主人公の昔と今の性格の違いに目を向けていただけれるといいかと。
ジリリリリリ!!
「うるさい……」
ガチャ!
「あと5分だけ……」
ピーンポーン
「……誰だこんな朝早くから」
ガチャリ
「おはよう下田君?」
「えーあー、にしず、み? それに武部、れいせん……なんで来てんの」
「ちょっと大丈夫? もう8時だけど。もしかして寝起き?」
「んー? ああ、今日は学校だったな……」
「ほれみろ沙織。人間は朝早く起きれる生き物じゃない」
「いや、ちょっとおかしいよ。本当に大丈夫?」
扉を開けると制服姿の西住、冷泉。武部がいた。え、今何時なんだ?
「ああ、そうか。もう出る時間なのか。早く着替えなきゃ……」
振り返り、制服に着替えようとしたその時、意識が一瞬飛んだ。体が倒れる。膝のガクッという感覚によって意識は戻る。
「下田君!?」
西住が俺の体を支えた。大丈夫。大丈夫だから。
「先に行け。俺は後から追いつく……」
「それ絶対にこないやつじゃん! ……もしかして」
武部が俺の額に手を当てる。西住、離してくれ。俺は着替えなきゃ。
「……少し熱い。風邪かも」
え? 風邪だと。俺は今のところ高校に入って皆勤賞なんだが。長期休暇にも体調を崩した日はない。でも、そっか。こういう日もあるらしい。
「取り合えず、寝かせないと。下田君、入るね」
返事を聞く間もなく、西住は靴を脱ぎ、俺を引っ張って家の中に入ってくる。西住が来るのは2回目だろうか。それに続いて他の二人も入ってきた。
「お前らは学校にいきなよ」
「私は今猛烈に眠たい。沙織の補助がないと歩けないほどにな」
「だめ! 今はしも……平野君の看病をしなきゃ!」
「武部、お前こそ風邪じゃないか? 顔赤いけど」
「う、うるさい! 平野君呼びにするって決めてたのにすっかり忘れちゃってたから……じゃなくて! 別に風邪なんて引いてないから!」
「うわぁ、武部の声がハウリングしてる」
「あ、ごめん。大声出しちゃった」
「えっと、ベッドに寝かしたいんだけどどこにあるの?」
「ベッド……あっちだ」
俺はベッドがある部屋を指さす。そしてその部屋のベッドに寝ると、幾分か楽になった。
「最近下田君無理してたんじゃない? 戦車探したり、操縦の練習も朝早くから。そして作戦も考えてくれてたし」
「あー、確かに最近の睡眠時間は短くなってたかもな。それに今日は2時間睡眠だし」
「2時間!? 何してたの? 昨日は疲れてすぐ寝なかったの」
「鉄は熱いうちに打てって言うだろ……。一人で反省会的なのをな」
「もう! 無理しすぎ! みぽりん。私今日一日学校休む。みぽりんは麻子を連れて学校に行ってよ。私こう見えても女子力高いから看病は得意なの!」
「女子力といかおかん力……」
「うんうん。私も一緒に看病するよ。麻子さんごめんね」
「いや、私は別にいい。戦車道で優勝したら遅刻欠席も取り消されるしな。それよりあのソファーが私は気になる。きっとよく眠れる」
「はいはい。麻子は寝てていいよ。それじゃ私学校に連絡入れるから!」
「私はタオル取ってくるよ。あと、必要なもの家から取ってくる」
あーだめだ。皆の声が途切れ途切れになってる。意識を保つのが困難になってきた。もういいや。さよなら俺の皆勤賞。
俺の意識は完全に深い海の底へ行った。
昔のことだ。俺が中学の頃、俺の周りには色んな友達がいた。多分だけど同級生の過半数の人間と交流を持っていたと思う。
「平野! 今回のテストどうだった?」
「安定の学年ワースト30入りだ。そっちは?」
「中の中って感じ。ふつーだったよ。それにしても平野って本当に勉強苦手なのな」
