どうやら大洗の戦車に男がいるらしい   作:第六位

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第2話 食事会です!

 男子と女子の友情はありえない、というが果たしてそれは真実なのだろうか。中学の頃の俺はそこそこ友達がいて、その中に女子もいた。互いに恋愛感情は持ってなかった、と思う。しかしこの場合中学生と高校生の違いはとても大きいものだ。高校の方が中学よりも恋愛沙汰について敏感な人間が多いのではないか?

 武部は高校以前からあの性格だったのだろうか。であればいよいよ彼氏がいたことがないことが不思議に思える。もしかしたらずっと女子高育ちだったのだろう。

 現在俺は大洗学園戦車道チームの隊長を務める西住みほから一緒に帰ることを提案されている。きっと俺が生徒会室で余計なことを言ったからだろう。しかしあの恥ずかしがりの西住がそれだけを理由にそんなことを提案するのか? 

 

「えーと、2人でってことは武部とかそこら辺はついてこないってことか?」

「うん。だめかな?」

「とりあえず理由を聞きたい。さっき生徒会室で俺が言ったことは出来れば忘れて欲しいしあまり詮索しないで欲しいんだが」

「聞かないよ。ただ話をしたいんだ」

「話だけなら……ほい、これ俺のライン。追加してくれればチャットで会話出来るぞ」

「文章じゃなくて口で話したいんだ」

「……西住って結構ぐいぐい来るのな。意外だ」

「え、えっとそんなことないよ! ただ……ええっと」

 

 言葉が中々出てこないのか首を四方に動かしたり腕を頭に持ってきたりと忙しいな。姉や兄がいたら溺愛されてそうな可愛さがある。

 

「分かった。そこまで必死に考え込まれると俺の負けだ。一緒に帰ろう西住」

「いいの!? やった!」

「確認するが他の奴らは来ないんだよな? ここまで来たらもう構わんが」

「うん。今日は2人で話がしたいから」

「そうか。ちなみに家はどこなんだ?」

「えーと」

 

 どうやら俺と西住の家は凄く近いことが判明した。登下校ですれ違わなかったのは単純に朝は出る時間が俺の方が早く、帰る時間も俺は西住と違って友達もいないので早いからだろう。自分で言ってて悲しくなってきた。高校に入って初めてのライン交換の相手が西住流の家元の子供だったとは夢にも思わなかった。そもそも男子が俺だけってことが想像しえなかった。

 

 午後になった。不安なことがある日の時間の流れようは体感数倍早く感じる。

 この時ばかりは普段長く感じる授業でさえ一瞬だった。

 そして来た放課後。今日の戦車道は主に戦車の簡易的な修繕や整備の練習らしい。西住曰く、相手の行動を見る時間や、試合中停滞状態になった時、戦車の調子を良くすることをするのとしないのではその後の動きのキレに差が出るらしい。西住は事前にどういうことをするかを戦車道選択者に教えているらしく、今日は西住が抜けても問題ないとのことだ。逆に言うと今日のような日にしか俺なんかと放課後に時間を潰せる日はないようだ。ここまで来ると普段から気を張っているに違いない西住を俺なりに楽しませたいと思った。

 

「ちょっとコンビニ寄ってもいいかな?」

「別に構わないぞ」

 

 西住と共にコンビニに入った。俺は卵や納豆等の食材を買ったのだが……。

 

「一度に買うの多くないか!?」

「えへへ。私コンビニ大好きなんだよね」

「弁当にカップラーメン、ジュース、スイーツ……。もしかしてお前いつもコンビニで食べるもの調達してんの?」

「うん。菊代さんからは止めておけって言われているんだけどね。つい買っちゃうんだ」

「さっき一番くじの方を結構見てたけどそれは買わないで良かったのか?」

「えーと、今日持ってきているお金がそこまで多くなかったから……」

「ふーん。あ、ちょっとこれここに置いとくから見張っててくれない?」

「え?」

「トイレだよ」

 

 俺はコンビニに戻ると自分の財布の中身を確認した。

 

「あまり多くはないが……。あ、そう言えばカードがあったな。確か結構あったはず」

 

 俺は一番くじのコーナーからくじ券を一枚レジに持っていく。3回くらい引いておくか。

 

「お待たせ」

「うん。……えっ!? ボコのぬいぐるみ!」

「あー、なんか買ってみたらA賞が当たった。あとはそんなに大したものじゃないけどな」

 

