誤字脱字の報告や感想よろしくお願いいたします。
爺さんは言った。
「別に今の時代に男が戦車に乗ってもいいんじゃぞ」
爺さんは言った。
「平和な世の中だからこそ楽しく戦車道をやれるんじゃ」
爺さんは言った。
「戦車動かすのは楽しいぞい」
爺さんは言った。
「ちっとは興味もたんか」
「いや、普通に危ないでしょアレ。弾当たった後煙出てるよ……」
「科学の発展は凄いんじゃ」
「謎カーボンだっけ。本当にどうなってるんだ」
「まあ、戦車道やってみれば分かるじゃろ」
「見る専でいいよ」
「……今はそれでいい。その代わりしっかり見ておくんじゃぞ。特に『西住流』と『島田流』は」
「オーキードーキー」
「まさか戦車道ない学校に来たはずなのに戦車道復活するとは……」
教室の隅の席に居る俺は大洗高校の戦車道の隊長を務め、聖マグロなんたら学園との闘いで良いとこまで持っていき、唐突に参加が決定した戦車道の全国大会においても大洗チームの隊長を務めるであろう人間、西住みほを見た。
ここ大洗学園は二年前まで女子校であったが、今年から共学になった。一人暮らしに憧れていた俺は地元を離れこの学園艦に引っ越して来た。数ある高校から俺がこの学校を選んだ理由はただの一つだ。
大洗学園は戦車道をやっていない。
昔から爺さんに戦車道を勧められてきた俺はその反抗心故か戦車道の「見る専勢」になっていた。別に見ててそこまで興奮するわけじゃない。ただ「今こうすれば良かっただろうになあ」とか思ったりすることがあるだけだ。去年まで女子高だったこの高校を選ぶのはどうなのかと迷いもしたが戦車道をやっている高校に入学しようものなら爺さんを筆頭とする戦車道大好きなmy famillyが無理やり俺をその輪の中に引きずり込むので妥協だ。
「しかし男子が俺だけってどうなのよ。共学になったのに男は興味ないってか? そもそもなんで乙女の嗜みのはずの戦車道が行われてなかったこの学校に大量に女子が入ってるんだ。もう共学になってから二年目だし少し男子いても良かったろ」
そんなことを一人呟いてたら俺の視線に気づいたのか西住がこちらを見てくる。俺はそれを見てさっと視線を外した。
……正直気まずい。
西住みほは高校二年生になってからこの学校に転入してきた。新入生に男子が俺しかおらず、今以上に捻くれていた俺は見事1年をぼっち道で駆け抜けた。二年になり、いきなりの転入生。西住は最初に色んな人に話しかけられていたがコミュニケーションが苦手なのかあたふたしており、しだいに皆離れていった。結果俺と西住はぼっち同士となった。
俺は女子と話せないわけじゃないが学校で男子が俺だけであるので場違い感を感じたというか、とにかく周りの女子の輪に入ることが出来ずにいた。二年になってからもう少し輪を広げてみたいと思ったのだがこれが中々上手くいかない。
西住に友達が出来る前に俺は話しかけられたことがある。それまで何度かちらちら見られていたことは知っていたがそれは別に西住だけではない。多くの生徒がそうしてた。そりゃそうだ。女子校にいる新任男教師を見てるようなものだろう。
余談だが女子校の男教師は若けりゃ顔が良くなくてもモテるらしい。ラブレターやチョコを貰うこともあるそうだ。おじいちゃん先生は愛されキャラとして馴染むとか聞いた。いつか顔が良くない俺でもモテたりするのだろうか。
いや、希望的観測はよくない。光を見た後に見る闇は特段に怖いのだ。
俺は虚ろ目で窓の外を眺めながら西住との思い出を振り返る――――
「え、えええと。すいません!」
「え、何々なんなの」
