PHANTASY STAR ONLINE 2 :A.P.742   作:Begew Garand

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E-10 「苦悶」

 「うう....手足のパーツが無いからって甘く考えすぎちゃったな。実際に背負うとこんなにも重いなんて....」

 

 以前の仕事の時に部分部分のパーツを回収して応援車両に乗せたことはあったけどこうして背中に背負い続けると段々と重さを感じるようになってきて最後には苦しい状況になるんだな....

 

 「まあ、この女の人の運搬はバーンズさんから割り当てられた僕の仕事だしここで投げ出したり文句を言うなんてこと出来ないか。バーンズさんには色々と教えてもらっているしこちらとしてもお礼したい位なんだけどね、いつかできないかなあ。」

 

 そんなこんなで他のことを考え始めた時には既に重さのことなんてどうでも良くなっていた。まあ、こういう時は後々からどっと疲れが来るんだけどね...

 

 「....スリープ状態なのは分かってはいるけどいざ自分の背中に背負っているって考えるとやっぱり怖いな。」

 

 ふと意識が女の人に向いた僕はそこまでじっくりとではないけれど観察感覚でその人の顔を覗いた。心臓の鼓動は勿論聞こえないし呼吸で肺が膨らんで肋骨が上下することも無いから傍から見ると死体にしか見えない、だけどこれで生きているって言うんだからキャストっていうのは本当に不思議だな。僕はキャストではないけど興味はあるからそういったことも勉強してみるのも良いかもしれない。

 

 「キャストのことについて詳しく知れば今までみたいなことがあっても攻撃をするときに効率良く対処することに生かせるのかも知れないし....そうだ、今度バーンズさんにも掛け合ってみよう。」

 

 そうしてあれこれ考えながらも現場から更に離れた区画に移動して、そこから一番近い位置にあるコンベアに通りを幾つか歩いて着くことが出来た。普段通りのコンベアが見える。

 

 「そういえば誰かと一緒にコンベアに乗ることって経験したことが無いな....まあ、背中に背負っているから実際は一人か。」

 

 到着していたコンベアのシートベルトを締めながらも口から言葉が漏れる。時間帯というよりかは避難指示が解除されていなくて人気が少なくて良かった。あんまり目についても困るしね....

 

 『....認証完了、ロックを解除します。場所を指定してください。』

 

 「駐在所の番号で...ここだな。」

 

 普段通りカードを挿入してから行き先を指定して、浅いクッション材のシートに腰を下ろした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「艦の中ってもっとこう、殺風景で味気ない景色が続いていると思い込んでいたけど....レピカちゃんの言う通り同じ景色は無いっていうのはあながち間違いじゃないかもな、少しだけ綺麗になって景色が見える気がするよ。」

 

 コンベアの上から見える区画の建物が普段よりも違って見える。もう何回も見て見飽きたぐらいなのにね。

 

 「ふう.....時間が取れるようになったら連絡でも返しておかないとな、折角交換したんだし会話の内容の一つでも用意しておいた方が良いか....」

 

 そうしてしばらくの間呆けながらも流れる景色に意識を取られていた。けれど、その落ち着いた時間は突然聞いたことのない甲高い音、電子音によって妨げられたんだ。僕は驚いて席からバランスを崩しそうになった。

 

 「な、何だ!?僕の端末の音じゃないぞ!」

 

 端末を急いで確認しても何も通知は入っていなかった。だとしたら何だって言うんだ?

 

 『本体の精神状態、体力状態ともに基準値にまでの回復を確認。応急処置スリープを解除します。』

 

 「スリープの解除....不味い!こんなところで目が覚めたりなんかしたら暴れるに決まってるじゃないか!」

 

 『カウント5で復帰します。ショックまで5、4、3、2、1...』

 

 突然の解除警告に動揺してどうしたら良いのか考える間もなくカウントが始まって、気が付いた時には既に読み上げは終わっていた。合成音声の読み上げが終わると小さい電気の弾ける音が飛んだ。

 

 「あっ.......ああ...」

 

 「駄目だっ!........って、え?」

 

 何が起こるのかわからなくて、それで身構えていたけれど....聞こえてきたのは爆発音でも、怒号でもなく呻き声にも似た女の人の声だった。

 

 「.......」

 

 「え、えっと.....大丈夫ですか?」

 

 答えを聞いても返ってくることは無くて、ただそのキャストの女性は黙って僕の目を真っすぐに見つめるだけだった。ちなみにその顔からは何も感情を感じることが出来なくて....また少しの間、間隔が空いた。

 

 「......殺して。」

 

 「へっ?」

 

 それからしばらくの間コンベアの駆動音だけが響いていたんだけど、突然なことに女の人の方から口を開いたんだ。けれどその言葉は聞き返して間違っていないか確認したいような言葉だった。殺して.....?