 俺が引き当てたのはA賞のボコの巨大なぬいぐるみ、D賞のボコのストラップ、F賞の下敷きだった。

 

「見張っててくれてありがとうな。お礼にお前の荷物持たせてくれよ。俺の方が力あるし俺の分と二つ持つくらい全然問題ないから」

「え、でも両手ふさがったらそのボコのグッズはどうするの?」

「俺が持てないことはないんだが、持っててくれると嬉しい」

「ありがとう!」

 

 俺達は持っている物を交換してコンビニを後にした。

 

「下田君ってボコ好きなの?」

「うーん。好きってわけじゃないけどくじは好きだな。当たらない前提で引いて良いやつが出た時嬉しいから。西住はどうなんだ?」

「私はボコ大好きだよ! 何回やられても立ち上がる姿が凄く好きなんだ!」

「ふーん。やられまくってるから包帯巻いてるのか」

「そうだよ」

 

 そこから少し歩くと西住が住んでいるアパートに着いた。取り合えずこの荷物を置いて、そこから帰るか。

 西住の家は散らかっているわけではないがところどころにコンビニの商品が見えることから通い詰めてることが見て取れた。あまりジロジロ見るのは良くないので程々にする。

 

「じゃ、ここに置いていいか?」

「あ、うん。ありがとね持ってくれて」

「いや、お互い様だ。大した話できなかったな。そのお詫びとしてボコ(それ)あげるよ」

「え! でも……」

「さっき言っただろ? 俺はくじを引くのが好きなだけなんだ。勿論いらないなら持って帰るが」

「本当にいいの?」

「ああ」

「ありがとう!」

「どういたしまして。さて、俺はこれで帰るとするよ。何か話したいことあったらいつでも連絡くれ」

「え? もう帰るの? 私下田君の分も御菓子買っちゃったんだけど」

「何それ初耳。別に明日食べれば良くない?」

 

 流石に長時間異性の家に居座るのは気が引ける。

 

「だめ……かな?」

「……はあ、分かったよ」

「やった!」

 

 そんな子犬みたいな目で見られたら断れない。それに今日は西住に優しくすると決めたのだ。

 

「俺の買ったやつ食材だから冷蔵庫入れていいか?」

「うん。いいよ」

 

 冷蔵庫に先ほど購入した食べ物を入れる。……え、ボコ印のプリン、ボコ印のイチゴ、ボコ印のレトルトカレーボコ印の……。こいつボコ好きすぎだろ!

 

「それで、俺は何をすればいいんだ?」

「えっとね、単刀直入に言うね」

「ああ」

「私下田君のことが知りたいの」

「なんだそれ。別に語ることなんて全然無いが」

「私この学校に来て初めてまともに喋ったのが下田君なんだ。最初に一緒にご飯を食べた時私達全然喋らなかったよね。でも不思議と嫌じゃなかったというか」

 

 喋ったのか喋ってないのかどっちなんだ。なんとなく言いたいことは分かるけど。

 

「多分、私は下田君と自分を重ねてたんだと思う。あの頃の私と同じ、周りから孤立していて、なにより」

「西住」

 

 西住がその先を言う前に俺は被せて言った。ここは強く言わなければならないと思ったからだ。

 

「お前戦車道好きか?」

「え?」

「言い方を変える。『大洗チームの戦車道は好きか?』」

「好き……だよ? どうしてそんなこと聞くの?」

「もう一つ答えてくれ。『大洗に来る前の戦車道は好きか?』」

「……好きだったよ」

 

 ひねり出したようなか細い声だった。

 これはきっとその場しのぎで言った言葉じゃないだろう。西住みほが戦車道を避けるきっかけは何か別の理由があるように思える。

 

「きっとお前は前の学校で――」

 

 って、何やってんだ俺。今日はそんなくだらないことを話す日じゃないだろ。西住を問い詰めてどうする。

 

「すまない。話を続けてくれ」

「うんうん。下田君こそ続きを教えて?」

「いや、しかし……」

「私ね、この前聖グロリアーナ女学院と戦っている時、下田君が観戦しに来てたのを見たんだ。色々終わった後急いで近づいたんだけど、その時下田君は凄く辛そうな目をしてた。だから私その時はっきりと分かったんだ」

「……何を?」

「下田君、」

 

