PHANTASY STAR ONLINE 2 :A.P.742   作:Begew Garand

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E-26 「退避」

 どうやら話し合い....と言うよりも交渉が決裂したのかさっきまでその何かと対峙するだけだった男の人?と女の人は何かから発せられた攻撃のような物を受けたのを皮切りに動き始めた。

 

 何だか、別の場所から映像を見ているような感覚だった。実のところその場にいる僕は認知されていないみたいだったしね。勿論今飛んできた攻撃のようなものも来はしなかった。

 

 

 やっぱり、あんな武器は見たことが無いな。人の手で作れないような....何だろう。

 

 僕は以前に見たことのある物を見てそう思った。あの、杖みたいな物だ。

 

 一応M.Sのマニュアルでアークスが基本的に携行することが許されている武器を確認したけれど、あれに近い物を考えれば長杖(ロッド)の武器種に近い気がする。

 

 

 「......。」

 

 そうして僕が女の人の持っているものに注目している間にも事は着実に進んでいて、その時になると段々と以前見た夢の場面と同じような状況になり始めていた。

 

 普段通りの僕なら無駄でも何かしようと、声だけでもかけようと出来たかもしれない。だけど今は頭がはっきりとしないような....靄が掛かったようで考えがまとまらなくて動くことなんてできなかった。寝起きで考えがまとまらないみたいに。

 

 

 「....!」

 

 男の人?があの大きな剣を両手でしっかりと構えながら何かに向かって叫ぶ。前と同じだ。

 

 大振りだというのに的確に標的に向かって振られた大剣(ソード)は何度も弾き返されていた。もっとも、その何かは靄がかかっていて何が起こっているのかまでは詳しくは分からなかったけど。

 

 

 「......、....。」

 

 それに合わせて女の人も長杖?のような物を媒体にしてテクニックを放っていた。現物は見たことが無くて映像でだけだったけど、それがテクニックであるということは直ぐにでも分かった。

 

 だけど、それらもその何かにはあまり効いていないようだった。弾き返すというよりかは吸い込まれるような形で。

 

 

 「.......、.....!」

 

 そこでようやく僕が以前見た夢の部分に繋がった。男の人?が何かを叫んだ後、歯を食いしばって勢いよくそれに向かって切りかかっていく。隣に居る女の人の表情が辛そうに歪んで、その直後にとてつもないくらい眩しい光が―

 

 

 

 

 ―そう考えていた時だった。一瞬だけその何かの靄の一部が晴れたのは。

 

 その時僕はそれまでぼうっとしていた意識が凍り付くようなものにさらされて、無理矢理叩き起こされたような衝撃が来た。

 

 血のような赤い瞳が、こっちを、僕を見ていたから。

 

 

 「.....終わらせてしまいましょう、全てを。」

 

 

 その言葉が聞こえた時、再び世界は真っ白に吹き飛んだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 「......。」

 

 あれからどれ位時間が経ったんだろうか。僕は再び体にベッドのクッションの感覚を思い出した。

 

 まだ動悸が落ち着いていなくて、自分の鼓動がはっきりと聞こえてくる。

 

 「何だったんだ、何だって言うんだ、あれ。」

 

 思考が落ち着かなくて混乱しながらの目覚めだった。普段なら少しぼうっとしているけれど、今は違かった。あの赤い目に睨まれた僕は。

 

 「....よし、取りあえず落ち着こう。慌てても駄目だ。」

 

 そうして僕はどうにかして気を一旦落ち着かせて、それで一呼吸置いてからベッドから立ち上がった。暗い室内が目に入る。

 

 「うん、何も変わってないよね。あれは夢だったんだ、かなり質の悪い。」

 

 それで、どうにかしてその場は落ち着かせようとしていると今度は部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。

 

 「?何だろう。」

 

 気になった僕はドアの方へ行って扉のロックを外して様子を確認しようするともう一度扉を叩く音が聞こえてきた。

 

 呼び出し用のブザーを使えばいいのに.....そう思いながらも扉を開けてみると開くと同時に人影が素早く滑り込んできた。

 

 「ノア!こんなところで何してるの!」

 

 「へ?何って、休んでいただけですけど。」

 

 滑り込んできたのはフィリンさんだった。

 

 もしかして仕事の時間だから呼びに来た....訳じゃないか、時間はまだ余裕がある。だとしたら何だって言うんだ?

 

 「さっきまでの艦内放送聞いていなかったの?」

 

 「艦内放送?何ですそれ。」

 

 「.....ああもう!私達も早く行くわよ!」

 

 そう言うとフィリンさんは僕の手を強く掴んで走り始めようとした。

 

 「あ、待ってください!足が。」

 

 けれど僕は何も察知できていなかったせいでドアの縁に足を引っかけてしまった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「何度も連絡したのに、眠っていたわけ?」

 

 「は、はい、気が付かなくて。」

 

 転んでしまった後、少しだけ待ってもらうことが出来た僕は銃と端末だけを持って部屋を出た。

 

 退避指示のアナウンスが鳴り響く中を走り続ける。

 

 「....まあ良いわ、詳しい話は後。とにかく一番近いドッグまで行って退避するわよ。」

 

 「ドッグって、一体どこまで避難するんですか?もしかして別の艦にまで行くとかじゃ....」

 

