東方八友戯 ~ Tag force.   作:六壁坂

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Turn:00 香霖堂にて

 

 

 

 

「ん、何だ?これ。」

 

 

ここは香霖堂。

 

森近霖之助が経営し、魔法の森の入り口に位置する道具屋である。

 

日用品はもちろん、魔法の道具、冥界の道具から外の道具まで、主人が拾った物なら何でも揃う。

が、店内の商品は埃をかぶっているものもあり、客足が乏しい。

滅多な事が無い限りは営業中だが、お彼方には主人が頻繁に無縁塚へと出掛けるため、休業中が多くなる。

 

 

しかし今日がまさにその『秋分の日 数日前』――彼岸の時期であり、当然香霖堂は休業しているはずだが、一人の少女が勝手に侵入し商品を物色していた。

 

 

黒いとんがり帽子に、黒白い服、左手で持つ箒を肩に掛け、右手には何かが殴り書きされた紙切れを持っている。

 

言わずと知れた普通の魔法使い――霧雨魔理沙その人である。

 

何かいい魔法道具はないかと、客として(ほぼ毎回ツケ、もしくは鉄くずと交換だが)訪れた彼女だったが、生憎店主はいないため、置手紙をしようというのだろう。

 

だが、その魔法道具に向けていた関心は今、机の上で大量に並べられた小さな袋に集中していた。

 

ハンドサイズのその袋は光沢を帯びており、左上には値段表記と思しき『旧:1銭5厘 現:300円』の文字、正面には西洋の白い龍らしきものが1体、でかでかと描かれている。

そのイラストの下部には『DuelMonsters』と何の書体か分からないもので書かれており、中には何か薄い板のようなものが入っているようだ。

 

 

(何だか外来人が好きそうな外装だな、外来の物か?)

(いや、“外”ではもう『銭』なんて無かった筈…。何より幻想入りしたにしては新品っぽいな。)

 

 

そう思いつつ、もう少しだけ詳しく見ようと、魔理沙は被っている帽子を近くのコートハンガーに掛け、1袋手に取る。

 

そもそもこれは一体何に使うものだろうか。

そう魔理沙が考えている矢先に、袋の左上に赤い印のようなものがある事に気付いた。

 

それは彼女にとって、とっても目に付く単語がロゴマークっぽく表記されたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(MORIYA)

 

 

 

 

 

守矢である。

 

 

 

「はぁ…またあいつらか。」

 

 

『守矢神社』。妖怪の山の頂付近に近年越してきた、ご立派な神社の事である。

 

風土記によれば、幻想郷は精神中心文明を築き上げていて、いわゆる『物より心の豊かさ』らしいのだが、その神社に住む神様御一行はやたら近代化押しなのだ。

 

核融合の力で幻想郷に産業革命を起こそうとしたり、河童を使って山にダムを建設しようとしたりしている。

 

もちろんそれ自体が悪い事ではない。が、残念ながら手段が手段なので、中には異変と騒がれたほどの出来事まであるのだ。まさに幻想郷のトラブルメーカーである。(幻想郷にはトラブル大歓迎という者が多いのだが。)

 

その行動の真の目的には信仰集めが密接に関わっている。『信仰は儚き人間の為に』……とは、よく言ったものである。

 

 

そんな守矢さんが用途不明の物を売り捌いているわけだ。

袋の外装は大方、山の印刷所で刷ったのだろうが――まあ何にせよ、これが怪しくないはずがない。

 

目の前のコレのせいで何かが起こる。そう魔理沙は直感していた。

 

 

「まったく、今度は何を仕出か、す?」

 

 

あの三人の顔を浮かべ、魔理沙が呆れて言葉を述べようとした時、今度は右下にも小さく何かが書かれていることに気づき――

 

 

 

 

「うわ……。」

 

「何かご不満でも?」

 

「っ!……何だ紫か。――いや、ちょうどいい。」

 

「あら、何だとはご挨拶ね。」

 

 

突然空間がかぱっと割れたかと思うと、音もなくスキマ妖怪である八雲紫が降り立った。

白と紫主体で沢地萃の模様が描かれた中国風の服を来ており、いつものナイトキャップ風の帽子に、今日は金髪を束ねているが、髪型がどう変わろうと故障臭さは健在である。

 