 続きの言葉は分かっている。きっと西住は自分と同じく俺が何かトラウマを抱えており、それが理由で戦車道から逃げていた、と言い、その後に優しい彼女らしい言葉を投げてくれるのだ。

 しかし、違うんだ西住。俺が戦車道から逃げているのはそんな理由じゃなくて、ただ単にガキの頃から抜けていない反抗期なだけなんだ。ただ、周りの人間が戦車道に興味を持たせようとしてたからその逆張りをしているだけだ。そんな軽い理由で避けている俺と戦車道の家系で生まれ、小さな頃からずっと戦車道に向き合ってきたであろうお前と同一視されるなんてあってはならない。「避ける」の重さが違う。

 だから――。

 

「本当は戦車道やりたいんだよね?」

「……え?」

 

 あまりの予想外の言葉に俺は情けない声を発することしか出来なかった。俺が戦車道をやりたい? 何故そう思った?

 

「私ね、大洗に来るまで黒森峰で副隊長を務めていたんだけど、黒森峰は戦車道全国大会優勝校の常連だから必然と試合に出るメンバーは厳選されるの。そしてそのメンバーに入れなかった人たちをたくさん見てきた。あの時見た下田君の顔はそれと同じだったよ」

「偶然だよ。俺みたいな人間がそんな人間と同一視されて良いわけがない」

「でも、今日生徒会室で下田君が戦車道の作戦について話してた時、笑ってた。凄く楽しそうな顔してたよ」

「そんなこと……」

「私ね、下田君の事がもっと知りたい。私と下田君は同じじゃない。でも凄く似ているから、もっともっと話したいの」

「……」

「さっき聞いてくれたよね、私が戦車道好きかって」

「……あ」

「私が大洗に(にげ)た理由を話したいの。それが終わったら、一つだけお願いを聞いて欲しいんだ」

 

 西住の意思は固い。撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 か。今の西住が西住流らしい戦い方は全くしてないが、確かに彼女の心は西住流だった。

 こんなの勝てるわけがない。だから、白旗を挙げよう。

 

「聞かせてくれ、西住の話を」

 

 この時の俺は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「え、どうしたの? 確かに自分でも危ないことをしたと思ってるけど……。でもその反応は少し傷つくなあ」

「いやいや戦車道の試合中とか安全とかそれ以前にだな。お前どうやって大雨の中水の中に落ちた戦車の蓋を開けたんだよ。火事場の馬鹿力ってレベルじゃねえぞそれ」

「最近の戦車道用の戦車はそういう風に作られているから……」

「また謎カーボンなのか? そうなのか!?」

 

 西住が言った内容はこうだ、去年の全国大会の決勝戦で大雨が降った。そして両チーム崖で戦うことになった。西住が所属しているチームの戦車が落下、川に沈没。それを見た西住はフラッグ車から抜け出して川に飛び込んでそのまま中の人間を救出、だがフラッグ車の戦車長を失ったチームは動転、そして敗北……。いや突っ込みどころ多すぎだろ! そもそもなんで大雨の日に崖際で戦っているんだよ。確かに撃てば必中なのかもしれないけども! それ相手も同じだから! 河嶋広報くらいだから外すの! 同時に守り弱すぎ! なんなら弾機体に当たらなくても壁崩れて全部仲良く崖下にドボンだろ。こえーよ。

 

「えーと、でそれが理由でお前のチームは敗北し、準優勝となったってわけか」

「うん……」

「んで、それから戦車道から距離を置くことになったってことか。確かに色んなやつから責められそうではあるがな」

「そう。それで戦車道が無い大洗まで来たんだけど……」

「戦車道が今年から追加された、と。何とも不運な……。いや、その後の結果を見れば幸運だったのか?」

「うん。今は凄く戦車道が楽しいし、やっていて良かったなって思ってるよ」

「そうか。それは良かったな」

 

 西住の声が明るくなっていった。俺に対してもこんな顔をするんだな。

 

「ところで一つ質問してもいいか?」

「うん。何?」

「西住は『西住流』の人間なんだよな?」

「そうだよ」

「えらくそれとは違った戦いをするのな。いやまあ、うちの戦車の戦力だと相性は最悪かもしれんが、それにしてもその面影が全く見当たらない」

「そうだね。でも私はお姉ちゃんやお母さんみたいに才能無かったから……。下田君は西住流に詳しいの?」

「んー、どうだろう。有名どころは結構知ってるって感じだからな。西住流や島田流は結構見させられてきた。てか、西住流の人間チェックしてたのにお前の事知らなかったんだが、もしかしたら俺がよく見てたのはお前の姉貴だったのか」

「多分そうだと思うよ。お姉ちゃんは色んなメディアにでてるからね」

「今見ると結構似てるな」

 

 西住を見る。顔は妹の方が優しそうな感じだが、姉の方はきりっとしている。それと、どこかとは言わんが姉の方が大き……いや、意外と同じくらいなのか?