 

 「.....殺して....殺せ...殺せっ!!」

 

 「うわっ!ちょっと、危ないですよ!落ちたらどうするんですか!?」

 

 その言葉に頭が追いつかなくなっていると女の人は段々と言葉の勢いが強くなってきて上半身だけで暴れだしてしまったんだ。

 

 「落ちる....?」

 

 「そうですよ、ここはコンベアの上ですよ!?分かったら着くまで大人しくして下さい!話は後からでも聞きますから!」

 

 「........分かったわ。」

 

 それで最初の内はその人が興奮してしまっていて危ないところだったけど場所が場所なお陰で今すぐに暴れられることは無くなったみたいだ。動くことが無くなってバランスを取りやすくなった。取りあえず大丈夫か....

 

 「......」

 

 「......」

 

 取り合えず何か問題に繋がることは無かったけれどその代わりにお互いに何も言うことなく到着のアナウンスが流れる時まで気まずい時間が流れた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「....すみません、今降ろしますね。少し危ないですよ。」

 

 「......」

 

 コンベアで現場から駐在所にまで戻ってくることが何とか出来た僕は普段通りの流れで待機室に入って、それから僕とバーンズさんが使っていない空いている椅子に女の人を座らせることにした。今はもうスリープから目覚めてはいるけれど今の体の状態じゃ出来ることなんて無いだろうからね....

 

 それで、その人に害が出ないようにしながらゆっくりと座らせることが出来た僕は自分も椅子に座ってバーンズさんからの連絡をひたすらに待つことにした。何だか、最初があまりにもあれだったからね....今更普通の人と会話する時みたいに話を切り込んでいくなんてとてもじゃないけど出来ないよ。

 

 「......ふう。」

 

 それからは精製水を飲みながら端末に通知が入らないかどうか待っていると特に何の前触れもなくバーンズさんから連絡が入った。端末の画面に通知を知らせるマークが出て、電子音が小さく鳴った。すかさず連絡を受け取ると通信接続時のノイズが数秒だけ響く。

 

 「はい、こちらノアです。」

 

 『バーンズだ。こっちの方は要件が取りあえず終わった感じだな。少年の方も特に重症な部分は無くて簡単に治療をしたら数時間後には帰れるらしいぞ。』

 

 「そうですか....」

 

 あの男の子には特に何もなく無事だったらしい。良かった...内臓に何かダメージがないか心配だったからね。

 

 「....ねえ、その男の子って建物に寝かせてあった子?」

 

 「へ?」

 

 バーンズさんと連絡を取り合っていると女の人が再び口を開いたんだ。まさか男の子について聞いてくるなんて思っても居なかったからちょっと動揺してしまった。

 

 「....そうですよ。被害の激しい区画から隣の区画に移動をして捜索の最中に見つけたんです。確かに建物の軒下に居ましたからその子に間違いないはずです。」

 

 「....分かった。」

 

 『おいノア君。さっきから声が聞こえないがそっちで何かあったか?』

 

 女の人と会話をしているとバーンズさんの声が聞こえてきてはっと現実に戻った。

 

 「い、いえ、何でもないです。それで、男の子の方は分かりましたけどこちらの方はどうしたら良いですか?取りあえず椅子には座らせておきました。」

 

 その人を見ながらバーンズさんに話を聞く。

 

 『うーん....実のところこういった事はあんまり経験が無くてうろ覚えなところもあるんだが....

 

 「は、はあ...」

 

 『まあ、ノア君だけだとやっぱり限界があるだろうから本格的なことは俺が到着してからにしよう。それまでの間だが軽くそいつについて質疑応答してくれ。』

 

 「質疑応答ですか?」

 

 『ああ、それの名前や所属している組織について....それから今回の事を何故起こしたかについてだな。聞ける範囲で構わないから聞き出せる限り話をしておいてくれ。』

 

 「分かりました。」

 

 さっきから一度もまともな会話はしていないけど僕に出来るかな....

 

 『それじゃあ俺は直ぐに戻るぜ。道も空いてるからそれまで頼む。』

 

 そう言うとそれを最後に通信が切れた。端末の画面に通信履歴が表示される。

 

 「.....やるしかないか。」

 

 女の人の方を横目で見ながら覚悟を決めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「....僕は強制はしません。ですけど、話してもらえることがあればここで話して欲しいです。」

 

 それがその人に対しての僕から発した言葉だった。強制だ、何て言ったら余計に相手を刺激してしまうだけだろうと自分で考えた結果だ。

 

 「......」

 

 「....そういえば僕の名前、言っていなかったですね。短い間ですが....しばらくの間ここに居てもらいますから一応教えておきます。先程の通信で聞こえていたかもしれませんが僕はノアです、宜しくお願いします。」

 

 名前を名乗らないのも何かおかしいと思って僕は自分の名前をまず女の人に伝えた。こうした方が警戒心を持たれない....のかな。

 

 「.....私はフィリン、フィリンよ。」

 

 あんまり上手くいくとは思わなかったけど、取りあえず名前だけ聞くことが出来た。フィリン、珍しい名前だな.....

