「どこに行く」
「取り合えずはここだな」
冷泉に地図を見せ、ペンでその経路を辿っていく。俺が選んだ場所は森だ。俺は冷泉と二人で戦車を動かしているので、障害物がない場所では戦いのリスクが高いと感じたからだ。もしも障害物が無い場所で囲まれてしまったら確実に撃ちぬかれるだろう。それは冷泉の技術云々の話ではない。プロレスラーがハチの巣に私服で近づくようなものだ。そんな情けない負け方はしたくない。
「途中、橋を一つ落としていく」
「どうやってだ」
「橋の手前の方の入り口から1000mくらいまで近づけば対岸の方の支柱を壊せると思う。でも、出来るだけ引き付けてからだ。相手はどれくらいの距離から狙っているか分からないはずだからな。敵に位置を勘違いさせることができる」
「最初に誰を倒すんだ」
「さあな。そればっかしは運だ」
「臨機応変にってことか」
「んーま、そんな感じかな」
俺が示した通りに冷泉は時々止まりながら、森に入っていった。問題は西住がこちらの実力をどれだけ高く見ているかだ。西住の性格的に特攻なんてさせないだろうから均等に戦力を振り分けるとは思うが……。だとしたら、最初に機動力に優れた八九式を偵察に向かわせるのが普通か。
だとすれば、この方角か。
「冷泉、一発撃ってみる。でも止まらなくていい」
「威嚇射撃か」
「いや、布石を撒く。冷泉は10時方向にある端にジグザグに動きながら向かってくれ」
「分かった」
うお、予想しているたより機体のが揺れるな。これではいくらなんでも正確に撃ち抜くなんて不可能だろう。しかし、今回の目的にはそこにはない。俺の目的は『装填速度を勘違いさせる』ことにある。
そろそろか。俺は3時方向、俺達が森に入ってきた場所よりも若干スタート地点に近い位置に向かって撃った。そして、20秒後に装填を開始、また同じ方向に撃つ。そして最後に30秒以上かけてもう一発。
「三発じゃないか」
「そういや一発って言ってたな。すまんかった」
「別にいいが……。当たってないんじゃないか」
「だろうな。でもこれでいいんだよ」
いける。そう確信した。あの時乗った戦車よりも反動が少ない。
「着くぞ。もうすぐで橋から300mだ」
冷泉はそう言うと一時停車した。
「えーと、ああ確かこれ使って距離を測るんだっけか。……本当だ。340m、よく狭い視界で距離感つかめたな」
きっと視力がいい、だけではなく緻密な脳内演算による勘が鋭いんだろうな。俺も視力は2.0あるが、距離感までは掴めない。
「少し回り込んで近づいてくれ。木の根や、小さい植物の中をかき分けながら行けるか?」
「できる。でも位置ばれるぞ。射程を悟られないようにするんじゃないのか」
「そうだぞ。この砲身の最大有効距離は2000m。勘のいい西住なら俺の目的が戦車じゃなく橋の破壊ということに気づくだろうよ。だが、ここまで近づいたことはで不信感を煽ることが出来るだろう。仮にもティーガーは西住が昔使っていた戦車だ。少し改造されているとはいえ、その性質がそこまで変わっているとは思わないんじゃないか?」
「まあ、私は構わんが」
冷泉は俺の要求通り、木の根を踏み、小さい植物の間をかき分けながらポイントへ近づく。これで移動中の音は向こうに聞かれたはずだ。
ポイントは森を出て、少し移動した場所だ。体を丸出しにすることになる。場所に着くと、俺は間髪入れずに弾を放つ。
ヒット、橋は踏み場に当たったわけじゃないので完全に壊れたわけじゃないが、通ることはこれで出来なくなった。あとは他の橋を使って俺が破壊した橋の向こう側に進めばいい。そこで待ち伏せをしよう。
「確認だが
「ルール違反にはなってないはずだ。しかしどこで使うんだ?」
「最後だよ」
さあ、西住はここからどう動く。先入観を捨てろ。相手は圧倒的に格上だ。確実に分かること以外は全て想定外が想定内だ。
集中しろ。俺ならやれる。冷泉は間違いなく大洗のチート戦力のナンバー2だ。ある程度の無茶は許容してくれるだろう。思考を止めるな。
「勝つぞ」
「元より私は負けるつもりはない」
みほside
「キャプテン! 敵、森から出ました! 対岸側にいます!」
「分かりました。こちらは10時方向の橋に乗って渡ります。アヒルさんは回り込んで左手にある橋を渡ってください」
「西住! 我々はどうすればいい?」
「カメさんは私達の後ろをついてきてください。カバさんはアヒルさんと一緒に橋を渡ってください」
「「了解!」」
アヒルさんは何度か下田君が砲弾を撃ったと言ってたけど見つかってたのかな。私達が少し近づいたところで撤退してもらったけど、その時一発だけ撃ってた。でも一体どこに撃っていたんだろう。