 そう僕が言うとフィリンさんはまた少し呆れたような顔をして話を続けた。

 

 「そのまさかよ。今説明すると面倒だと思っていたけれど、少しぐらいは説明した方が良いわね。」

 

 フィリンさんは走りながら説明を続ける。

 

 「手短に言うわ、この艦の周辺区域に異常レベルのダーカー因子が確認されたの。」

 

 「ダーカー因子って....そんなことってあるんですか?」

 

 「...そうよ、私も驚いたけれど。」

 

 宙域のダーカー因子の濃度が高くなる、つまりその場所にはダーカーが発生するということ。それが艦が対象になるとするとダーカーによる襲撃になる。

 

 今でこそダーカーの勢いはとても激減したけれど、だからと言ってその脅威がなくなった訳じゃない。実際アークスが残党狩りをしているわけだしね。....だけど、ここまでの規模になることは無いはずなんだ。

 

 「まあ、何かしらの原因で起こっていることには間違いないわ。今のダーカーにこんなこと出来るはずが無いもの。」

 

 どうやらフィリンさんも同じみたいだ。

 

 「まあ、この話はここまでにしておいて避難の方を先にね。この先に昇降機がある筈よ。」

 

 そう言われた僕はフィリンさんが言う方向を見る。すると確かにそこには中程度の大きさの昇降機があった。あまり使っていないようだけれど。

 

 「ここから行くのが一番近いはずよ。何番のドッグに出るかは分からないけれど、船に乗れるなら何でも良いわ。」

 

 「は、はあ。乗れるなら良いですけど。」

 

 「大丈夫なはずよ。ほら、取りあえず電源を入れて。」

 

 僕は指示に従って昇降機の電源を入れた。移動用のコンベアと同じような低い音が鳴り響きながら重く動き出した。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 「駄目だ!一般員は別の船に乗れ!アークスを優先して搭乗させているんだぞ!」

 

 「そんなことどうでも良いだろ!早く乗せろよ、見殺しにする気か!」

 

 まあ、想像していた通りか....

 

 俺は頭を手で搔きながら心の中でそう言った。

 

 「おい、落ち着けって。この船はアークスだろうと一般員だろうと定員が溢れてるんだ。別の船を探した方が良いぞ。」

 

 今しがた叫んでいた一般員の男に向かってそう言ってなだめる。

 

 「そうだけど、そうだけどよ、このままここで死ねって言うのか?船に乗れなきゃ宙域で死ぬんだぞ?」

 

 「誰もそんなことは言ってないだろ....ほら、別の船を探せ。出発の邪魔になるだろ?」

 

 「....分かったよ、この。」

 

 そう言うとその男も、周りに居た一般員も続けて別のドッグに向かった。

 

 「はあ、酷い状況だな。全く。」

 

 連絡が早いからもう少し冷静に動けているかと思えばこの状態なんて最悪だな。定期訓練を怠っているんじゃないか?確かに急な連絡で混乱するのは分かるが....こんなことだと思うつぼだな、誰のつぼかは分からんが。

 

 「それにしてもノア君とフィリンは無事だろうかな。連絡通りなら一緒に動いているはずだが....」

 

 そう思った俺は端末を取り出して連絡が来ていないかどうかを確認したが特に何も来てはいなかった。連絡履歴も数時間前で止まっている。

 

 「まあ、逃げ遅れるなんてことないと良いがまあ大丈夫だろう。」

 

 そうして俺もさっきまでの一般員と同じように乗れる船を探し始めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 「フィリンさん!そっちの方はどうでしたか?」

 

 「駄目ね、何処も手一杯みたいよ。」

 

 昇降機から降りた僕とフィリンさんはどうにかドッグに着くことが出来たけれど、そこで肝心な船に乗るということが出来なかった。

 

 理由としては色々なんだけれど一番は僕とフィリンさんがM.Sだと言うことだった。

 

 「一般員なら良かったんですけど....服でばれちゃいますね。」

 

 そう言うとフィリンさんもあまり良くは無い顔で言葉を返して来た。

 

 「まだ服なら可愛いものよ、こっちは種族で駄目だったわ。キャストはC.R.S.Fの危険性が高いから駄目だ、なんて言われていたもの。酷いわね。」

 

 やっぱり、この状況でもそう言ったトラブルは多いみたいだ。

 

 「....はあ、大丈夫なんでしょうかね。」

 

 「?何がかしら。」

 

 僕がそう言うとフィリンさんは首だけを傾けて返事を返してくる。

 

 「いや、無事に避難できるのかなって。このままだと船にすら乗れないかもしれませんし....」

 

 船に乗れないのであればこの艦に残されることになる。つまりは死をあらわすということだ。もっともそれは最悪の場合に、だけど

 

 「....じゃあ、一応これでも被ってなさい、少しは宙域に出たとしても大丈夫なはずよ。」

 

 そういうとフィリンさんは通路の壁から出ていたヘルメットを投げ渡してくれた。

 

 「確かに大丈夫ですけど、心もとないですね。これ。」

 

 僕は受け取るとバイザーを開けた状態で頭から被った。

 

 「生身だと色々と不便なのよ。私は別に良いのだけれど、嫌なら外せば?」

 

 「そ、それはないですよ....」

 

 僕は少し困惑したようにして言葉を返した。

 

 

 

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