 

「……下田君」

 

 そうやって見ていると西住から睨まれた。やべ、どこ見てたかバレたか? 女の子は意外とそういう視線に敏感っていうしな。

 

「あー、そのなんだ。何か西住から俺に聞きたいことってあるか?」

「昨日の話について聞いてもいい?」

「あー、まあいいか。どうぞ」

「ありがとう」

 

 本当はあまり触れてほしくなかったがこの流れで言わないってのは変だろう。

 

「下田君っていつ麻子さんと会ったの?」

「え、そっち?」

「うん」

 

 ええ……。しかも顔笑ってないしなんなんだ。いくら自分と似てるからってそこまで気にするのか。 

 

「普通に放送で呼び出される前に戦車庫で遭遇しただけだ。あいつ戦車の上でくつろいでたぞ」

「あはは……。麻子さん朝弱いからなあ」

「朝とは」

「でも麻子さんはずっと成績も1位だし凄い人だよ」

「知ってる」

 

 元々名前だけは聞いたことがあった。しかし学校で冷泉を見たのは1、2回くらいしかなかった。

 

「下田君は勉強得意なの?」

「得意じゃないし好きでもない。なんなら大嫌い」

「あ、そうなんだ。でも麻子さんと戦っていたってどういうこと?」

「俺が大洗で一人暮らしをするための条件の一つが学校での成績上位をキープすることなんだよ。一応頑張って2位まで行ったけど、せっかくなら一度くらい1位になりたいなと思って努力したがずっと2位だった。まさか学年1位が不登校の人間だったなんて思いもしなかった」

「私からしたら2位でも凄いと思うよ。でも、そんなに成績良かったらほかの人から勉強教えてほしいって言われなかったの?」

「ないんだな、それが。そもそも俺テストの用紙もらったらすぐにカバンに入れてるし」

 

 それに俺が成績良いのを周りに知られたとして、本当に周りから話しかけられるかは微妙だ。授業でのグループ活動は邪魔にならない程度に参加していた。幸か不幸か俺が今まで一緒に活動をすることになったメンバーは皆優秀で俺が持ちうる知識を見せる機会など無かった。

 

「もういいだろこの話は。1位がアレなら俺も諦めがつくってもんだ」

「あ、ごめんね。それじゃああと一つだけ聞いて良い?」

「どうぞ」

「下田君は戦車動かしたことあるの? あの時『狙撃する』って言ってたと思うんだけど」

「動かしたというか体験会みたいなのに連れていかれたって感じだ。その時蝶野さんが俺に諸々教えてくれたんだよ」

「……あの人の教え方ってなんというか」

「ああ。雑すぎる。『ハンドル切ってGOGOGO!』とか言われて上手く操縦できるわけがない」

「でも、射撃は出来たの?」

「そうだな。元々俺叔父が開いている射撃場で銃撃ってたし、中学の頃弓道少しだけやってたが結構得意だった。厳しすぎて辞めたけど」

 

 体験入部の期間の内に最上級生と同じ実力になっていた俺は足りない筋肉をスパルタで鍛えられた。あの時の俺はいわゆる期待の新人ってやつだったんだろう。顧問の先生は他の1年生そっちのけで俺ばかり鍛えてきた。あの時が俺の人生で一番辛かった時期だと思う。

 

「別におごるわけじゃないが蝶野さんに『才能がある』って言われたから戦車での砲撃の才能もあったんだろうよ。戦車の性能が良かったとはいえ射程距離ギリギリの的を10回連続で撃ちぬけたし」

「凄い。でもよくそんな遠い的に当てようと思ったね」

「蝶野さんが『君はこっちのコースでやってみなさい』って言ったんだよ。最初は普通に近い的だった。今日狙撃するとか言ってたけど性能が違うから出来るか分からないわ。俺何偉そうなこと言ってたんだろうな」