「アヒルさん。最後に相手の射撃音が聞こえた時、砲台がどこに向いてたか分かりますか?」
「えーと、確か森の方じゃなかったと思います!」
「……分かりました。アヒルさんとカバさんは一時停止してください。そこから橋は見えますか?」
「んー、あ、見えます! でもよく見たら向こう側の支柱が脆くなってるような……」
「分かりました。一旦そこから離れてください。先に私達とカメさんがあちらの橋を渡り切った後、合図しますので一両ずつ同じ橋を渡ってください」
「何故だ西住。二つの橋を使った方が包囲もできるし時短もできるから良いだろう!?」
「先ほど相手が狙ったのは私達ではなく橋です。もしもあの橋に乗ったら崩れる可能性があります。そしてもう一つの方の橋に一気に渡ろうとすると前方の車両が倒された時、後ろの車両が全滅する恐れがあります」
「せんぱーい、私達はどうしたらいいですか?」
「ウサギさんはまだその場で待機していてください。相手車両は
取り合えずは予定内だけど、これからどうなるのかな。
戦車道で使用可能なティーガーの射程距離は大体1900m。でもあのティーガーは少し改造されているようだから100m前後変化してるかなと思ったけど……。本来だったらあの通り道だったら森の中でも狙えたはず。跡をつけられていると気づいていたとしたら余計に森を出て、体を見せるようなことをするのかな?
「確かこの先は……」
「聖グロリアーナ女学院と戦った時通った坂道ですね。私達がそこで相手を迎え撃ったけど結局撃墜出来なかった所……」
優花里さんが地図を見ながら言う。確かにそこなら高度の利を活かして有利に戦いを進めれる。
「でも下田君なら当ててくるかもしれません。迂回しましょう」
私がウサギさんチーム以外に迂回の支持を出した時だった。
「キャプテン。私達が先に下見に行きます! もし、私達が倒れたら皆でアタックを決めてください!」
「確かに1台倒されても逃げ道を封鎖できるという利点があるのは事実ですが……でも、それじゃアヒルさんが」
「戦車道もバレーもチームプレイです! 私達のトスを受け取ってください!」
「西住ちゃん。どうするの? 私達は西住ちゃんの支持に従うよー」
どうしよう。アヒルさんをほぼ特攻のような形で動かしたくないよ。そんなことを考えていると、私の握り拳にアンコウの皆の手が触れた。
「大丈夫だよ。みぽりん」
「アヒルさんチームは私達を信じてくれています。それにまだ倒されると決まったわけじゃないですからね」
「落ち着いて考えてみましょう、みほさん。こんな時こそ柔軟に考えるべきです。そうですね、例えば……」
柔軟な思考。思い返せば下田君は近距離射撃の練習の話やさっきの射程距離に大幅な余裕を持った砲撃。蝶野さんがいる場所で射程距離ギリギリの的に当てたのも子供の時期ならば、それ相応の距離、つまりそこまで遠くないのかもしれない。もしかしたら長距離射撃自体、慣れてないのかな。だったらまだやれる。
「作戦があります。聞いてください」
「「「後退する!?」」」
「どうしてだ西住! せっかく橋を渡ってきたのに!」
「キャプテン。私たちは別に良いんですよ」
「先輩、私達は引き続きここにいた方がいいですか?」
「時には神風のような犠牲を試みない突撃も必要ぜよ」
「あーもう、一気にしゃべらない! みぽりんが困惑するでしょ!」
完全に攻めの雰囲気だったからであろう。私の急なお願いに多くの反論が飛んでくる。それをなんとあk沙織さんが仲裁してくれていた。
「アヒルさんもこちらに来てください。でも、今から言う道程でお願いします。私達に必要なのは犠牲覚悟の特攻ではありません。敵は一人、ならば堅実にチャンスを待つのが最善だと思います。もしもあの場で一両だけでなく、他の戦車もやられてしまったり、逃げられた時のリスクを考えるとあえて撤退をするのがいいと思います」
「まー、西住ちゃんがそう言うんだったらいいんじゃない? いーじゃん、そうしよーよ」
会長の声もあり、一時撤退の選択を取ることに決定した。
「しかし、またゆっくり、1両ずつ渡るつもりか? それこそ無防備になるのではないか?」
「いいえ。一つだけ橋を通らなくてもいい場所があります。橋から少し北に進んだところに、水が少ない通り道があります。そこなら谷になってるので、内陸部にいる人間からは見えにくはずです。近寄るのも、下から撃たれる可能性を考慮すれば避けると思います。一気に渡りましょう! 向こう側に渡ったら通れる橋の先と、上ってくる谷の前で待ち伏せします。森があるので見つかりくいはずです」
