ラッキーパンチャーとは呼ばせない   作:酉柄レイム

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第二話 ゲッツーロボ

「三振! バッターアウト!」

「さぁ皆さん! 気を落とさないで、しっかり守るっスよ!」

「三振したお前が言うんじゃねぇよ!」

 

 夏休み、埼玉堺との練習試合。

 

「お前のラッキー……パンチ力のある打撃が必要だ」

 

 という『ラッキーパンチ』と言いかけた監督の一言を受け、俺は晴れてスタメンとして練習試合に出ていた。なんかもっとこう、試練とかあると思ってたのに意外と早くレギュラーになれたな、と思って臨んだ練習試合。6番サードで出た俺は、4回までで1併殺1三振。まったく、ランナーがいない時に俺に回すからダメなんだ。みんなチャンスで決めきれないなんて不甲斐ない。

 

「今んとこ自動アウト製造機だな」

「御幸先輩が4番寄越してくれりゃいいんスよ」

「監督に言ってみろ」

 

 守備に向かいながら御幸先輩に話しかけられ、監督を見る。むりむりむりむり。殺されるってそんなの。あの世へサヨナラホームランじゃん。

 

「結果で示して見せまス!」

 

 と元気よく言った俺は、頭を超すかと思われた打球を恵まれた身長と恵まれた反射神経でジャンピングキャッチ、三遊間を抜けそうな辺りを恵まれた脚力と恵まれた反射神経でダイビングキャッチ。

 

「セカンドショートサードには絶対に飛ばすな! 特にサード!」

「打撃でもそんくらい活躍しろや!」

「俺だってしたいっスよ!」

 

 相手ベンチの監督の言葉を聞いて浮つきそうになった気持ちが、倉持先輩の蹴りによって引き締められる。いや、どっちかで貢献できてるだけでもマシじゃないですか。俺はそれで満足する人間じゃないんですけどね?

 

 4回終わって5回表、ランナーが一人出るも倉持先輩がアウトになるという不甲斐ない結果。

 

「ほんとに打つ気あるんスか?」

「お前だよ!」

 

 うちが2回に一点を取って以来スコアボードが動かないまま迎えた6回表。2番白洲先輩、3番小湊が出塁し、ノーアウト二三塁。打席にはチャンスお化けの御幸先輩。バッテリーはクソ雑魚の御幸先輩を怖がり、この試合当たっていない5番前園先輩を三振に抑え、打席に立った俺に余裕そうなツラを見せやがった。

 

 こいつは2打席1併殺1三振。また併殺叩いてもらって切り抜けよう、とか思ってんだろ。

 

「っめんじゃねぇぞゴラァアアア!!」

 

 怒りのままにバットを振りぬき、打球の行方を追わないまま走り出す。ぽかーんとしている相手チームの顔にざまぁ見ろと笑いながら、ホームベースを踏んだ。

 

「お前、何打ったか覚えてる?」

「きた球っス」

 

 ホームベース先で迎えてくれた御幸先輩から呆れた笑顔をお見舞いされつつ、4点追加。調子を崩した相手投手から1点もぎ取り、チェンジ。

 

「よくやったサード! 御幸から4番を奪い取るナイスガッツ!」

「これからは俺を4番サードと呼んでくれ、沢村!」

「得点圏にランナーいない時に打てるようになってから言いやがれ!」

「調子には乗らないようにな」

 

 喜んでいたところを御幸先輩と倉持先輩のいじわるコンビニ釘を刺され、危なげなく守備をこなし、次の打席では当たり前のように併殺を叩いて6-0で試合終了。得点圏でしか打てないゲッツーロボであることを丸裸にされた練習試合だった。

 

「次はベンチだ」

「ボス! 次こそは貢献してみせます!」

「いや、お前は十分仕事をしてくれた。今はチーム全体の力を見る時。ベンチメンバーには平等にチャンスを回したい」

「そういうことだったんスね! ならばいつでも代打で出られるようにベンチあっためときます!」

 

 監督は聡明な方だ。俺の才能を見抜き、ちゃんと評価してくれている。これは秋の大会スタメン待ったなしじゃない?

 

「監督は優しいよな。4打数1安打2併殺。三打席でアウトを5つ稼ぐ男を怒らねぇんだから」

「ま、満塁ホームラン打ったので……」

「いつもランナーたまってる状態で回ってくるわけじゃねぇんだから、今のままじゃダメだってことわかるだろ。焦れよ」

「肝に銘じます」

 

 そしてダブルヘッダー第二試合、打ち込まれた川上先輩の雪辱を晴らす7回代打スリーランホームラン。そのまま守備に入り、9回にワンアウトランナー一塁で打席が回ってきて、予定調和のように併殺を叩くかと思いきや、試合を振り出しに戻すタイムリーツーベース。

 

「ナイスラッキー!」

「ナイスパンチャー!」

「ラッキーパンチャーって言うなや!!」

 

 そのまま勝ち越し、きっちり裏を締めて試合終了。二試合を白星で飾った。

 

「もしかして、負けてるとラッキーパンチでやすいんじゃね?」

「ラッキーパンチじゃねぇ! 実力っス!」

 