「そんなことないよ。そもそも会長が下田君に聞いたんだし」

 

 それから色々な話をした。西住の乗っている戦車の班の名前はアンコウチームという名前だということや八九式に乗っている人間が全員バレー部だったりとか。一番楽しそうに話してたのはアンコウチームの人間の話だ。装填主の秋山は戦車オタクであり、他人を○○殿と呼ぶようだ。想像ができない。小さい頃から友達多くなさそう。良かったな秋山。アンコウチームにいることで、君はヒーローになれる。既に仲いいっぽいし。

 装填主は地味だがとても重要な役割を担っている。河嶋広報は装填主をやればいいのでは? あの人仕事めちゃくちゃ出来そうだし、単純作業こそが得意分野だと思うんだが。生徒会チームは3人だけってのはほかの二人の役割どうなってるんだろう。

 

 

 

 

「お腹、すいてきたね」

「そうだな。そろそろ俺帰ろうかな。西住は晩飯はどうするんだ?」

「さっきコンビニで買ってきたよ」

「そうなんだ。ところで今日はコンビニ食何日目だ?」

「多分、2週間くらいかなあ」

「まさかのdayじゃなくてweekだった」

「私ご飯作るの苦手だし……コンビニのお弁当美味しいし」

「……はぁ。ちょっと待ってろ。朝弁当用に作った料理が俺の家にある。どうせ俺一人じゃ食いきれないしそれ食べてくれよ。流石に西住の体が心配だ」

「でも悪いよ!」 

 

 そういう西住の顔はとても嬉しそうだった。犬だったら尻尾ぶんぶん振ってる。本当は一人でも食べきれる量だがそこまで食欲があるわけじゃないから西住に食べてもらおう。

 タッパーを二つ用意して家の残り物をいい感じに詰め込んだ俺は再び西住の家の扉を叩く。本来であればスープを晩飯に別に作る予定だったが……。

 

「西住、みそ汁作ってもいい? 材料は持ってくるから」

「材料なら冷蔵庫あるよ。昨日いつか作ろうと思って買ってきたんだ。私も手伝うよ」

「いや、座っててくれ。なんだか怖い」

「……」

 

 20分もすればそこそこのが出来た。出汁を取ってるわけじゃないからそこまでうま味が深いわけじゃないが十分だろう。

 

「いただきます」

 

 不味い料理を作ったわけじゃないが、西住の舌に合うだろうか。少なくとも体に悪い食べ物は入れてないはずだが。

 

「おいしい……なんだか菊代さんを思い出すなあ」

「舌に合ったら良かった。で、さっきも言ってたけど菊代さんって誰?」

「西住家の家政婦さんだよ。よく気にかけてくれるんだ。菊代さんは和食が凄く上手なんだけどその味に似てる」

 

 今日持ってきたのは肉じゃがと白飯とほうれん草とシラスのポン酢漬けだ。肉じゃがには酒を混ぜているから日持ちがいい。ほうれん草とシラスのボンズ漬けは簡単に作れるわりに栄養も取れて美味しい。からよく作っている。

 

「下田君はこの料理はどうやって覚えたの?」

「俺爺さんが無理やり戦車道勧めてくるからそれから逃げるようによく婆さんの方に行ってたんだよ。そして婆さんの料理の味見をしたり、一緒に作ったりして覚えた感じだな。基本的にはあるもので作るからこれといって得意な料理があるわけじゃないが」

「沙織さんも前作ってくれたけどそれより美味しいかも」

「そうか。嬉しいけど本人には絶対に言うなよ」

「い、言わないよ」

 

 

 数日後に西住家に集まったアンコウチームの人間での食事の際に西住がうっかり俺の料理の話をして翌日俺に武部が問い詰めてきた。うん、分かってたよ。西住は臨機応変に対応できる易しくも強い女の子だがうっかり屋であった。「今度私と女子力勝負してもらうんだからね!」とは武部の言葉だ。別に料理出来る=女子力高いってわけじゃないだろ。それだったら某オリーブの王子はオリーブの王女なっちまう。

 意気揚々としていた武部だが、俺が食べていた弁当を使ってなかった予備の割りばしで二口食べるとぐぬぬと唸り声をあげていた。その後はっとして赤くなりながら「これって関節キスじゃん!」と言い、殴ってきた。うーん、可愛い。これは近所のおじ様方に好かれるタイプだわ。




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