PHANTASY STAR ONLINE 2 :A.P.742   作:Begew Garand

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E-11 「移送」

 「....色々と考えた末に仕方が無く死を選んで、それで死ぬってんなら誰も、俺も止めはしない。」

 

 床に転がっていたフィリンさんを両手で持ち上げると僕と同じように元の座っていた椅子に戻した。その時にフィリンさんの顔が少しだけ見えたけれど....さっきまでの表情とは打って変わって唖然とした顔になっていた。

 

 「だが、それが.....それが許されるのはそいつが何もしていなかった場合に限る。」

 

 バーンズさんがそう言うとフィリンさんの顔に手を持って行って、僕から見て左の頬に手のひらを当てた。フィリンさんは依然と訳が分からないと言った顔だった。

 

 「バーンズさん一体何を.....」

 

 何をしようとしているのか。それが気になって仕方が無くなっていた僕は当の本人、バーンズさんに聞こうとした。だけど、僕が答えを聞くまでも無くそれは突然目の前で起こったんだ。

 

 「....っ!」

 

 その瞬間、人の肌を手で打つ乾いた音が無機質な部屋に響いた。

 

 「....少しはこれで目が覚めたか。」

 

 「バーンズさん!やり過ぎですよ!」

 

 欠損の状態からして今のフィリンさんはただでさえ限界に近い状態だ。そんな状態で何を....

 

 「ノア君。」

 

 「へっ?」

 

 自然と言葉が出てしまった僕に対してバーンズさんは落ち着いた顔で僕の名前を呼んだ。そういった顔は今までで見たことが無かった。

 

 「少し静かにしていてもらえるか?」

 

 「......分かりました。」

 

 バーンズさんが詳細をこの短い間に言ったわけじゃないけど、僕にはその場の雰囲気から察することが出来た。ただ、悪意のある感情では無くて少しの優しさを含んだような忠告に近かったように感じる。そうしてバーンズさんは向きを変えてフィリンさんの方へ向き直った。

 

 「....もう一度言うが、目は覚めたか?」

 

 「.....」

 

 「...そうか。」

 

 最初にフィリンさんの頬を打った時と同じ文言を言って、それで言葉ではなくその態度から何かを感じたバーンズさんはもう一度フィリンさんを打った。さっきよりも大きめに部屋に乾いた音が響く。

 

 「.....痛いじゃないの。」

 

 するとフィリンさんはそこまで閉じていた口を開いてか細くそう答えた。いくらキャストだと言ってもその中身は人と同じだ、精神的な限界もあるだろうに....

 

 「それはそうだろ?痛くするようにしているんだからな。」

 

 そう言うとバーンズさんは一旦その場から離れてから自分の椅子に座ってフィリンさんと目線が合うようにし、話を続けた。

 

 「....それで、目は覚めたか?」

 

 「とっくに覚めてるわよ...」

 

 「そうか、なら話を続けるぞ。」

 

 そこでバーンズさんは自分の端末を取り出してある画面を表示させるとフィリンさんにそれを見せた。何の画面だろう。

 

 「これが見えるか?」

 

 「....何の数字よ。」

 

 「これは今回の暴動での死傷者の数だ。メディカルセンターからの正式な情報で間違いはない。」

 

 その言葉を聞くまでは冷静だったフィリンさんの表情に曇りが見えてきた。

 

 「こんなに、こんなに酷かったの.....?」

 

 「ああ、これほどの規模の事態は中々に起こらないからな。俺も実際の被害状況を知って驚いたさ。」

 

 バーンズさんは端末をジャケットにしまいながら話を続ける。

 

 「それで、今更言うことでもないがお前はその当事者の内の一人だ。どうせこの内の何人かはお前がやったんだろう?」

 

 「ち、違うわ!」

 

 「嘘を言うな!現場に居た人間からはお前の目撃証言を聞いているんだぞ!」

 

 バーンズさんは言葉を強めてフィリンさんに言い放った。

 

 「現場から回収したあの少年からも話が聞けたが....あんたが吹き飛ばしたみたいじゃないか?え?」

 

 「くっ.....」

 

 「子供に手を出していない場所を見れば少しは良心があるように感じるが、人殺しは正当にならんぞ。それがお前らの思想だか何だかの為だとしてもだ!」

 

 「バーンズさん!その人は誰も殺してなんかいないですよ!」

 

 人殺しという言葉を聞いて今までは黙っていた僕だけどバーンズさんに口を出した。僕は話を聞いたから分かるけど、バーンズさんは何も知らないんだ!フィリンさんはそんな人じゃないって....

