それでは、どうぞ!
巌谷side
ふふふ、今日は待ちに待った二人と我々の共同開発の初日。
横浜に彼等専用のハンガーが出来るまでの短期間とはいえ、撃震改を作り上げた二人の技術を直に触れる絶好の機会だ。
アラスカに居る唯衣ちゃんには悪いが、俺は彼等二人が手掛けている機体の方が日本には有益だと今更ながら考えている。
撃震改の資料によると、既存と廃棄の機体を再利用、再加工で部品を作り尚且つ性能が高くなるとのことだ。
不知火弐型の開発にはボーニングス社が力を貸してくれてはいるが、技術の大半が米国で有る限り、日本で増産する事はまず難しい。
何より不知火弐型が出来たら、米国がライセンスやら何やらで政治的に更に関与してくるのは見え見えだ。
だがこの二人は国連に属してはいるが香月副司令の直属の部下であり、彼等と直に触れ合った事から、二人はどこではなく
それに彼等がくれたこの方法ならば、機材の費用も少なく済み、更には廃棄場が小さくなっていくという最高の方法だ。
おや、早速二人が作業に入るようだ。
「技術廠と言われるだけあって品揃えは横浜のハンガーよりいいなぁ。これならちっとは先に進めるな」
「直ぐに
「普段通りに
「分かった。ほッ!」
「うっしッ!」
「ん?君達、解体ならクレーンの操縦桿はこっち…だ…うそだろ?」
「わぁ~…」
私がちょっと目を話した間に機体の上に居た…掛け声からして、跳躍で上ったのだろう。
やはりあの二人は我々とは次元が違うな。
「武~いくぞ~」
「お~う」
気の抜けた掛け声と共に黒崎君は不知火の肩の上で倒立をし始めた…奇麗な倒立をするが、何をする気だ?
「せいやッ!」
<ドゴンッ! ガコンッ>
な、何!? 膝蹴りで肩ごと腕を外した!?
「行くぞ!」
「ほい来た!」
<ジャララララッ!>
倒立から膝蹴りを肩に繰り出した黒崎君は不知火の肩ごと腕を外し、更に跳躍してクレーンを手で動かして取り外した不知火の腕を絡めとり、間隔を開ける様に吊るし、白銀君は取り外されて落下する脚を
片腕を外すまでの時間は、僅か20秒…移動を含めて四肢を2分で分解とは…一体どれだけの力を持っているんだ…?
「次行くぞ!」
「おう!」
二人はまるで準備運動の様に掛け合っているが…はぁ、私は今日の喜びのあまり幻覚を見ているのか?
あの時もそうだったが、二人の身体能力は一体どれぐらい人間離れしているなのか調べてみたいものだ。
「コイツはどうする?」
「ああ、それは―――」
…これは機体の解体が終わるまで私の出番は無いな。
二人の解体が終わるまでの間は見学することにしよう。
しかし、撃震改を作る際も二人だけで解体をしているのか?
「すごい…重機を使わずに戦術機を解体してる…」
「それ以前にあの身体能力がありえんな」
あの様子だとカーゴが邪魔になっているな…後で動かしておこう。
暫く二人の解体作業を見ていると、隣からコーヒーの匂いがしたので振り向くと、そこには合成コーヒーを四つトレイに乗せている艸場中尉がいた。
彼女を引き抜いてからずっと思っているんだが、いつもいいタイミングで飲み物を入れて来てくれるんだが…いつの間に淹れたんだろうか?
「中佐、一度休憩になさいませんか?」
「そうだな。お~い君達、一度休憩にしないか!?」
そして艸場中尉が来たタイミングは丁度二人が最後の不知火を解体し終わった時だ。
本当に良く出来るな、艸場中尉は。
「だとさ、区切りもいいし一旦終了にするか」
「分かった」
<シュタッ>
不知火全機を丸裸にするまで30分…二人は私達の前まで文字通り跳んで来た。
機体と私達の間は30メートル…更に機体の高さもあるというのに…あの時屋上から飛び降りていたが、脚に影響は無いのか?
「…どうしたらそんな人間離れした動きが出来る様に成れるんですか?」
「鍛え方が違うんだよ、鍛え方がな」
それで片付けれる動きではないんだがね。
「君達、先に言っとくが…あの時みたいに帝国に食事の余裕はないぞ?」
「ああ、安心してください。これぐらいの動きなら別に食事を要求する程空腹にはなりませんので」
これぐらい?
あれだけ跳び回った上にクレーンを腕力で動かしておいてこれぐらい?
