どうやら大洗の戦車に男がいるらしい   作:第六位

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第4話 宝探しの始まりです!その2

 夕焼けを背にしたベンチ。写真から読み取れる情報だ。ひょんなことから宝探し、もとい戦車の部品探しが始まったわけだが、これに対してそこまで驚いているわけじゃない自分がいる。というのも、過去に爺さんが俺の初めての自分用のパソコンを買ってくれた時、ディスプレイやマウス、本体等を家のあらゆる場所に置き、探させたことがある。

 何かを得たい時は自ら模索しながら動け、とのことだ。また、パソコンに限らず、色々な物であった。そのおかげなのか、俺は現在では物を無くした時にそれを見つけるのに苦労しなくなった。見つけ方のコツを知ったのだ。

 

「しかし今回は規模がデカすぎないか? 学園艦規模での探し物なんて……」

 

 参った。取り合えず外に出て思考をリフレッシュしよう。それに、誰かに協力をお願いするのなら直接会ってお願いするのが礼儀というものだろう。

 

「外に出たら何だか腹減ってきたな。何か食べに行くか」

 

 少し家から出てぶらつくとどこからかいい匂いがしてきた。そういえば今日はまだ食パンしか食べてない。どこに行こうか……。

 

「あれ、下田君。どこか行くの?」

 

 振り返るとそこには皿を手に抱えた西住がいた。

  

 

 

 

「――というわけで、戦車の部品探しをすることになったわけだが」

 

 西住を俺の家に上げて、戦車探しの件について説明した。

 

「え、もう砲台は見つかったんだよね? それは今どこにあるの」

「蝶野さんの知り合いに戦車倶楽部の店員がいるんだけど、その人に渡してある。昔戦車道が大洗で栄えてた時、あの店は戦車の調整とか部品を売ったりとかしてたらしくて、そのスペースが空いてたみたいでな。お願いしたら引き受けてくれたよ」

 

 流石に無料無料(ただ)じゃ忍びないので取り合えず一週間という契約で2000円払っておいた。これでも安い方だろうが向こうはお金を受け取るのも躊躇っていたので額はこれ以上上げることはしなかった。しかし、流石に戦車道が廃れた今、その調整を詳しく出来る人間はいなくなっており、昔から運営していた店長も感覚を忘れていたのでその辺は予定通り自動車部の方々にお願いすることにしよう。

 

「探す部品はあと二つなんだよね?」

「そうだな」

「私、手伝いたい」

「いいのか? 助かるけど」

「うん。それと、これなんだけどね。この前の料理のお礼にと思って」

「別に気を使わなくていいのに。えーと、これは」

「うん。もし良かったら食べてくれない?」

 

 そう言って西住が差し出した皿にかけられていたラップを剥がすと、なんとも美味しそうなオムライスが見えた。確かこれはタンポポオムライスといったっけ。真ん中からナイフを入れたらそこから分かれてトロトロの中身が見えるやつだ。

 

「ありがとう。あーその、早速で悪いんだが。このオムライス食べてもいいか? 結構腹減ってるんだ。西住はまだ腹減ってないのか?」

「私はまだいいよ。さっきちょっと食べたし」

「そうか。それじゃありがたく食べさせてもらうよ」

 

 俺はスプーンを持ってきて西住作のオムライスを食べる。

 普通に美味しい。特別に工夫を加えたりしたわけではなさそうだが、丁寧に作られている。

 

「美味しいよ、凄く。これ一人で作ったのか?」

「うん。たくさん練習したからそう言ってくれてよかったあ」

「たくさん練習って。なんだか悪かったな。あの時俺の飯を押し付けただけなのにそこまで頑張ってもらったのは」

「うんうん。そんなことないよ」

 

 

 

「ごちそうさまでした。これ明日洗ってから西住の家に持っていくよ」

「別にいいよそんな。自分で洗うよ」

「そんなこと言うなって。流石にそこで粘られると困る」

「……分かったよ。ありがとうね」

「それはこちらの台詞だよ。ありがとうな」

 

 俺は皿洗いを済ませた後、西住の元へ戻り、例の写真を見せた。

 

「こんなのなんだが……」

「あれ、これって……」

「え、心当たりあるのか?」

「うん。多分だけど――」

 