 

 「ありがとうございます。では、フィリンさんに簡単にお聞きしていきますね。」

 

 そう言うとフィリンさんは一度目線を外して下を向いた後、何かを悟ったように再び顔を上げて目線を戻してくれた。

 

 「.....構わないわ。こんな状態で抵抗は無駄だもの。」

 

 「...分かりました。」

 

 僕の方もしっかりと目線を合わせる。人と目を合わせて話をするのは苦手だけど...これは仕事、仕事なんだ。贅沢なんて、自分の都合なんて考えてはいられない。

 

 「では、貴方の所属している組織について教えてください。アークスではなくて非公式のです。」

 

 「.....C.R.S.Fのことかしら。」

 

 少し間を開けながらもフィリンさんは的確に返答してくれた。悪いとは思うけれど状況が状況だからね....

 

 「そう、C.R,S.Fですか。分かりました。では、その組織についてもう少し教えてもらえませんか?これも良ければですけど....」

 

 「....最悪な所よ、もう二度と戻りたくないわ。」

 

 「最悪なところ.....?」

 

 そう返すとフィリンさんは諦めたような、それでいて疲れ切ったような声色で話を続けてくれた。

 

 「...C.R.S.Fは腐りきったアークスの内部構造に対して抗議を行って.....改善を求めようというキャストの小規模な集まりから始まったの。だけど、最近の状態を見れば分かるとは思うけどもう今のC.R.S.Fには原型は無いわ。ただ無差別に人殺しをする過激派のテロ組織でしかないわ。」

 

 アークス内部の改革.....それが思想?だったのか。

 

 「キャスト以外の手術を受けていない種族の奴、ヒューマン、ニューマン、デューマン、これらの種族が腐っている部分に多く居ることが何処かで分かった、なんてことを組織全体に浸透させたのが居るのよ....」

 

 内容だけを聞けば偏見のような考えだっていうのに...それでも信じなければいけない程の何かがあるんだろうか。フィリンさんの話は続く。

 

 「...それで、C.R.S.Fは最初の頃とは考えが全く変わってしまったけれど過激派として今も存在してる。組織としてはまだ小規模みたいだけどね。」

 

 「組織としては小規模って...もしかしてこの(フェルノート)以外にも組織があるんですか?」

 

 「組織の通信を聞く限りではそのようよ、だけど確信は無いわ...私だって組織の中心人物に会ったことが無いんだから....」

 

 どうやら僕が知っていることはまだ一部分だけみたいだな...

 

 「....でも、もう私は組織から離れるわ。人殺しなんて私は嫌だから....現にあと少しで一人の人間に危害を加えてしまうところだったしね。」

 

 あの男の子のことだろうか、確かに気絶する程のことがあったようだからきっとフィリンさんが何かしてしまったんだろう。

 

 「それに、こんな状態じゃアークスとしても駄目ね....」

 

 フィリンさんは今は無い手足を目で見つめた後、何処でもない虚空を見つめていた。

 

 「組織にも、アークスにも私はもう戻れないわ。」

 

 「えっ....?」

 

 そう言うと彼女は何もない場所を見るのをやめて僕の目をしっかりと見つめてきたんだ。人工の綺麗な黒い瞳がはっきりと捉えてくる。

 

 「だから、私をここで殺して?」

 

 「!?」

 

 その瞬間、フィリンさんは上半身だけで椅子から転がり落ちて...僕の足元に来た。

 

 「この、貴方の銃で私を殺して。そうすればもう終わりに出来るの。」

 

 フィリンさんの目線は僕の腰の拳銃に向いていた。そんなこと....

 

 「銃ぐらい撃てるでしょう...?」

 

 「う、撃てますけど僕には貴方を撃つ理由が無いですよ!」

 

 僕は息が詰まりそうになりながらも言葉を出した。

 

 「...理由ならあるわ、M.Sは治安維持が目的なんでしょう?なら、人殺しを...子供を手にかけようとした私を撃つ理由になる。だから、早く....!」

 

 「そんなのって、自分勝手ですよ!駄目ですよ!」

 

 「ああ、そうだな。そいつは自分勝手な話だな。」

 

 その時、待機室の入り口から声が聞こえて来たんだ。

 

 「それに、お前が死ぬのにはまだ早い。しっかりと話してもらうぞ。」

 

 「バーンズさん...?」

 

 そう言うとバーンズさんは普段とは違った顔つきで部屋の中へ入ってきた。

 

 

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