更には機体を一機解体するのに十数人は必要なのを二人でこなしてこれぐらいとは…
「巌谷中佐…私はあの時、お二人が戦闘に介入してから現実と区別がつかなくなった可能性があるのですが…」
安心しろ中尉、私もだ。
「一応この解体方法は機体が古いからしているだけであって、現役の機体にはしてませんからね?」
「んなことしたら配線から何から色々とちぎれちまうからな。オーバーホールの時もしないさ」
そ、そうか…
「さてと、一旦分解は終わったから後は改造するだけ何だが…思った以上にイカれてるなぁコイツ等」
「音も凄いしな…」
二人がどのぐらいを想定していたかは分からないが、四肢を分解した後に装甲も外され丸裸になった機体達は私が思ってたよりも老朽化が進んでいた。
二人が全機を解体した事により、その深刻さが表になった。
骨格が錆びて途中が欠けていたりしているのが、30メートル先からでもくっきりと見えるぐらいひどい。
「こりゃ再加工行きだな…直接組み立てるのに使えるのは無いぜ」
「マシなのはコイツだけか…」
唯一まともなのは最後に解体したあの一機だけ。
だがあれも老朽化で損害は酷く、骨組みだけが無事な状態だ。
この様子だと彼等が持参した材料でやっと不知火改が出来るという酷さだろう。
これでは我々だけ大きな収穫を得て彼等に対して割に合わないな…
「すまないな…等価交換で技術を貰ったのに肝心な機体がこんな状態で…」
「まぁ、廃棄寸前の機体だから覚悟はしてたさ。だがあの不知火を今使用して無事かどうかまだ分からんからなぁ。中佐、アレをここの整備班に確認させといてくれ」
「わかった。お詫びとしてなんだが、突撃砲と長刀を四つずつ君達に譲るよ」
「おお、大盤振る舞いだね~」
何を言うか、大盤振る舞いなのは君達じゃないか。
ここの租借料として私にくれた撃震改とOSのデータだけで、一体どれだけの人類が救われると思っているんだね?
「丁度いい、ついでに横浜から不知火改と撃震改を持って来て貰うか」
「今から取りに行くのか? 機体のままでの移動は流石にマズいぞ?」
「そこはまりもちゃんに持って来て貰おうぜ。丁度試作武装もあるんだしよ」
【まりもちゃん】?
「神宮司軍曹ですよ、俺達はまりもちゃんと呼んでます」
「呼ぶ度に噛み付かれるがな、カカカカ」
ほう、彼等がここまで気軽に呼ぶ人物がいるとは…神宮司軍曹か。
【神宮司 まりも】軍曹…元帝国軍中尉で、今は横浜基地にて訓練兵の教官になっている女史。
帝国でも優秀で腕の立つ人物だと嘗て名を上げた女史だったが、韓国への大陸派遣軍として参戦していた当時、自分の指揮により、自分の部隊を壊滅させてしまった。
それにより、戦場から教官へと自ら異動したと聞いたが…二人が気軽に彼女の下の名を呼ぶという事は、昔の傷は徐々に癒えて来ているのだろうか?
「彼女…神宮司軍曹は今、どうしている?」
「ん? 知り合いなのか?」
「いや、元々彼女は帝国軍の教官でね。それはもう鬼軍曹だったと教官内からも言われていたんだ」
「…まりもちゃんが聞いたら体育座りしてイジケそうですね」
「ははは、まぁ確かにスパルタではあるが、今は俺達も一緒に訓練兵に教導していて彼女も一緒に訓練してるぜ」
「一緒に…ですか?」
「ああ、彼女の教導は戦場を…死を真近で経験した者だからこその、最後まで諦めないで生きて欲しいという教導『根性』だ。だが、彼女の教導では根性はついても肝心な
「それにまりもちゃん自身もまだまだ成長の余地はあります。俺達は直接手を出してませんが、俺達の教導を見て自主トレとかしてますよ」
そうか…彼女も少しずつ変わっていったのか。
私も直接関わりは無いが、篁…今は亡き唯衣ちゃんの父を見殺しにした想いが有る故…おこがましいが彼女を自分と重ねて心配していた。
私と違って彼女はまだ二十台。
生急ぐには、まだまだ早過ぎる。
「話はいきなり変わって悪いが、この感じだともう一度BETAがやって来るな。それも数日以内に…」
「「な!?」」
何故そんな事が分かる!?
いや、待て…あの時、二人は揃って同じ方向を突然向いた。
そして直ぐに【コード911】が発令されたということは、BETAが来るのが本当に分かるのか?