「しないだけだ。それにわざと間違えて面白い回答書いたのもあるしな」
「それ抜きにしても低い方だろー」
「それはある」
「自信満々に言うなよ」
二人して笑った。そうしてると、他の皆も集まってくる。
「あ、そうだ。今度平野の家行ってみたいんだけど。いつも集まる時他のとこじゃん?」
「あ、俺行ったことある! めっちゃ広かったよ」
「そうなの? 見てみたいわ」
「いや、でも遠いから。集まるのに躊躇った理由はそこなんだよ」
「でもでも私も一度見てみたい」
「俺も!」
「別に面白い物なんて何もないんだけどな。でも、そうだな。たまにはそれもいいか」
「やった!」
「すっごーい!」
「welcome to ようこそ下田パーク」
「本当に広いな。親どんな仕事してんの?」
「分からんけど戦車道関係。我が家は代々そんな感じだよ」
「へー。じゃあ平野君もそっちに行くの?」
「いやいかない。俺戦車道嫌いだし」
「えーなんで。かっけえじゃん。俺は好きだよ。一回黒森峰の戦車道生で見て感動したし」
「いいから。俺は嫌なの」
「ふーん」
それにしても1,2,3,4……8人か。多いな! 結構広めの家とはいえ想定以上すぎる。
俺はお茶を用意しようと一旦俺の部屋に友達を連れてきた後部屋を出た。
「なんじゃ。友達連れてきたんか」
「うん。なんか沢山来た。ダメだった?」
「いやそんなことない。ゆっくりしてもらいなさい」
「そう言いながら『戦車道入門』の本を渡さないでくれる?」
「……その友達の中に女子はいるか」
「うわおっさんくさい台詞……。女子は3人いるよ」
「そうか……じゃあ」
「じゃあ、じゃないよ。言わないったら言わないからな!」
「……」
「そんなハムスターみたいな目をしないでくれよ……」
自分の祖父が孫にしていい表情じゃない。さしずめ「お願い! ヒマワリの種ちょうだい!」と言ったところか。嫌です。
しょんぼりとした爺さんの横を通り、麦茶をコップと共に持ってきた。
「うーす、茶だぞー」
「平野お前すげえなこれ!」
「は?……っておい!」
8人がかりで俺の部屋を物色していた。特にベッドの下……そこは不味い! エが付くものは持ってないがそれとは別に不味いのだ。
「モデルガンこれ何個あるんだ?」
「『サバゲー入門』『サバゲー中級者入門』『元自衛官が教える戦場での立ち回り』まだまだいっぱいある」
「漫画もいっぱい!」
「ん? これって」
「おい、それだけは!」
そういってアイツは俺のベッドの下からスケッチブックを取り出すと、開いて見せた。
「馬鹿……!」
他の7人も俺を押しのけてその内容を見ようとする。もうやめてくれ……。
「平野っち絵上手くね!? マジヤバなんですけど!」
「これ知ってるべ! 進撃の巨人ってやつっしょ?」
「え! 皆見てよまだまだ沢山スケッチブックが――」
その時、俺は理性を捨てた。
パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン
「いっでぇ!」
「何!?」
俺は両手に持ったエアガンで8人全員を3秒かからずに撃った。どこから取り出したかは敢えて言うまい。
「それ以上他のスケッチブックを開くことも、ページをめくることも許さん。次は目だ」
「「「「「「「「ごめんなさい」」」」」」」」
「分かったならいいんだよ。あと一発だけで許してやる」
「「「「「「「「ええええええ!!」」」」」」」」
人の絵を見ていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ。
