「あ、茶柱。」
良く晴れた空、心地よい風、そんな過ごしやすい日に茶柱とくれば、普通の人にとってこんなに宜しいことは無い。――とは言わないまでも、なんだか幸せな気分になってくるはずである。
「はぁ、見るの何度目かしら。」
だがこの巫女は格が違った。
博麗神社。
幻想郷の最東端、外の世界との境に位置し、同時に、幻想郷を包む『博麗大結界』を見張る巫女が代々住んでいる。これまたご立派な神社である。
現在の巫女は『博麗霊夢』。
赤いリボンで後ろ髪の一部を縛り、赤と白のコントラストで、袖と胴体部分が繋がっていない巫女服に身を包んでいる素敵な巫女である。
異変解決といえば博麗の巫女、というほど彼女の弾幕ごっこの腕前は確かであり、その敵に対する容赦の無さには定評がある。
しかし、普段何もない時はのんびりとしており、今日も今日とて縁側で正座し、幻想郷の空を眺めつつ、お茶を飲んでいるようだ。
「退屈ねぇ。」
「退屈ならこれやろうぜ!」
そんな巫女の隣に座る黒白魔法使い、魔理沙が手に握った何かを巫女に向かって突き出す。
黒茶の渦巻きが描かれた紙の束――そう、デュエルモンスターズだ。
「あんたまだ居たのね。静かだから帰ったかと思ったんだけど。」
「ルール読んでた。ついでにデッキも組んでた。だから、」
「嫌よ。」
「えらい即答だな…。」
香霖堂を文字通り飛び出した魔理沙は、この霊夢が住む博麗神社に物凄い速さで直行した。
二人は旧知の仲であるため、箒に乗った魔理沙がいきなり降りて来て――もとい降って来ても、霊夢は縁側から一歩も動かず、全く驚きの表情を見せない。
むしろ、またか、といった感じの呆れ顔であった。
そして魔理沙は縁側で暢気に座る巫女に、とりたての鞄からとりたてのデュエルモンスターズを見せて、面白そうな物を持って来た、と説明しようとしたのだが――
『ああ、それ?もしかして昨日紫が持って来たやつかなぁ。』
なんとすでにご存じだったのである。
そして巫女は、そんなことはどうでもいい、と言わんばかりに澄ました顔でお茶を啜る。
だが、魔理沙はそんな態度を気にもせず話を続けようとした。
『なら話は早いな。早速――』
『言っとくけど私、ルール分かんないわよ?』
ここで予想外の言葉。
意気揚々としていた魔理沙は思わず体のバランスを崩してしまった。
あのスキマ妖怪であっても、意味不明なものを押し付けて、さっさと帰るような事はしないはず――そう思い質問を投げかける彼女だったが、
『ゆ、紫はこれを渡すだけ渡して何も説明してないのか?』
『あ、そういえば貰った時に、何かクドクド言ってたわね。ほとんど聞き流してたけど。』
もはやホントに興味無さそうである。
それから、ルール小冊子を差し出して読むように言う魔理沙に、それをことごとく流す霊夢という光景が繰り返されて、現在に至るのであった。
「というか魔理沙、何で執拗にこれをやりたがるの?派手好きなあんたなら、『そんなことより弾幕ごっこだ』ーってなりそうなもんだけど。」
「もちろん、異変の香りがするからだぜ。」
いい加減面倒くさくなってきた霊夢は、ここぞとばかりに至極最もな言葉を放つ。
それを魔理沙は、至極堂々と、胸を張って受け答える。
そんなの当ったり前だろう?と言わんばかりの態度に、霊夢は眉を潜めざるを得ない。
「はぁ?異変?スペルカードならまだしも、魔術も何もない紙に――」
「それが一概にそうも言えないのよ、霊夢。」
「……紫…。」
「お、さっき振りだな。」
何もない空間に隙間が走り、その中からゆっくりと一人の女性が現れる。
八雲紫――この二人にとってはさほど驚くことではないらしい。
が、今の霊夢は、また面倒なのが来た、といった感じの不機嫌な声色で、出てきた人物の名前を呟いた。
一方、当の本人はというと、相変わらずどこか含みのある笑顔で魔理沙に会釈を返し、そのままの流れで霊夢へと向き直る。
「一つの蝶の羽ばたきが、大嵐の原因に繋がらないとは限らない。大きな現象を起こせるのは巨大な力だけではない。――ここ最近の異変で、少なからず心当たりがあるんじゃないかしら?」
「また遠回しな言い方を……。」
「……。」
図星か、それとも何か思い出したのか……。
魔理沙は不満を言うが、霊夢はむすっとして何も言い返さない。
ここ最近の異変とはおそらく、『下剋上の異変』のことだろう。
用途や性質こそまるで違うが、この出来事には“道具達”が少なからず関わっていた。