「BETAが上陸する事が分かるのか?」
「俺達は【コード911】が発令される前に何か不快なモノが近付いて来ていたのを感じました…あれがBETAの反応です」
「あくまでも俺達の
…【コード911】の発令前に二人が異変を感じ取ったのを私は目の前で見たんだ。
内容が内容なだけに、信じないと言う方が無理な話だろう。
「中尉、何時でもスクランブル出来る様に今すぐ指示を出してくれ。私の命令だとな」
「中佐?」
「私はその決定的瞬間を直に見ているんだ。直ぐに頼む」
「はっ!」
中尉は壁に付けられている端末を使って指示を出しに行ってくれた。
片方だけじゃなく、二人が言うんだ。
これを軽く聞き流すなんて恐ろしい事、出来るわけ無いじゃないか。
「この事は、他には誰に?」
「香月副司令には既に伝えてます。国連から帝国に警告しても突っぱねるのは目に見えているので、演習という名目で帝国軍と斯衛軍には短期で総合演習を行って貰う様にお願いしました」
そうか…確かに演習という名目なら断る必要もないが、斯衛軍が乗ってくるか?
まぁ、あの横浜の魔女と謳われる香月副司令ならば、何らかの工作をするだろう。
果たしてどんな工作かは想像出来ないがな。
「さて、長い休憩を取っちまったな。今の時間は14:00か…艸場」
「え、は、はい!」
指示を出してきた中尉が丁度戻って来たのを確認して黒崎くんが中尉の名を呼んだ。
階級で呼ばずに名を呼ぶか…艸場中尉の反応が遅れたのは、階級を呼ばれなかった事に驚いたのだろう。
軍に身を寄せる以上、相手を階級で呼ぶのが必然なんだが、そこが彼らしいな。
「医務室に連れて行ってくれ。【飛鷹 葵】を起こそう」
「出来るのか!?」
「ああ、解体中に艸場から聞いた症状はあの時と同じ状況を再現すれば目を覚ますって話があるのを思い出してな」
なるほど…
「巌谷中佐も一緒に来るか?」
「ああ、行かせて貰うよ。艸場中尉、案内を」
「は、はい! こちらです!」
―――医務室―――
さて、医務室の個室にやって来たんだが…飛鷹中尉は例の発作が有る為、個室で入院する事になっている。
そして現在、彼女は足首、腰、手首をベッドにベルトで固定されている。
今は比較的発作が少なくなったが、発作した時は今までの患者よりも手に負えないと軍医が言っていたから、今はベルトで固定する様になった。
黒崎君が彼女を起こすからベルトを外す様に言った時、軍医は猛反発したが、私が説得してベッドを
その彼女は今も顔色が悪く、時々頭を左右に振っている…本当に、彼女を目覚めさせる事が出来るのだろうか?
賢治side
この子だ、俺があの時ギリギリで間に合った衛士は…
PTSDに掛かったいるのは確実と予想してたが、まさか一週間も寝たきりで魘され続けているとは思わなかった…
「う、うぅ…」
「葵!―――「抑えなくていい」―――中佐ッ?」
「大丈夫だ、俺に任せろ」
呻き出したか…この状態が一週間も延々と続いているんだ。
魘されてる本人が一番辛いさ…
こんなに汗びっしょりになって、顔も青くなって…
「うぅ…!」
…そろそろ叫び出すか。
俺に任せろとキメた手前、失敗する事は許されない…絶対に目覚めさせる。
「離れてな」
この子を助けた時は…確か、こうしたかな?
「うああぁぁぁぁぁぁ!」
とうとう手足を乱雑に振り回しながら暴れだした。
大丈夫だ、【飛鷹 葵】
今、お前を悪夢という名の
「―――吹っ飛べ、この尽くし頭が!」
―――獅子戦吼―――!
―――ゴォォォゥ!
「「「!!?」」」
獅子戦吼を放って彼女を見ると、彼女は動きを止めて目を見開いて天井を見ている…さぁ、どうだ?
「………」
目をゆっくり動かして俺を認識している…よし、第一段階クリアだ!
「おはよう、苦しい夢を見ていたな」
「葵…?」
「―――まど…か…?」
ゆっくりと頭を横に動かして艸場を見て名を呼んだ。
―――よし、成功だ!
「まどか…あたし…?」
「葵…ッ、葵ーーーッ!」
<ガバッ!>
「葵、葵、葵ぃーーーッ!」
「まどか…あたし…生きてる…生きてるの…?」
「うん、生きてる、生きてるよ! 葵! もう大丈夫よ!」
「まどか…ッ、円ーーーーッ!」
二人は、互いにキツく、もう離れないと言うくらいキツく抱擁して泣きながら喜んでいた。
…よかった、本当に…今度は
さて、二人の邪魔したら悪いから俺達は退散するとしますか。
「中佐!」
ん?
