだからな…………それがあまりに強いやつも、中にはいるんだよ。」

「なるほど。それに入る為のアイテムが、このアプリという訳ですか。」

「は? アプリ?」

 

 怒りに震える竜司の側で、モルガナがそう言って目を丸くした。

 

「ご存じなかったのですか?」

「いや、ワガハイ、そもそも目が覚めたらここにいたから、そんなアプリなんてわからねぇぞ?」

「……なるほど。それで、認知の世界、と言いましたな?」

「おう。」

 

 ヒューベルトの問いにモルガナはそう答える。

 

「この世界は鴨志田の認知。つまり、鴨志田はこの学校を自分の城のように思っていると。」

「ああ。そういうことなんじゃないか?」

「なるほど……では、奴隷のような仕打ちを受けていた生徒は」

「そのカモシダってヤツの認知上の存在だよ。ようは、意志を持って動いてるだけで、それはこの城の石像やツボと似たような存在だ。まぁ、その思考も、カモシダってヤツが『こうだ。』って考えてるものなんだが。」

「じゃぁ、あの高巻も…………そういうことかよクソッ!!」

 

 高巻。というのはあの時鴨志田の車に乗った彼女か。そういえば、パレスから出ようとしたときにきわどい水着姿で出てきてたな。つまり、鴨志田は彼女をああ思っていると。

 同じ結論に至った竜司が悔しそうな声とともに木箱を蹴飛ばす。

 

「この世界に真の意味で存在しているのは、我々とあの鴨志田だけだと。」

「ああ。だが、お前らの行動が現実世界にバレることもねぇぞ。」

「バレていたら、すでにここにはこれなかっただろうな。」

 

 そもそもここのヘンタイと現実のヘンタイが思考を共有しているなんて現実であっても信じたくもない。

 

「ま、そういう世界なんだよ。ところで、お前たちは何しに来たんだ?」

 

 モルガナの問いに、俺たちはヒューベルトの策を話した。

 

「へぇ、面白いことを考えるもんだな。」

 

 と、モルガナは感心したように言うが、そのあと口を開いた。

 

「でも、」

「無理のようですな。」

 

 そして、モルガナの言葉を遮り、ヒューベルトがスマホを見せる。

 

「圏外。それどころか、すべてのアプリが機能しません。雨宮殿、貴殿のスマホはどうですかな?」

 

 そう言われて、スマホを取り出して確かめてみる。

 

「例のナビ以外動かないな。」

「オイ、それってさっそく計画が破綻してね?」

 

 不安そうな顔で竜司が問いかけてくる。

 

「破綻していますな。」

「オイ!!」

 

 冷静なヒューベルトに竜司が怒鳴った。

 

「どうすんのよ?」

 

 頭を掻きながらそう問いかける竜司。

 

「作戦の練り直しですな。」

「はぁ? マジかよ~。」

 

 腕を組んでそういうヒューベルト。竜司は天を仰いでからガックリと項垂れた。

 

「すみませんなモルガナ殿。せっかく色々答えていただきましたが、」

「気にすんな。………でもよ、」

 

 モルガナが何か言おうとした時だった。

 

「こうしちゃいられねぇ!!」

「おわっ!? おい、どうしたんだよ?」

 

 と、竜司が声を上げた。

 

「せっかくここまで来たんだぜ。写真が取れなくても、やられてる奴ら全員の顔覚えて帰ってやる!!」

「……愚策ですな。」

「竜司、一旦落ち着け。」

 

 俺たち二人で宥めようとするが、竜司は聞かなかった。仕方ないから、竜司の要求をのむことに。ヒューベルトも、しぶしぶ、

 

「貴殿の心が収まるなら。ただ、引き際を間違えないように。」

 

 と竜司にくぎを刺して、歩いていく。

 

「よしっ、そうと決まれば、」

「馬鹿正直に正門から入ろうとか考えないように。」

「うぐっ!?」

 

 まっすぐ門の方に向かった竜司を、ヒューベルトは言葉で制した。

 