この異変の解決のため、霊夢と魔理沙は何かしら行動していたのだ。
つまり霊夢は魔理沙共々、道具の持つ力の強さを痛感しているハズなのである。
異変解決後の関わりもあり、実行犯が現在博麗神社に居候していて、今は奥で昼寝中である。
「で、紫はこれが魔理沙の言う通り、異変の引き金になるっていいたいの?」
「……なるかどうかは私にも分かりません。ただ――」
「ただ?」
催促する霊夢に、紫はわざともったいぶるよう、会話に間をあけた。
「そうね、簡単に言えば、幻想入りしたカードの中にイレギュラーが混じっているのよ。私はそこが少し気に掛かる。」
「いれぎゅらー?あー、魔理沙、それなんだっけ?」
「『不規則』とかそういう意味だな。本当は幻想入りするハズのないカードとかの事か?」
「いいえ、そういう言い方もできるけど、正確には『何処にも存在しないはずのカード』が幻想入りしている。…そう、外の世界にも存在しないカードが……。」
「「?」」
頭のうえにはてなマークを浮かべる二人に、紫はいつも通り不敵な態度で説明を続けた。
「カードの種類の中で、モンスターカードを知っているでしょう?」
「もちろんだぜ。『デュエルの主役』だろ?」
「たしか通常モンスター、効果モンスターとかいろいろ言ってたわね、あんたが。ほとんど忘れちゃったけど。」
真剣に取り組もうとしていた魔理沙はしっかり記憶しているが、もとから『興味無し』な霊夢は話半分のようだ。
そんな態度を見て紫は溜息を吐くが、あえて構わず説明を続ける。
「他には紫色の枠の融合モンスター、青色の枠の儀式モンスター、そして黒枠のモンスターエクシーズが存在します。」
「ん?シンクロモンスターはどうしたんだ?」
「その通り、白枠のシンクロモンスターもあるにはあるのだけれど……。実はこれがイレギュラーなのよ。」
「えっ、イレギュラーって、種類ごと!?」
そうね、複数あるの、と紫は疲れた顔をする。
魔理沙はたいそう驚いたリアクションだったが、巫女の方はすでに話に入る事をあきらめて、和菓子を食べていた。
「私の知る限りだと、外の世界にはシンクロモンスターというカードは存在しません。だというのに、幻想郷では急速にその数を増やしつつあるわ。」
「へぇ……そうだったのか。しっかしそれを聞く限りだと、幻想入りしたというより『幻想郷内で、シンクロモンスターっていう物を勝手に作っている奴が居る』…って考えたほうが良さそうだな。」
「察しが良いようで何よりですわ。…そして、シンクロモンスターを作っているのは、高技術の河童でも、印刷所をもつ天狗でも、外界から来た守矢神社でもないの。」
紫は、パックの外装を印刷するため、人里におけるネームバリューを借りるためだけに、守矢や河童、報道部隊の天狗に接触を図ったわけではなかった。
シンクロモンスターという謎のカードを作ったのは誰か、またその意図は何なのかを調べるためだったようだ。
「なるほどな。それで異変か何かが起こる前に、犯人を調べるため霊夢に頼もうとして…」
「少しでも参考になるよう、カードを渡したのだけれどね……。」
先程から話についていけず、そしてばつが悪そうにお茶を啜っている巫女に、二人の視線が集中する。その視線が刺さったのか、たまらず霊夢が発言をした。
「だって、私は貰った時に、異変に関係するって知らなかったんだもの。ただのカード遊びの話なんて、聞くになれないじゃない?」
「あはっ、だってよ。そこんところどうなんだ、紫?」
「昨日、私が本題に入ろうとしたら、『あーもう話が長い』…といわれて追い出されてしまいましたの。」
よよよ、とわざとらしい紫の演技に、はははと笑う魔理沙。霊夢は……ぐぬぬ、といったところか。
しかし新たな言い分を思いついたのか、すぐに澄ました顔になった。
「……私は異変の前に動くのは面倒なの。あんた達だって知ってるでしょ?」
「それにしたって話半分で追い返すのはどうかと思うが……。」
「……まぁ昨日はそんなに機嫌が良くなかったのよ。それにほら、弾幕ごっこと違って華が無いし!」
「霊夢がついに苦しい言い訳をしだしたぜ。……否定はしないけどな。」
たしかにやる側としても見る側としても、いろいろな術を用いた美しい弾幕は楽しいのである。
全身を動かし弾幕をよけるスリル、スペルカードでの爽快感もある。
何度やっても幻想郷の少女たちは飽きることは無く、霊夢ですら、魔理沙の誘いを受けてたまーに弾幕ごっこをするのだ。