「ありがとうございます! 本当に、本当にありがとうございます!!」
「ああ、よかったな。二人とも」
「はいッ!!」
俺達は二人を残して病室から出た。
巌谷side
何と言えばいいのか…本当に、彼女を目覚めさせるとは…
それに、あの獅子を彷彿させるアレは一体何だ?
いきなりあんなモノを繰り出したから思わず飛び跳ねてしまった。
聞こうにも肝心な本人はあの後、時間だからと言って横浜基地に一足先に帰ってしまった。
車を用意させようとしたが、彼は走って帰ると言い出し、正門まで送ったが…本当に走って帰って行った。
あの時の様に直ぐに後姿が見えなくなる速さで…一度彼を解剖してもいいかね?
彼の細胞や身体構造を解析したら人類はもの凄く進化すると思うんだが…無理か。
ところで白銀君、彼がやったアレは一体何だか分かるかい?
「アレは【獅子戦吼】という技で、自分の中の闘気を形にして繰り出す技です。形成された闘気が獅子を連想させるので【獅子戦吼】と呼ばれてます。これもかなりの修練を積めば出来る様になります」
何と、アレも訓練すれば出来るとは…
闘気自体私は見た事も感じた事も無いが、アレは誰でも会得出来るのか?
「無理ですね…これは濃密な戦闘経験を積んでから更に修行をして会得出来る技ですし、相性もあります。失礼な話、巌谷中佐の場合は年齢も有って今から獅子戦吼より下の技を習っても会得することは難しいです」
「そ、そうか…因みにその、獅子戦吼より下は何なんだ?」
「そうですね…実際に見せましょう」
そう言って白銀君は解体した不知火の骨組みを一つだけ持ち運び、徐に床に突き刺した。
…もはや彼に重量について聞くことはすまい。
「獅子戦吼を会得するまでにまず、二つ会得する必要がある技があります」
ほう、二つもあるのか…
「先ずは…【掌底破】!」
―――ドン!
おお…何か重い振動音がしたが…骨組みが振動しただけで見た目は変わっていないぞ?
「【掌底破】…これは前進して止まるタイミングで掌から相手の内側に衝撃を与える技です。だから外見は若干の変化しかありません。しかしこれを食らった相手は言葉にならない痛みを受けます」
な、なるほど…確かに白銀君が放った箇所を見ると、若干痕があるし、今も軋む音が鳴ってるな。
「そして次が…【双撞掌底破】!」
―――ドンッドンッ!
…何、掌底破を左右から前方に放っただけなのに骨組みが折れた!?
「【双撞掌底破】は、ご覧の通り掌底破を左から右へと、交互に前方に繰り出す技ですが…実は掌底破を放った後は隙があるんです」
ふむ、確かに掌底破を繰り出す体勢は直ぐには動けない形に見えたな。
「ですが今繰り出した【双撞掌底破】は、掌底破の勢いを利用して反対側からもう一度繰り出し、本体にダメージを与えて吹き飛ばす技なので、この骨組みも物理的にくの字に折れました。これを放てば自分の体重の+10kgは確実に吹っ飛びます」
な、なるほど…ならば、黒崎君が放ったあの、【獅子戦吼】は…
「勿論人間が喰らったら吹っ飛んで無事じゃ済みませんし、全力なら俺達のレベルになると原型を留める事は出来ません」
そ、そうか…ん?
あの映像を見た時、君は違うのを繰り出していた気がしたが…
「ああ、これですね―――【烈震虎砲】!」
―――ガォォっ!!
ほう、今度は虎を模した闘気か…
音からしてこちらの方が
いや、獅子戦吼ももちろん重いんだが…何かが違う。
香月副司令、貴女は彼等二人に一体、どんな過激な任務を今まで与えていたのですか?
「まぁ、任務自体は極秘なので何も教えれる事は出来ませんが…過酷だったということは言えます」
まぁ、そうなんだが…うむ、やめておこう。
これ以上の詮索は底なし沼に陥りそうだ。
「賢明な判断です。さて―――」
ん? いきなりハンガーの入り口に向いたが、何かあるのか?
「―――すいません、ちょっと用事が出来ましたので席を外しますね」
ん?
<ギィーー>
行ってしまった…どうかしたのか?
黒崎君も帰ってしまったからこれ以上機体を触ることは出来ないし…
ふむ…仕方ない、飛鷹中尉に割り当てる仕事の準備をしよう。
いや、その前に唯衣ちゃんに撃震改の事を教えようか?