嗚呼、なんて恐怖政治……。
「平野って結構話す割には自分のことはあまり話さなかったから新鮮だったわ」
「そうそう。なんか常に自信満々って感じだし」
「勉強も出来ないし部活もすぐやめたくせにさー」
「うるせえ! お前らまた撃つぞ!」
「はいはい動かないよ……で、まだ?」
「あと少し」
「……もう疲れたっす」
只今俺はデッサン中である。誰を? わが友をだ。わが友と言えばバトスピブレイヴはいつヒロインは報われるんですかねえ……。
それはそれとして。
「出来たぞ」
「見せて見せて!」
「おおおおおお!!!」
「ほいよ。誰でもいいからいるなら貰ってくれ」
争奪戦が始まった。実は最近はデジタル絵にはまっており、アナログで描くのは久しぶりなのでノリノリだったりする。
「そういえばお前一回この家来た事あるんだよな? こんなに面白いんなら教えてくれよ」
「いや、前は庭で遊んだだけだったから」
「庭で? 何したんだ?」
「サッカー」
「庭でサッカー!?」
「そんなに大きいの!? ちょっと見てみたい!」
「あああもう! うるさい!」
「じゃあ、こうしよう。今から自称勉強出来なくはない下田君に簡単な英語の質問をします。それにちゃんと答えられたら大人しくここで遊ぶ。出来なかったら庭で遊ぶ!」
「いや別にここで遊べって話でもないけど」
「え? もしかして自信ないの? 今まで散々言ってきた癖に?」
「あ? やってやろうじゃねえか!」
「ほいきた。じゃあ質問します」
「おん」
簡単な質問か。英語は比較的得意教科だからなんとななるだろ。
「この部屋に爆弾が仕掛けられました」
いきなり物騒だな!
「貴方は戦車で犯人に報復しなければなりません」
?????
「その時貴方はどう思いますか」
「え、a……hap」
「hap? happen? 」
「happy……」
俺はhappy以外の感情を表す単語を知らなかった。
「ぶははははははは!!!」
「叩くな叩くな……」
「だって! あんなに意気込んで! ぶふっ」
「うるせえ! 見せればいいんだろ! 庭を!」
「よっしゃ来た!」
「でっけー!!」
「東京ドーム何個分だこれ」
「分からないけど2個分くらいだろ」
「そんなわけないじゃん……」
そうなの? そもそも東京ドームってどれくらいの大きさなんだ。
「早速遊ぶか」
「せっかくなら面白い遊びしようぜ」
「面白い遊び?」
「鬼ごっこだ」
鬼ごっこ? なんで?
「普通の鬼ごっこじゃないさ」
「え?」
「その名も『人間ごっこ』」
「俺達人間じゃなかったの!?」
「一番怖いのは鬼ではなく人間なんだよ……」
「何言ってんのよ」
「普通の鬼ごっことは違う点が一つある。触っていいのは首だけ。あと触る時は呼吸を強めること」
「過呼吸なるだろそれ」
「そうなったら『次の型、どうぞ』だよ」
「もしかして鬼滅の刃かよ」
「え? あ、『過呼吸、次の型、どうぞ』か。くっだらね」
「上手い!」
美味い! じゃねえ上手いだ。いや、上手くもねえ。
「何でもいいから何かやるならさっさとしようぜ」
「んじゃ普通にサッカーするか。この中でサッカーのルール知らないやついるか?」
基本的には手を使わず足でボールを動かし、相手ゴールにボールを入れるスポーツだ。オフサイドとか考えなければそこまで難しいルールではない。
「スラムダンク読んでたから多分大丈夫」
「いやそれ全然大丈夫じゃねえよ」
むしろ使っていい部位逆だよ。
「左足は添えるだけ……」
「やかましいわ!」
右足だけで運ぶハンデ辛すぎない?
