作者はcodではいつも狙撃銃を使うのですが狙撃がそこまで得意じゃないので近距離で敵倒してたりします。主人公の間隔が分からねえ。
幼い頃から射撃大会に何度も出た。その時に気を付けたことがいくつかある。
一つ、体調管理。二つ、睡眠時間。三つ、イメージトレーニング。四つ、リラックス。そして最後に「今度こそ勝つ」という闘争心。
神様は平等に才能を与えない。例えそれが努力の果てに辿り着いた力であっても、才能は努力の過程で真の姿を取り戻していく。
俺には寝起きの時にのみ覚えている記憶といものが確かに存在する。夢の内容だけではない、本物の記憶。忘れているということだけを覚えている。そして俺はその記憶を思い出す度に何故か涙を流している。
ペロリと涙を舐めた。胸の奥が熱くなるのを感じる程の敗北の味だ。
「相手の作戦は分かっている。正直言って俺達が一番苦手であろう質量作戦だ。しかしこのような大ピンチには歴史に学ぶのが一番だ。でははい質問」
俺は五十鈴にアンチョビさんから譲り受けたスペアの指差し棒を向けた。
「ソ連VSフィンランドの冬戦争において圧倒的数量で不利を取ったフィンランド軍が取った作戦とは?」
「……すいません。存じていません」
「了解。じゃ、冷泉正解をどうぞ」
「出没、撤退を繰り返し吹雪を待ち、吹雪の日に慣れていないソ連軍を現地人でも迷う森に誘導したり、狙撃などの攻撃を仕掛けた」
「ビンゴ。流石だな」
「でもさ、私達の試合では吹雪なんて吹いてないしそもそも慣れてないよ」
「そうだ。で、この場合、俺達がこの歴史から学ぶべきことはなんでしょう。はい西住」
「『自然を利用する』、かな?」
「正解」
優花里が目をキラキラさせて拍手をしている。完全に弟分だ。
「しかし、今回それも望めないとしたら、更に抽象的に考えよう。例えば、『相手の作戦を利用する』とかな」
「でもそれが出来たら苦労しないじゃない」
「そうだ。でもそれが出来ないと俺達は絶対に勝てない。連弩も力も足りてないからな」
「はっきり言われると傷つきますがその通りですね……」
「俺達は賭けを行うしか勝算はないってことだ。二つのな」
「賭け、ですか」
「ああ。とても厳しいものだが、上手くいけば最も楽に勝てる」
「上手くいかなければ?」
「西住の咄嗟の判断でなんとかしてもらう」
「ええ……」
いやだってそれしかないじゃん。ぶっちゃけ俺いなくても西住が持ちうる全ての力を発揮すれば結構簡単に勝てたりしそうなくらいだ。
「それでその賭けって?」
俺はホワイトボードに水性ペンで書きだす。
「一つ、相手の隊長の指示とは別に独断行動をするがいる。二つ、こちらの動きをなんとか相手に予測してもらう」
「それは、どうして?」
「サンダースはマンモス校だ。それの選抜組、今回戦う相手だな。そいつらとなると自分の才能を過信しているやつらもいるだろう。特にフラッグ車を任せられた奴とかな。それで、優花里の話によると向こうの隊長さんはカリスマ性が強く、優しい性格らしい。そうだよな?」
「はい。とは言っても私が観察した限りでの判断ですけど……」
「となると、フラッグ車の人間は『忠実にサンダースの隊長の命令のみを守る』、もしくは『より気に入られようと、自分の判断を信じ独断行動をする』かのどちらかだろう。今回は後者に賭ける」
「どちらにも対応すればいいんじゃないの?」
「無理無理。対応するには車両数絶対に足りない。それに俺は後者の方が可能性が高いと思っている」
「……相手には絶対的な信頼を寄せられているスナイパーが存在するからか」
「そうだ。意外かもしれないが狙撃というものは攻めではなく防衛において真の強さを発揮する。的が近づいてくるわけだからな。であれば少々無謀なことをしてもいいという思考に至るんじゃないか?」
「……確かに。その可能性はあるね。でも二つ目の賭けの理由は何?」
「先ほども言ったが自然を利用することで数的戦力差は少なからず縮まる。だが、この場合の自然はnatureの自然に限らない。流れ自体を利用するんだ。例えば相手が独断行動に自信を持つきっかけって何があるだろうか。腐ってもフラッグ車。自ら体を相手に晒すまでのことはしないだろう。だが、何らかの形で相手の行動を読むことが出来れば、より、手柄を立てやすい動きができる。逆に言うとそうでもない限りマンモス校の代表の人間は迂闊な行動を出来ない」
「でもそんなのどうやれば――」
「それは分からん。だが、最初から警戒しておいてこちらの変則的な動きに対して相手の動きが上手く行き過ぎている場合、それが一番のチャンスだ。そこで武部、お前の出番だ」
「へ? 私?」
「そうだ。通信主として作戦を皆に伝えるんだ。敵に悟られない形で、そして西住はブラフの情報を相手に渡す。そうして釣れたフラッグ車をズドンだ」
「そんな上手くいくかなあ」