 

 

 

 

「まさかこんなに早く見つかるとは……」

「あはは……。ここは私達が聖グロリアーナ女学院との試合が終わった後、一緒に集まって遊んだ場所だからね。なんとなく見覚えがあったんだ」

「そうだったのか。それで、このベンチにどんな仕掛けがあるのかな?」

 

 俺は写真とその場を何度も見比べながら何か異常がないか探ってみる。

 

「何もないね」

「ああ。おかしいな。これがただの写真だとは思えないけど……」

 

 もしもなんとなく撮ってみた写真なら芸術家気質の完成を持っているのだろう。俺には分からない。

 それから西住と付近を調べてみたが何も変わったものはなかった。

 

「なんだか疲れたな。ここに来るのに徒歩ってのが不味かったか」

「ごめんね。私自転車持ってないから……」

「別に責めようとしてるわけじゃねえよ。それに悪いことばかりじゃない。俺もこの辺りは来たことなかったから色々見てまわれたし楽しかった。ただ、少しだけ疲れたから座って休もう」

 

 西住本人は何も言ってないけど表情から疲れが読み取れた。ただでさえいつも忙しい西住に俺の都合で疲労を溜めるのはだめだろう。

 

「自販機で飲み物買ってくるけど西住は何がいい?」

「え、いいよ私は」

「そうか」

「あ、やっぱり私も行く!」

 

 俺と西住は近くにあった自販機でエナジードリンクと烏龍茶を購入し、再び例のベンチに戻った。

 

「中々見つからないね」

「ああ。でも申し訳ないがもう少しだけ付き合ってもらえないか? てか今思ったけど俺と西住だけじゃ運ぶの厳しくないか」

「そうだね。私も少し思った」

「……まあ、見つけてからでいいか」

 

 俺馬鹿じゃん。なんで普通の女子高生と二人で戦車運ぼうと思ってたんだ。手分けして探せば効率良いとはいえ、ヒントがこの写真ならこの付近にしかないから一人で十分だった。

 

「あと何人か呼んだ方がいいよな。そうだ。あの人たちに協力願おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は来てくださってありがとうございます」

「下田君の方から協力お願いされるとはねー」

「下田君が戦車道やる気になってくれるなんて嬉しい! 是非私達も手伝うわ」

「西住ちゃんも下田君のお手伝い?」

「はい。でもまさか生徒会の皆さんが来てくれるとは……」

 

 というわけでやる気になったら連絡くれ、と言っていた生徒会の皆さんに協力を要請した。なんか一人足りない気がするけど。

 

「河嶋広報は今日は無理だった感じですか?」

「桃ちゃんは今日は親が家にいないから下の子の面倒をみなきゃって。『あの下田がやる気を出したのか!?』と驚いてたよ」

「そうですか。でもお二人が来てくれただけでも助かります」

「いやいやーあたしも面白そうだから来たわけだしね。西住ちゃんは下田君が戦車道やるって知ってたの?」

「知ってたというか……。やりたそうだなって思ったんです。でも本当にやろうとしてたのは今日知りました」

「なるほどねー。それで? その戦車はどこにあるの?」

「それが……この写真がヒントみたいなんですけど」

 

 俺は生徒会の二人に写真を見せた。二人はふむふむと頷くと目を見合わせた。

 

「アンコウ鍋、食べようか」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほらじゃんじゃん食べてー。これ生徒会の活動の費用にするから値段は気にしないでいいよ」

「なんて横暴な……。そもそもなんで俺ら鍋食べてるんですか。家出る前に少し食べたんですけど」

「下田君は男なんだからたくさん食べてね。それとももうお腹いっぱい?」

「いえ、そんなことないですよ。普通に疑問に思っただけです」

 

 俺達4人は会長に連れていかれ、アンコウ料理専門店に来ていた。大洗といえばアンコウというほどこの町では定番だ。

 

「そういや西住のチームってアンコウって名前らしいな。なんで?」

「えっと……可愛いから?」

「それは、そのなんだ。凄い感性をお持ちで……。生徒会のチームはどんな名前でしたっけ」

「あたし達はカメさんチームだよ。可愛いでしょ?」

「アンコウよりはそうですね。角谷会長はどんな戦車の中で役割してるんですか?」

「んー、あたしは干し芋食べてるよ」

「は?」

「まあまあ。ちゃんと色々やってるよ」

 