ふふふ、唯衣ちゃんの呆然とした表情が目に浮かぶよ。
武side
巌谷中佐をハンガーに待たせて裏にやって来た。
周囲には他に気配は無いし、監視カメラもないからここでいいか。
「そろそろ出てきたらどうですか?」
<ガサッ>
「―――気付いていたか…」
「そりゃあれだけガン見してれば分かりますよ」
木影から現れたのは、緑色の長い髪にメガネを掛けた赤い斯衛服を来た女性。
ずーっと俺だけを見てたからな。
俺
こんなに早く接触して来るとは思わなかったけど、用件はアレかな。
本人達からは護衛対象である冥夜に一番近くで接してるし。
「態々俺が一人になるまで待つなんて、何の様ですか【月詠 真耶】大尉」
「私の事を知っているのか?」
「ええ、横浜基地に派遣されてる斯衛の赤服の、従姉妹のもう一人の方ですよね?」
「ッ!」
この人は『前』の世界でチラっとあの時しか会ってないが、真那さんの従姉妹の…どっちかだったな。
技術廠に着いてから気配がしていたから探ってみたら、まさかあの時の殿下の付人が見張ってるとは思わなかった。
何でこんな早いうちにマークして…ああ、先週ここで大暴れしたなそういや。
それが原因か。
「斯衛が敵対心丸出しの相手、国連軍に斯衛の赤と白を派遣するってことは、何か訳有りなんでしょう?」
「………」
「率直に用件を聞きましょう。巌谷中佐を待たせていますからね」
大方、大きなアクションを起こしている賢治と違って俺はそんなに動いてないから、俺から全部聞き出そうと思ってたんだろう。
でも残念、俺はこう言う事が来るの分かっているから色々と学んで来たんだ。
「ならば要望通り率直に聞こう―――死人が何故、ここに居る?」
「………」
やっぱりな。
『最初』と『前』に武御雷が搬入された時、真那さんと3バカが俺が冥夜の近付くにいる事に喰って掛かって来たし…周りに他の人間も居たのにあんな事言って来て本当、参ったけど。
「先のBETA上陸の際に貴様等の戦いを見た後に身元を確認した。黒崎の方はともかく、貴様は城内省では【MIA】…死亡扱いになっていた」
「でも俺はここに居ますよ? 足もちゃんと生えてますし」
「更に斯衛のあらゆる権限を駆使して国連軍のデータベースを見れば、貴様は生存となっていた。それも、極最近書き換えられた形跡もあった」
「………」
シチュエーションと人が違うだけで内容は『前』とほぼ同じか…
賢治はともかくって、どういうことだ?
「どういう意味か、答えて貰おうか…」
「…第四計画に必要な処置だと言って通らないですか?」
「通らんな」
と言って銃を右手で構えて俺に向けて来た。
「物騒な事しますね、穏便に事を進めましょうよ?」
「貴様が話せば全て終わる。わざわざ国連のデータベースに自身をMIAにした事と、あの力の秘密をな」
何て理不尽な…
力の秘密と言っても、あの世界でゲッター線を得て修行して得た力だからどう説明したら…
「本来なら機密事項で詮索は出来ないが、私は斯衛の赤として貴様を調べる様、命令を受けているのだ。帝国の為にもな」
「差し詰め、勅命を出したのは殿下ですか?」
「!?」
まぁ分かりきってた事だけど、タイミングが早過ぎだ…このままじゃ俺の知らない展開で事が進んでしまう。
ゲッター線が存在しない以上、因果が生じて今度は誰が被害を被るかわからない。
「殿下と瓜二つの人物が横浜基地に、そして派遣される斯衛、この条件があれば直ぐにあいつの正体はわかります。そして、突然近づいた俺の調査も…」
大尉の目が更につり上がってきた…
しかも殺気も漏れ出してるし…はぁ。
「そんな物向けられても答えられないモノは答えられませんよ。それに、相手の力量を考えてから行動しましょうよ」
「………!!!」
斯衛の順番は上から紫、青、赤、山吹、白、黒。
赤レベルとなれば殿下の側近になる位に居る人間だ。
その人間が冷静さを失くすのは不味い。
斯衛の赤が国連の中佐に銃を向けてる何て誰かが目撃しただけで軍事問題に発展してしまう。
まぁ、誰も来ないところを選んで来たんだけど、何とか頭を冷やさせないと…あれ?
俺、今なんて言った?
何かものすんごい爆弾を投下した気が…
「減らず口を……!!」
いっけね、これじゃ火に油注いだだけじゃねぇか!
しかも大尉がワナワナと肩を震わせてるし!
ええい、ままよ!