これでもう一度停滞状態に戻る。勝負はここから。諦めなければ大丈夫。
もう、戦車道からは逃げない。でも、ここで撤退することで、私は前に進んでみせるよ。
「あ、キャプテン。一つだけいいですか?」
「はい」
「当然と言えば当然なんですけど……相手車両のサーブ間隔が結構長かったです。着弾してから、30秒以上かかっていました」
「……! 分かりました!」
下田side
「まさか博打が当たるとはな」
「本当に博打だった。でも、7割くらいは自信あった。西住はあそこで前に動かせない。俺とあいつは似ている」
「似ているってどこがだ。全然そうには見えないが」
「俺は西住のことを深く理解できているわけではないが、黒森峰はエリート学校だ。俺のように射撃が得意だった奴もいたに違いない。そして、無意識のうちにそいつと俺を重ねるだろう。自分と相手が似ているからこそ、脳内で足りない部分の補完がされ、架空の俺が出来上がる」
とは言っても、作戦の直前で出てきた発想だからそれが当たったってことは本当にまぐれなんだろうな。
「西住は下田さんが射撃に自信があるってことを知ってたのか」
「この前流れで、な。別に悪気は無かった。元々その時は戦車道をやるかは微妙って感じだったし」
「……来たぞ」
今、俺達がいる位置は「俺が壊した橋のすぐ傍」だ。絶対に考慮から外れるはずの場所。そして、ここから西住達が渡ろうとしている場所から1900mの位置。ここからなら十分狙える。途中に橋があるが、それに弾が当たらないような位置に停車した。
手先に血液を集中させる。イメージするのは、伸びた砲身。体と同化した砲身を伸ばして、伸ばして、伸ばして、、、目標にタッチするような感覚。
繋がった。。引き金を引く。
ドォン!
命中し、白旗が上がる。Ⅳ号だ。
次の伏線だ。俺の弾の装填速度。森で撃った時は、20秒以上の間隔を空けて撃った。西住達は戦車同士の車間距離を結構空けて移動していた。もしも前後の車両が行動不能になった時、加速し、横を無理やり通り抜けれることが出来るようにするためか。
関係ない。俺は腕の筋肉をフル稼働させ、早く装填させる。スコープから目を離して5秒程だ。そして、引き金を引く。
ドォン!
ヒット。八九式の白旗が上がる。もう一両だ。相手が大洗の戦車じゃなければ、反撃も考慮しなければならないが、あいにくⅢ凸は頭部が回転しないので、どうしても相手方向に弾を発射するのに時間がかかってしまう。
「ぐっ……!」
これが中々重い。そんな弾をもう一度詰め込むと、急いで狙いを合わせて、撃つ。
ドォン!
対岸へ渡ろうとしたすべての戦車から白旗が上がっていた。
終わった……。無理に動かした筋肉が悲鳴を上げている。本当なら4発までいけるように頑張っていたのだが、緊張も合わさり、余計に力を使ってしまったのだろう。
……4発? どうしてだっけ。ああ、そうだ。少し前から……俺が戦車道をやると会長に言った時にこの模擬戦の話は聞いていた。そして4両倒すのが俺側の勝利条件だということも……。
「ウサギチームだけいないぞ。移動するか?」
「……そうだった。敵は4両だ。今は腕が痛い。一度障害物のある方に戻って腕を休めたい」
俺達が乗った戦車は稼働を始め、方向転換をし、再び岩等の障害物がある方向へ向かった。
「「あ」」
その途中でもう一両の戦車に出くわした。完全に今の俺達は履帯を相手の砲台に向けている状態だ。
ドォン!
「くっ……!」
機体に砲撃が命中する。しかしこの戦車は戦時中最も強かった戦車の一つと言われていたティーガーだ。M3リーの砲撃一回じゃ白旗が上がるに至らない。しかし、そこは障害物が並ぶ場所への入り口。地面は真っ平なわけじゃなく、相当にバランスを崩してしまった。それでもなお、冷泉は必死にコントロールしている。
なんとか反撃を……!
しかし、腕が思うように上がらない。装填に時間が――。
ドォン!
白旗が、上がった。
『勝者、西住みほチーム!』
姉貴の声が放送で聞こえてきた。
ここからの大まかなストーリーです。
サンダース偵察→サンダース戦→日常パート→主人公強化パート(みほ達はアンツィオと戦っており、別行動)→模擬戦→日常パート→プラウダ戦→日常パート→黒森峰→日常パート→劇場版
日常パートが多いのは単純に作者が戦闘シーンが苦手だからです。
もしよければこんなイベント(カラオケ等)が欲しい、といったものがあれば活動報告にお願いします。
誤字、ガバ指摘いつも助かっております。ありがとうございます!