「武部なら出来るさ。お前には才能がある。恋愛以外のな」
「ちょっと! 一言余計!」
「冗談だよ」
ぶっちゃけこの作戦の本質はサンダース戦におけるものではない。寧ろその後だ。実力ある高校の代表は他校の試合を観戦するだろう。そしてそういう人間ほど「最初から全て掌の上だった」ことに驚愕し、警戒する。例えば黒森峰の西住の姉とかは確実にそうだろうな。なんせ実力が確かなことを知っている実の姉なのだから。
狙撃兵としてサバゲ―やFPSをよくやっていると自ずと見えてくるものがある。「全てを見通された人間は自分自身を疑い始める」それが他人の場合であってもそうだ。逆に「自分はそうなるまい」と思った時ほど危険だ。
俺がよくやる戦術はこうだ。わざと敵を倒さず、敵の進行方向に弾を撃つ、それを何度も続ける。やがて自分で考えることを放棄した敵は仲間に頼りだす。不安になればなるほど、精神的にだけではなく、身体的にも体を近づけようとするのだ。そうすれば敵自ら位置を炙り出したようなもの。まとめて倒す。
つまりこの試合は大きな宣戦布告なのだ。
決勝戦で戦うであろう黒森峰以外へのな。西住の姉貴は西住流の考えに基づいて今までやってきて、勝利してきた。例え自分が信じられなくなってもその信念を曲げるわけにはいかない。だから決勝戦は決勝戦で考え直さないといけない。
「それと、これは言っておかなければならないと思うんだが、今回フラッグ車を倒すのは恐らく五十鈴、お前だ」
「どうしてですか? 他の人でもいいのでは?」
「単純な理由だよ。アンコウチームがうちの最高戦力だ。それを攻めに使わないとまず勝てない」
「でも、下田さんも攻撃力の面ではとても強いと思うのですが……」
「俺は他にやることがある。さっき言ったろ? 狙撃が一番力を発揮するのは防衛なんだよ。俺の仕事は狙撃でフラッグ車を守る、場合によっては危険なフラッグ車を見捨て、俺達のフラッグ車を狙いに行く、そういうことに狙撃をするだろう。俺はそいつを叩く」
「……ということは下田殿はナオミさんとの戦いに集中するってことですか」
「そうだ。だから俺は今回倒す戦車は多分一両だけになるな。もしかしたら早い内に倒してしまって他の戦車も倒してその後撃沈って感じもあるだろうが」
「そこはちゃんとやられるのね……」
「当たり前だろ。こっちは機動力ほぼ0なんだからな」
運転技術はこの数日じゃあまり身に着けられなかった。残念。
「下田殿の実力を疑うわけではないのですが、本当にあのナオミの相手を任せても大丈夫なのですか?」
「出来ることはやる。でもどうしても無理ならその時また考えるよ。サンダースで普通の射撃をやった時には俺の方が実力は高かったと思う」
「そうなんですか……凄いですね」
「俺は今まで本物の銃を扱っていたからな。完成度高かったとはいえ比較的安全に作られたやつだしその分やりやすかった」
もちろんサバゲー等では実際の銃は使ってはいないが。
「最後に、西住、お前の意見を聞きたい」
「私?」
「そうだ。隊長はお前だし大洗の最高戦力もお前だ。その意見が最優先でないといけないはずだ」
「そうだなー……うーん。よく分からない。でも、この方向性でいいとは、思う。でも他の皆が賭けに納得するかな」
「それはしてもらわないと困るが、如何せんまだ出会って時間があまり経っていない。信頼関係が築かれるのはまだ先かもしれない。ぶっちゃけ言わせてもらうと、誰か1チームを自由にさせて、撃破されるのを見せつけるのもアリだと思っている」
「そのやり方はしたくない。出来るなら協力し合って、犠牲を出さずに勝つのがいい」
「了解した。でも本番で切羽詰まった時、そういう戦い方もあるということを頭の隅に置いておいてくれ」
「……うん」
西住は善良な人間だ。俺のこんな卑劣な考えに賛同しないのは分かっている。だが、西住流と違って自由な思考ができるのが西住みほだ。それに犠牲というもう一つの選択肢を用意することでより、強くなるのは想像に容易い。
俺が出来ることは少ない。だから力を持った人間の手伝いくらいはしなければならない。俺は西住が思いつかないことを片っ端から伝えないとだめなのだ。例えそれで俺が傷ついたとしても。
「例えば、例えばなんですけど。一両犠牲にするならちなみにどれを……?」
「八九式」
「即答!?」
あたぼうよ。あんなの他にどうやって使うんだ。
「――――これで話し合いは終わりにしたいと思うが、何か意見出したい人いるか?」
「特にはないよ」
「そうか。それじゃ俺から一つお願いがある。武部」
「私?」
「今日から本番の日まで冷泉と一緒に寝てくれ。本番で冷泉の体調が悪いとか言われたら敵わん」
「……私をなんだと」
遅刻常習犯。
「んもー仕方ないなあ。麻子! 早寝早起き頑張るよ!」
「嫌だー」
武部のおかん力ヤバい。
単位を落とさない程度に頑張ります。