そんな彼女にも構わず、魔理沙は早速とばかりに自分の持っている小袋をビシィとつきつける。

 

 

「そんなことより、コレ。お前が香霖に渡して売るように言ったんだろ?」

 

「?」

 

 

これ以上ないくらいのほほえみを浮かべつつ、首をかしげる紫。

元々問い詰めるような雰囲気だった魔理沙は、さらにムッとした顔を浮かべた。

 

 

「だから、どういうつもりだこんなの売って。守矢の連中もそうだが、それにお前が関わっているとなると余計に怪しいぜ。」

 

「何を可笑しな事を。そこに書かれているのは『MORIYA』のみでしょう?私に聞くのは筋違いではなくて?」

 

「ほぉ~ん……筋違い、ねぇ。可笑しなこと言ってるのはそっちじゃないか?」

 

そういって彼女は、袋の右下を指差す。

そう、そこには非常に小さく、『発売元』が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発売元:モリヤーヤクモゲームス

 

 

 

 

八雲である。

 

 

 

 

「あら、早速ばれてしまったわね。もう少し小さく薄く表記すべきだったかしら。」

 

「隠す気があるのやら無いのやら……始めからモリヤってだけ書いてりゃいいだろ。」

 

「隠すだなんて滅相も。ただ、人里に販売する場合に『八雲』が販売促進の阻害になると思っただけですわ。」

 

「ははっ、自覚はあるんだな。」

 

 

 

そういって苦笑いの魔理沙。依然として袋は、笑みを浮かべる紫につきつけられたままである。

 

紫の事だ。少なくとも幻想郷の害になる物を売ったりはしないだろう。――そう考えて腕を下ろす魔理沙だったが、今更ながら一番重要な事を聞いていないことに気づいた。

 

 

 

「で、これ一体何なんだ?ゲームっていうからには遊ぶものなんだろ、一応。」

 

「“これ”とか“袋”とかじゃなくて“パック”と言うのよ。気になるなら開封してみなさい。」

 

「ふーん、パックか。どれどれ中身は…」

 

 

 

魔理沙はパックとやらを開けるべく、店内に商品として置かれていた鋏をぶんどり、ジョキジョキと手早く封を開け始めた。

 

一応このパックは香霖堂の商品のはずだが、やっぱり彼女に躊躇いの様子は無いようである。

 

中には5つのカードが入っていた。表の面の中央よりやや上あたりにはイラストが描かれており、カードによってそれぞれ異なる画風である。

そのイラストを囲むようにして枠があり、枠はそれぞれ赤緑黄と個性があるが、裏面は共通して焦げ茶の渦巻きのデザインである。そして、魔理沙はそれらをもの珍しそうに見つめた後、カードの名らしきものを呟く。

 

 

「《ヂェミナイ・エルフ》、《ブロック・ダグアウト》、《好敵手の……あー、確かこういうの、トレーディングカードゲームとか何とか。」

 

「そうそう、外界の物で『デュエルモンスターズ』というのよ。」

 

「ほほう、パックは自家製なのに中身は外の物なんだな。しっかし、根本が幻想入り頼みだと成功しないんじゃないか?商売的に。」

 

「外の世界で流行…いえ、『常識』と言ったほうがいいのかしら。それ程の規模を持つトレーディングカードですからね。作るよりこっちに入って来たものを再利用した方が早いの。」

 

「常識だと?どんなに流通しててもそれは言い過ぎだと思うぜ。」

 

「幻想郷でも弾幕ごっこが普及しているでしょう?こちらの非常識はあちらの常識よ。」

 

「なんか信用できないなぁ。…まぁそう言われると、外を見た事のない私は反論しようもないが。」

 

「八坂の神の方が幻想入りしていたカードを何かに使いたいと言っていたから、私はそれに助力したまでです。」

 

 

一番乗り気で助力していたのは一部の天狗なのですけれど。と言いながら、紫も机の袋を一つ手に取り、眼を細くして眺め始める。

 

ここでいう『一部の天狗』とは、いわゆる報道部隊の天狗の事だ。

 

パックの外装の印刷をする場所を設けてくれたところを見るに、相当な気の入れようである。

 

協力の目的はいわずもがな、ネタ作りである。最近は異変も起こらないので枯渇していたらしい。

守矢神社の神徳の成せる業でもあるのかもしれないが。

 