 

 「ノア君.....それはどういうことだ?」

 

 その言葉を聞いて一瞬はっとしたバーンズさんはそれまでの勢いから一転して驚いたような風貌だった。そこで僕はバーンズさんが来るまでの間にフィリンさんから質疑応答で聞くことが出来たことを短く説明した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「.....そんなことがあったんだな。」

 

 「はい。組織のこともそうですがフィリンさんは後に引くこともできずに仕方が無く参加したんですよ、今回の暴動にですか。」

 

 僕の説明はお世辞にも上手いとは言えないものだったけれどバーンズさんからの理解は得られたようで信用してもらうことが出来た。

 

 「組織、C.R.S.Fは現在暴走状態にあると言っても良いな。それが本当のことだとすればこのままだと最悪の事態になりかねないぞ。」

 

 頭に手をやりながらバーンズさんは悩んでいるようだった。確かに暴走状態にあるのは分かるけれどそれが原因で最悪の事態が起こるのか?

 

 「最悪の事態?それって一体....」

 

 「....今までは特に思想を持たずに何かしらの個人的な要因で暴動を起こしたりして事態の発生に繋がっていた。だから計画性も無く不定期だからこそ鎮圧することも簡単だったんだ。」

 

 視線をフィリンさんの方から僕の方へ変えてから説明をしてくれた。

 

 「だが、今回の事態はそれには当てはまらない。それなりの規模であって尚且つ計画性のある行動だ、今のM.Sのような組織にそういった規模のものを鎮圧する力は無いに等しくてな。それで鎮圧が出来ずにその組織(C.R.S.F)にアークスのシステムの全てが乗っ取られる.....地獄が始まるぞ。」

 

 確かにM.Sはあくまでも治安維持が目的の組織で規模の大き過ぎる事態には対処することが出来ない。武装なんかを見ればその差は歴然だ...

 

 「じゃ、じゃあ、僕らはどうすれば良いんです?」

 

 「....上の判断が下りるまで待機するしかない。今はそれしかできない.....残念だが俺達も組織に縛られている人間だからな。」

 

 「...そうですか。」

 

 どうしようも出来ない、やるせない気持ちを味わいながらも今はただ歯を食いしばるしかなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「良し、取りあえず移送の手続きは出来たな。」

 

 「フィリンさん、無事に治るんですかね....」

 

 「大丈夫だとは思うがな.....まあ、今回の処罰についてはじきに判断が出るだろ。」

 

 「はあ.....重い処罰じゃないと良いんですけどね。」

 

 取りあえずフィリンさんから一連の話を聞いた後、体の状態を考えてメディカルセンターに移送することになった。処罰に関しては治療が終わってから下されるらしい。

 

 「処罰は重くない方が良いって....ノア君の知り合いか何かだったか?」

 

 「いや、知り合いじゃないですよ。今回初めてお会いしましたし。」

 

 「じゃあどうしてそんなことを?別に関係の無いことじゃないか。」

 

 バーンズさんが不思議そうに聞いてきた。

 

 「...あの人、優しい人だと思ってですね。実際今回のことも成り行きでなってしまっただけでそこにはフィリンさんの意思があった訳じゃないですし被害を抑えようとも考えていたわけですから重くなくとも良いなって、それでですか。」

 

 その場で実際に見ていたわけじゃないから確実にではないけどフィリンさんから聞いた話からはとてもじゃないけど人を殺すような人じゃないと感じることが出来て、優しい人だと思ったんだ。

 

 「確かにそうかもしれないな....まあ、処罰が下りた後は連絡が付くだろうし話してみるのも良いんじゃないか?そこまで気になるならか。」

 

 「いや、そんな....それほどまでのことじゃないですよ。ちょっと気にかかっただけですから。」

 

 優しい人だと感じただけで連絡を取りたいわけでもか.....