昼休み、多くの人間が学食を食べに食堂へ行く。これは新入生の恒例行事らしい。必然と教室に残る人間は限られる。そんな中俺はお手製のおにぎりを頬張っていた。そんな時、不意に西住が話しかけてきた。
「
「うん。そうだけど」
「私西住みほっていうんですけど、その」
「西住さんね。覚えた」
「あ、ありがとうございます! それでその、私とご飯食べて貰ってもいいですか!」
「別にいいけど声は少し落とそうね。皆こっち見てる」
「ごめんなさい……。私弁当こっちに持ってくるよ」
そして、空いていた俺の隣の席に座った西住はというと。
「……」
「……」
「「……」」
キーンコーンカーンコーン
俺たちは一切喋ることなく昼休み終了のチャイムを聞くことになった。
「あの、今日はありがとうございました!」
「別に何もしてないけどね」
「いえいえ! 一緒に食べてくれただけでも嬉しかったよ。今度は少し話せたらいいな」
「あ、次があるのね。いいけど」
「誕生日の話とかどう? 確か下田君って誕生日4月2日だったよね。私10月23日なんだ」
「凄い会話デッキの切り方だな。びっくりした」
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいって」
次の日、西住はまたもや俺の隣で弁当を食べていた。
「私てんびん座なんだよ」
「お、おう」
それがどうした? とツッコミたいがまた謝られたらこっちが気まずいので言わないでおく。
「そういえば4月2日って一年で一番誕生日早いよね」
「そうだな。そして皆春休みの宿題が忙しくなる時期だから俺の誕生日なんて記憶にも留めてないよ」
これあるあるだと思う。長期休暇の終わり間近が誕生日の人間は誕生日スルーされがち。
「ごめんなさい」
結局こうなるのか。でもなんとなく謝ってしまう気持ちは理解できなくもない。というのも中学の頃そんな友達がいたのだ。西住と同じかそれ以上にコミュ障の奴だったな。友達が居なさ過ぎて誰とも遊ばず勉強をし続けた結果県内の偏差値トップの高校に入学してた。今アイツは何してるんだろう。
次の日、また西住は俺の隣の席で食べようとしたが俺の隣の女子は今日からは学食じゃなくて教室で友達と食べるようで空きがない。俺から西住の方に行こうにも西住の席の周りも元々そんな感じだった。いや、入れてやれよ可哀そうに。
とまあ、そんなことも続き結局俺と西住が一緒にご飯を食べることも、会話することも無くなったのだ。そしていつの間にか西住は同じクラスメイトの武部と五十鈴と仲良くなるのであった。
女子の、それも性格の良い人間と友達になった西住はみるみる変わっていった。よく笑い、放課後に一緒に遊ぶ約束までしていたようだ。
俺は「ああ、西住は上手くやれたんだな」と思っていた。思っていたのだが、あることをきっかけに西住のテンションは俺と話した時以下にまで落ち込んでしまう。
「二人とも友達になってくれてありがとう!」
「「こちらこそ」」
めっちゃいい感じに仲良くなってんじゃん。武部と五十鈴の距離の縮め方上手過ぎるだろ。
あれ、生徒会の人間が入ってきたけどどうしたんだ?
「会長……?」
「なんでしょうか……?」
ちらほらと不思議に思うクラスメイトの声が聞こえる。それまで楽しく話していた西住達も生徒会の3人を見た。
「やあ! 西住ちゃん」
「ほえ?」
いきなり会長から名前を呼ばれ戸惑う西住に武部が「生徒会長、それと副会長と広報の人」と教えてあげる。それでも頭からハテナマークを出していた。
「少々話がある」
川嶋広報はそう告げると西住を教室の外へ連れ出した。
そして、西住が教室に戻ってきた時、彼女の目は死んでいた。
一体何があった!?