「叩くなぁぁぁ!!」
「―――駄目ですよ」
<ブワァッ!>
「なッ!?」
「言ったでしょ? 相手の力量を考えて行動しましょうと」
俺はその場から瞬時に月詠大尉の目の前に移動し、両手首を右手で掴んで真上に向けさせた。
爆弾発言してしまったからにはこのスタンスで行くしかない…くそぅ、こんなスタンスは賢治の専売特許だってのに…
「ぐッ、貴様いつの間に!? ―――ッ!?」
月詠大尉は俺の拘束から逃れようともがくが、掴まれてる両腕はビクともしない。
当たり前だ、俺達はインベーダーと生身でも戦ってきたんだ。
対抗出来る様に身体も鍛えてるんだし、人間の女に劣りなんで絶対しない。
…純夏を除いて。
「は、離せ貴様!」
俺にローキックを繰り出しているけどビクともしないことに更に驚いてる。
俺にはこれぐらいじゃ効かないけど、大尉の蹴りは威力は結構高い。
殿下の側近に付く為に武術や暗殺術等を会得した為か知らないけど、モーションがほとんど起こせないこの状況で一般衛士が蹴られたら直ぐに崩れるぐらい強い威力は出てる。
2、3発蹴って効かないと判断した大尉は俺を必死で睨みつけてる…金的を蹴らなかったのは斯衛の誇りとしてなんだろう、大変ありがたい。
うん、金的は鍛えれないから一般人と変わりないからな、蹴られたら悶絶必須だ。
前にハンガーで渓が俺に近付いてる時に足を滑らせてサマーソルトを目の前にいた俺に繰り出した際、運悪く俺の金的にクリティカルヒットした…あの痛みは半端ない。
脂汗がこれでもかってぐらい流れ出てたし、かなりの時間股間を抑えて悶絶していた。
その決定的瞬間を見た賢治がゲラゲラと腹を抱えて延々と爆笑していた事に俺は怒りと憎しみを有りったけ込めた視線を送ったもんだ…
くそぉ…あの時の事を思い出すと今でも怒りが沸々と湧き上がってくるぜ…ッ
<ギリ、ギリギリ―――>
「ッ、ふ…ぐっあう…!」
「あ、やべ!?」
思い出した憤りに無意識に手に力が入っていた様だった。
慌ててすぐに手を離したけど…ああ、こんなに赤く握った跡が出来ちまった…
こんなことするつもりはなかったのに…賢治のせいだ、そうしよう、うん。
「ああ~…すいません」
「どれだけの馬鹿力だ…!」
「そりゃBETAと生身で戦えるんですから、生半可な力じゃないですよ」
大尉は手首同士を当てながら数歩下がった。
大尉にこんな事するつもりは無かったんだけどなぁ…でも、力の差をここまで見せたら俺の異常さを殿下に告げて無闇に突っかかってきたりはしないだろう。
「それと大尉、もし俺が貴女が思っている様な敵だったら…さっきのでもう死んでますよ?」
「くっ!」
俺はわざとらしく左手を上げて拳を作って大尉に見せながら言った。
「任務に忠実なのは構いませんけど、周りが見えなくなってしまっては…自分の命が危ないですよ?」
「くっ…化け物め…!」
「化け物で結構です。これに懲りたらもうこんな物騒なことはやめて下さいね。もう片方の方にもそう伝えてください。それでは」
大尉は顔を顰めながら悪態をついた。
…まぁ、今の俺は人間ってカテゴリーから外れてるけどさ。
俺は忠告だけしてハンガーに戻った。
霞side
朝早くから、武さん達は帝国技術廠に行っちゃいました。
私は賢治さんから頼まれた御剣さん達の個別のOSを資料と照らし合わせながら作っています。
私の仕事場は…純夏さんの隣です。
武さんがただいまを純夏さんに言ってからリーディングをすると、『武ちゃんに会いたい』と言う声が聞こえなくなりました。
とても静かです。
ザワつきも無く、とても穏やかです…目覚めているのでしょうか?
いいえ、純夏さんはとても優しくて、明るくて、元気な人…目覚めているなら何か答えてくれる筈です。
ふと端末の隅を見ると、そろそろ武さん達が帰ってくる時間でした。
武さんを迎える為に私は博士の部屋で待ちます…武さん、まだでしょうか?
少しだけソファーで待っていると、誰かが来る音がして来ました。
博士はまだ神宮司軍曹達と一緒に上に居る時間…他に来れるとすれば、賢治さんと武さん。
武さん達が帰ってきました。
<プシューッ>
「おい~っす…あれ、霞ちゃんだけ?」
…帰ってきたのは、賢治さんだけ…武さんは…?