 その色々を知りたいんですが。別にいいけど。

 

「でもね、下田君これには理由があって」

「あたし達の話はここまででにしよーよ。どうして下田君がやる気になったかが知りたいな」

 

 小山副会長の言葉を遮るように角谷会長が言い始める。何か言えない理由でもあるようだし深入りはしないでおこう。

 

「別に。ただ西住と話して興が乗っただけですよ。それに加えて俺が乗る戦車が見つかりそうなら丁度いいかなって思ったんです」

「やるねえ西住ちゃん」

「私はそんな! ただ本当は下田君は戦車に乗りたかったんだろうなあって思って、そういう話をしただけで」

「なんにしても下田君を誘ってくれて助かったよ西住さん。ありがとうね」

「確かに今の大洗は俺みたいな人間でも欲しいくらいの戦力ですよね。でもいってはなんですけども俺短期間で上手くなれる自信ないですよ。物覚えは悪い方なので」

「いやいやー。大洗(うち)は西住ちゃん以外戦車道経験者いなかったからねー。ちょこっと試合したりしたくらいじゃ全然変わらないよ」

「はぁ、そうですか。因みにこの戦車が見つかった時に俺以外に乗れる人間います? 一応俺の戦闘スタイル的にそこまで動いたりしないはずなので下手でも構わないんですけど」

「それがねー。一番人が多い一年生チームはあそこで団結しちゃってるから引きはがそうとするのは難しいと思うんだよね。西住ちゃん達も主戦力だから減らせないし。ま、そこまで重く思わないでいいから、一人で動かしてよ」

「それ正気で言ってます? 俺一人で動かすって……。マジで狙撃しかできないじゃないですか」

「……そもそもティーガーは攻撃力と防御力が高い代わりに機動力があまり高くない機体だからあながち単騎が向いてないわけじゃないのかも……」

「……分かりました。取り合えず一人で頑張ってみます。でもそうなると西住、俺の待機位置を考えるのはお前になるぞ。相手戦車を俺の狙える範囲に連れてきてもらえないと何もできないと思う」

「分かった。頑張るよ」

「ほらほら二人とも話が終わったらじゃんじゃん食べ物取っていってよ。二人は大洗出身じゃないでしょ? たくさん味わっておきなよ」

「そうですね。いただきます」

「いただきます」

 

 

 

 

 

「いやー美味しかったねー流石大将だよ」

「あの人と角谷会長は知り合いだったんですか?」

「そんなとこ。それよりさ、もう夕方だね」

 

 俺達は体感より長く店の中にいたらしい。すっかり夕焼けが射す時間になっていた。再び4人で写真のベンチに戻ってきた。

 

「あ……これこの写真と同じ状況」

「え、本当だ。この写真はこの角度から撮ったものっぽいな。それでどうなるんだ……」

「あ! 下田君あれって」

「なんか文字が出てるな。見に行くか」

 

 近くの銅像の土台に夕焼けに当てられ、黒くなっている文字があった。元々酸化によって緑がかっていた銅像だ。オレンジの光に当てられて黒く浮き出ているといことは元々灰が交じった青色だったのだろう。太陽光のテカリにより目立たなかったが夕焼けの時に見られるってことか。にしても、写真からは写らない位置じゃねえか。分かりにくすぎる。

 

「えーと、『近クノ鮟鱇(あんこう)料理店ノ主人ニティーガーニツイテ聞ケ』か。なんでカタカナ?」

「下田君何か分かった?」

「角谷会長。さっきの大将と話させてください」

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。ん? さっきのあんちゃんじゃねえか。どうしたんだい」

「あのー、勘違いだったらすみませんが、ティーガーについて知りませんか? 大洗にあるやつです」

「……あんちゃん確か角谷の嬢ちゃんの知り合いだったな。大洗高校の学生さんってことか」

「はい。今戦車を探しているんです。何か情報をお持ちでありませんか?」

「……ついてきな。おーい! 今日はもう店は終いだ。注文はもう受け付けないぞー!」

 