 

 「そうか....まあ、今のうちに休んでおいてくれよ次にいつ事態が起こるか分かったことじゃないからな。」

 

 「そうですね。休んでおきます。」

 

 それで休もうとして椅子にもたれているとバーンズさんが忘れかけていたことを言った。

 

 「.....と思ったが報告書の作成があったな。取りあえず文章の作成を終えてから後のことは考えるか。」

 

 「ほ、報告書を忘れてたな....」

 

 そうして僕とバーンズさんはコンソールに向き直って書類の作成をし始めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 「.....あの人、優しい人だったな。」

 

 移送車両の窓から見える景色を見ながらそんなことが口から漏れた。

 

 「確かノアって言ってたわね、M.Sにしては若すぎるくらいだけど....何か理由があるのかしら。」

 

 基本的にM.Sは元アークスが何か問題を起こしたとき。もしくは何か問題を抱えていた時に異動させられるところだから比較的年齢層は高めなの。

 

 「それともアークスに所属することなくM.Sに所属した....?そんなことないわよね。」

 

 色々なことを考慮すれば最初からM.Sに所属したとしか考えられないけど、そんなことってあるの....?

 

 「フィリンさん、もうすぐ着きますよ。」

 

 「....ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたわ。」

 

 考え事をしている移送車の助手席に座っていたナースに声を掛けられて、そこでようやく意識が現実に戻った。

 

 「欠損しているパーツの方の接続部分は大丈夫ですか?それでまだ生きている部分があれば修理は直ぐに出来ますから。」

 

 「ちょっと待って、少し確認するわ。」

 

 パーツの接続部でまだ生きている場所......左手と右足、耳だけか。

 

 「....ほとんど駄目みたいね。時間が掛かりそうかしら?」

 

 「そうですね....生きていない部分には既存のパーツが直ぐに取り付けられないので応急処置用のパーツの取り付けになりますしそれにも時間が掛かりますから....」

 

 「そう.....」

 

 改めて自分の体を見てみると銃弾で貫通していたりへこんでいたりしている。ヘッドパーツにダメージが無くて本当に良かったわ....

 

 「.....そういえば貴方は私のことは怖くないの?」

 

 「へ?」

 

 「一応これでも人殺しに加担したような屑よ.....」

 

 さっきから普通に会話の出来ているナースに少し違和感を感じた私は思い切って聞いてみた。

 

 「....移送される際にフィリンさんは悪い方ではないと連絡のあったM.Sの方からお聞きしていましたから、大丈夫です。」

 

 「そんなことまで.....本当に優しいんだから。」

 

 あの人、ノアって言ったかしら。優しいのは良いけど何時か騙されないと良いのだけれど....

 

 「フィリンさん、到着しましたよ。今降ろすので少しの間辛抱してくださいね!」

 

 「辛抱も何も動けないわよ....」

 

 車両が停止するとナースは車から降りて他のナースと一緒に私が乗せられた担架を運んで行った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「....取りあえず腕の取り付けはこれで終わりです。右腕と左腕が違うパーツなので動かし辛いとは思いますがしばらくは我慢してくださいね。」

 

 「四肢が全部無いよりかは良いわ....ありがとう。」

 

 「良いんですよ、仕事なんですから!」

 

 あれから施設に運び込まれた私はすぐさま処置を受けることになって今日のところは腕の修理だけは大体終わった。まあ、右腕は代替品だから完全ではないのだけれど。

 

 「...そういえば貴方の名前をまだ聞いていなかったわね。良ければ教えて貰える?次にまたこうなったら担当して欲しいものだから....」

 

 「私の名前ですか?......リ、リエって言います、宜しくです!」

 

 「リエさんね、これからも何かあれば。」

 

 「は、はいっ、こちらこそです。」

 

 そうして私はまだ取り付けたばかりの右手で握手を交わした。

 

 「....ちなみに完全に修理が完了するまでには大体どれぐらい掛かりそう?見当が付けばだけど。」

 

 「難しいですが3日程あれば完璧にだとは思いますよ。そこまで重症ではありませんでしたから.....ってシステムの方が、ですか。」

 

 「そう、教えてくれてありがとう。」

 

 3日、処罰が下るまで後3日か。戻れないのは覚悟しているけどどうなることか....

 

 「では、私はまだ仕事があるので行きますね。また時間が空けば見に来ますから!それでは!」

 

 「分かったわ。」

 

 そう言うとリエは病室から出て行った。

 

 「.....綺麗な景色ね。」

 

 そして、しばらくの間何もすることが無くなった私はただ窓を見つめて外の景色を眺めることに専念した。

 

 

 

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