 もしかしたらそうかもしれない、と思っていたことを御幸先輩に言い当てられ、『代打の神様』の称号を押し付けられそうになり、なんとか逃れて夜。

 

「佐野修造?」

「高校通算67本の怪物スラッガーだよ」

「ははっ、沢村佐野さんも知らないのか?」

「何っ!? サードは知ってたのか!?」

「ハハハ! なんせ佐野さんも4番サードだからな!」

「佐渡くんはまだ4番サードじゃないでしょ?」

「うるせぇ! 気持ちは4番サードだ!」

「俺も気持ちはエースだ!」

「おいおい。ここに4番サードとエースと最強守備セカンドが集まってるだって? とんでもないな」

 

 まさかここに未来の青道を担う三人が集結しているとは。小湊はバッティングも守備もうまいし、小湊が出塁して二塁まで行って、俺が返す。そして沢村が抑える。最強の必勝パターンじゃね?

 エース! サード! セカンド! と沢村と二人で騒いでいると、後ろから降谷がぬっと現れた。

 

「エースは僕……」

「何ッ、二人ともエースだったのか!」

「バカ、エースは一人しかなれねぇんだよ!」

「なぜ!?」

「4番サードも一人しかなれねぇだろ!」

「なるほど、確かに!」

「二人とも黙って……」

 

 小湊が恥ずかしそうにしている。なんでだろう。まさか俺との実力差が離れすぎているからか? 安心しろ。俺はちゃんとお前より役に立っていないっていうことをわかってる。得点圏でしか打てないゲッツーロボより、ちゃんと打ててちゃんと守れる小湊の方がはるかに上だ。ちくしょう、悔しい!

 

「でも佐渡、このままじゃ4番サードになれないぞ。場合によってはゲッツーばっか叩く守備がうまいだけのバカだ!」

「誰がバカだバカ村コラ! お前だって今日の投球内容いいじゃねぇか!」

「え、ありがとう……」

「僕は?」

「降谷もよし! ただスタミナがまだまだだな!」

「それはわかってる」

「わかってんなら伸ばせ! じゃねぇと沢村にエースナンバー奪われっぞ!」

「それもわかってる」

「は? かしこ」

「佐渡くん。人にアドバイスしてる場合じゃないと思うよ」

 

 胸にくる一言を言われてしまった。亮介さんもいやらしかったが、やはり小湊家の遺伝子。小湊もいやらしい。いつも鋭い正論を叩きつけてくる。

 

「二試合目は大活躍だったけど、レギュラーを掴みたいなら得点圏にいなくても打てるようにならないと」

「得点圏にいるときといないときじゃ別人だよな」

「正直、僕も得点圏にランナーがいる時にサードと勝負したくないし」

「弱気! あまりにも弱気! エースがそんなに弱気なら甲子園なんて夢のまた夢だな!」

「ねじ伏せる」

「え、やめて」

「何がしたいの佐渡くん」

 

 さぁ、俺にもわからん。俺って勢いだけで生きてるところあるし。

 

「そんじゃバット振りに行くわ」

「頑張るね」

「考えたってわからねぇもんはわからねぇ。ならわかるまでできることを貫き通す。手の皮ズリ向けてもバット振り続けてりゃなんとかなんだろ」

「……サードがカッコいい!?」

「あれが男……」

「いや、バカ晒しただけだと思うよ」

 

 小湊お前、俺だけに毒舌じゃね?

 

 

 

 

 

「さて、今日は1試合に4点を稼ぎ、アウトを5つ稼いだヒーローにきてもらいました」

「いやぁ」

「お前このままじゃマジでスタメンで使えねぇぞ」

「あ、はい」

 

 やはりこの男は厳しかった。

 

 御幸先輩と同部屋の俺は、はっきり言って得している。こんなにすごい人の考えを、教えを、誰よりも多い時間受けることができるんだから。

 

「野球はパチンコじゃないんだ。『当たるかもしれない』に大事な席を渡すわけにはいかない」

「はい……」

「得点圏のランナーを返す。これも立派な仕事だけど、チャンスを作るのも同じくらい大事なことだ。一塁だけにランナーがいたら自動的にゲッツーになるようじゃ、よくて代打でしか使えないな」

「それはいやっス!」

「ならわかってんだろ」

「っス! 一打席一打席に命を懸ける所存っス!」

「練習試合、お前を積極的に使うって監督も言ってたろ。期待してるってのはほんとだから、結果残せ」

「期待の応えなきゃ男じゃないっス!」

「わかったら寝ろ」

「っス!」

 

 御幸先輩は時々こうやって俺を真っ向から叱ってくれる。『なんとかなる』と思っている俺の気持ちを引き締めてくれる。だから嫌いになれないんだ。どれだけいじわるで性格悪くて信用なくて野球バカでも、いい人で凄い人だって知ってるから。

 

「必ず当てる4番サードになってみせます!」

「4番は俺だ」

「テメェ御幸ここで会ったが百年目!」

「いつも会ってるだろ」

「それもそうか……」

 

 正論をぶつけられたので大人しくベッドにもぐりこむ。御幸先輩が「なんなんだお前……」と俺に恐れおののいていた。ふふ、俺はやはりすごい人間らしい。

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