 大将のおじさんは奥さんらしき人間に少し離れるので後は頼んだと言うと、俺をとある場所に連れてきた。 

 

「普通の車庫、ではないみたいですね」

「そうだ。今中を見せる」

 

 大将は俺に反対側を持つように言うと、二人で一気にシャッターを開けた。

 

「ごほっごほっ。流石に埃っぽいな。思ったよりは全然マシだけどよ。そんでもってほれ、これがお前さんが欲しかったやつだろ?」

「これは……部品というよりもう本体ですね。履帯と砲台以外の全部付いてますし

「一つ聞いてもいいか? 俺にティーガーについて聞いたってことは銅像のメッセージを読んだってことか? どうやって見つけた」

「この写真を蝶野さんから渡されたんですよ。まあ、蝶野さんは繋ぎになっただけで渡したのは俺の爺さんだと思うんですけどね」

「ちょっと待て。あんちゃんの苗字教えてもらってもいいか?」

「下田です」

「!! なるほどな。どうりで。納得したよ。ほれ、下田さんの孫さんとなれば拒む理由もない。持ってけ」

「ありがとうございます。俺の爺さんと知り合いだったんですか?」

「下田さんは俺の娘の戦車道の講師をしてたんだよ」

「なるほど」

 

 この人はよく見たら結構年齢が高そうだ。20年前のをここに隠した、教え子が戦車道を習っていたってことは大体60前後かな?

 

「えーと、持っていくのは良いんですけど……どうやって運ぼうか」

 

 もう少し分解されているかと思っていた。どうしようか。いっそのこと分解して何回かに分けて戦車倶楽部に持っていくか?

 

「俺大型トラック持ってるからそれ使おう」

「何から何までありがとうございます。行先は戦車俱楽部でお願いします。位置分かりますか?」

「おうよ。無事送り届けてやるからあんちゃんは嬢ちゃん達の元へ戻りな」

「……ありがとうございます。また食べに来ます」

「おう! 楽しみにしてるぜ」

 

 

 

 来た道を戻ると、西住、会長、副会長が待っていた。

 

「どうだった?」

「見つかったよ。ティーガーの本体。大きすぎるから大将が戦車倶楽部に運んでくれるらしい」

「あちゃーあたしたちの来る意味無かったね」

「そんなことありませんよ。アンコウ鍋美味しかったですし、何より夕焼けにならないとあの暗号は分からなかったわけですから。それに結構重要な話もできましたしね」

「そうかそうか。んじゃこれからよろしくね」

「よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 俺と角谷会長は握手した。

 これで残る部品はあと一つ、あの感じだと履帯だけか。それだったら少ない人数でも出来そうだ。俺と西住は生徒会の二人と解散した。

 

「よかったね。見つかって」

「ああ。西住も今日は付き合ってくれてありがとうな。多分俺だけだったらあの銅像の文字見逃してた」

「全然大丈夫だよ。これから下田君が戦車道やるなら私も嬉しいし手伝いたかったから。あ、でもこれから数日は予定が埋まっているから手伝えないかも……」

「分かった。今日付き合ってくれただけでも助かった。それと、西住さっきあまり食べてなかったけどあまり腹減っていなかったのか?」

「あの時はね。慣れない店で緊張したってのもあるけど少し食欲が無くて」

「確かにああいう雰囲気の店って慣れてないと違和感あるよな。今でも食欲ないのか?」

「いや、今はあるよ。この後晩御飯を買って帰るつもり」

「……コンビニ弁当をか?」

「うっ……そう、だよ」

「はあ……西住俺の家来い。皿渡すついでにカレー食っていけよ。どうせ一人では一晩じゃ食べきれないしな」

「いいの?」

「ああ。なんなら今日は武部達も呼んでいいぞ」

「そうなの? それじゃ呼んでみるね」

 

 

 

 

「全員今日は用事があるって……」

「そうか。それじゃしょうがないな。二人で食うか。そんなに特別に美味いのは作れないけど」

「うん!」

 

 

 

 




遅くなりました。
アンケートで10票集まった順に書こうと思ってました。
宝探し編の先はもう書いているので投稿頻度は戻ると思います。

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