『戦車道、それは伝統的な文化であり、世界中で女子のたしなみとして受け継がれてきました。
礼節のある、淑やかで慎ましく、そして凛々しい婦女子を育成する事を目指した武芸でもあります。
戦車道を学ぶ事は――』
「なんだこの名演説は。しかも凄い特典もついてくるみたいだし。パパネット高田もビックリのスピーチだよ」
全校生徒が体育館に集められていた。そしてこれからの選択授業のようなものを決めるらしく、各科目の代表によるスピーチが行われていたのだが、最後にまさかまさかの番狂わせ。生徒会一行による戦車道の追加を告げられた。館内は大盛り上がり、対する俺のテンションはだだ下がり。これ、もしも爺さんが知ってしまったら……。
何のためにこの学校に来たと思ってるんだ。しかし大洗高校は今年から戦車道を取り入れる言わば無名校。爺さんにバレなければよかろうなのだ。俺は選択科目の内茶道にチェックを入れ、提出した。
その日の放課後、俺は角谷生徒会長と遭遇した。
「君は下田平野君だよね。学校唯一の男子生徒の」
「そうですよ。角谷会長の今日の演説は凄かったですね」
「いやーそうだった? 照れるなあ」
「戦車道、今年から始めるんですね。会長もするんですか?」
「そうだよー。君は茶道を選択してたね」
「お茶好きなんですよ」
「へえ、戦車は好きじゃないの?」
「別に、爺さんが大好きだったので時々戦車道の試合を見るくらいです。他の人もやってるでしょ」
「そだね。で、そんな君にあたしが言いたいのは」
角谷会長は干し芋を一かじりするとこう言った。
「男とか女とか関係なくさ、いつでも戦車道に来てよ。取り消しはあたしがさせるから」
「その件は持ち帰って慎重に考慮したいと思います」
後日丁寧にお断りさせていただきます。
「ははは。今はその気はないってことね。いいよ。あたしが言いたかったのはそれだけ」
別れ際に角谷会長はたったったっと小走りで俺の前にやって来た。夕焼けをバックに映す真っ赤なツインテールは魅せるものがある。角谷会長は何を言うのだろう。
「良ければ西住ちゃんに言っといて―。『戦車道やって』ってね」
「え、凄く嫌なんですけど。言いませんよそんなこと。もしかして彼女があんな顔したのもあなたの仕業なんですか」
「んじゃ、おねがいねー」
「あ、ちょ」
言うだけ言って角谷会長は方向転換し、走り去っていった。西住への伝言を頼む際の会長が若干悲しそうな眼をしていたのは夕日がそう幻覚を起こさせたのだろうか。いずれにしても厄介な事を頼まれたものだ。
今の西住に言おうにも彼女にはもう友達がいる。近寄りがたい。特に武部は恋愛沙汰に敏感らしく変な噂が流れたら嫌だ。
そもそも俺は大洗で戦車道をやらない方法を考えることで精一杯なのだ。どうしたらあの爺さん、いや家族にバレないか。もしくは戦車道をさせる気にしないようにするか。……だめだ。学園艦をマジックミラーで囲って伝播遮断するくらいしか思いつかない。発想力アンコウかよ。
次の日、俺は結局西住に会長の言葉を伝えなかった。三人の会話の内容によると、西住は戦車道を選択しないらしい。どうしてだろう。西住は「西住流」の人間じゃないのか? 生徒会が昨日ああ言ったのは西住が西住流の者だったからと思っていたのだが。
疑問には思ったが選択科目は基本自由。縛り付けるなど会長の意思でするのはありえないであろう。十中八九本人に特別な理由があるのだろうから他人が関与するものではない。
この日は俺は昼飯のおにぎりを作り忘れていた、というか寝坊していた。登校時間には間に合ったけどね。そんなわけで俺は学食を利用することにしたのだ。
ふむ、意外とメニューが多い。
俺は結局適当な食べ物を取って食べ始める。
「選択何にした―?」
「私戦車道!」
「私も—」
あの演説の熱がまだ冷めてないのだろう。いつまでそのやる気が続くのか。意外と集まるのは少人数だったりして。
元々大洗学園は長い間戦車道をやってこなかった学校だ。見つかった戦車が少なくても不思議ではない。その場合例え多くの人間が集まったとしても戦車に乗れる人間は限られる。
「男子戦車道って、確かに聞いた事ないよねー」
ふとそんな声が聞こえてきた。そうだよ。爺さん聞いてくれよ。
「男子と戦車って、何かミスマッチー」
え、それはどうなのか。元々戦争では男性が戦車に乗って戦ってたんだぞ。競技の影響力って凄まじいな。
あれかな? 女子プロレスの中に男子が入ってきたって感覚か、それただのプロレスじゃねえか。