 

「へぇ、神奈子がねぇ。まぁ、どうせ信仰集めの一環なんだろ。」

 

「よく御存じで。何でも微弱ながら徳が施されているそうよ。」

 

「要するに『カードゲームもできるお守り』って奴か。さすが神様、発想が違うぜ。」

 

 

発言に反して、魔理沙の顔はどこからどう見ても褒めていない。

宗教に属さない彼女から見れば、遊びで使うものに徳を混ぜて売るなど、さぞかし珍妙に見えたのだろう。

 

いや、これはどんな宗教に入門していようといなかろうと、珍しい事なのかもしれない。

 

 

 

「ところで、早めに灯油が手に入ったから持って来たのだけれど。どうやら彼は居ないようね。」

 

「あー、この時期になると香霖は出掛けるから、今週いっぱいは休業続きかもな。」

 

「ああ、そういえばそうだったわね。そして、貴方はそれを狙ってここに来た、と。」

 

「おっと、はてさて何のことやら。」

 

「ふふ、相も変わらずですこと。」

 

 

そう笑って紫が、閉じた扇子をゆっくり振りかざしたかと思うと、何もなかった空間に突如“隙間”が現れた。居ないのならまた後日…といったところだろう。

 

 

「ん、帰るのか?」

 

「もちろん。平和な時ほど私の暇はありません。」

 

「忙しいなら半日以上も熟睡なんてしないぜ。」

 

「あら、寝る時間が必要だから動けるうちに動くのよ?だから忙しいの。」

 

「急いでいるようには見えないが…。」

 

 

言ってる事とは裏腹にのろりのろりと隙間に入る紫。信憑性は薄そうである。

と、腰まで隙間に浸かったとき、はたと紫が振り向く。

 

 

「あぁそうそう魔理沙。机のそれ、全部とって行っても良いわよ。」

 

「は?……お前にしちゃ随分気前がいいな。やっぱり怪しいぜ。」

 

「私が怪しいのなんて今に始まった事ではないでしょう。隣に置いてある小冊子はルールブックのはずだから、そちらもご一緒に差し上げますわ。」

 

 

紫は満点の営業スマイルで扇子をひらひらとさせながら、すっぽりとスキマに飲み込まれていった。

残された魔理沙はというと、顎に手を当てて怪訝な表情を隠せずにいる。当然である。

が、しばらくして、棚の上にある大きめの手提げ鞄(商品)を分捕ると、無造作にパックを入れ始めた。

 

 

(この商売は紫にそんなにメリットがあるように見えないから、そこも怪しいと言えば怪しいんだけどな。)

(だが、くれるというなら貰ってやるまでだぜ。タダより高いものは無いしな。)

 

 

なにより最近は平和すぎる。

そんな時にあの守矢が動き出したのだ。

これは良い刺激、もしくは異変になるに違いない。

 

――そんなよく分からない思考を巡らせつつ、魔理沙は鞄にパックを入れ終わると、コートハンガーの帽子をさっと取って被る。

そして、先程から持っていてクシャクシャの紙切れを机に放ったかと思うと、店の出入り口を壊れんばかりの勢いでガァン!と開けて、箒に鞄を掛け、自分も箒に跨った。

 

この無駄のない一連の流れの中、彼女はとてもワクワクしていた。

 

 

そうと決まればモタモタしてはいられない。今頃緑茶でも飲んでるアイツに報告しよう。

――目指すは博麗神社。真昼間の晴天の元、一人の魔法使いが空を舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、夕方頃帰宅した古道具屋の店主が見たものは、開けっ放しの扉と、商品の鞄とパックがあるはずの場所に何もないのと、机の上に投げ捨てられていた紙切れであった。

 

その紙切れにはこう書かれていたという。

 

――『ツケで。 魔理沙』――

 

 

 




どうも、六壁坂です。

いかがでしたでしょうか。
三人称視点で地の文を書いてみましたが、やぁやっぱり難しいですね。
一度気になりだすと、全部が違和感満載に見えてくるんですよね。あれ?キャラちがくね?みたいな。

例によって、オーソドックスに、導入回はデュエルなしです。
次回からになるかなぁ。

とそんなわけで、これからよろしくお願いしたいです。

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