「取り合えずやってみるぞおおおおおお!!!!!」
「今日は楽しかったぜ。またよんでくれよな」
「私もまた来てみたい!」
「俺も!」
「あたしも!」
「せめて次はこんな大人数じゃないようにしろ。……別に来てもいいからさ」
「んじゃさ、今度頭いい人も何人かよんで勉強会とかどう?」
「話聞いてた? これ以上追加する気かお前ら」
「こんなに広いんだから多い日も安心!」
「紙オムツじゃないんだからそんなわけありません」
確かに楽しかった。休み時間に騒いでいたのがそのまま時間が伸びたような感じだ。「俺達を作った奴はこう考えた。色んな奴がいた方が面白いってな」ってのは本当なんだ。
それにあれだ。俺は高校生になったら地元を出ていくつもりでいる。こいつらと遊べるのもずっとじゃない。地元の高校であればすぐに集まったりもできるが、県外だとそうはいかない。だから今精一杯楽しんでおこう。
「でも確かに勉強しないと不味いかも……」
そもそも偏差値低すぎて狙った高校を受けれないとなるとそれは最悪だ。
「じゃあ、また今度な」
俺は手を振り、別れを告げた。
「……ん」
「起きた! みぽりん平野君が起きたよ!」
「えっ! だ、大丈夫? 気分はどう?」
「今の大声のせいで頭がいてえ」
「「ごめん(ね)」」
「嘘だよ。その感じだと看病してくれたんだろ? ありがとな」
目を開けると俺はベッドに寝転がっていた。そんでもって横で本を読んでいる武部と目が合うと、武部が騒ぎ出す。それに連鎖して西住も駆け寄ってきた。
「おかゆ作ってるんだけど今食べれそう?」
「ありがとう。誰が作ってくれたんだ?」
「一応私達二人なんだけどね……」
「あれ、後一人確かいなかったっけ……って普通に俺のソファーで寝てるし」
「定期的に起きるんだけどね。そして何かする必要があることがあったらそれを教えてまた寝るって感じだった」
「なんじゃそれ」
熱は今あるのか? 武部が持ってきたのか、近くにあった体温計を腋に挟んだ。
・・・37度4分か。安静にしておいた方がいいか。そうだ。確かこの前ダージリンに貰った物の中に英国のお茶に混ぜて飲む薬草があったんだった。結局貰った紅茶全く手つけてなかったしいい機会だ。
俺は起き上がって棚に入っているケースから聖グロ印の付いたカップと茶葉、薬草を取り出した。こういう時どんな格言が使えるんだろうな。
「え? 下田君それって……」
「ん? ああ、これ聖グロの隊長から貰ったんだよ。風邪の時にいいらしくてな。今まで飲む機会無かったからどんな味か結構楽しみだ」
「ふーん……え? ダージリンさんと前に会ったことあるの?」
「うん」
「なんで言ってくれなかったの」
「別に言う必要ないだろ……」
「もう! 平野君は女心が全く分かってないんだから……」
女心とかそういう問題なのかこれ。別に相談するような情報も無かったし良くないか。
「えーと、お湯が沸く前に……おい、武部今何読んでる」
「え」
気づいてしまった。どうせ武部のことだろう。ゼクシイとか読んでるんだろうなと思ってたらどうやら違うようだ。それは……それだけは……!
「平野君って絵上手いんだね」
あの時、俺が地元の友達に見られたそれと同じ物だった。
「おい見るな!」
「ご、ごめん。つい綺麗な絵だから見とれてしまって」
「……そうでもないだろ」
ぶっちゃけ数年前よりも断然今の方が上達してる自信があるし、粗探しも容易だろう。
「そんなことないよ! あ、そうだ。今度私達の絵も描いてよ」
「ええ、面倒くさい。それに達ってなんだ達って」
「私も描いてもらいたいな」
「私も興味はある」
「冷泉起きてたんかい!」
ぬっと出てきたな。それにしてもなんか懐かしい気がするこのやり取り。
「でも、そうだな。看病のお礼に今度描くよ」
その後、西住にダージリンさん達とのやり取りを深く聞かれたのはまた別の話。
ちなみに絵は西住達が帰る前に(何故か俺も含めた)写真を撮り、次の日の夜に一気に描きあげた。
地元の友達の名前を書こうと思ったのですが、ぶっちゃけ今後出番ないんで混乱を防ぐためにも敢えて書きませんでした。
昔の主人公は怠慢なのに自信満々、積極的に馬鹿するタイプでした。
やんちゃしてたって意味ではみほと似てるとこがあると思います。
みほが最初に主人公と仲良くしようと思ったのはそういうとこを見抜いていたという背景があります。