賢治side
さぁて、俺一人だけってことでちょっと力を開放して20分弱掛けて横浜基地に無事帰還っと。
もうちょっと掛かるかと思ったけど、案外離れてないなぁ、帝国技術廠と横浜基地って。
いっそのこと二つを結ぶ空路を儲けるか?
ま、それはおいおい考えるとして、今回の件について博士の下に向かいますかなぁ。
博士の執務室がある地下19階まで行くエレベーターに乗って、カードを通して地下19階を押すっと。
面倒だなぁ、他に地下19階まで行く方法ないかな~…これも相談してみよ。
<プシューッ>
「おい~っす…あれ、霞ちゃんだけ?」
博士の執務室に入ると、霞ちゃんが目をキラキラさせて立っていた。
しかし、俺が執務室に入ると同時に霞ちゃんのテンションが急激に下がって行ってる様な…
あれ、何か…瞳の色がくすんで見えるよ?
「武さんが…いません…」
「ああ、武ならまだ帝国技術廠にいるよ。俺だけ一足先に帰って来た」
あれ、何か顔全体に影が差してきてるぞ…?
<ピピピッ、ガチャン>
―――ロックッ?
霞ちゃん、何でドアをロックしたんだいッ?
「逃がさない…為です…」
…え、逃がさない為?
「武さンが…イなイ…」
お、おい霞ちゃん…? ちょっと待て、待て、待ってくれ!
一体何処から棘棍棒と鎌なんて持ちだしたんだッ!?
雰囲気がもの凄く怖いって、ヒタヒタ歩く様がマジで怖いって霞ちゃん!!?
<ピピッ、プー>
『あら、ロック?』
『『え?』』
『副司令、パスワード変えて更新していないということは?』
『そんな訳ないじゃない、社ーッ、開けなさーい!』
この声は、博士とまりもちゃんと伊隅大尉にピアティフ中尉!
四人ともいいところに!
「霞ちゃん、ほら、博士達が来たよ? ドアを開けないとさ? ね?」
「何で…タケルさンはかえっテきてナイんでスカ?」
この子全く聞いてねぇ、てかトランス状態!?
く、くそッ、ドアが開かねぇ!
<ドンドンドンッ!>
「博士ーッ、助けてくれー!!」
『は、黒崎? アンタ何時帰ってきたのよ? それよりもロック開けなさい! ここはアタシの部屋よ!』
「俺じゃ開けれねぇんだ! 霞ちゃんが!」
『は、社が?』
『何か、声が切羽詰まってませんか?』
くそ、こうなったら獅子戦吼で壁に…ひぃ、霞ちゃんがすぐそこに!?
「か、霞ちゃん。落ち着こう、全力で落ち着こう! 武は『ゴス』ぶッ! だ、だから『ドゴ』げべッ! か、かす『ズバ』がふッ!」
「なンで…一人だケ先ニ…タケルサン…おイて…」
げっふぅぅッ! 何だこの攻撃力はッ?
突撃級の突進並の攻撃力はあるぞ!?
くそ、反撃しようにも相手が霞ちゃんだから出来ない!
『黒崎!?』
『ちょっと、何か鈍器で殴られる音が聞こえたわよ!?』
『そんな、相手は黒崎中佐ですよ!?』
そんな悠長なこと言ってないで助けてくれッ!
「か、かす―――――」
「―――一辺、死んで見る?」
アッーーーーーーーー!!
夕呼side
「「「うひぃぃーーーーーーー!?」」」
「黒崎、どうしたのよ黒崎ーーー!?」
「ウギャァァァーーーーー!!」
『ドギュ、グチュ、ザシュ、ザシュ、ゴリゴリ』
「こんの!」
<チュィーーーーーーンッ!!>
「ちぃ、マスターコードが効かないしチェーンソーも全く歯が立たない! こらそこの三人! 仲良く抱きついてないでさっさと開けるの手伝いなさい!」
「は、はひぃー! 私斧取って来ます!!」
「ドリル、ドリルはどこにあるのーーーー!?」
や、社にこんな禁断症状があっただなんて…! 白銀!
そうだわ、社は白銀にベッタリだから白銀が来れば!
あの二人と直ぐに連絡が取れるように網膜インカムを持たせておいてよかったわ!
武side
<ギィーー>
「おやおかえり、何かあったのかい?」
「すみません、時間が掛かってしまって。ちょっと野暮用がありましたけど終わらせてきました」
「そうか、なら―――「ピピピッ」―?」
「あ、連絡だ。すいませんちょっと待ってください」
このタイミングで連絡って、秘匿回線…先生から?