「……で、侵入経路が、ここか。」

 

 ヒューベルトに案内された先にあったもの。それは俺たちが前回の逃避行の時に利用した、換気口だ。

 

「でもよ、ここって不味いんじゃねぇの? 前回大騒ぎしたじゃねぇか。」

 

 と、モルガナが言うが、

 

「それには及びません。」

 

 と、ヒューベルト。そして、指したのは換気口近くの塞がれた大穴。

 

「私のペルソナ。モリアーティで壁を破壊しました。奴らが賊の侵入は壁を壊してだと考えるように。」

 

 そう言い、軽い身のこなしで換気口の中に入る。

 

「……問題ありません。近くにトラップがあるのでかからないように。」

 

 と、声で指示を伝えた。見ると、確かに、乱雑な修繕が施された壁の近くに、トラバサミが所狭しと置いてある。

 

「…………。」

「トラップを仕掛けた気になって安心しているのでしょうな。さ、行きますよ。」

 

 そのトラップを冷ややかな目で見るモルガナにヒューベルトは声をかけて、そして、この城を隠れながら、地下牢の道までを移動した。

 道中、番兵をやっていたモンスター(モルガナによると、シャドウ、というらしい。)を不意打ちからのタコ殴りで倒す。

 

「うわぁ…………。」

「さすがに、敵とはいえ哀れみを感じますな。」

「…………。」

 

 言うな。俺だって良心はあるんだ。そして、【鴨志田・愛の修練場】と書かれた場所に到着した。

 

「愛の修練場……だァ?」

「とことん性根がねじ曲がっているようですな。」

 

 それに竜司とヒューベルトが冷ややかな目を向けていた。

 

「おい、早くいくぞ。」

 

 モルガナの言葉で、俺たちはその修練場に入っていく。

 

「これは…………。」

 

 俺は、その光景に思わず顔をそむけた。

 そこに広がっていたのは、水を飲ませずに何時間と走り続けられる生徒。

 シャドウに剣でシバかれている生徒。

 砲台から放たれるバレーボールを縛り付けられた体にぶつけられ続ける生徒。

 

「こんなの…………指導でもなんでもねぇ!!」 

 

 怒りのままに叫ぶ竜司。

 

「いかに私とは言え……流石に怒りを通り越して、何も出てきませんな。」

 

 額に手を当て、そうつぶやくヒューベルト。

 

「しっかし、ひでぇな。認知世界だからいくらか飛躍してるとはいえ、現実でも似たような扱いなんだろ。」

 

 生徒たちに憐れむような眼を向けるモルガナ。

 そして、俺の中には、複数の気持ちが渦巻いていた。

 

「許せないな。」

 

 理不尽な体罰を、平気な顔で行使する鴨志田に対する怒り。

 理不尽を強要する学校に対する怒り。

 そして、そんな理不尽に打ちのめされた生徒たちを、救いたいという気持ち。

 

「そうだな。」

「…………ここにいる奴ら、バレー部だ。鴨志田が顧問の。」

「バレーボールが一生モノのトラウマになりそうですな。」

 

 ヒューベルトがそう言うと、竜司は、

 

「戻んぞ。」

「……気は済みましたかな?」

「……ああ。」

「現実世界に戻ったら、この後の事を決めるか。」

「そうだな。」

「戻んのか?」

「ええ。世話になりましたなモルガナ殿。色々と。」

「気にすんな…………と言いたいところだが、また来てくれ。その時に恩を返してもらうぜ。」

「ククク。考えておきましょう。」

 

 モルガナの言葉に含み笑いで返すヒューベルト。その後、ホールまで移動して、侵入経路の通気口のある部屋に向かおうとした時だった。

 

『見つけたぞ!! 侵入者め!!』

「ッ!?」

「ヤバい!? 囲まれたぞ!!」

 

 俺たちは、兵士に包囲され、強力な金色の鎧のシャドウに捕まってしまったのだ。


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