そんなことを考えていると俺の後ろの席に西住一派が座ってきた。お前らも学食使うのかよ。というか俺に気づいてない? ならば逆に好都合だ。ひっそりと食事を終えてバレないタイミングでこの場から離れよう。
「あ、帰りサツマイモアイス食べてく?」
「大洗はサツマイモが名産なんですよ」
「あ! 知ってる! 干し芋とか有名だよね」
「一部では乾燥芋とも言われているらしいよ」
よし、抜けるならこのタイミングか。俺は皿が乗ったトレイを持ち、席を立ちあがる。その時だった。校内放送が入った。
『普通一課二年A組西住みほ普通一課二年A組西住みほ、至急生徒会室に来ること。以上』
「ど、どうしよう……」
「私たちも一緒に行くから!」
「落ち着いてくださいね」
うーん。これ完全に戦車道案件だ。西住が戦車道を選択しなかったことをツッコまれるんだろうな。こうまでして勧誘するのは西住が戦車道経験者であり、「西住流」の人間だからに他ないだろう。
あれ、一応西住流の人間は知っていたはずだが……。俺の知っている現在の西住流の学生はもっと髪が黒くて学年は俺の1年上、そして何よりおどおどしておらず、キリッとした表情をしている人間だ。名前は知らん。
てかこれ完全に公開処刑じゃん……。完全に引き込む気だこれ。
「あれ? 下田君じゃん!」
「え?」
心の中で念仏を唱えていたら後ろから話しかけられる。
武部か。西住も俺を見て目を大きく開いていた。
「下田君もここに来てたんだ……気づかなかったよ」
「下田君っていつもおにぎりばっかり食べてるよね。今日はなんで学食なの?」
「まあまあ沙織さん。色々事情があるのでしょう。それより私たちは行かなければならない場所があるでしょう?」
「別に変な理由とか無いんだけどな。ただ今朝作り忘れただけで」
「あ、その話今度詳しく聞かせて! 本当はずっと話してみたいって思ってたんだから」
「詳しくと言われても何もないんだが」
「あ、あの! 私も後で下田君と話してみたい、です」
「でしたら私も是非お話させていただいても?」
「はよ行け。それと西住」
「え?」
「生徒会の前であまり力むなよ。二人が付いて行くんだろ? 安心して行け」
「う、うん」
それだけ言うと俺はトレイを片づけその場を去った。本来だったら俺から直接西住に言っておいた方が心の準備期間も出来ただろう。だからこれは一種の贖罪だ。いや、食材も何もない。ただ俺は彼女の願いを聞き、それらしいアドバイスじみた言葉を投げかけたに過ぎない。
しかし、そんな俺の言葉でもほんの少しでも彼女を安心させる手伝いが出来たのなら嬉しい。
生徒会室から出てきた後の西住は清々しい顔をしていた。結果はあの表情を見れば分かるだろう。
そして俺は楽しく話していた3人を待っていたのだが彼女たちはその楽しさ故か全く俺に気づかずにいた。え、話しかけやすいようにと思って生徒会室の近くの廊下で立っていたんだけど。目の前を笑顔でスルーして行ったぞあいつら。
「あらら。フラれちゃったね下田君」
「別にそんな関係でもないですよ。ただなんとなくここに居たかったんです。……自分で言っても苦しいですねこの言い訳」
「あはは。そだねー」
「まあ、これで大幅に戦力強化されたでしょう。応援してますよ、見る専として」
「あたしとしては君が入ってくれるともっと嬉しいんだけどねー」
「高校の選択は3年間茶道にするって決めてます」
「貴様会長の誘いを断るのか!」
え!? この人いきなり口を開いたかと思ったら叱責飛ばしてきたんだけど。こりゃ西住も結構圧かけられてるな。
「まーまーいいって川嶋。元々戦車道て女子がやるもんでしょ?」
「確かにその通りですが……」
「昨日も言ったけどいつでも席は用意しているからね。遊びに来てよ」
「……会長はなんで俺の事をそんなに気に掛けるんですか?」
「楽しみたいからだよー。ほら、行くよ」
「「はい」」
「じゃねー」
角谷会長は手を振って行ってしまった。「楽しみたいから」か、単純すぎる回答に戸惑ってしまった。別に俺が居なくても楽しめるだろうに。
あれから何日経っただろうか。大洗高校は聖グロリアーナ女学院に練習試合を持ち込み、接戦を繰り広げた。アホみたいな塗装をしてた大洗高校は大分アドバンテージを取られていたようだがよく殲滅戦で1対1までに持っていけたよ。その試合を見て少しだけ、少しだけだが自分の心の中で熱くなっている何かを感じた。
「聖グロリアーナ、略して聖グロ……セグロ……マグロ、じゃなくてあれなんだっけ。聖マグロ学園? 学院? 名前なんだっけ……」
まあ、いっか。