「ぐっ!!」
鴨志田のパレスとやらに潜入した我々は、うっかり逃げそびれて衛兵に捕まり、我々は押さえつけられている。遠くで見ていた竜司殿は…………兵士は抑えていませんな。敵とみなす価値もない。ということか…………。
「く、クソッ…………。」
力なく毒づくモルガナ。
「おぉおぉ、また来たのか。」
「鴨志田…………。」
私がにらみつけると、
「様を付けろよ陰険野郎!!」
「ぐがっ!!」
顔面に蹴りが飛んだ。…………この程度は慣れていますが、見ている方はそうではないでしょうな。
「おい、やめぐおっ!!」
詰め寄ろうとした竜司殿が、兵士の一人に殴り飛ばされる。
「無様だなぁ、坂本。」
「あ……ぐぁ…………。」
倒れた竜司殿の顔面を、醜悪な笑みを浮かべて靴底で踏みつける。
「目障りだったお前も、俺様のおかげで落ちるところまで落ちた。そうだろう? 陸上部を廃部に追い込んだ、裏切りのエース君?」
「裏切り……?」
「ちが……アレは…………!!」
雨宮殿の疑問に、竜司殿がかすれた声を漏らす、が、このクソ教師は、
「何も違わないよなぁ、お前が、監督が休みの間勝手に、この、せっかく代わりに指導をしてやっていた俺様に暴力事件を起こして、部を廃部に追い込んだんだから。」
「ふざ……ふざけんな……!! あんなの……あんなのしごきじゃねぇ。純粋な体罰じゃねぇか……!!」
鴨志田は、以前監督がケガで不在だった、今は秀尽に無い陸上部の顧問を代わりに担当していた。
そして、それは、
「あんなことしてたら、じきに体が…………!!」
「知ってるよ。」
「なっ!?」
その言葉に竜司殿が息をのむ。
「この学園で輝くのは俺様だけで十分なんだよ。そのために陸上でいい成績を残してたエースの坂本、お前が邪魔だった。」
「てめ……まさか…………!!」
「本当ならお前だけつぶれればそれ以外はどうでもよかったんだ。だけどなぁ、お前が。他ならぬ、お・ま・えが、俺様に歯向かって殴り掛かってきやがった。」
「…………!!」
「かわいそうだから命だけは何とかしてやろうと、足をつぶすだけにしておいてやったのに、もう完全につぶすか? どうせ学校が、『正当防衛』ってことにしてくれるからな。」
「テメェ!!」
「俺を起こるのはお門違いさ。そもそも、お前だけ潰れてくれりゃあ他はどうでもよかったんだ。それをお前が事を大きくしてしまったからこういうことになった。」
「なっ!?」
「今回もそうだ。どうせお前が駄々こねたんだろ?」
「ッ!!」
「そういう事なんだよ。お前は周りに不幸しかふりまかない。」
「俺は……俺は…………!!」
いけませんな。聞くに堪えない妄言ですが、竜司殿の、陸上部をつぶしてしまったこと、そして現に今我らがとらえられていること、その罪悪感にとらわれている…………。
「諦めるのか?」
その瞬間、雨宮殿が口を開いた。
「え?」
「言われるがまま、諦めるのか? 言いなりか?」
「で、でも、俺は……陸上部を潰しちまって、お前らにも迷惑をかけて…………!!」
「迷惑、か。それをあきらめの言い訳にするのは、違うんじゃないか?」
「え?」
「竜司、お前が苦しんでいるのは分かる。だが、本当に大事なのは何があったかじゃない。これからどうするか、じゃないのか?」
「これから…………。」
「お、オイ!! そいつを黙らせろ!」
鴨志田が声を上げる。
「ぐっ!! 竜司、お前はこれから諦めて、鴨志田の言いなりになってしまって良いのか!?」
黄金の鎧兵に踏みつけられながら、雨宮殿はそう叫ぶ。
「そうか……そうだよな。言い訳がねぇ!!」
竜司殿はそう言い、鴨志田をにらみつける。
「そんなこと、許せるわけがねぇ!! 許しちゃいけねぇ!!」
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《No side》
その時、竜司の頭に声が響いた。
「ぐあっ!!」
頭痛と共に響くその雄々しい声を前に、竜司は倒れこむ。
力が要るんだろう?ならば契約だ どうせ消しえぬ汚名なら 旗に掲げてひと暴れ… お前の中の『もう一人のお前』が そう望んでいる… 我は汝、汝は我… 覚悟して背負え これよりは反逆のドクロが貴様の旗だ!」
「うおおアァァァ!!」
咆哮と共に、竜司は仮面をはぎ取った。
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「竜司殿……。」
「スゲェ……。」
「フッ。」
竜司殿にも仮面が現れ、それをはぎ取ったその背後に現れたのは、海賊船をサーフボードのようにし、右手首から先に大砲の砲身を覗かせた海賊服の骸骨。
「俺はもう、屈しねぇ!! ぶっ放せよ!! キャプテン・キッドォ!!」
右手の砲身から放たれた雷が、兵士を薙ぎ払ったおかげで、我々の拘束が解けた。
「感謝しますぞ、竜司殿。」