「もしもし?――『白銀、アンタ今すぐ帰ってきなさい!』――ぐぅぅッ、え? いきなり何ですか先生?」
『え? じゃない今すぐ帰ってきなさい!!』
「ちょ、先生?」
呼び出しに出ていきなり耳にダイレクトな音量で帰還命令かよ先生。
でも何か先生にしては珍しく切羽詰まってるな。
『早く帰ってこないと社が『ギャァァーーーーーー!』 黒崎ィっ!?』
おい、今の断末魔って…うそだろ…賢治が悲鳴を?
それより今霞って言ったよなっ?
一体何がどうなってんだよ!?
『か、霞ちゃんかんべ『グキ』うぎぃぃゃぁぁーーー!』
な、な…なななななな!?
賢治がマジで殺されかけてる!?
しかも相手は霞か!!?
『中佐ーーーーー!!』
『くそ、何だこのドアは!? ドリルで傷一つ付かない!?『アァァァァーーーーーーーーー!』ヒィィィッ!?』
『白銀、今すぐ帰ってきなさい! 社が暴走して黒崎が殺されるわよ!!』
か、霞が暴走…だと…!?
「か、かかかかか…霞ィィーーーーーーーーーーー!!」
「な、おいそっちは―――!?」
<ドゴォン!>
「うおぉッ!?」
巌谷中佐が何か言ってるけど俺の頭は霞だけでいっぱいだった。
俺は壁をぶち破ってそのまま目にも止まらない速さで横浜基地へ駆けていった。
「…彼もまた、黒崎君と同様人間というカテゴリーに当て嵌めてはいけないな。しかし…う~む」
<チラッ>
「…壁の修理代は横浜に請求してもいいんだろうか?」
余談だが、壁は後日、復活した黒崎と白銀が突貫で修理した。
―――場所は変わって横浜基地、10分後
「先生ぇぇぇぇ!」
「白銀!」
「「「白銀中佐ぁ!!」」」
全速力で基地に戻ってエレベーターのドアをこじ開け、そのまま地下19階まで落ちてまたドアをこじ開けて執務室に着いた。
四人はそれぞれチェーンソーにドリルに斧等の工具等を使ってドアと壁を攻撃しているけど効果は無いみたいだ。
「霞と賢治は!?」
「中よ! さっきからコード弄って開けようとしても開かないのよ! 黒崎の叫び声もついさっき止んだし!」
声が止んた!?
まさかと思い俺はドアに耳を当てて中の様子を伺うと…
『ゴリ、ゴリ、ゴリ、ゴリ』
何をすりつぶしてるんだ何を!?
「くそ、壁をぶっ壊す! 烈震虎咆ぉ!!」
―――ガォォォ!―――
「霞!」
「…武さん?」
中から聞こえた音からしてドアの真ん前だったから少し離れたところの壁を全力の烈震虎砲でぶっ壊した。
二人の安否を確認しようと中に入ってドアの方を見ると、霞が返り血を大量に浴びて血のついた棘棍棒と鎌を持って立っていた。
「か、霞…? それは…」
「武さん…ッ」
<ギュッ>
「武さん、武さん、武さん、武さん、武さん―――」
霞は鎌と棍棒を放り投げて俺に抱きついて壊れたテープの様に泣きながら俺を呼ぶ…なにこれちょっと怖い…
「白銀! 黒崎は!?」
「ってそうだ! 賢治―――」
先生に言われて存在を忘れていたが賢治を探す。
ふと僅かに気配がする方に目を向けると、形容の出来ない生ゴミがドアの真ん前に広がっていた。
「―――って賢治ィィィィィィィ!?」
「「「いやーーーーーーーー!?」」」
不味い、賢治の息がドンドン小さくなっていく!?
ちょっと、三人して両手を挙げて悲鳴を上げてないで早く治療してくれ!!
「う、う~~ん……」
「ピアティフ! 今すぐ医療班を呼びなさい! って気絶してる!? あーもーまりも!!」
「は、はいぃぃぃ直ぐにぃぃぃーーーーーーーー!!」
「中佐! しっかりして下さい黒崎中佐ーーー!」
あまりの惨劇に見慣れていないピアティフ中尉は気絶してしまった。
その後、まりもちゃんが全速力で連れてきた医療班と応急処置を施していた伊隅大尉と夕呼先生によって賢治は何とか一命を取り留めた。
医療班が来る前にこの惨劇を繰り広げた霞と気絶したピアティフ中尉を連れて一緒に隣の部屋に隠れた。
いかがでしたでしょうか?
最後はネタのようなものですが、霞の声でぶっちゃけ地獄少女を連想したのはユニコーンだけじゃないはずです。
ちなみにですが、霞の暴走は人間限定で起こります。
感想、アドバイス等をお待ちしております。