そんな弾幕ごっこを好む彼女たちにとって、机や床の上でペチペチやる今のままのデュエルモンスターズは、さぞかし派手さや爽快さが無いように見えるのであろう。
そう、『今のまま』では……。
「あら、華が無いですって?本当にそうかしらね。」
「え?」
「なにっ?」
そう言うや否や、紫が空間をなぞったかと思うと、そこから隙間が静かに割れて、中から何かが落ちてくる。
それは、普通の眼鏡を半分に割ったようなカクカクしたフレームで、長めのモダンの先端にマイクが付いた片眼鏡――いや、片サングラスが2つと、液晶付きの円盤に細長いプレートが付いた、人の腕より二回りほど大きなサイズの謎の物体が2つで、どうやらそれらは一つずつでセットになっているようだ。
「なんだこりゃ。」
「なんというか……何ともいえない不思議な形ね…。」
それら二人の反応を見て、これ以上ないくらい楽しそうな笑顔で、八雲紫はささやくように言った。
「ふふふ、さあ、始めましょうか。――ARデュエルを。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方そのころ、幻想郷のいくつもの場所で、ささやかなプレゼントが届けられていた。
「お嬢様。少々お話が…。」
「あぁ、美鈴じゃない。昨日貸した漫画、どうだった?」
「とっても面白かったです!まさか古傷が集まってツノに……い、いやっ、今はそういう話ではなくてですねぇ!……え、えっと!」
「落ち着きなさい。それで、私に何の用?」
「あ、すみません。……それで要件なんですが、この宅配物の事で……」
「さっきから抱えてる箱の事ね。そんなのメイド妖精にでも押し付ければ?」
「いや、問題はそこではないんです。あの……」
「何よ?さっきから煮え切らないね。」
「これの差出人が……」
「うんうん。」
「八雲ゆかr「ちょっと咲夜~!これの処分お願い!」…えぇぇえ!?早い!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「幽々子様ー!…んしょっと。」
「はいはい、何?妖夢。」
「ふぅ…お届け物です。」
「段ボール2箱……いったい誰からかしら?」
「いつものご友人ですよ。」
「やっぱり紫よねぇ。いったい何を……あぁ前に言ってた『あれ』ね。」
「?幽々子様、『あれ』とはいったい……?」
「ふふ、やってみれば分かるわ。そもそも二人以上じゃないと出来ないと聞いたし。」
「……は、はあ。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うどんげ、ちょっと。」
「あ、お師匠様、何でしょう?」
「イナバたちが何か大量に持っていたのだけれど、あれは?」
「あぁ、あれですか。何かのカードのようなもので、てゐが配っているみたいです。『何の変哲もないただの紙だよ~』と本人は言っていましたが……。」
「何かのカード、ねぇ…。」
「はい。見た限りだと外界の素材でできた物のようですが……はぁぁ~、また何かの悪戯でしょうか。」
「……どうでしょうね。まあ今回に限っては悪戯ではなさそうだけれど。」
「え、それはまた、どうしてです?」
「いや、正確に言うと、『あの娘の悪戯ではない』と言ったところかしらね。」
「え?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして、再びもどって博麗神社。
そこまで長くもない参道を跨ぎ、二人の少女が相対していた。
紅白の服と、黒白の服。
殺気という程では無いが、お互いに表情は真剣そのもの。
風で周りの木々は揺れても、その表情が揺らぐことはなさそうである。
瞬き一つすら許されそうにないほどの緊張に、境内は包まれていた。
(緊張感がないのは、二人を少し離れたところから見ている日傘のスキマ妖怪くらいである。)
仮に、もし今、何の力も持たない参拝客が訪れたとしたらこう思うのだろう。
「まずい、弾幕ごっこだ。巻き込まれる。」と。
その時ばかりは、秋の涼しい風が真冬の吹雪のように感じる筈である。
ただ、いつもの二人の弾幕ごっこと違う所は、何も雰囲気だけの話ではない。
紅白の巫女のほうはいつものお祓い棒を持っておらず、黒白の魔法使いのほうはいつもの箒を持っていない。