「金髪!! お前やるじゃねぇか!!」
「へっ、いくらでも頼ってくれよモルガナ!!」
「油断するな、来るぞ!!」
残っていた金鎧の兵士が、深紅の鎧を着た魔将に変身した。
『鴨志田様に楯突いた貴様らには、死あるのみ!!』
周囲に、複数の馬も出現する。
「行くぜ、キャプテン・キッド、ジオ!!」
「威を示せゾロ!! マハガル!!」
竜司殿が赤い将兵を怯ませ、モルガナ殿が範囲攻撃で周囲の馬を攻撃する。
「アルセーヌ!!」
「モリアーティ!!」
雨宮殿のペルソナを援護したとドーラΔで奴らに隙が出来る。
「畳みかけます!!」
「ああ!!」
「任せな!!」
「援護するぜ!!」
息を合わせた様な連携で、奴らを叩き、斬り、弾を浴びせる。
「ハァッ、ハァッ、や……やったぜ!! くっ。」
笑みを浮かべる竜司殿でしたが、よろめいてしまう。ペルソナを発現したばかりですからな。
「フン。まぁいい。その様子ではもう逃げるしかないだろう。」
今日がそれた、というような目を向ける鴨志田。ロビーに続く廊下の奥から、鉄の靴音が響く。
「じゃあな。」
そう言う鴨志田の側にやってきたのは、際どい水着姿の金髪の少女。
「お前、高巻!?」
「な、な…………。」
見知った顔に驚いている竜司殿と、震えるモルガナ殿。
「にゃんて綺麗な女の子だにゃ!!」
「ヘンタイモナネコとでも言われたくなかったら逃げますよ?」
「あだだだだ!! 痛い!! 痛い!! あとすでに言ってるし耳は引っ張らないで!! 耳はやめて!!」
悲鳴を上げるモナネコを引っ張って、私達は城を後にした。
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《Side 雨宮》
「時間を有意義に使えばよかったと後悔するときはありましたが、まさかこんな後悔の仕方があるなんて思いませんでしたよ。」
「うぅ……ワガハイの耳…………。」
耳を抑えるモルガナと腕を組むヒューベルト。合掌くらいはしてやるが自業自得だ。
「今日はもう、お開きと行きましょう。集合は後日、でよろしいですな?」
そう言って異世界から出ていこうとするヒューベルト。
「あ、ちょ、おい、ワガハイまだ言いたいことが。」
「いったん頭を冷やしてきなさい。」
そう言って出ていくヒューベルト。
「俺たちも行こうぜ。」
「……そうだな。」
「あ、ちょ、待て。待てって!! おーい!!」
モルガナの悲鳴を無視して、俺達はパレスを後にした。
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「さてと、どうするつもりです?」
翌日、カフェテリアの側の自販機エリアに集まった俺たちは、ヒューベルトの問いに、
「その件なんだがな、竜司、」
「ん?」
竜司がこっちに顔を向ける。
「パレスを出るときに見た金髪の」
「あのふしだらな服装の彼女ですか。」
「言うなヒューベルト。ああ。高巻杏。昔の知り合いだよ。」
「なるほど。おそらくあの姿は本物ではなく、鴨志田の認知。」
「アイツをああいう風に見てるッつうことか?」
「チャットで見ましたが、例の件、駄目だったのでしょう?」
「ああ。」
そう。俺と竜司はバレー部のいろんな奴に問いかけたのだが、
「どいつもこいつもだんまりだ。」
「この学校で鴨志田は絶対。被害者だからこそ、それが染みついているのでしょう。」
そう言って缶コーヒーを口にする。
「でしたら、その高巻殿とやらにお話を聞くほかありませんな。」
「マジで言ってんのかよ…………。」
「ええ。雨宮殿、」
「俺か?」
そう問いかけるとヒューベルトは頷いて、
「数日、高巻殿を尾行しようかと。何かあった日に連絡いたします。コンタクトを取っていただけませんか?」
「何故俺が? 直接尾行をするヒューベルトか顔なじみの竜司あたりが」
「貴方には少々才能を感じていましてね。」
つまりなんだ、俺が女たらしとでも言いたいのか。
「ええ。」
ええって言いやがったコイツ。
「要は、やればいいのだろう?」
「物わかりがいいと、助かりますよ。」
ククク。と悪い笑みを浮かべてそういう。いつか絶対後悔させてやる…………!!
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《Side ヒューベルト》
本当ですよ雨宮殿。私は貴殿に、期待しているのです。
貴殿には、
私がこの世界に来たならば、エーデルガルト様やフェルディナント、ベルナデッタ殿がいてもおかしくはない。ですが一高校生が見つけるには限界がある。しかし、貴殿と共にいれば、あるいは…………そう思ってしまうのです。
エーデルガルト様に再び会えるの可能性が一番高いのが、貴殿の側にいること。そのためならば、私の持てるすべてを使いましょう。
期待していますよ雨宮殿。ククククク…………。