そのかわり、両者とも片目だけのマイク付サングラスを手に持っており、利き腕の反対側の手首にはあの謎の物体が装着されていた。
そして、その謎の物体の円盤部分に、デュエルモンスターズのカードがきっちりはまっている。
「えっと、はじめは『――』だよな?」
この雰囲気に耐えきれなかったのか、黒白のほう――魔理沙がついに口を開く。
いま話しているのは、デュエルディスクの起動方法の確認である。
「その次は『――』よね。」
対するは紅白の巫女霊夢。文面は冷静だが、柄にもなく何だがぎこちない様子である。
「それで最後に…」
「観客のこちらとしては、早くデュエルを始めてほしいのですけれど。」
「紫は黙ってて。」
「…はいはい。」
ARデュエル。
外の世界の技術であり、拡張現実の技術を使った、従来の立体映像とは一味も二味も違うデュエルシステムの事である。
従来のデュエルではモンスターなどの立体映像をデュエルディスクを通して投射するしくみだったが、ARデュエルは片目に「D・ゲイザー」と呼ばれる片眼鏡を装着し、バーチャル映像を見るという形式である。
一見、技術的に退化しているように見えるが、そんなことはない。
バーチャルならではの利点を生かし、例えばモグラ系のモンスターならば地面から這い出てきたり、海竜のモンスターならば津波と共に現れる――というような、よりリアルな演出も出来るようになったのである。
また、対戦相手と観客以外の邪魔な通行人などを視野から消すことも出来るようになった。
もっとも、それが仇になって見えない通行人とぶつかったりと危険な面もある。
――という感じで、紫がこの外来の機器を説明したのだが、なんせ二人にとってめったに使わない科学の物である。
しかもそれが先端技術の精密機械なのだから、扱う時に多少は緊張するのも無理はない。(実際は多少というレベルではない程緊張しているようだが。)
それが、この雰囲気の原因であった。
「よし、霊夢!『1、2、せーの』で。…いいか?」
「ええ、こっちはいつでも。」
二人は深呼吸をして、魔理沙は上に、霊夢は前に向かってデュエルディスクを構える。
少しの会話の間に、意味深で少し強い風が、神社を撫でる。
「……じゃあ行くぜ!1、2、せーのっ!」
『『…デュエルディスク、セット!』』
Activate D.Disc
二人の掛け声とともに、デュエルディスクがコンパクトな形から決闘用の形態へ変形する。
『『…D・ゲイザー、セット!』』
Activate D.Gazer
そういってD・ゲイザーを右耳に掛けると、起動音が鳴り響き、徐々に世界がバーチャルと重ね合わさっていく。
『『デュエルターゲット・ロックオン!!』』
A.R.Vision Link Complete
霊夢は魔理沙を、魔理沙は霊夢を。
デュエルの対戦相手を認証し、それに観客である紫のD・ゲイザーも認証する。
以降、それ以外の生物はバーチャルから姿を消す。
「……お~。なんというか、すごいな。」
「ふふ、…気に入ってもらえたようで何より。」
霊夢の視界に、バーチャルによってズームされた魔理沙の嬉しそうな顔と、同じようにズームされた紫の薄ら笑みな顔が映る。
魔理沙の方にも霊夢の顔が映っているようだ。
「便利なもんね。離れてても大声出さなくていいなんて。」
そして、最初はしぶしぶやっていた霊夢も、なんだかんだで楽しそうである。
二人はデュエルディスクを横に構え、デュエルを始める体勢に入る。
初期手札は5枚。ライフポイントは4000から。
「じゃ、魔理沙。早速はじめる?」
「ここまで来てやめるなんて選択肢は無いな。」
「「 デュエル!! 」」
デュエル部分を書くと、約束しましたよね。
アレは嘘です。
というわけで、今回は始まる直前のキリがいいところで終わりです。
デュエルも入れると長すぎるので、良かれと思って分割~。
それはそれとして、紅魔郷、妖々夢、永夜抄のキャラをチラっとずつ出しました。
お嬢様は緋想天・天則の時から、普段は結構フレンドリーで、異変とかの時はしゃんとする…みたいなイメージ。
公私混同しない人って、素敵ですよね…。
まあ人じゃないけどね、種族的に。
地霊殿メンバーとか、命蓮寺メンバーとかも書きたかったけど、長くなりそうなのでカット。(というのは建前で、ホントは単に面倒だったから……なんて事は密に…密に…。)
次回こそは真っ先にデュエルなんで、ご安心を。…ご安心を?
ではではこれにて。